→三話構成ですよろしくおねがいします。
夢を見る。
現実とは違う、景色を見る。
だが目覚めると、夢と見紛う景色が見える。
あるいは、これこそが夢か。
「え」
ルイージの素っ頓狂な声が、のどから飛び出してはすぐ消えていく。
「え……どこだここ?」
気が付けば、ルイージは森の中にいた。
一度も通ったことのない場所だ。
「俺は、どうしたんだ? 俺に、何が起きたんだ? ……落ち着け、俺。冷静になって考えろ」
自らに言い聞かせるように、落ち着け、落ち着け、と言葉を繰り返す。
それは所謂現実逃避と同種のシロモノだが、しかし頭を冷やすには有効な手段だった。
「俺は……そう、ブラザーと一緒に六つ目の星石を手に入れたんだった。星石を手に入れた後も色々あったが、でもちゃんとシン・クッパ城に戻る道に戻った筈だ」
ルイージは、戻るべき場所に戻る筈だった。
そこで記憶が飛んでいるということは、つまりシン・クッパ城に戻る途中でここに迷い込んだと考えるのが現実的ということになる。
「おかしいな。俺達は小型船で戻る算段だぞ? そこまでの道に迷う要素なんてない筈だ。……もしくは、船に乗ったがトラブルで地上に落ちたのか」
カメックに改造されたスイッチを起動する。
ゲームは起動するし、なぜか異世界では繋がらなかったネットにも繋がる。
なんかこの上なくとんでもないことが起きている気がするが、頭のキャパシティが死にそうなのでおいておくことにする。
だというのに、クッパのスイッチと連絡することはできない。
おかげで外部から迎えをよこしてもらうことはできなくなった。
「ここは……森、なのか?」
周りを見渡す。
そこに船の残骸らしきものはない。
というか、船が墜落したのなら色々とシャレにならない衝撃がルイージを襲うはずだが、当のルイージにけがなどは一切ない。
むしろ、色々あって消耗していた筈なのに魔力が漲っている。
「……とにかく、俺達の目的はシン・クッパ城に帰ること。そこははっきりしてる。そのためには、この森を出ないといけないわけだ」
疑問は尽きない。
だがとりあえずの目標は再確認できた。
そうと決まれば、まずは動かなければ。
「待て。そういえば、ブラザーはどこだ?」
そこで、はたと気づく。
さっきまでルイージはずっと独り言をぶつぶつ言っていたが、そこに相槌はなかった。
「ブラザー! どこにいるんだ、ブラザー! ……ブラザー!!!」
マリオを呼ぶ。
だが、返事が戻ってくることはない。
「お、おい。冗談はやめてくれよブラザー。いるなら、さっさと出てきてくれブラザー! ……兄さん!!!」
なんとなく今回の冒険では呼ばないと決めていた、「兄さん」というマリオへの呼び名をも出して呼ぶ。
けれどもやっぱり、マリオの声は戻ってこない。
「嘘だろおい。まさか、僕──じゃなくて、俺一人だけなのか?」
◆
「結局、どこにも兄さん──じゃなくて、ブラザーはいないか」
覚悟を決めて、森の中を探索する。
思わず弱気な頃の口調が漏れ出てしまうが、すぐにしまいこむ。
こういう時だからこそ、強がりだろうと無理やり強い口調を使って己を奮い立たせるのだ。
「仕方ねぇ。俺一人でも、前を見るべきか」
上を見やれば、木々が太陽の光を遮っているのか──あるいは夜だからなのか──とても暗い。
だが地面に生える花が輝いていて、足元はとても明るい。
「まるで……地面に流れる星空の川だな」
ルイージの目の前には、大量に咲き乱れる光の花がある。
花は青白い光の粒子を放ち、あるいは赤や黄色の光も入り混じって森の景色を彩っている。
「ちゅんちゅん」
「カー、カー」
「きゅ、きゅ、きゅ」
驚くべきは、その光の粒子を食べる者達がいるという点だ。
すなわち、木々の合間から飛び出してくるリスや鳥などの小動物達だ。
彼らは木々の枝に飛び乗るや否や、その付近に漂う光の粒子を実際に食べている。
