「こりゃ、森の動物達の死体か。キングテレサが森を荒らす怪物ってのは、こういうことかよ……!」
オバキュームを背負って森に戻れば、その様子は一変していた。
辺りには死体が積まれており、暗い森を彩っていた光の花も根こそぎ食われていた。
ここの主である絵画の魔女が怒るのも無理はない。
言ってしまえば、自身の土地に入ってきた余所者に、自分の庭を荒らされるようなものだ。
誰だって怒る。
「だからって絵画にして永遠に苦しませるのは……いや、考えるな! もう、選んだだろ……!」
だがそれでも結局割り切れないのは、ルイージの弱点かはたまた美点か。
『──』
「おい、キングテレサ! さっさと正気に戻りやがれ! じゃねぇとお前、この森の魔女に絵画にされちまうぞ!」
キングテレサが姿を現す。
やはりというか、ルイージに対する敵意はそのままだ。
ルイージはその敵意を正気じゃないと解釈してキングテレサに話しかけるが、しかしキングテレサの返事はない。
『──』
それどころか森の景色を一変させて、その場の空間をゆがませる。
歪んだ後に広がっていたのは、どこかの屋敷かホテルの屋上を思わせる空間だった。
「……っ! 警告は、したからな。どうなってもしらんぞ!」
◆
『──』
「おいおい、いきなり物量作戦かよ」
キングテレサが、大量のテレサを呼び起こす。
大量に現れ、暗い森の空を白く埋め尽くしたテレサ達は、みんな一斉にルイージの方へ突撃してきた。
数にものを言わせた飽和攻撃だ。
「だが、今の俺にはこいつがある!」
それに対し、ルイージはオバキュームを構えてテレサ達を吸い込んでいく。
やはりというか、絵画の魔女が工面してくれたオバキュームはテレサ達に有効だった。
彼ら全員が突撃してくる飽和攻撃は、しかしそのままオバキュームの中に自ら吸い込まれに行く作業へとなり果てる。
もうテレサ達は脅威じゃない。
「うぉ?!」
次の刹那、上空から紫色の不気味な雷が降り注ぐ。
思わず横へ飛び上がってその雷を避けるが、今度はキングテレサの青白く長い舌が迫ってきていた。
その舌に対し、ルイージは無理やりその場でジャンプすることで回避した。
『──』
「なるほど、今度はキングテレサ自身が相手ってわけか!」
続いてキングテレサは、どこからか取り出してきた爆弾を投げつけてきた。
チャンスだ。
以前、キングテレサに爆弾を食わせることで決定打を与えたことがある。
だからその時と同じように爆弾をオバキュームで吸い込み、そしてすぐキングテレサの口へ向けて吐きだす。
『──』
「……ま、同じ手は食わんよなぁ」
が、キングテレサはその白い手で爆弾を弾き飛ばしてしまった。
どうやら、今回は違う手を探さなければならないようだ。
◆
『────!』
「な、なんだいきなり……?!」
キングテレサへの脅威性を確認した途端、キングテレサの気配がよりおぞましくなった。
それと同時に、キングテレサは紫色の魔力を操りだして額縁を生み出してきた。
『──! ──! ──!』
「額縁がどんどん大きく──まさか、この森ごと俺を絵画にしやがる気か!」
額縁が空を塞ぐほど大きくなると、辺りの木々が浮かびあがる。
いつかの時と同様に、周りの物を吸い込んでまとめて絵画にしてしまうのだろう。
「森のことはお構いなしとか、とことん魔女に喧嘩売ってやがるなこいつ……」
『────!』
キングテレサが三体に分身し、それぞれが爆弾を構えて大量に投げつけてくる。
これもいつか見た攻撃だ。
だがさっきのテレサ達による飽和攻撃と違い、オバキュームで吸い込み切れる代物ではない。
同じようには対応できない。
「食らえ!」
だからルイージは先ほど吸い込んだテレサ達を逆に吐きだすことで爆弾を跳ね飛ばす。
そうすることによって、爆弾によるダメージを悉く回避したのだ。
「爆弾確保! どうせ弾かれるにしても、使わない手はねぇ!」
すかさず爆弾の一つをオバキュームでキャッチ。
それと同時にキングテレサ達の爆弾が尽きたのか、それともこちらを警戒しているのか、分身を含めた三体で何をするでもなく取り囲んで来た。
どれが本物かわかるか、とでも言いたげだ。
「シオンの時と違って、キングテレサは本物と偽物の違いがわかりやすい──そこで目ぇ光らせてるお前だ!」
だがルイージはすぐに本物を見つけ、そこの口へ爆弾を吐きだす。
『──!』
もちろんその爆弾は手で弾かれてしまう。
が、ルイージにとってはそれでよかった。
『っ?!』
吐きだした爆弾の陰に隠れるよう、ファイアボールを放つ。
流石に想定外だったのか、キングテレサは防御する暇もなくそのファイアボールを食べてしまう。
『──っ!』
