→演出の都合で七章と銘打っていますが、事実上最終決戦前編です。
・今回は強いて言うなら「ペーパーマリオRPG」回。
→とはいえ六章ほどネタバレが激しいわけではないので、今回はタグ追加なしです。
→でも深刻なネタバレが一切ないわけではないのでご注意をば。あるにはある。「ネタバレ注意」です。
夢を見た。
いつものように攫われたピーチ姫を助けに、キノコ王国中を冒険した時の夢だ。
見慣れた家で準備を整え、二人そろってブロックばかりの平原を突き進んでいく。
途中でクリボーやらノコノコやらが立ちふさがるが、すぐ踏みつけたりブロックから出てくるファイアフラワーで吹っ飛ばしたりして先に進んでいく。
すごく、すごく懐かしくて暖かい景色だ。
「──」
ピーチ姫と一緒にテニスをする景色が見えた。
ルイージとコンビを組んでレースをする景色が見えた。
クッパと共にチームを組んで挑むバスケの景色が見えた。
あちらでは、そういう平和な時間も少なくなかった。
「っ!」
目が覚める。
木造特有の暖かい香りが充満し、木でできた格子の天井が見える。
シン・クッパ城の隅にある家である。
ここは、キノコ王国ではないのだ。
「────」
◆
ばちばち、ばちばち。
暖炉の火が燃える。
シン・クッパ城の片隅に建つ、マリオとルイージの家。
そこにある暖炉で、鍋を温めていた。
「……」
薪が静かに燃える音が、とても癒しだ。
ゆらゆらと揺れ動く炎の動きと、この暖かい空気がこの身をゆっくりと癒してくれる。
身を切るように冷たい風が吹くこの季節なら、この暖炉の熱は命に等しい尊きものだ。
ぶっちゃけ、いつまでも暖炉の前でぼうっとしていられる。
「さて、そろそろエビを突っ込むか」
今回の飯は、難民の一人から分けてもらったものだ。
あのならず者っぽい見た目とは裏腹に、彼が茹でていたエビが美味そうだというと「エビ好きに悪い奴はいねぇ」と心を開いてくれるいい奴だ。
そのままクッパ軍の炊き出しがあんまりうまくないとか、クッパの奴がどうとか、王になるとかいう夢を持つ友がどうこうとか色々話を聞いているうちに。
彼が持参したエビと塩を分けてもらうことができたのである。
なんでも塩加減にコツがあるとか。
「……美味そうだなぁ」
無心でぐつぐつエビをゆでると、白い湯気と共にとてもいい匂いが立ち込めてきた。
もう見るからに身肉がぷりぷりしてそうで、とても美味そうだ。
汁気もたっぷりで、きっと体が温まるだろうことが見て取れる。
「ただいまブラザー」
「おかえりルイージ。もうすぐ晩飯ができるぜ」
「これは……ザリガニか?」
「こいつを分けてくれた奴はエビと言い張ってたがな。まぁ美味ければなんでもいいさ」
ルイージが戻ってきた。
昼間はキングテレサやボスパックンとかの中ボス格連中との模擬戦で重労働であり、ノルマが終わった後もルイージは彼らと残っていたのだ。
ちなみに今日も飯当番だったマリオは、晩飯の材料調達のため早々にその場を離れていた。
なおキングテレサを筆頭とするボス格連中だが、実は彼らもトリップに巻き込まれており、勇者の塔やら雪の街やらの一件の裏でこの城に合流していたらしい。
故に七つ目の星石の情報が集まるまでの合間に、彼らを仮想敵としてトレーニングしたりいざという時の連携考察とかをしていたのだ。
「喜べマリオ。七つ目のスターピースが見つかったぞ!」
「ノックもなしかこの野郎」
さぁこれからゆでエビを食べようか、というタイミングでまた家の扉が開かれた。
入ってきたのはクッパだった。
「む、この美味そうな匂いは海鮮物か?! ワガハイにも食わせろ!」
「ついに飯まで集り始めたぞこいつ。飯も無限じゃねぇのに」
「実は肉も買ってある。あそこのツボの中だ。ほんとはクッパ用じゃねぇけど、出してやれ。……なんでも蛮地のご馳走だとか」
「うお?! この骨付き肉、香辛料とか薬液とかめっちゃ漬け込んでるのか。高級品だな」
仕方ないから、階段下のツボに保管していた肉も出す。
味方同士の時ぐらいは、クッパと仲良くしておいて損はない。
