「ぅ──無事か、ルイージ。それとクッパも」
「ああ、なんとかな」
「ワガハイもだ。……幸い船も大破せず、中の者達もちょっとした軽傷の者がいる程度らしい。ローランドやシオンとやらも無事だぞ」
「カメックの念報告か。そりゃありがたい」
ルドラによる工作で、クッパの戦艦は落とされた。
だがマリオ・ルイージ・クッパは全員無事で、船内にいるクッパ軍団達もまだ動ける状態だ。
一杯食わされたにしては、まだなんとかなりそうな状況だ。
「ルドラの姿はない、か」
「なんなら追撃の様子もないぜ」
「そりゃそうであろう。何せここは、城のど真ん中だ。むしろ奴らの方がパニックになっておろう」
しかも戦艦の墜落時点は、目的地であった火山の城の中だ。
こうなりゃ、むしろ打って出て本命を討つべきだ。
即ち、魔王討伐とピーチ姫の救出だ。
「けど、ここまでスムーズだと逆に気持ち悪いな。……これも、ルドラの罠じゃねぇのか?」
「だとしても船が使えぬ以上、ワガハイ達に打って出る以外の手はない。……罠があるというならば、それも踏みつぶしてしまうのがいいだろう」
「道理だわな。予定は狂ったが、このまま城と魔王を攻略してピーチ姫を救出しよう」
戦艦から降りる。
なんとなく景色に見覚えがある。
ここは、以前にも侵入した時に通った裏口方面だ。
あの時はここから本城に入り込み、一気に上層へ上った。
「ここからなら、玉座の間へは上ってあの通路を通るだけでよい。……おそらく、魔王やピーチ姫はそこにいる」
「前にクッパと戦ったあの通路か。……OK、構造はわかった。さっさと仕事を済ませよう」
「……ウルフリックとハク──それからウルフリックの部下──こいつらはどうする? 敵同士とはいえ、ありゃぁ…………」
ルドラによって地下牢に送られたウルフリック隊とハク。
立場上敵対しているが、しかしルドラに裏切られた彼らのことを放置するのも若干気が引けるのも事実だ。
「彼らなら、アタシ達がなんとかするわ」
「ボク個人としても、彼女に言いたいことがあるしね」
「ローランドさん……」
「それに、シオン」
「だから、貴方達は貴方達のやるべきことを優先して。アタシ達も、そうするから」
だが彼らの救出は、ローランドとシオンが請け負うという。
そりゃそうだ。
彼らに関しては、この二人の方が縁深い。
故にこそ、むしろこの二人に任せてしまった方がいい。
「後顧の憂いは絶ったな? では、ピーチ姫のもとへいくぞ」
「勝手に仕切るなクッパ」
「けど、同意はしてやる。さっさと助けよう」
◆
ローランド達と別れ、軍団達に戦艦を任せて出発する。
「うわ、ひっでぇ有り様……」
「あの時の『門』の仕業だな。壁やら天井やら足場やらも吸い込んでたからな」
魔王に占領された火山のクッパ城。
その上層までの道は、不気味な程静かでスムーズに通り抜けることができた。
マリオとルイージはともかく、クッパに関しては足音一つとっても目立つというのに。
魔王軍の襲撃らしい襲撃がなかったのだ。
「なんとか道は続いておるな」
「じゃあ、さっさと通り抜けて────ってわけにはいかないか、やっぱり」
『────』
『────』
だが階段を上り、いつかの通路の部分に差し掛かった時。
魔王軍の魔物達が現れだした。
魔王への道を護る、最後の親衛隊といったところだろう。
ここが、踏ん張りどころだ。
「ふん、ならば教えてやろう。キサマ達が誰に喧嘩を売ったのかをな!」
初手はクッパが仕掛ける。
繰り出すは、いつもの炎ブレスだ。
『──?!』
『──っ!』
だがその炎ブレスが味方に回ると、頼もしいことこの上ない。
通路部分の足場を埋め尽くすように現れた魔物どもが、一気に炎の中に飲まれて吹っ飛んでいく。
今までの大多数の敵相手は殆ど逃げ回ることを強いられたが、クッパがいるとそれだけで正攻法が強い。
これでもう殆ど魔物の軍勢は半壊した。
「おらぁ!」
「クッパだけにいいところをもっていかせないぜ!」
だが炎から逃れた撃ち漏らしもいるにはいる。