キノコ王国はおろか、今まで冒険したどの地域でも見られなかった光景だ。
「ここじゃ、光が食べ物なのか? なんともまぁ、ファンタジーだこと……下手すりゃお伽噺の世界だ」
ともすれば、今回の冒険の中で最も幻想的で美しい景色かもしれない。
そう思える程に、不可思議で異世界をしている風景であった。
「しかし、どっちに行けばいいんだ? ……こういう時にブラザーがいてくれれば、もうちっと話が楽なのかもしれねぇが。……言っても仕方ねぇか」
また、弱音が出てしまう。
なんだかんだでずっとマリオと一緒に冒険してきて、その背に甘えていたツケが来ている。
これはいわば試練だ。
ルイージこそがマリオの相棒たりえるものであることを示す、辛い試練だ。
ルイージ一人だけということは、きっとつまりそういうことなのだろう。
「ん。あれ……いつのまにか動物達がいなくなってる」
内心で己を奮い立たせて不安をかき消していると、周りにいた小動物の姿が消えていた。
今のルイージの周りには、光の粒子と不気味な沈黙だけが漂っている。
どことなく森特有の湿気も感じるのは、ただの余談である。
『────』
「誰だ!」
明らかに空気が張り詰めている。
そう感じ取るや否や、後ろに気配を感じてすぐ振り返る。
『────』
不気味に浮かび上がる、大きくも白い体。
その頭に乗る、どこか禍々しい宝石をあしらった王冠。
そして、いっそ悍ましいほどまでに暗い闇を纏う瞳。
だがルイージには、見覚えのある姿だった。
「お前、キングテレサか!」
『────』
「ま、待て! 俺は……俺達は今クッパ軍団と共闘関係にある。お前もクッパ軍団の一員なら、今は俺とは仲間同士の筈だ!」
ルイージの言葉を尻目に、キングテレサは拳を繰り出す。
どうやら問答無用で敵対しているらしい。
「うぉ?!」
キングテレサの拳はルイージに直接届かない。
だがルイージは本能的にその一撃を避け、そして確かに衝撃が飛んできた。
「突き出した拳を合図に、隠れていた配下のテレサを突撃させるってか。いや、それよりも──」
その衝撃とは、姿を隠したまま体当たりしてきた配下のテレサである。
それを見抜くことができた辺り、マリオなしでもまだ調子が出ているらしい。
だが一方で、キングテレサの方は相変わらずだ。
どうにも、ルイージに対する敵意が強くて話が通じそうにない。
『────』
「こうなりゃ、やるしかねぇか……!」
◆
『────』
キングテレサが拳を繰り出し、それを合図に姿を隠しているテレサがそのまま体当たりしてくる。
はた目からすれば、不可視の攻撃が飛んでくるようなものだ。
「甘い!」
だがルイージは、眼前に迫ってきていた不可視のテレサを掴み取る。
ルイージも大概色んな冒険を繰り広げてきているわけだから、この程度は造作もない。
「お返しだ!」
『──』
掴んだテレサを、キングテレサの方へ投げ返す。
が、キングテレサはそのテレサを弾いてしまう。
「おらぁ!」
『──っ』
だが投げ返したテレサの陰で構えていたサンダーハンドを、容赦なくキングテレサの方へぶっ放す。
こちらが本命だ。
「……やっぱり、そう簡単にうまくいかないか」
『────』
しかし、ルイージのサンダーハンドはキングテレサに届かない。
なぜなら、キングテレサの周りに漂っていた不可視のテレサ達が身代わりになっていたからだ。
地味に厄介だ。
「ならこいつはどうだ!」
『──?!』
続けて、ルイージは左手でファイアボールを発現してキングテレサの目に向けて放つ。
言ってしまえば、これは敵の視界を潰す煙幕だ。
サンダーハンドでテレサ達の数が減ったことで、こちらはすんなりキングテレサに届いた。
『────』
とはいえ、ファイアボールはテレサに効かない。
当然キングテレサにもダメージはない。
しかし、ルイージとしては関係なかった。
「間合いゼロ」
もうすでに、キングテレサの『懐』に潜り込んでいたのだから。