一瞬だけ目を丸くした後、体の中が爆発してその場に倒れるキングテレサ。
ようやっと、決定打を叩きこむ隙ができた。
「おら、吸い込みやがれ!」
オバキュームを最大出力で起動し、倒れ込むキングテレサの体を吸い込もうとする。
『──、──』
「っ──!」
だがキングテレサが抵抗する。
このままでは吸い込み切れない。
『────!』
「うぇ?!」
それどころか、キングテレサの体が大きく揺れることでオバキュームごとルイージが宙を舞ってしまう。
このまま吸盤が外れたら吹き飛ばされてしまう。
そうしたらこの空間の外に弾かれて、どうなるかわからなくなる。
それはまずい。
「くっそ、グーイージがいないせいか……! だが、今の俺にはこれがある!」
『──?!』
すかさずサンダーハンドを構え、キングテレサに直接叩きつける。
するとキングテレサはびりびりとしびれて、今度こそ気絶してその場に倒れ込む。
「ぐぅ、ぅぅぅうううううう!」
そうして倒れ込んだキングテレサを、ようやっとオバキュームで吸い込む。
「はぁ、はぁ……やっと、か」
すると周りに広がっていた空間が崩れ、元の森の景色に戻る。
爆弾回避のために吐きだしていたテレサ達の気配も、なくなる。
勝負ありだ。
「……本当に、これでいいのか?」
◆
「……持ってきたぞ」
絵画の魔女が待つ館に戻る。
相も変わらず光の粒子と不思議な霧に包まれた、けれどもどこか綺麗な外装の館だった。
そこに絵画にされた命が多数いることを知らなければ、もう少し素直に綺麗だと思えたのだが。
「ええ、確かに。貴方はちゃんと私の望みをかなえた。……今度は私の番ね」
館の中にいた絵画の魔女に、オバキュームごとキングテレサを引き渡す。
これで、取引は成立する。
「────」
「そんな顔をしないで。これはこうなるべくしてこうなった。これが地獄に堕ちるのは、貴方のせいではないわ」
「……地獄とわかっているのに、それでも絵画にするのか」
だが、どうしても割り切れない。
悪辣な奴であり、そして絵画の魔女を怒らせるだけの愚行を確かにした奴ではあった。
だがそれでも、知り合いが酷い目にあうのを見捨てるのは、どうにも面白くないのだ。
「それはそれ、これはこれ、よ。私は殺しをできない。でもこれを外に帰すのは、あまりにも危険すぎる」
「……っ」
絵画の魔女はウタう。
絵画の魔女はオドる。
そこに嗜虐の香りを漂わせて。
それでも他者を冷静に省みることができる辺り、ある意味ではタチが悪い。
「それに、これは綺麗な絵になりそうだわ。これを見逃すなんて、やっぱりできないわぁ」
「っ……。そろそろ、頼む」
これ以上の対話に意味はないと悟り、すぐ話を進めるよう促す。
「わかったわ。……ここは夜の森。霧の森。即ちは、夢の領域なり。故に貴方は目覚めを以て、外に帰る」
「──」
「どうか、良い目覚めを。見込んだ通り、貴方は絵画に相応しくない善い人だったわ。ルイージ」
その言葉を以て、ルイージと絵画の魔女は別れた。
すぐにルイージの周りに白い光が灯り始め、それはルイージの意識を白く呑み込んだ。
◆
「──うぁ?」
「あ、起きた。おはようさんルイージ」
「あ──あぁ。おはようブラザー」
気が付けば、ルイージはベッドで寝ていた。
聞き慣れたマリオの声を聞きながら、なんとか起き上がる。
「酷い夢でも見てたのか? なんかすっげぇうなされてたけど」
「夢……」
ここは、シン・クッパ城にある家だ。
どうやらちゃんとここまで戻れていたらしい。
にもかかわらず、ルイージはあの森に迷い込んでいたらしい。
絵画の魔女が夢の領域とかなんとか言っていた辺り、意識だけ森に行っていたのかもしれない。
だとすればなんともメルヘンな話なのだが。
「ブラザー。キングテレサっているか?」
「キングテレサ? いきなりどうしたよ」
「……もしかしたら、さっき見てた夢に関係するかもしれねぇ」
どうあれ、ルイージは戻るべき場所に戻れた。
目的達成だ。
それはいい。
しかし、キングテレサはどうなったのか。
実はあいつも異世界トリップに巻き込まれていて、いつかは忘れてしまったがこのシン・クッパ城にやって来て合流していた。
けれどもあいつもあの森に迷い込んでいて、紆余曲折の末に絵画の魔女に捕まってしまったのだ。
それは夢の中の出来事だったと解釈できなくもないが、実際にキングテレサの姿を確認しないことには不安が治まらない。
「とりあえず……キングテレサの奴ならすぐそこで子供達と遊んでっけど」
「え」
マリオに促されて窓の外を見やる。
すると実際に難民の子供達と遊んでいるキングテレサがいた。
あの森で魔女に捕まった筈のキングテレサは、しかしそこで普通に生きていた。
