火山地帯上空。
戦艦内部。
「アイテムの忘れ物はなし、と。玉ねぎスープもエルフ薬もしっかりある。ルイージはどうだ? ────あれ、ルイージどこだ?」
もうすぐ、魔王軍との決戦が始まる。
なんとなく緊張してしまってアイテムの忘れ物を確認していると、ルイージがいないことに気づいた。
なんとなく周りを見渡していると、意外と近くにいることがわかった。
どうやら、ローランドとシオンの所のようだ。
「よ、ローランドさん。青き影の王の時以来だな。あの時はありがとうな」
「どういたしまして、マリオ。……色々聞いたけど、貴方達も苦労しているみたいね」
「そっちもな。この戦艦に乗っているってことは、ウルフリックの件だな?」
「まぁそんなところよ。あっちのシオンちゃんも、似たような話らしいわね」
ローランドが目で指す方へ振り向く。
するとルイージと戯れるシオンの姿があった。
「前々から思ってたんだけどさ、シオン」
「ん、どうしたんだいルイルイ君」
「なんでお前、メイド服着てんの?」
「んっふっふ~。何を隠そう、ボクはルミエール兄さん──じゃなくて、伯爵の使用人が本業だからなのさ~」
「じゃあ仮面ぐらいとれ。なんかディメーンが女装しているみたいでいやなんだよ」
「んなっ?! か、仮にも乙女だぞボクは! 恥ずかしいんだから仮面返せよ~!」
「嫌だよもったいない。お前、素顔でいると普通にかわいいんだし。その黒い髪も綺麗なんだし」
「~~~~~???!!!!」
なんでか、ラブコメが起きていた。
「青春だなぁ……」
「眩しいわよねぇ……」
珍しく悪戯好きなルイージを、顔を赤くしてぷんぷん怒るシオンが追いかけている。
なんだかとても微笑ましい。
『えー艦内にいるマリオとルイージ! もうすぐワガハイの城に到着だ! すみやかにデッキまで来るように!』
「おっと、クッパに呼ばれちまった。それじゃあ俺達は行くわ。武運を祈るぜ、ローランドさん」
「ええ、そっちもね。マリオ」
そうしていると、放送が流れて来た。
ラブコメもどきもここまでだ。
「行くぞルイージ」
「あいよ。それじゃ、お転婆もほどほどになシオン」
「むきー! 後で覚えてろよルイージ!」
◆
「今回は俺だけじゃないんだな、監視係」
「あの時はクレーンに吊られちまったからな~。そういうトラブルがないだけマシだろ」
戦艦デッキ。
そこに到着するや否や、クッパと共に望遠鏡で監視係をすることになった。
「リラックスしているのもいいが、いい加減警戒しろキサマら。……襲撃があるとすればそろそろだぞ」
「わぁってらぃ。カメジェットの二の舞は俺達としてもごめんだ」
「マメーリア王国の国境を超えるだけでも一苦労な上、クッパ達との合流もままならなかったからなぁあの時」
雑談もそこそこに、戦艦の周りを見渡す。
が、周りに敵影はない。
このまま、魔王軍が占領しているだろう火山のクッパ城に到着してしまいそうな勢いだ。
実際、もうすぐそこにまで火山のクッパ城が見えている。
あの時の惨劇の爪痕がそのまま残っており、城の上層は崩れかけて酷い有り様だ。
ただ、本丸と思わしき場所だけが何やら修復されているだけだ。
「ヌ?!」
「どうしたクッパ?」
「敵の襲撃だ!」
かと思えば、やはり想定通りに敵が現れたらしい。
「どこだ? 俺達には見えねぇぞ!」
「すでに戦艦内部に潜り込まれた──以前の報告にもあったウルフリック隊とやらだ──カメックの念による報告がなければワガハイも気づけなかったところだ!」
「戦艦内部だぁ?! 一体どうやって侵入したんだ奴らは?」
だがマリオ達の視覚では敵の姿は捕らえられない。
すでに戦艦内部に潜り込んだ敵が見えないのはともかく、その敵の侵入口すらわからないのはどういうことなのか。
