クッパにとって、異世界トリップというものは新たな可能性そのものだった。
キノコ王国におけるクッパの支配領域は、殆どが火山の類だ。
それ故に豊かな自然の上に建つピーチ城を求めていたし、まぁそれはそれとしてピーチ姫も求めていた。
強引な手段でピーチ姫を攫ってアプローチしたり、花束を作ってプレゼントしたりといった具合にだ。
だがこの異世界にトリップしたことで、状況が一つ変わった。
ピーチ姫への執着を捨て去るつもりはないが、それはそれとして何か大きなものを得るチャンスだとも思った。
世界征服。
その野望の一環として、この世界をも糧にして一大帝国を築く。
マリオ達と共闘し、ピーチ姫を救出する作戦の裏で、クッパはその野望を燃やしていたのだ。
シン・クッパ城で難民を受け入れているのは、この異世界がどういうものかをより深く知るためでもあるのだ。
「ままならぬものだな」
クッパが異世界トリップした直後。
一緒にトリップしてしまった城を拠点に散らばった部下を集め回り、トリップに巻き込まれて墜落した戦艦を回収し、戦艦の修理費用などを求めて宝が眠る東の遺跡を冒険した。
遺跡の中ではよくわからん鎧の化け物がいて、そいつを倒すために一度撤退して新しい魔法を覚えたり対策をしたりとか色々した。
そうして最終的にそこで大量の金貨を生み出す宝を得て、なんならスターピースの一つも得て、一時はピーチ姫の保護も叶った。
だがそのタイミングでマリオどもが乗り込んできて、乱入してきた魔王によってピーチ姫を攫われ、そしてシン・クッパ城で再起を図る現在に至る。
順風満帆とはいかない旅路だった。
「クッパ様?」
「む、ワガハイの部下……ではないな? 子供が入り込む場所ではないぞ」
「えへへ……アストラ村のエンリです。この間のお礼がしたくって」
「ああ、以前のか。……気にしなくてもよい。難民を受け入れた以上、護り切るのが王の務めであるからな」
「でも、お父さんたちが──」
「────」
一番厄介なのは、難民の存在だった。
野望の為にも受け入れた彼らの存在が、予想以上の重荷となっていた。
同じ世界の住民同士でも、互いを理解することができず憎み合う事例は少なくない。
それは大抵、お互いの文化や価値観が相いれないものというパターンが由来だ。
であるならば、違う世界同士の者達がわかりあうのは、それ相応の────
「だから────お父さんには内緒なんだけどね、ぼく大人になったらクッパ軍団に入ってクッパ様に恩返しするんだ!」
だから、クッパはその言葉が意外だった。
違う世界の住民に、そのようなことを言われたのはこれが初めてだったのだ。
同時に、どこか救われたような気分になった。
「……そうか。それは、頼もしいな」
「でしょ。にひひ」
故にこそ、クッパは誓う。
この野望、たとえ折れることがあっても、決して背を向けることはならぬと。
◆
青き影の王を退けてから数日。
クッパ軍は城の修復に追われた。
助力に来てくれた冒険者パーティ「ドラゴンハンター」。
イセカイ・デアール、キノ康とボム勝。
ローランドに、シオン。
彼ら彼女らも、城の復興を助けてくれた。
その甲斐あってか、一週間足らずで体勢を整えることができた。
無論他にも色々理由があったりドラマがあったりするのだが、それは割愛する。
「だーああぁ! 雷の○ースガノン強すぎだろ!」
「そりゃ雷のあいつはな……ところでブラザー。飯がもうすぐできるぞー」
「ほえー。……この匂い、玉ねぎスープか」
今日の飯当番はルイージだ。
スイッチを尻目に台所の方を見やれば、使った後のまな板がある。
玉ねぎをみじんぎりにしたのだろう。
みじんぎりにした玉ねぎを鍋でザーっと炒めて、水をビシャーっと突っ込んで、塩と胡椒をガーっと振って、ダーっと煮込んで、チーズをバーっと入れればだいたいいい感じになる。
それがスープ系の強みだ。多分。
「けど、こりゃただの玉ねぎスープじゃないな」