だからマリオとルイージが、それぞれハンマーや体術で足場の外へ吹っ飛ばしていく。
「グォォオオ!」
おまけにクッパもダッシュパンチで大物の魔物を吹っ飛ばす。
その勢いたるや暴走列車そのものだ。
つくづく味方でよかった。
『サセヌワァ!』
「ヌッ?!」
だがそのクッパの巨体が後方に吹っ飛ぶ。
よくみると、その大物の魔物は灰色の鎧を身に纏っていた。
おそらくその鎧で先の炎ブレスを耐えきってみせたのだろう。
つまりこいつに炎は効かない。
「サンダーハンド!」
ならばと、ルイージがサンダーハンドを構えてその魔物に繰り出す。
『クラエェ!』
「なに?!」
だが鎧の魔物はサンダーハンドをまともに耐えて、逆に自分から電撃を繰り出してルイージに反撃する。
幸いルイージは運よく回避してダメージを受けずに済んだが、しかしこの魔物の脅威性はそのままだ。
「ならこれはどうだ!」
今度はマリオが魔物に肉薄してハンマー攻撃を試みる。
火属性分のダメージは効かなくても、打撃分のダメージは見込めるだろうという算段だ。
『っ! ────っ』
「お、おいおい嘘だろ? 炎もダメ、雷もダメで、物理属性もダメなのかよ……!」
だが鎧の魔物は耐える。
衝撃で後方の足場にまで吹っ飛んでいったが、しかしまだ戦えるようだ。
ここまでタフだと足場から落とすぐらいしか手がないが、しかしこの手の類は多分落とした程度じゃまた上ってくる。
こいつだけは、なんとかして攻略しなければならない。
「ならば、ワガハイが決定打を叩きこもう。キサマら二人は奴の気を散らせ!」
さっき吹っ飛んでいったクッパが戻ってこう言ってきた。
どうやら何か策があるらしい。
「好き勝手言いやがるぜ……ルイージ、合わせてやれ」
「おうさ」
仕方なくそれに期待し、ルイージと合流して鎧の魔物に波状攻撃を仕掛ける。
「次はただのサンダーハンドじゃねぇぜ!」
『──』
ルイージはより大きく強いサンダーハンドを構え、それを鎧の魔物へ飛ばす。
が、やはりというか少し吹っ飛んだ以外は効いている様子はない。
「おらもう一発ぅ!」
続けてビッグサンダーハンドの陰から思いっきりハンマーを振りぬき、魔物のみぞおちに叩きこむ。
やはりというか効いている様子はないが、しかしこれで奴の視線はマリオに向いた。
これでいい。
「さぁ食らうがいい!」
『っ?!』
クッパのパンチが鎧の魔物の顔面に叩き込まれる。
すると鎧の魔物は一気に吹っ飛び、強風を纏ったまま崩れかけの壁にめりこんでいく。
さっきの物理攻撃を耐えたにしては、意外な程に効いている様子だ。
その体を蝕む闇のオーラが、そうさせるのだろうか。
「クッパ、今のパンチって……」
「うむ、闇の力を纏わせた一撃だ。──昔ワガハイを真似た偽物から借りた技である──炎もダメ、雷もダメであるなら、闇の力に頼るほかない。……事実、有効なようであったしな」
壁にめり込んだ鎧の魔物は、その体にこびりついた闇の力に飲まれ始める。
どうやら闇属性が弱点の魔物だったようだ。
「ともあれ、中ボスは倒れて道は開いた。……ブラザー、今のうちにエルフ薬で魔力を補給しておくぜ。そろそろ限界だ」
「おーらい。俺の方は……まだ余裕があるから様子見しとくわ」
ルイージがエルフ薬を飲み干して魔力を補給し、決戦の準備は整う。
思ったより面倒くさい道中だったが、ようやく魔王のもとにたどり着ける。
「では、いくぞ。……いよいよ、これが最後だ」
◆
仰々しい鉄扉が、クッパの剛腕にて開かれる。
扉の向こうには、破れた赤いカーペットと崩れた窓が続く大広間となっており。
その奥地には石でできた玉座があった。
「ピーチ姫!」
玉座にはピーチ姫が座らされ、そのままの状態で眠らされている。
ピーチ姫の周りには、青い水晶が壁や地面を侵食するかのように張り巡らされている。
その水晶の上には、金色なんだが虹色なんだがよくわからん色に輝く王冠みたいな門が浮いている。
この気配には覚えがある。
おそらくあれが異世界への門。
青き影の王とも呼ばれていた怪物のオリジナルにして力の源泉なのだろう。
「魔王……」
