→すでにルートは確定しています。ルドラの勝ちは絶対に覆りません。
・そのため、今回のあとがきに重大なネタバレをすることで、八章及び対魔王軍編完結とします。
「やっと見つけた」
「おぬし……なぜ」
地下牢の扉を無理やり破壊する。
シオンの電撃弾が、そうするのだ。
「うるさい! ハク、お前にはルミエール兄さんから向こう五十年の強制労働が命じられているんだ! それをせずにこんなとこで朽ちるなんて、ボクが認めない!」
「お、ぬし……」
「いいから! お前は黙ってボクと来い! どういうつもりで魔王軍に与してたか知らないけど、そんなわけのわからん組織となんかさっさと縁を切れ!!!」
「なっ──! お主こともあろうに魔王軍を裏切れと申すか! それはわらわに対する侮辱ととるぞ!」
「うるさいうるさいうるさい! 力づくでも連れて帰るからなー!!!」
かと思えば、鉄格子ごしにハクと喧嘩を始めてしまう。
素直に助けると言ってもこうなるのは必然だが、少しは言い方というものがあるのではないかとローランドとしては思わなくもない。
「……あのメイドのお嬢サン。やけに感情的だナ」
「……あっちの娘には内緒だけど、実はさっきルドラって子と会っちゃってね。……シオンちゃん、その時の会話で相当頭に来たみたいなの」
まぁ、ハクの方もきっと口ほど怒ってはいない。
ルドラのことを思えば、ハクにとって今のシオンがどういう存在かは容易に推測できる。
「ルドラ……ヤハリお前」
「わかってたのね、ウルフリック。彼が、こうすることを」
「……本人から聞いたわけではナイ。だが、うすうすは気づいていタ」
ローランドは隣の鉄格子の鍵を壊しつつ、ウルフリックに問う。
ルドラは得体が知れない魔物だ。
『さっきの話』を聞いて尚も、その謎は晴れ切っていないのだ。
「ねぇウルフリック。ルドラって子、何が目的だと思うの?」
「青き影の王。その運用実験と称したシン・クッパ城襲撃で稼いだ時間。その時間で、奴はオレ達や魔王様の目を盗んで『八つ目の星石』を回収シタと後から聞いタ。多分、それが答えダ」
◆
「八つ目の、星石?!」
「ええ、その通り。星石は、八つ揃って初めて真の効果が発動するものなのです」
魔王との戦いの最中、突如現れたルドラ。
彼は、八つ目の星石を携えていた。
異世界への門の力を食い止めるためには七ついるという話で集めていたから、八つ目があるとは思わなかった。
「本当に、間に合ってよかった」
「なん、だ……? 何をする気だ……?」
ルドラが八つ目の星石を手放し、宙へ浮かす。
すると、マリオの懐にあった七つの星石も共鳴して上空へ浮き上がり、共鳴して光り始める。
今まで散々ルドラに振り回されてきた。
しかも三つ目の星石に至ってはわざと渡してきたことを考えると、より一層目の前の輝きが不気味に思える。
「星石。その正式名称は──『修正機構』スターピース」
「……」
「もとは、もうすでに滅んだ星の意思。もう終わるべきものが、しかし未だ続くことを許さぬ裁きの光。それが欠片としてちらばり、星石獣という運び屋によってこの世界に届けられたもの」
『──っ』
魔王がルドラの方へ振り返った。
言葉はわからないが、しかしルドラの真意は魔王とは違うことがわかる。
「その真の効果は『輪廻機構』である門と、『終末機構』である魔物の消去」
「え」
次の瞬間、ルドラの体が崩れ始める。
いや、ルドラだけではない。
大剣を構えていた魔王も苦しみ始める。
「な……ルドラと、魔王の体が…………?!」
『っ──っ???!!』
『終末機構』ディストロイ。
それは魔王を指す名であると同時に、魔物という存在をも指す記号である。
いわば魔王とは終末機構の頭であり、魔物とは終末機構の胴体や足のようなもの。
故にこそ、『星』による修正は魔物全体にも及ぶ。
「ぅ──我ら終末機構と輪廻機構たる門は、いわば『悪』です……! 世界に変化を強いる、強すぎる悪なのです……!」
「なんだって?」
「故にこそ、先出しされた二つの悪への対抗手段として、二つの『善』が後出しされました──それがあの星のやり方であり、その一つがこの『修正機構』です……っ!」