「──!」
「──!」
「あ、ちょ! お前らオレの尻尾触んな! オレのもちもち肌もモフるんじゃねぇ! あとオレに乗るのは順番だぞお前らー! しっかり守らないと怒るからなー!」
お化け屋敷やさっきの森と違ってオフモードだからか、目の影はないしなんか全体的に色も健康的でどこか可愛らしい姿をしている。
それ故、大人達はともかく子供達には人気があるのだ。
この異世界で合流してからはよくその姿で活動しており、ここ最近としてはルイージもよく知る姿だった。
あの敵意に飲まれた姿とは、似ても似つかない。
「どういうことだ……? あそこにいるのが本物なら、俺がオバキュームで捕まえて魔女に渡しちまったキングテレサは何だったんだ?」
◆
「もともと命は目に見えず──」
夜霧の森。
どこまでも夜が続き、絶え間なく霧が現れ、夢の中に生きる森。
「うつろう魂を──」
その森の中に佇む、光の粒子と不思議な霧に包まれた魔女の館。
そんな神秘的で幻想的な館の中で、絵画の魔女はウタいオドる。
「一気にプレース! ……なんてね」
その地下室には、妙な機械が並んでいる。
どこかの誰かが使っていた物を魔法で再現して生み出したものだ。
その機械の一つに再現オバキュームを接続して、中に閉じ込められていた魔物を機械の中に流していく。
「あぁ、うるわしの魔物の絵……」
なんか洗濯機みたいな機械にかき乱され、出てきたものを押しつぶし、なんだか機械が出す電撃を通して、最後のよくわからん機械でなんかする。
ぶっちゃけそうする必要なんてないが、なんとなく絵画の魔女としてはそうする気分だった。
多分もう二度と使わない。
再現オバキュームも魔法で破棄したし。
「世界広しといえど、こんなにきれいな絵を持つのは私ぐらい──いや、彼の記憶にある博士の絵もよかったわね。今度キノコ王国へ見に行こうかしら」
出来上がった魔物の絵を見上げ、どことなく恍惚な笑顔を浮かべる魔女。
「ともかく、この絵はどうしようかしら。このまま飾るのは芸がないわね」
その魔物の絵に杖を向けて、魔法をかける。
「新しい絨毯にしようかしら? それともランタンに? はたまた本棚? ……いっそ新しいお部屋にしてしまうのも手ね」
絵画は絨毯に変わり、けれども魔女の気まぐれでランタンや本棚に変わり果てる。
酷いときには小さな家そのものにまで姿を変えて、けど飽きたのかすぐ元の絵画の姿に戻る。
『────!』
「何よ。『殺してくれ』って? 嫌よ、私魔物じゃないもの。殺すなんて野蛮なことは一度だってしないと決めているの」
絵画の中の魔物が、額縁を揺らしながら何か意思表明をしている。
だが絵画の魔女は、歯牙にもかけない。
『──! ──!』
「本当に、ただの自業自得なのよねぇ。食べるべき悪夢を間違えたところまでは同情してあげる。……あんまりにも愚かだけどね」
改めて、絵画の魔女は絵の中の魔物を見る。
そこには、魔物の『本来の姿』が描かれていた。
「でもね。貴方、それ以前にたくさんの魂を食らったじゃない。わざわざ食べた悪夢を纏ってその魂に叩きつけて、さらに悪夢を増やす。そんな醜悪な『バク』はじめて見た」
バク。
本来は人の悪夢を食って生きる、東の幻獣である。
だが今回の個体は、より多くの悪夢を食らうために自らが食った悪夢を人の魂にたたきつけ、その魂が死ぬまで悪夢を出させるような手合いのものだった。
それがルイージの悪夢に目をつけ、しかし別世界の住民の悪夢である故に消化不良を起こして夢の領域である「夜霧の森」にまで弾かれてしまった。
ルイージの魂はそれに巻き込まれてしまっただけだ。
「いや、これこそが貴方の選んだ在り方なのかしら。悪夢を奪い、魂を殺し、夢を壊す。……本当に、貴方は魔物になったのね」
「夜霧の森」に飛んだ時点で、バクの死は運命づけられてしまった。
森の中に長居すれば、元の世界に戻ることができなくなってしまう。
だが、夢の世界から脱するには必ず肉体が必要だ。
バクの肉体は、悪夢の消化不良による衝撃で帰るための肉体として機能しなくなった。
だから、バクはルイージの肉体を使うことで元の世界に戻ることを画策する。
そのための手段としてルイージの魂を乗っ取る必要があり、だからこそルイージの悪夢の象徴であるキングテレサに化けていたのだ。
その結果が、これである。
ルイージは元の肉体に戻ることができ、しかしルイージを巻き込んだバクは元の世界に帰ることなく絵画の中に閉じ込められる。
すべて順当な末路というものだ。
「だから、これはただの報い。……私ね、悪い奴がひどい目にあうような、そんな勧善懲悪の物語が好きなの。せいぜい苦しんでね?」