そして。
そんなピーチ姫と青い門を護るかのように、暗い闇のオーラを纏う『魔王』が現れる。
『────!』
魔王は声にならない声を雄叫びのように上げて、周囲に漂う赤黒い闇のオーラの自らの内に取り込んでいく。
オーラを取り込んだ魔王は、一つの黒い霧のようになる。
「なんだ、ありゃ……」
「大剣……それに、鎧か!」
「なるほど。あれが奴の本当の武装というわけだ」
黒い霧の中から、一振りの巨大な剣が現れる。
その大剣が黒い霧を一閃すると、そこからどす黒い全身鎧を身に纏う魔王が現れた。
赤い闇がマントのようにたゆたい、大剣と鎧に赤い呪いを纏わせる悍ましき魔王。
それこそが、今までマリオ達が戦ってきた魔王軍の統領であった。
『────』
その正式名称は『終末機構』ディストロイ。
一人の賢者が生み出したゴーレムの後継機達を纏め、故に機構の役割を体現した王達の化身。
今や『輪廻機構』の制御権を握り振るう、数多の世界を巡り滅ぼし醜く生き続ける者。
どうしようもなく輝かしい未来を望み、けれども最も強い魔の力と本能に飲まれ声も人格も失ったショウネン。
それが『魔王』という存在であった。
『────』
「え」
次の瞬間、マリオの目の前に魔王がいた。
何らかの魔法でも使ったのか、瞬きの合間に懐まで潜り込まれていて。
故に魔王は、マリオを真っ二つにしようと重い大剣を振り下ろしていた。
「ヌゥ!」
『──っ!』
だがその横っ面を、クッパのパンチが吹き飛ばす。
またクッパに助けられる形だ。
「クッパ……」
「呆けておる場合かマリオ! ワガハイが先行するから、横からハンマーなり上Bなりするがいい!」
『────』
クッパのパンチで横の壁に激突した魔王は、しかし舞い上がる埃を振り払うかのように大剣を構える。
水平に構えられた大剣は、一瞬の間だけを挟んで赤黒い闇のオーラを纏い始める。
『──っ──!』
「斬撃を飛ばすか──!」
闇のオーラを纏うその斬撃は、しかし離れた位置にまで刃を届かせる衝撃波として機能する。
赤黒い三日月を模すその一撃は、虚空を歪ませるような速度と風を纏ってクッパに叩きつけられる。
「だが生憎、闇の力を使えるのはキサマだけではない──そして!」
「こっからは!」
「俺達の番だ!」
だがクッパは闇の力による障壁でその一撃を耐え、その合間にマリオとルイージが魔王に肉薄して左右を挟む。
「一つ!」
まず、マリオが火属性ハンマーのフルスイングを魔王の頭部に叩きつける。
が、魔王は声もなくそれに対応。
振りぬいた大剣でハンマーを受け止めて、すぐ弾く。
「そんで二つ──間合いゼロだ!」
その隙を突き、ルイージが魔王の懐に潜り込んで右手を構える。
その右手には炎の魔力を迸らせ、そのまま間合いゼロの大技を放つ。
今まで数多の強敵に決定打を叩きつけたルイージ最大の必殺技、ファイア昇竜拳だ。
『──っ?!』
赤い爆風と共に、魔王の重い体が宙を舞う。
身に纏う鎧がそうさせるのか、とんでもなく重々しい重力感を伴って一気に地面に沈下する。
その際に発生する埃の舞い上がりようで、なんとなく察する。
今のは中々よかった。
『っ────』
「……なんとなくはわかってたが」
「だからって今のをまともに食らったのに、涼しげに立つもんかよ……!」
だが、魔王を倒すには至らない。
埃の中から魔王は立ち上がり、再度大剣を構える。
それなりのダメージはあっただろうが、それでも奴の体力の底はまだ見えない。
『────』
「なんだ……闇でできた巨人かなんかか?」
それどころか、魔王はさらなる力を解き放つ。
それは闇の魔人とでもいうべき、巨大なカイブツだ。
魔王は宙を舞いながらカイブツを背負うように操り、その威風をこれでもかとマリオ達に示す。
「これが……魔王か!」
魔王の背に陣取るカイブツは、城を壊しかねない大きさの右手で拳を作り、勢いよく振り下ろしてくる。
もはやそれだけで脅威であるのはいうまでもなく、なまなかには攻略できないのだと確信させられる。
魔王との戦いは、まだ始まったばかりだ。