「悪と、善……か」
どこかで聞いたことがある話だ。
あるいは、別の物語では抑止力とも称されていたか。
いずれにしろ、悪が繫栄するならばそれを止めようとする善が現れるのは、古今東西どの物語でも同じだ。
今回の場合は、スターピースこと星石がそれだったということなのだろう。
「っ──これで、『門』の源泉は潰える。私を含めた魔王軍も、例外を除き全員滅ぶ…………ですが、魔王様はまだです」
「ルドラ……お前」
眠り続けるピーチ姫の上空にある、王冠のような『門』がひび割れる。
ルドラの言う通り、星石の力は八つ揃うことでやっと本物になるらしい。
これで、魔王軍はもう『門』の力を使えない。
世界を渡り歩き、悉く滅ぼし続ける悲劇はようやく終わる。
だが、まだ話は終わっていない。
「我々は長く生き過ぎた──! 魔物とは本来自我があるように振舞うだけの機構ですが、長い年月による進化で生物としての特性を得た──特に魔王様は、強大な生命力の持ち主です」
故に、星石による修正だけでは魔王様は滅ぼしきれない。
ルドラはそう続けるのだ。
「で、でもお前は──」
「御託は結構。……今が、魔王様を倒す最大のチャンスですぞ?」
どういうことか、マリオにはわからない。
わかるのは、ルドラは魔王をも裏切り、その結果としてマリオ達を助けてくれたことだけだ。
◆
『──っ──!!!』
魔王が苦しみながら、しかし大剣をマリオの方へ振るう。
彼を裏切ったルドラは、しかし星石の輝きで同じように苦しみ地に伏している。
流石に今の彼に魔術や企みを実行する力は残っていなさそうだ。
だからこそ、魔王はまだ動けるマリオの排除をこそ優先したのだろうか。
「っと!」
今のやり取りで息を整える時間を得たマリオは、あっさりというわけではないが、魔王の振り下ろしを横へ転がって避けることができる。
『──っ! ──?!』
さっきと同じように魔王が空手の左手に黒い炎を灯そうとする。
が、それとほぼ時を同じくして魔王の左手が崩れ落ちる。
追撃はない。
「ふぅ、やっとカイブツを返り討ちにできたぞ」
「すまんブラザー、回復に手間取った」
後ろからルイージとクッパが現れて、ようやく合流できる。
完全にペースはこっちにきた。
「無事ならそれでいいさ。……それよりクッパ、俺と合わせろ。トドメはルイージだ」
「構わぬ、今回は見せ場を譲ってやる」
「へ。まさかあのクッパに見せ場を譲られる時が来るたぁ、俺も大物になったもんだ」
こうなったら、作戦はごくごくシンプルかつ最も高火力なものがいい。
それで、確実に仕留める。
「おらぁ!」
「食らえぇ!」
マリオのハンマー。
クッパのパンチ。
それぞれ魔王の左右を陣取り、容赦なく挟撃する。
『──っ──っ!!!』
その挟撃を受けた魔王は大剣を弾かれ、しかしその身から暗黒のオーラを放ってマリオとクッパを弾き飛ばす。
まだ、そんな力が残っていたのか。
「間合いゼロ」
だが、もう関係ない。
ルイージは、所定の位置にいる。
「今だ、ルイージ!」
「思いっきりやってやれ!」
すべてはこの時のために。
今こそ、ルイージの必殺技が輝く。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ファイア昇竜拳。
今まで何度も強敵を倒してきた、マリオブラザーズ最大の武器。
それが魔王の顎にぶち当たり、とんでもない火柱と爆風と共に魔王の身が宙を舞う。
『──っ──?????!!!』
宙を舞ったまま、魔王の全身を覆う黒い鎧にひびが入る。
それと同時に、魔王は頭を抱えるような悲鳴を上げ始める。
「ありゃぁ……」
『???!、っっっ!!! ────?????!!!!!』
この世の物とは思えないような声が響き渡る度に、魔王のひびはさらに増え、そこから紫と黒の光が飛び出し始める。
光は魔王というカラからどんどんあふれ出し、だからこそ魔王の慟哭はさらに大きくなる。
『??????????!!!!!!!!!!』
苦しみもがく魔王は、しかしついに光の爆発によって身を失う。
失った身からは闇色の爆炎と爆風が、この城を吹き飛ばすような勢いで噴出し、しかしそれが数秒続いたら光の粒子となって消えていく。