「気づいたか。実はツボみたいな鎧を着た黒騎士と会ってな、その黒騎士が分けてくれた魔法のスパイスを入れてみたんだ。なんでも体がとても暖まってケガや傷にもいいんだってさ」
「なるほど。……けど、黒騎士ってルイージ──」
「いや、そいつは自分から名乗ったぞ。黒騎士ジークフリートってな」
「まじかよ」
ちなみに余談だが、この世界における黒騎士とは「黒い鎧を纏う騎士」ではなく「国に認められず領地を持たない騎士」のことを指す。
つまり騎士のコスプレをしているだけの傭兵・冒険者の類だ。
転じて黒騎士とは蔑称となり、故にあんまりいい言葉ではなかったりする。
マリオが一瞬ルイージを咎めようとしたのはそういうことだ。
自分から名乗る輩など、よほど豪快な奴か阿呆しかいないのだ。
「せっかくだから余りは瓶に詰めて次の決戦に持って行こうぜ。このスパイスさえあればずっと暖かいし、ポーションの代わりとしても有用だからな」
「玉ねぎスープと一緒の旅か」
「例の黒騎士はずっとそうしているってさ。味気ないポーションよりもずっと体に良いってな」
それを尻目に、じっくり煮込んできつね色に仕上がった玉ねぎスープを皿によそう。
半透明の玉ねぎから熱い湯気が立ち上がり、同時に香ばしい匂いが食欲をそそる。
ついでに三日麦で作ったパンも一緒に食べる。
すぐできる代わりにあんまり美味しくないパンだが、自分で作ったものなら少しは違った味がするものだろう。
ましてやこの玉ねぎスープと一緒に食えば、なおさらだ。
「食べ物の匂いだな! ワガハイが遊びに来たぞ!」
「やっぱり来たかクッパ」
「そうだろうと思ってかなり多めに煮込んでおいたぜ。感謝しやがれ」
するとドカドカとクッパが家に入り込んでくる。
食べ物ができると、どこからともなくクッパがやってくる。
もはやここ最近では定番の流れだ。
「ほう、これを見ても同じことが言えるか?」
「これは……キノコ?!」
だが今回のクッパは一味違う。
まさかまさかの、食材持参だ。
「宝石商会の運び屋が持ってきてくれた『肉キノコ』だ。そこの暖炉で塩焼きにしてみろ──飛ぶぞ」
「ルイージ」
「ああ、早速やってみよう」
すぐクッパの言う通り料理暖炉で塩焼きにする。
早速焼き上がった小さいキノコを頬張って噛んでみれば、肉のような油が飛び出してきて舌の中で踊り始める。
これは美味い。
「まじか……まじか! ついに、美味いキノコを食えるなんて……!」
「この世界のキノコ、どれもこれも毒キノコの類で食えなかったからなぁ。唯一『いけるキノコだ』って言われた奴も、腹の足しにはなってもめちゃくちゃ不味かったし……本当に、うめぇ」
「本当は運び屋の小娘が言っていた東の名酒『竜桜』とやらがあれば完璧なのだが……売り切れとは、中々世知辛いものだ」
故郷の景色が見える。
それほどまでに、キノコの味が美味い。
それと一緒に、ルイージが煮込んだ玉ねぎスープを堪能すればどんどん手が進む。
パンもどんどん減っていく。
これは、中々に良い晩飯だった。
◆
「明日だ」
ご飯を食べ終え、食器も片付いて落ち着いた頃。
ちょっとだけ三人でスイッチのゲームを楽しんだ後、仕切りなおすかのようにクッパがそう言いだした。
明日。
それが何を表しているか、それを問うようなことはしない。
マリオブラザーズも、もうわかっていた。
「明日、クッパ軍は件の火山へ向かう。ようやく整備を終えた戦艦で乗り込み、ワガハイの城を取り返し、中にいるであろうピーチ姫を救出する」
「異論はないぜ。……異世界への門の対抗策だっていう『星石』も七つ揃った。俺達は、もう魔王と戦える」
星石は七つ揃い、魔王と戦う段階に至った。
シン・クッパ城の復興もある程度落ち着いた今、打って出るタイミングとしては最高だ。
「問題があるとすれば、魔王軍だ。……俺達の魔力も無限じゃない。ピーチ姫を攫った魔王と戦う前に消耗させられたらきついぜ」
「わかっておる。そのためにこそ、ワガハイは宝石商会を頼ったのだ」
