街に迫る白面の獣が、九つの尾を大きく広げる。
それぞれの尾にはおぞましい瞳が展開され、そこから赤黒い瘴気があふれ出る。
「早速仕掛けてくるぞ……!」
九つの赤黒い波動。
それがビームとなって、スーパーディメーンと化したルイージに襲い掛かる。
『っ──!』
『ダメージはゼロだ。……きちんとコントンのラブパワーの力が働いている!』
『味方にするとここまで心強いんだな、コントンのラブパワー』
『過信は禁物だけどね、ルイージ。……これはあくまで残照だ。数回もてばいい方だよ』
『十分だ。存分に利用させてもらおう』
だが、ルイージの体に光り輝くオーラが展開され、そのオーラで波動の力がかき消される。
コントンのラブパワーによる、ムテキの力だ。
本来コントンのラブパワーは能動的に利用できるようなものではない。
が、ルイージの中にいるシオンがそれを制御することで、はじめて心強い味方となった。
『そんでもって食らえ! 俺の弾幕を!』
続けて、ルイージの周りに漂う大量の足場から、大量の魔法弾を放つ。
当然向かう先は、眼前の白面だ。
『オ、オォォォンン?!』
「効いてる……! あの化け物と戦えてるぜルイージ!」
『っ! 気を付けて!』
ようやっと化け物にダメージを与えられた事実に歓喜する。
が、それを窘めるように、ルイージの中にいるシオンの警告が飛んでくる。
『グ、オォォオオオオオオ!』
白面の獣が、前足を振り下ろしてくる。
禍々しい妖気の雷を込めた、見た目以上のおぞましいナニカを伴う攻撃だ。
『っ!』
『ゲッ?!』
ルイージはオーラを纏う左腕で、白面の攻撃を受け止める。
そこに嫌なものをルイージは感じるが、すぐに巨大化した右手で白面に反撃する。
『──グゥゥウ!』
『っ?!』
だがしかし。
白面はすぐその口から赤黒い炎を吐いて、ルイージに叩きつける。
コントンのラブパワーの力をもってしても、その衝撃はつぶしきれない。
故にルイージはその場から後退させられ、しかし街の方へ倒れまいとその場で踏みとどまる。
「おいおい……。けっこういいのが二回も入ったのに、あのデカブツまだ動いてやがる!」
『まずいな……思った以上にタフすぎるぜ!』
白面の獣はまだ立ち続ける。
その身に宿る、悍ましい破壊衝動をまだ放ち足りない様子だ。
こっちからすればたまったもんじゃない。
『コントンのラブパワーの護りも無限じゃない……そろそろ、仕掛けないと!』
『ああ、とっておきの切り札で決める!』
ルイージのその言葉を聞いた途端、マリオは言葉もなく思い出す。
かつてのスーパーディメーンが繰り出した、大きくジャンプをしてこちらめがけて踏みつけてくるあの大技を。
『ブラザー! 俺はこれから大きくジャンプして、奴の頭を踏みつける。だが踏みつけるまでの間、街が無防備になっちまう!』
「だからその間、俺が奴の気を引けって? いいぜ! その大役、任された!」
その大技は、一時的にその巨体を戦線離脱させる技だ。
故に、その戦線離脱の間に街を護る者がいる。
比較的フリーに動けるマリオの出番だ。
『助かる……さぁ、ここが大一番だぜ! デカブツ!』
巨大化ルイージが飛び上がる。
その勢いで、雪山地帯を見下ろす上空にまで至る。
そこから落下し、白面を踏みつけるまでが勝負だ。
◆
「食らいやがれ、『ビッグファイアボール』!!!」
『ッ?!』
大量に浮遊し続ける足場の一つから、大きなファイアボールを解き放つ。
ファイアボールの向かう先は、白面の獣……の目だ。
あのデカブツといえど目に炎が入ればただでは済まない。
故に、決定打にはならずとも奴の注意をひくことはできた。
ここからが本番だ。
『グォォオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「うぉっと?! こりゃ一発でアウトだな……!」
白面の獣が、マリオへ向けて尾を広げ波動ビームを繰り出す。