「それは勿論、私の魔術ですとも」
「っ! あいつ!」
次の刹那。
デッキ上空から魔物が現れる。
ただし、単体ではない。
「ウルフリック……!」
「ハク……!」
「……そして、あいつがルドラとやらか!」
魔王軍幹部。
奇しくもその称号を持つ三人が揃ってデッキに現れた。
「フフフ、あの時以来ですねぇ。マリオブラザーズ──それと、クッパ」
「オレとしても、あの二人とはかなり久々ダ」
「わらわは、あまり会いたくない顔じゃったがの」
今までは一人ずつ相手にしてきたが、今回は三人同時と戦う構図らしい。
一瞬だけローランドとシオンを呼ぶことを考えた。
ウルフリックとハクに関しては、この二人の方が縁深い。
だがそうする時間もないかと、すぐ自省する。
「マリオ、あの白い小娘が報告にあったハクとやらか」
「ああ。ウルフリックはウルフリックで厄介だし、ルドラはルドラで得体が知れないが、純粋な強さならあいつがとびっきりだ」
まず真っ先に警戒しなければならないのは、ハクだ。
雪の街の時みたいに、大きな狐の化け物に変身されてしまったら面倒なんてものじゃない。
ましてや、彼女はあの時の一件でその力を制御できている節があるのだ。
それ自体はいい意味で思うところはあるが、敵対する立場としては脅威というしかない。
「……安心せい。今回は、あの姿はないぞ」
「ほう? そりゃ有り難い限りだが、どういう風の吹き回しだ?」
「ふん……切り札は取っておくものというわけじゃ。生憎、その切り時を教えてやる義理はないがのう」
「ま、道理だわな」
が、今回はその力はナシらしい。
敵の言葉だから、鵜呑みにするつもりはないが。
「──マリオ、ルイージ」
「ウルフリック」
一方で、ウルフリックに対してはどうにも険悪な態度をとることができない。
ハクほど警戒しなくていいという無情な理由がないこともないが、それ以上に勇者の塔の時の印象が強いせいだ。
「あの時は助かっタ。……言葉でしか感謝を伝えられないのが、実にもどかしい限りダ」
「気にするな。あの時は流れでそうしただけだよ」
「お前達らしいナ。オレの部下やローランドが気に入るのもよくワカル。……ダガオレはウルフリック隊隊長で、魔王軍幹部が一だ。今回は敵として、死力を尽くさせてもらう」
「上等だ。負けても後から文句言うなよ」
「そっちこソ」
ウルフリックが斧を構え、魔術で炎を纏わせる。
勇者の塔の時と違い、彼自身の意思でそう構えている。
それがなんとなく嬉しくて、気が抜けそうになってしまう。
「お話は終わりましたかな、皆々様」
「ルドラ……!」
「てめぇ、何を企んでやがる? ……お前だけなんだよ、何もかもわからねぇのは」
ルドラ。
一度は直接敵対し、しかしなぜか星石をこちらに渡してきた魔王軍幹部。
その行動に一貫性や法則が見受けられず、故に不気味な雰囲気が漂う。
純粋な強さこそハクに軍配が上がるが、本当の意味で警戒しないといけないのは多分こちらだろう。
「企むなどと人聞きの悪い。……私はただ魔王様──いえ、坊ちゃまの理想を叶えるために滅私奉公しているだけなのです」
「……坊ちゃま?」
「そのためにも、まずはこの船を落とさねばなりませんねぇ!!!」
◆
「合わせろルイージ!」
「おう!」
敵が仕掛ける前に、まずこっちが仕掛ける。
マリオがハンマーを振りぬき、ルイージがファイアボールをぶっ放す。
「ヌウ!」
「はあっ!!!」
だがウルフリックは斧でハンマー攻撃を防ぎ、ハクは刀でファイアボールを弾く。
「食らえ!」
「お断りします」
それとほぼ時を同じくしてクッパが火を噴くが、その火をルドラはサンダーハンドで軌道をそらして回避する。
「さて。これをどう凌ぎます?」