魔王は倒れた。
勝負ありだ。
◆
「ぅ……やっと、終わったのですね」
「ルドラ……お前、なんで俺達を助けるようなことを」
魔王は倒れ、苦しみもがいた末に消滅した。
だが、ルドラはまだ残っている。
戦う力はなくとも、問答するぐらいはできるだろう。
「……かつての魔王様は、坊ちゃまは。魔の本能を嫌っておりました」
「魔の本能……。あのオーク野郎やウルフリックが言っていた奴か」
ルドラが魔王を裏切った理由。
それは、いつかでも聞いた『魔の本能』が絡むらしい。
確か、壊し・殺し・奪うというとんでもない本能だっていう話だ。
「それは、我々『終末機構』の在り方そのもの。それがある限り、我々は未来を望めない」
「未来……」
「『終末機構』とは、一人の賢者によって生み出された試作ゴーレム。彼の者が視たという『邪神』の権能を再現するために作った、滅びの化身」
「邪神?」
「妄想のようなものと、私は見てますがね。認識できないものは、存在しないも同義なのですから。……いずれにしろ今回の一件に『邪神』とやらが関わることはありませんよ」
どうにもその根は、かなり深く複雑なところにあるらしい。
正直、マリオ達の理解に及ぶところではない。
そして、理解する必要もなく今回の件には直接関係はしないのだと、ルドラは補足する。
「重要なのは我ら『終末機構』はあくまで滅びの役割しか持たぬということ。世界にある既存の有をすべて滅ぼして、何もかもを無に還し。そして最後には、自分達も自滅するもの」
「自滅?!」
「だからあのオークや魔物ども、あんな馬鹿みたいなマネを……」
「そうです。一つの滅びとは、世界を滅ぼした張本人までも消えて初めて成立する。少なくとも、賢者はそう考えた」
滅びることを前提とした生き物。
すべての生物にもある程度当てはまるそれは、しかしこうしてみると恐ろしく悍ましいもののように思えるのは何故か。
「すべてを滅ぼし、そうして浮いたエネルギーを『輪廻機構』が再利用して次なる有を生み出す。それが賢者が再現しようとしたものへの解答でした」
「でも、それは」
「ええ。それは、魔物の未来を考えない『次』。当時の代の魔王様は、それを嫌ったのでしょう」
「当然と言えば、当然だが……」
そこに思いやりがないからだろうか。
賢者とやらからは、自らの創作物へのプライドや愛が見受けられないからだろうか。
「逆に賢者から輪廻機構たる門の制御権を奪い、我々魔物は今日に至るまで歴代の魔王と共にあらゆる世界を滅ぼしながら食いつないできました」
「マキシミリアンとやらが言ってた、『船』──つまり輪廻機構たる門って奴を使ってか」
「はい。星石が八つ届けられてしまう前に世界を滅ぼし、その資源を確保しながら次の世界へ。そしてその次の世界にまた星石が届けられる前に、同じことを。それが魔物の生存戦略です」
魔王様は、此度も同じことをしようとしていました。
それがお歴々から受け継いだ策である故に。
そう語るルドラの話に、思わず嫌悪感を抱いてしまう。
「ピーチ姫を攫ったのも、世界を渡る力を確保するためか。星石が八つ揃う前に、この世界から逃げるためにか」
「ええ、ええ。単体だけでも世界を渡る『門』は、しかし我々だけでは制御しきれない。故に、神に準ずる王族の力を借りるしかなかったのです」
「それで安全に世界を渡る力を確保したら、次はキノコ王国に侵攻して資源化か。ご立派な策だよ」
なるほど魔王の在り方は、悲しみを伴うものなのだろう。
だがどのような理由であれ、魔王はピーチ姫を傷つけようとしたし、この世界の者に痛みを強いた。
あまつさえ、キノコ王国にすら同じ悲劇を齎そうとしていたのだ。
許せるものではない。
「ですが、奪い続けるだけではいつか破滅を迎えます。でも、奪うこともまた魔の本能の一つ。だからこそ、坊ちゃまは魔の本能から抜け出す術を探しておりました」
「ん、でも魔王はキノコ王国に侵攻するのが戦略だって──」
「──それは魔の本能に飲まれた魔王様の戦略です。そうなる前の坊ちゃまは、違う策を模索していたのです」
だがその真意は、別のところにあったらしい。