「食らいやがれ、『ファイア昇竜拳』!!!」
『っ?!』
ルイージ最大の大技が、キングテレサにクリーンヒットする。
ゼロ距離でなければクリティカルヒットしないが、しかしまともに入ればとんでもない大ダメージを叩きだせる技だ。
そんなファイア昇竜拳を食らったキングテレサは、勢いよく森の上空まで吹っ飛んでいき、そしてそのまま地面に沈む。
「ふーぅ。勝負ありだな」
地面に沈んだキングテレサが動く気配はない。
それと同時に、キングテレサの周囲に漂っていたテレサ達の妖しい気配も霧散していく。
どうやらキングテレサなしでは、攻撃の一つもできない仕様らしい。
理屈は分からないが、しかしルイージとしては助かるのであえて突っ込まないことにした。
「やれやれ……ブラザーの支援がないとこんなに魔力消費が激しいのな。残りはファイアボール二発、もしくはファイア昇竜拳を一回使えればいい方か」
地面に沈んだまま動かないキングテレサを見ながらそうごちる。
いつもだったらマリオがハンマーやアイテムを駆使して大技を叩きこむ状況を整えてくれているのだが、今回はそれもルイージ一人で何とかしないといけない。
今回のルイージは魔力消費技ばかりだから、どうしても一戦一戦のコストがかかりすぎてしまうのだ。
そういうわけで、これ以上の戦闘は厳しい。
ここから先は消耗を抑えていかないとな、と自省する。
『──、──』
「ん」
『──! ──!』
その次の瞬間、必殺の一撃で沈んだはずのキングテレサが起き上がった。
「おい嘘だろ……。お前、ファイア昇竜拳に耐えれる器じゃない筈だろ……!」
それどころか、先程放ったファイア昇竜拳による傷がなくなっている。
もしかしたら、今のキングテレサは不死身なのかもしれない。
「くっそ。この状況でまたファイア昇竜拳をぶち当てるのはリスキーすぎるか……!」
『──』
「畜生、撤退だ!」
◆
「はぁ……はぁ。やっと、撒けたか」
大量のテレサをけしかけてくるキングテレサから逃げるのは、一苦労だった。
「まったく、キングテレサが復活した途端に配下の奴らもイキりやがって……我ながらよく逃げ切ったよ」
改めて、周りを見渡す。
なんだかんだで森の出口を探りながら逃げ回っていたのだが、どうにもそれらしいものは見当たらない。
むしろ逆に、森の最奥に誘い込まれてしまった感がある。
「青い霧……ほのかに赤い辺り、ちょっと普通じゃないな」
相も変わらず地面には、輝ける星空が流れている。
その花はつぼみも青白く輝き、他の光り輝く花と共に光の粒子をまき散らして森の中に夜空を形成している。
だが先程と異なるのは、森の中に青くも赤い不思議な霧が立ち込めている点だ。
夜のように暗いのにどことなく身を切るほどに寒いという感じがしないのは、この霧のおかげだろうか。
先程以上に、肌にまとわりつく湿気の感触が強い。
「あれ……館? 森の中に、館がある」
なんとなしにその霧を凝視していると、その霧の後ろに灯りがあることに気づいた。
花の光ではない。
少し灯りの方に近づいてみれば、そこに石造りの大きな館があるのが見えた。
灯りは、その館の窓から漏れ出たものだ。
なんというか館の周りにも花の粒子と不可思議な霧が漂っているせいで、なんだか普通の館のように見えない。
だというのにどこかわくわくしてしまうのは、冒険家のサガ故か。
「森が騒がしいと思っていたら、意外な客が来ていたのね」
「あ、え? ……あ、あんたは?」
振り返る。
そこには、一人の少女が木の枝に腰掛けていた。
赤い髪と金色の瞳、黒いドレスを特徴とする人形のような美少女。
だが、どういうわけかそこに酷い加虐の思想を漂わせる。
どうにも、見た目以上の何かを秘めた者らしい。
だが、ルイージの敵という雰囲気ではなさそうだった。
「『夜霧の森』へようこそ。私は、この森とあの館の主──森のみんなからは『絵画の魔女』と呼ばれているわ」