するとルドラは全身から影色の闇を放ち、周囲を暗い闇で埋め尽くしてしまう。
「ルイージ! クッパ! ……クソ!」
闇の中ではルイージやクッパの気配が見当たらず、いきなり分断させられる形となる。
「炎の斧ヨ!」
「うぉっ!」
すると闇の中からウルフリックが現れ、炎を灯す斧を薙ぎ払って押元を攻撃してくる。
思わずジャンプして避けることができたが、すぐ上から追撃が来ることに気づく。
「さぁ、わらわの刀のサビとなれ!」
「お断りだ!」
上空から二振りの刀を構え、刀身に炎を纏わせながらX字を描くように斬り下ろしてくるハク。
その一撃に対し、マリオは懐からポンプを取り出して勢いのある水鉄砲を放つ。
その水の勢いでハクの刀は炎属性を失い、ハク自身もまた遠くへ吹き飛んでいく。
「ならばこれはいかがでしょう?」
「っ!」
かと思えば、今度はルドラがマリオの周りを囲むように電撃弾を設置した。
設置された電撃弾の向かう先は、やはりマリオだ。
とっさに両腕をクロスさせるようにガードして、とりあえずダメージを抑える形で凌ぐ。
「フハハハハハハハ! 一人ではなすすべもありませぬか、マリオォ!」
「くっ──!」
闇の中で浮かぶルドラが、サンダーハンドを構える。
星石獣の時と同じ技を放つつもりだろう。
「させねぇよこの野郎!」
「っ?!」
「ルイージ!」
かと思えば、闇の中からルイージが現れてルドラの横っ面にサンダーハンドを叩きこんだ。
その一撃が決定打になったのか、マリオの周囲を覆っていた暗い闇が霧散していった。
これで視界がきくようになる。
「やっと見えたぞ、ルドラとやら」
「っ──!」
「ルイージの電撃で動けぬと見える。そのまま、ワガハイのパンチで倒れるがよい!」
ルイージだけでなくクッパとも合流した後。
クッパは合流を喜ぶ間もなく、ルドラへ追撃のダッシュパンチを繰り出した。
「っ!」
「火……?!」
それに対してルドラの手元から火が飛び出し、その火がクッパのパンチの勢いを殺した。
もっと詳しくルドラの方を凝視すると、いつの間にか取り出したのか赤い宝玉を肩の上に浮かべて展開しているのが見える。
あの火の源泉は、多分その赤い宝玉だ。
「ぬぅっ?! これは、マリオやルイージと同じファイアボール……!」
「ブラザー、ルドラの奴が展開しているあの赤い宝玉──見覚えがあるぞ!」
「オスカー村の時に、俺達がファイアボールを覚えたあの宝玉か。……ウルフリックの部下が回収したんだな」
「……ふぅ。実に、便利ですよぉ。この『二つ』の宝玉は!」
続いて、ルドラの左手にサンダーハンドが宿る。
同時に現れた青い宝玉の力だろう。
これでルドラの力を強化する宝玉は、奴の言葉通り二つとなった。
「元は貴方達の世界のものです。それが数百年前のこの世界に流れ着き、遺跡に祀られるに至ったものですが、貴方達の推測通り回収させました。……実に、よいものです」
「なるほど。やっぱりそれ、クスアイランドの宝玉だったか」
「キノコ王国から飛ぶタイミングは同じでも、こっちの世界に出るタイミングは異なるのはうすうす気づいてたが。まさか数百年前ってパターンもあるのな……!」
ルドラの右手から炎の力が、左手から電撃の力が放出される。
それぞれウルフリック、ハクの体に宿り、その力を強化する。
「食らうがイイ!」
「わらわ達の力をな!」
「っ!」
「厄介な……!」
ウルフリックの炎の斧。
ハクの雷を纏う刀。
その二つの攻撃が、それぞれマリオとルイージに降り注いでくる。
「甘いわ!」
だがそのタイミングで、クッパが動く。
クッパが発現したのは、闇の魔法だ。
その効果は、マリオとルイージの周辺に炎や雷を防ぐ闇の障壁を生み出すもの。
強化されたウルフリックやハクの一撃は、これで完全に無効化できる。