波動ビームはそれぞれがマリオに襲い掛かり、マリオは浮遊する足場をぴょんぴょんと飛び回ることで何とか避け続けることができた。
ここでジャンプ力がものをいう辺り、普段の冒険による経験が強く活きているのがわかる。
この辺りは、比較的技に恵まれているルイージよりも、経験が勝るマリオの方が適任だ。
『ガァアアアアア!』
「あぶねぇなっと!」
波動ビームをすべて避け切ったマリオに、白面が吐いた火球が襲い掛かる。
が、マリオは冷静にスーパーマントを取り出し、ひらりと火球を跳ね返す。
跳ね返った火球は白面の顔面に激突し、そこが赤黒い爆炎に包まれる。
『ギィイイイ!』
「うぁっ?!」
しかし、その爆炎から白面の前足が飛び出してくる。
流石にそれを避けるには足場の位置が悪すぎて、マリオは抵抗できずに前足に掴まれてしまう。
よくよくみたら前足は腕のように変形しており、故にもがいた程度ではそこから脱出することができなかった。
「お、おいおい……このポジションはまずいだろ……!」
白面の獣が口を開く。
口の中には、あの悍ましく赤黒い炎が渦を巻いていた。
「え」
白面が炎を吐く。
前足の中のマリオではなく。
上空にあるルイージではなく。
その背にある街ではなく。
まったく関係のない、誰もいない山の方へ。
「え、え……? お、おまえ──」
それが何を意味するのか。
マリオはなんとなく気づいた。
気づいてしまった。
白面の獣。
魔王軍幹部のハクが、不本意に変異し暴走した姿。
彼女は、今も抗っている。
その姿に、その衝動に、その本能に。
『グ────』
次の瞬間、白面の獣が雪山地帯の底に沈んだ。
「──」
その衝撃で前足の中から放り出されたマリオは見た。
白面の頭を踏みつける、巨大化ルイージの姿を。
◆
『グ、グ、グ──』
「まじか……ルイージのあの大技を食らっても、まだ動くのかよ」
なんとかうまく着地したマリオは戦慄した。
ルイージの渾身の大技すら、白面を止めるに至らない。
それどころか、白面はルイージの巨体を退けて、また立ち上がってみせた。
あるいは、あの魔王をも超える脅威かもしれない。
そう感じてしまうほどに、不気味で恐ろしい不死性だった。
『グ、グゥゥゥウウウウウ……!』
「おい、あいつまた仕掛ける気だぞ!」
『くそ……こんな時に……!』
「ルイージ?」
白面の獣はまだ動く。
だが、ルイージは動けなかった。
『コントンのラブパワーの力を使いすぎた……これ以上は、ルイージの身がもたない』
「シオン……?」
『だから……後はボクに任せて』
そんな巨大化ルイージから、何かが飛び出してきた。
それは、マリオにとって見覚えのある姿だった。
「ル、ルイージ?!」
「う、うう……? シ、シオンは?!」
「シオンって……まさか、まだあっちのでかいルイージの中か?!」
どうやらシオンと融合した時点で、巨大化ルイージの本体はルイージからあちらに移行していたらしい。
コントンの器であるルイージが排出されてなお、スーパーディメーンの姿をしたルイージはまだ健在だった。
『これ以上ルイージに無理はさせられない……それに、ここまで追い詰めればやりようはある!』
「待てシオン! お前、何をする気だ?!」
だがすぐ、巨大化ルイージの体から緑と紫の光が零れだしてきた。
まるでこれから、爆発すると言わんばかりに。
『絶対に……ゼッタイに、街を壊させてたまるもんか! 化け物──お前はここで倒れる! それがボクのヨゲンで、お前はそのヨゲンから抜け出せなどしない!!!』
「待て……それはだめだ、シオン────!」
白面の獣は、その口に大きな炎の渦を蓄える。
それこそがシオンの狙いだろう。
その悍ましい威力を逆利用し、白面を道連れにする。
それが、シオンの最後の策だった。
「そこまでよ」
果たして、白面はその炎を吐くことはなかった。