そういうわけで、この日はクッパを交えた三人で楽しくお食事した。
ゆでエビはぷりぷりだし、肉はがっつり味付けされていて美味いし、中々にいい晩飯パーティだった。
「さて、と。クッパ、お前『七つ目のスターピース』が見つかったって言ったな?」
「スターピース……つまり星石か。それはどこだ? どこに行けば回収できるんだ?」
美味しくご飯を食べた後、改めてクッパが持ってきた吉報について触れる。
飯時だから一端は捨て置いたが、七つ目の星石が見つかったなら最優先で情報を確認するべきだ。
星石を七つ集めること。
それが当面の目標で、魔王が展開する『異世界への門』に対抗する唯一の手段なのだから。
「いや、もはや探す必要はない。……すでに現地の冒険者とやらが見つけ、それをワガハイが買い取った! 手紙越しだがな」
「買い取った、だぁ?」
だがしかし、七つ目の星石はクッパが金で買い取ったとか。
思っていたよりも仕事が早い。
「ああ。今、その冒険者パーティ──確か『ドラゴンハンター』とかいう名前だったか──がこの城に向かっている。そのスターピースと共にな」
「ああ、なるほど。つまりここで現物を確認次第、きちんと対価を支払って七つ目をゲットってわけだ」
そういうわけで、今回は星石のためにマリオブラザーズが体を張る必要がない。
拍子抜けと言えば拍子抜けだが、楽ができることには越したことはない。
「後は、間に合うかどうかだ。奴らがこの街に訪れるのは明日だ」
「例の期限には────余裕で間に合うか」
異世界への門が、ピーチ姫の魔力と馴染んで世界を飲み込むまでのタイムリミット。
それは、まだ一週間程度以上は残っている。
「ああ。この戦い、我々の勝利だ!」
「クッパ、それフラグだぞ」
文字通り、余裕でタイムリミットに勝利できる見込みというわけだ。
そりゃクッパも優雅になるというもの。
明らかにフラグだから諫めるが。
「わかっておる。ワガハイ達はようやく同じ土俵に立てるというだけだ。慢心はAU○とやらに任せる」
「型○関連のネタはやめてくれ。……まぁ、わかってるならいいさ。大一番でポカされる、なんてやってらんねぇ」
とはいえ星石が揃ってようやく本番であることは覚えていたらしく、クッパの方に気が抜けたような様子はなかった。
「ふん、キサマもな。……それで、さっきからどうしたのだそのショボくれた顔は。キサマらしくもない」
「…………顔に出てたか。一応ルイージには、秘密にするよう言ってたんだがな」
問題があるとすれば、マリオの方だろう。
「キサマがその様では意味がない。……言いたい事なら言えばいいだろう。不本意だが、一度くらいならキサマの悩みを聞いてやらんでもない」
「お前が俺の悩み相談に乗ってくれるのか。いつの間にか仲良くなっちまったな俺ら」
「それをいうならスイッチで散々ゲームしているだろう。そんなことより、さっさと言え」
◆
「夢を見た。いつものようにピーチ姫が攫われて、助けに行くためにお前をぶちのめす時のだ」
「煽っているのかキサマ」
「お前と一緒にレースをした夢も見た。スイッチの、じゃねぇぞ? ……他にもテニスやらサッカーやらバスケやらも、一緒にやったよな」
思い出すのは、今朝に見た夢。
そこでは懐かしいとさえ思えるキノコ王国の景色があって、けど現実に戻ると全然違う世界だった。
その時の、何とも言えない無情感は今もマリオの身に圧し掛かっている。
「ふん、あの時は一プレイヤーとして全力を出しただけだ」
「でも、楽しかった。……あの時は、ピーチ姫も普通に笑っていたよな?」
「……。それがどうしたというのだ」
空気を呼んだのか、ルイージの姿はない。
気を使わせてしまったなと内心自嘲しつつ、だからこそ今だけは本音をぶちまけることにする。
「懐かしいんだ。暖かいんだ。……どうしようもないほどに」
「──」
「こっちにトリップした後の冒険も、楽しかった。いろんな奴とも会えて、キノコ王国では見れねぇ景色もいっぱい見た。そういう意味じゃ、雪の街の一件は最高だったぜ」
「なるほど、ずいぶんと楽しい旅をしたようだな」