「クッパが魔法……?!」
「忘れてた。クッパの奴も大概魔法使いだ。以前ならキノピオをブロックにしたりしてたんだぜ、クッパの奴」
「なるほど。けど、闇の障壁を生み出す魔法は初めて見たな……」
そう。
ピーチ姫こそが、キノコ王国で最も正しく偉大な光の魔法使いなら。
クッパこそが、キノコ王国で最も恐ろしく強大な闇の魔法使いである。
クッパが魔法を発動する程度は、いまさらと言えばいまさらなのだ。
「ガハハハ! この闇の障壁は、付け焼刃で覚えてみたものだ! どうにもワガハイは闇属性と縁が深いようでな」
「あー……。そういえば以前にダークスターを体内に取り込んだ件とかもあったからな、クッパの奴」
「そりゃ闇属性と縁深いわな」
再びクッパが闇の障壁を発動する。
さっき発動した闇の障壁は、ウルフリックとハクの一撃を防いで消えたから、もう一度障壁を張りなおす必要があるのだ。
そうして張りなおされた闇の障壁は、今度はマリオ達の体に張り付くように展開され、マリオ達の体が闇色に染まる。
まるで闇落ちしたかのようだが、事ここに至っては何でも構わない。
「さて。これでふりだしだな、ルドラとやら?」
「ぬぅ……流石はキノコ王国の魔王、クッパですか」
「クッパ大魔王様だ! 同じにするでない」
その状況を冷静に観察していたルドラの顔が、苦しげに歪む。
どうやらようやっとペースがこちら側に傾いたらしい。
「ですが、これならどうでしょうねぇ?」
ルドラが仕掛ける。
その両手から黒い魔力が迸る。
「ヌ?!」
「ルドラ?! お主何のつもりじゃ?!」
その魔力の向かう先は、ルドラの味方である筈のウルフリックとハクだ。
「な、なんだいきなり……?」
「仲間割れ……か?」
それぞれウルフリックとハクを捕らえた黒い魔力は、黒い檻へと姿を変えて二人を拘束する。
二人の様子を見る限り、ルドラが一方的に二人を裏切ったらしい。
「先にも述べた筈です。私は、坊ちゃまの理想のために滅私奉公していると」
「ルドラ……。お前、ヤッパリ────」
「ふざけるでない! よもや、わらわ達が魔王殿の邪魔になったとでも?! あの力の温存を提案したのもこのためか!!!」
「まこと、まこと申し訳ない。ですが、これこそが我が計画の要なのです」
「な、待たぬか────────」
「ルドラ────────」
ルドラが更なる魔術を行使する。
すると、檻に囚われたウルフリックとハクがどこかへと消えて行ってしまった。
「これで、第一段階。やぁっと、前提条件が整いましたよぉ」
「おいルドラ! てめぇ、何のつもりだ」
「言ったでしょぉう? すべては、我が計画の為です」
「今さっきカメック軍団から念で報告を受けた。戦艦内部を攻めていたウルフリック隊とやらが全員消えたと、な。それもキサマの計画か!」
「ええ、ええ。ウルフリック隊全員とハクを一か所に集め、まとめて地下牢に送る。……そうして初めて、我が計画が本格的に始められるのです!」
ルドラの全身から、また魔力が迸る。
また何かやる気だ。
「では改めて、この船を落としましょう。……努々、あがくことです」
「待てルドラ! ……逃げやがったか」
かと思えば、不思議な波紋を空間に残しながらルドラも消えてしまった。
「うぉ?!」
「地震?! ……いや、戦艦が揺れているのか!」
「この感じ……あやつ、戦艦の動力部に一服盛ったか! キサマら備えろ、墜落するぞ!!!」
船が揺れる。
中から異音が起きる。
どうやら、またルドラに一杯食わされたらしい。
マリオ・ルイージ・クッパの三人が揃ったあたりで、この展開はやりたいと思ってました。
→ウルフリック・ハク・ルドラの三人が揃う展開は、いうまでもなく某ラスボス三人が揃う例のゲームのオマージュです。