吐くことが、できなかった。
『エマ、ねえさん……?』
「大丈夫よ、シオンちゃん。だからここで倒れてはダメ──後でルミエールにゴメンナサイしないと、ね?」
一人の女性が、その場にいた。
八つの光を纏い、シオンが操る巨大化ルイージと白面の間に割り込んで来た。
「あれは、ピュアハート……? いや、それはありえねぇ筈だが────」
「確かエマもディメーンワールドとやらに隔離されてたって話だ。なのにここに来るってことは……そういうことかもな」
まさかこんな形でエマと直接会うことになるとは思わなかったマリオブラザーズだが、感慨にふける余裕はなかった。
『グ、ウ?!』
「大丈夫。怖くない。……確かに、貴方は魔物ではある。でも、ただ壊すだけのケダモノではない」
白面の獣が、エマを焼き殺そうとする。
それに一瞬身構えるマリオブラザーズだが、しかしエマは語り掛ける。
「……やっぱり、そうなんかな」
「ブラザー?」
マリオはそこに、何かを見た。
『……わらわの負け、か』
そうして見えたそれを白面に重ねてみれば、マリオの予想通りに白面の正気を取り戻して見せた。
やはり、白面の内側でハクは抗っていたのだ。
「ハク……!」
『勘違いするな、人間──いや、エマよ』
エマがハクの名を呼ぶ。
するとハクは、白面の姿から元の姿に戻る。
「わらわは、街の破壊が合理的ではないと気づいただけじゃ。……じゃが、そこに気づかせてくれたことには礼を言う」
「……ハク!」
「いや待て、宙を舞ったまま抱き着くでない! 危ないじゃろうが!」
「──というか、あの二人仲いいな」
「俺達の知らんうちに、色々あったんだろ。……ほら、伯爵がエマについて『色々』あるって言ってただろ」
なんとなくはわかっていた。
彼女はイセカイ・デアールを人質にするような卑怯者であり、どのような理由だろうと雪の街を破壊しようとした事実は変わらない。
それでもきっと、ハク自体はそう悪い奴ではない。
だからあの伯爵の妻であるエマは、ああまで心を開いているのだろう。
「さて、わらわは行く」
「もう、なの?」
「みなまで言うな。……おぬしは特別に友と認めてもいいが、そこの二人はそうもいかぬ」
八つの光が離れたエマを安全な地面に下ろしたハクは、しかしマリオブラザーズに向けて強い敵意を見せた。
「……わかっておろうな。今回はあやつに免じて見逃すが、次はないぞ?」
「上等だよ。何度向かって来ようと、そんたびに吹っ飛ばしてやるまでだ」
「威勢が良いのう、わらわの真の姿にああまで怯えていたくせに」
「ハン、どっちがだ」
とはいえ、今更ケリをつける……なんてことはしない。
次にこそ決着をつけると言外に約束をして、それで終わりだ。
「では、な……すべてが終わった暁には、また寄る。その時には街の案内を頼むぞ、エマ」
「ええ!」
ハクが浮き上がる。
宣言通り、今回はこれで終わりというわけだ。
「コラー!!!!!」
刹那、大音量の声が雷のように落ちてくる。
「うおっ?!」
「びっくりしたなもう……ありゃルミエール伯爵か」
大音量の方へ見やれば、そこにはルミエール伯爵がぷんぷんしながら両手をばたばたさせていた。
「騒ぎを起こしておいて勝手に逃げるなでワール! キサマは向こう五十年強制労働でワール!」
「うぉぉ……ルミエール伯爵がめっちゃ怒ってる」
「そりゃ、自分の街がパニックに陥ったからな。お咎めなしじゃ色々示しがつかないんだろ」
ハクは悪い奴ではない。
それはそれとして、街を壊そうとした事実は変わらないのだ。
だから、ルミエール伯爵があんなにも激怒するのは当然だ。
「言っておくが地獄の労働でワール! 城に住み込みで一日八時間、掃除・炊事・洗濯! 三食おやつ付き! 完全週休二日! 初任給二十万!」
「ルミエール兄さん、それただの勧誘だよ……」
かと思ったら、これである。
いつの間にか元の姿に戻っていたシオンが呟くように突っ込んでいた。