この異世界での冒険も、そう悪いものではない。
むしろそれもまた一つの『本物』であり、何にも代えがたい思い出そのものだ。
それ自体は、きちんと胸を張って誇ることができる。
「でも、ここはキノコ王国じゃない。……こればっかりは、もう理屈じゃねぇんだ」
「マリオ」
「なぁクッパ。異世界トリップなんて、するもんじゃないわ。俺達は運良く楽しい冒険ができたが、本当は冷たくて無情な理不尽そのものだ」
「……マリオ」
だが同時に思うのだ。
異世界トリップ。
キノコワールドネットでは、それは燻る自分を変えるためのチャンスみたいな扱いを一部ではされていた。
だがその本質は、自分を変えることを強制される不条理な災害そのものじゃないかと、そう思えて仕方ない。
「もしかしたら、さ。俺達やピーチ姫を巻き込んだ『あれ』は、どんな災害よりも悍ましい代物なのかもな。……生物が絶滅するような、そんな災害よりも」
住む場所が変わる。
生活が変わる。
自分が変わる。
それは、とんでもなく苦しい痛みが伴うもの。
比較的経験豊富なマリオ達やクッパ達だからこそ、いつもとちょっと違う世界でワイワイガヤガヤできているだけで。
この冒険、冷静に考えるとこの上なく理不尽な始まり方をしているのだ。
「クッパ」
「なんだマリオ」
「家に帰りたい。キノコ王国に帰って、またいつものキノコが食いたい」
「らしくないな。キサマが弱音など」
「そういうお前はどうだ? キングテレサとかはこっちにいるが、ジュニアやコクッパ七人衆とかはあっちに残してるだろ? 恋しくないのかよ?」
「ふん、それこそ愚問だな」
「なるほどな」
何が理不尽って、今のマリオ達にはキノコ王国に帰る手段がないという点だ。
これこそが『異世界トリップ』というものの本質で、最も悍ましい部分なのだろう。
「クッパ……お前さ。キノコ王国に帰る方法、見つけてるだろ」
「────」
「どうなんだ」
あえて確信を以て問う。
すると、クッパは凍ったかのようになった。
「これは、カメック達が今まで集めてきた情報からなる推論だ。根拠などない」
「言えよ。俺達は最終的に敵同士になるが、今は違う。ここで黙るのはフェアじゃねぇぞ」
「ピーチ姫。恐らくは王家のしきたりか何かでずっと隠してきただろう、彼女の家の秘術がそれだ。──帰るだけなら、彼女を救出するだけでどうにでもなる」
「……そうか。それが聞けて良かったわ」
少し怒気を込めて追及すれば、クッパは思いのほかあっさり吐いた。
ピーチ姫は、不思議な魔力を持つ魔法使いだ。
彼女さえ助け出せば、その魔法の力を借りてキノコ王国に帰れるということだ。
つまり、マリオの心配なんて杞憂だったというわけだ。
少しだけ、気が楽になった。
「あぁ。それともう一つ。星石──てめぇがいうところのスターピース──これ、具体的にどんなシロモノなんだ?」
なんだかんだで忘れていた。
スターピースこと星石が七つあれば、魔王が展開する青いブラックホール『異世界への門』への対抗手段として機能する。
だが、その具体的な効能はまだ聞いていなかった。
今更だが、しかし確認できるなら今のうちに情報を確認しておきたい。
「クッパ様──! 大変です、大変です──!」
「……そっちの話はまた後だ。どうにも退屈はしないな」
「だな」
だが、縁が切れたのか『流れ』が良くないのか。
話は打ち切られてしまった。
実際、この後マリオとクッパは話どころではなくなる。
なぜなら、このシン・クッパ城に魔王軍が攻め込んで来たのだから。
・上代わちきこと筆者の解釈では、マリオはそう簡単に弱音を吐く方ではありません。
→ルイージに対しては普通に吐くと思いますが、身内なので今回は例外扱い。
・それでも今回他者に弱音を吐いたのは「相手が身内に限りなく近いクッパ」「クッパにゆさぶりをかけて、情報を引き出すため」などといった条件が重なったため。
・多分「異世界トリップ」だけなら、上記の条件を差し引いてもどれだけ内心が苦しくてもそれを表に出すことはないとは思います。
→ただし四章の一件さえなければ。