魔物の未来を望む善き王。
無数にいる配下を食わせるために暗中模索する者。
それが、ルドラが語るところの本来の魔王らしい。
「でも、私は思うのですよ。……今更何か手を打たずとも、魔物の未来は紡げると」
「え」
だが魔王は魔の本能に飲まれ、故にこそ声も人格も失い、全てを滅ぼす機構へとなり果てた。
ルドラが魔王を裏切った理由は、そこにある。
「勇者の塔の一件。ウルフリックとその隊はその価値を示しました。────雪の街の一件。ハクはその力を示しました」
「……あの二人、か」
「そして何より、今の坊ちゃまに新たなる策を見出す力は残されていない。ならば、過去の坊ちゃまがなした偉業をこそ、確実に後世へ残すべきだと思ったのですよ」
「っ! お前、まさかウルフリック達を生かすためだけに……!」
ウルフリック。
ハク。
そして、ウルフリックと共にある『臆病者』たち。
かつての魔王に見いだされ、未来に送るため特別な地位を与えられた者達。
魔の本能とは違うものを有し、だからこそ魔物達からは『臆病者』と罵られ、けれども確かな光を抱いた者達。
彼らこそが、ルドラの理由である。
「私の目的は魔の本能に飲まれた魔王軍という、ウルフリック隊とハクを縛るしがらみの排除。もはや下らぬ軍や門がなくとも、魔物という種は明日を生きていける。その証を示すことでした」
ルドラという魔物の本質は、意外にも利他的なところにこそあった。
「そうして初めて、坊ちゃまの理想(いのち)が後世に残る。私は、それに全てを賭けたのです。それだけが、坊ちゃまとの約束を果たす最大のチャンスだと思ったのです」
だから私は、あの二人とウルフリック隊をあの特別な地下牢に送った。
それが、星石による修正から隔離する策なのだから。
そこまで語って、しかしルドラの命は今度こそ決定的なところまで消え始めていた。
「マリオブラザーズ殿。クッパ殿。どうか、この宝玉を……これは、貴方達の世界にあるべきものです。迷惑をかけておいて今更ですが、お返しします」
「ああ。責任もって、クスアイランドに戻しておく」
消え始めるルドラから、二つの宝玉が現れる。
クスアイランドのものだ。
それを、マリオはしっかりと受け取る。
「それと、もう一つ。……我々が出した犠牲、犯した罪は決して軽いものではない。それでもどうかウルフリック隊とハクの未来は別物だと、どうか折り合いをつけてくださると────っ?!」
「言いたいことは色々あるが…………そこまでのけじめをつけられてしまったらなぁ」
「少なくとも、俺達はあいつらの邪魔をするつもりはない。そこは安心してくれていいぜ」
「そうだな。八つ目のスターピースを届けてくれた分程度には、気を使ってやらんでもない」
「フフ、フ。ありがとう、ございます」
そうしてルドラの体は崩壊した。
その死に顔は、穏やかなものであった。
「坊ちゃ、ま……今、おそばに……」
この世界にかけられていた呪いは、今確かに解かれた。
ルドラがつないだ魔王の理想(いのち)が、魔物にかけられた呪いを解いたのだ。
いのちとは、情報だ。
己の情報を外部に出力する特権であり、だからこそ他者から他者へ紡がれていく奇跡の魔法だ。
ルドラがつないだ魔王のいのちは、きっと知らず知らずのうちにウルフリック達へ受け継がれている。
それが、ルドラの計画の目的であったのだ。
◆
ルドラが消えた頃。
魔王が護っていた輪廻機構たる『門』も、青い粒子となって消え去った。
他の魔王軍も、もういない。
生き残っているのは、ルドラが何らかの手を打ったらしいウルフリック達だけだろう。
「ピーチ姫!」
「……いや、大丈夫だ。彼女は眠っているだけだ」
「そうか。……よかった」
ピーチ姫も、無事だ。
色々あったが、ようやくここまでこれた。
「思いのほか色々あったが……これで予定調和だな」
「ああ。ウルフリック達やローランド達のことはあるが、おおむね俺達の目的は達成したと言っていいぜ」
「ならば……」
「……ああ」
だがまだだ。
まだ、マリオの戦いは終わっていない。
最後の最後。
クッパ大魔王との決着を、今度こそつけなければならないのだ。
重大なネタバレ:ラスボスはクッパ