「そして何より! エマの友人ならばゴメンナサイして仲直りするのが筋というもの! わかったらさっさと戻ってくるでワール!」
「伯爵……」
「ゼェ、ゼェ……オノレ~! 絶対に連れ戻すでワール……!」
まぁ被害を被りかけた街の長がああいっているのなら、それがハクの受けるべき報いということでいいかもしれない。
であるならば、あのまま街から遠ざかっていくハクを何とかして連れ帰るのが筋だろう。
結局また決着をつける理由が増えてしまった。
「ルミエール!」
「っ! エマ!」
「ごめんなさい……ケガも治っていないのに勝手に部屋を出ちゃって」
「いいんだ。キミが無事なら、ワタシはそれで……!」
八つの光が上空で輝き始める。
その光の中心には、先ほどまでシオンが制御していたコントンのラブパワーがある。
その九つの光は、しかし二人を祝福するようにより強く輝き始める。
「うぉっと!」
「あいつ、わざわざ遠くで化け物になって炎を撃ってきやがった……!」
「……でも、あの炎で教会の鐘を鳴らしたぞ。それもあの二人が揃ったタイミングで、だ」
「まさか、これがあいつなりの謝罪か? ずいぶん味な真似をしやがる……」
祝福の鐘が鳴る。
この街でとっくの昔に結ばれた恋人を、夫婦として祝福する鐘。
その福音と共に、八つの光を伴うコントンのラブパワーは二人を祝う。
かつて世界を滅ぼそうとしたその力は、しかし何も滅ぼすことなく消滅する。
その運命は、今回も変わらなかった。
「それにしても、ずるいよな。さっきまであんなに苦しんでたのに、もうあの化け物の力を使いこなしてやがる」
「ああ。こりゃ、ウルフリックに負けず劣らずの難敵だわ」
────
マリオブラザーズ。
当初の目的である六つ目の星石の入手に成功。
そして白面の獣と化したハクを足止めし、最終的に街を護ることにも成功する。
そうして街と『二人』の無事を見届けた後、シン・クッパ城へ戻っていった。
彼らの冒険は、まだまだ続いていく。
ハク。
元人間の魔物であり、それ故になんとなく直接戦闘を避けてきた。
だからこそ、街に潜入して情報を集める今回の任務に適任だとして、情報収集に勤しんでいた。
が、任務の目的である星石の奪取に失敗し、そのまま魔王軍のところへ帰ることとなる。
しかし、その表情はどこか晴れやかだったという。
将軍。
白面の獣の足止めにずっと徹しており、実は白面の足元に雪玉を叩きつけたり進路を岩で塞いだりと、見えないところでマリオ達を支援していた。
ことが終わると何事もなく生還した。
足止めの甲斐あってか──あるいは、ハクの手心故か──奇跡的に犠牲者は一人も出なかったという。
ミミ。
エマの願いにより、途中からエマに変身してエマのケガの治療に勤しむアナスタシアの目をごまかしていた。
ことが発覚した後、アナスタシアに滅茶苦茶怒られた。
アナスタシア。
エマの危険な行動を知り、ぷんすかと怒った。
その後、エマの無事を喜んだ。
なおエマの行動を助けたミミに対しては容赦なく叱った模様。
なお、ルミエール伯爵から『新しい使用人』を迎え入れると通達されたため、その準備も進めている。
シオン。
伯爵の客であるマリオブラザーズに無礼を働いた上、街に混乱を齎したことについてはハクと同罪のため、めためたに怒られた。
その後は、本業に復帰するため伯爵の城に戻っていった。
その実、彼女の本業は伯爵に仕えるメイドである。
ルミエールとエマ。
街を護ろうとしたマリオブラザーズに礼を告げた後、城に帰っていった。
たとえ何が起ころうと、二人が引き裂かれることはない。
そのまま、平穏無事かつ幸せに暮らしていくことだろう。
それこそが、この世界における二人の運命であった。
・次回について
→次回は番外編です。
→内容的にも六章と七章の合間に挟まる話です。つまり実質6.5章。
→全部で三話構成です。