「宝石商会……?」
「これは……緑色のポーション?」
だが魔力リソースがどれだけ使えるかという問題が残っている。
それに対する回答としてクッパが二つの瓶を取り出し、机の上に出す。
その瓶は、緑色に淡く輝いていた。
なんとなくポーションのようにも見える。
「ポーションではない。これはな、魔力を回復させる飲み薬『エルフ薬』だ」
「エルフ薬?」
「北東の鉱山を抱える宝石商会の目玉商品だ。……もとは伝説の種族『エルフ』の薬らしいのだが、原材料に魔力を必要とする代物でな」
「だから宝石か。……この世界の宝石には、魔力が宿るもんだ。星石獣の魔石なんかがその好例だぜブラザー」
宝石商会。
あるいは、エーデルシュタイン商会とも。
読んで字の通り宝石を主戦力とする宝石商であり、宝石を起点とした物々交換であらゆる品物を取り扱うようになった一大交易商だ。
その規模の大きさゆえに、荷物を運ぶことに特化した運び屋を大量に抱えていることでも有名だ。
その運び屋が運んでくれたのが、宝石を原材料とするこのエルフ薬というわけだ。
魔力を補給できるこれは、貴重かつ重要なアイテムとなる。
「なるほどな。……クッパ。このエルフ薬、二つ出したってことは俺達が使っても?」
「構わん。むしろ使うべきと判断したなら遠慮なく使え。これもワガハイからの支援である」
「了解。助かるぜ……途中で魔力が補給できるってことは、その分だけ何度でも全力で戦えるってわけだ。いい買い物だ」
とりあえず二つのエルフ薬を、マリオ分が一つ、ルイージ分が一つ、という感じでシンプルに分ける。
必要に応じてルイージが二つ使うなどの使い方になるかもしれないが、そうでなければ基本は一人一つずつだ。
「さて。これで完全とは言わなくてもおおよその備えはできただろう。異世界への門を警戒しなくていい以上、魔王の脅威はそれほど大きくないと見ていい」
「そうだな。……ぶっちゃけ、魔王を倒してピーチ姫を助けるまでは──まぁそれなりに苦労はするだろうが──もう予定調和だと思うぜ」
こうなれば、魔王など恐れるに足らずというものだ。
得体は知れないが、臆病になりすぎても仕方ないし、なるようになる。
「ならば────マリオ」
「言うなクッパ。それは、実際にピーチ姫を助けてからでいい。それまでは、一蓮托生の味方同士でいいだろ」
「────そう、だな。キサマに諭されるのはいささか癪だが、そういうことにしてやる」
「…………」
そして残る最後の問題は、しかしあえて棚上げしておくことにした。
それは、今の本題ではない。
あの時の続きをするには、まだ早すぎるのだ。
◆
翌朝、マリオブラザーズはクッパの戦艦に搭乗する。
向かう先は、すべての始まりの地である火山のクッパ城だ。
「ドラゴンハンター」を筆頭とする冒険者や助っ人たちはシン・クッパ城に残り、万が一に備える。
ただしそれぞれウルフリックとハクに縁があるローランドとシオンだけ戦艦に搭乗して、残りはクッパ軍団の精鋭が乗る。
ここからが、本当の戦いだ。
余談
・今回出てきたネームドみたいなキャラや設定は、没になった作品のものを流用したものです。
→没作品の概要は「ファンタジー世界を舞台にした運び屋もの」です。
→街道とかを塞ぐ魔物や盗賊から荷物・馬車を護りながら、それぞれの街を巡る感じ。
・一部どうあがいてもフロ○しているキャラや設定もありましたが、こちらも没作品にて実際に登場していたり。
→どうあがいてもフロ○が元ネタなのは変わりありませんが……
・本作同様「異世界トリップ」がテーマの一つである他、TS娘の恋模様とか、ファンタジーな街の牧歌的な景色・世界観とかを書こうと頑張ってました。
→最終的に「狼と香辛料」っぽいお話……以上のものにならなかったため公開する予定はありません。
→が、このまま墓までもっていくには個人的な思い入れが強い作品ですので、この場を借りて供養とします。