この場を借りた公開を以て供養といたします。
プロローグ「異世界トリップ」
一章「マリオとルイージと星石」
二章「砂漠荒野を行く」
三章「星石獣の上で」
四章「笑いゆくもの」
五章「勇者の塔」
六章「ルイージとコントンのラブパワー」
番外編「絵画の魔女」
七章「青き影の王」
八章「苦しみもがくもの」
エピローグ「マリオとクッパ」
「ところで貴方達はどうするの、ウルフリック」
「……思うところはあル。だがルドラがああしたということは、つまりそういうことなのダロウ?」
「──」
「クッパ軍団に投降しようと思ウ。……きっとそれが、魔王様の望む未来のタメダ。オレの部下と、ハクのためにモ。オレは生きて足掻く必要があル」
「いいじゃない。とっても、男前よ。ウルフリック」
これは、もうすでに終わった話。
この世界を侵していた呪いは、しかしもう解かれていた。
────────
「やはり、こうなったな」
「まぁな。……ルイージ」
「わかってる。ピーチ姫はこっちで介抱すっから、ブラザーはクッパを頼む」
マリオとクッパは、気絶したピーチ姫と介抱するルイージから離れた位置に移動する。
ピーチ姫を危険にさらさないためでもあり、先の戦いで想定以上に消耗したルイージを気遣うためだ。
玉ねぎスープで一定以上は回復していても、魔王の一撃が残したダメージは甚大なのだ。
「一応聞いておく。止まる気はないな?」
「当然だ。ワガハイは今度こそピーチ姫を手中に収め、キノコ王国だけでなくこの世界をも征服する」
「……なんとなくわかってたよ。お前は、ピーチ姫が魔王に攫われた程度で野望を二の次にするようなタマじゃねぇ」
「よくわかっておるではないか」
魔王が倒れた今、今度はクッパこそが世界を危機に陥れる『大魔王』として立ちふさがる。
それはピーチ姫やキノコ王国を手中に収める野望故であり、同時に異世界トリップで知ったこの異世界をも平らげる壮大な思惑故でもある。
こうなることは、もうずっと前からわかっていた。
何せ、以前戦った時点で今回のクッパは気迫がいつもと違うことはわかっていたのだ。
そういう時のクッパは、ただでは転ばない。
「でもな、俺は思うんだよ。……お前はさっきの話を聞いても進むのか。違う世界を征服し続けることがどんなに悍ましいか、それを思い知ったのにか」
「くどいぞ、マリオ。確かにあやつらは失敗したかもしれん。だが、ワガハイが同じことをして失敗するとは限らん」
だからこそ、マリオはクッパを認めるわけにはいかなかった。
今、クッパが築いた城塞都市には魔王によって滅んだ国や地域の難民がたくさんいる。
さっきまでは緊急事態だったから彼らの護りをクッパに任せていたし、そういう時のクッパは信頼できるとして信じた。
事実、クッパは迎え入れた難民を決して死なせなかったし奴隷のような扱いなどしなかった。
「違う。お前は何もわかってない。……異世界に進むってことは、そんな簡単なことじゃない。……それは、個人で事を制御できるような悲劇じゃねぇんだ」
「だとしても、ワガハイがこの野望に背を向ける理由にはならぬ。……たとえどんなに越えがたい試練が訪れようと、心が折れるようなことになろうと、ワガハイは全てを平らげて見せよう」
先の魔王のように世界を滅ぼしはしないだろう。
征服した国に対しても、征服した後は難民達を護り切った姿に違わない、良き王となるだろう。
しかし、このまま難民や他の国の民をクッパ軍団として取り込みなどさせてしまえば、それは間違いなくピーチ姫やキノコ王国の脅威となる。
それは同時に、この異世界の在り方がクッパという部外者によって大きく歪むことにも繋がる。
「何格好つけてんだ馬鹿野郎。ウルフリック達には酷なことをいうようだが、今回の一件で一番割食ってんのはルドラや魔王じゃねぇ。──魔王軍に家や街を滅ぼされた、罪のない人たちだ!」
「綺麗ごとだな。……誰も泣かせない為政者などこの世にはおらぬ。王とは、理想と現実の折り合いをつけるのが仕事である。この世界の資源は、その折り合いの幅を広げるに足るものだ」
「だから、戦争に飢える難民を増やすってのか?! 異世界を侵攻して、たくさんの家やいろんな街を壊すってのか! ……それじゃあ、あいつらと何も違わねぇだろうが!!!」
「それこそが、大魔王たるワガハイの務めだ!!! ……いずれ、すべての民が笑えるワガハイの帝国を築くため! どんな業だろうと背負っていく!」
彼ら難民は、元の国や集落に返して復興の道を歩むか、もしくはこの世界の別の国で新しい道を歩むか、そのどちらかに行くのが筋である。
その道を阻むクッパの蛮行を、決して見逃すべきではない。
「ふざけんな! ……結局お前もあいつらと一緒だ! 異世界を渡るっていう力を持つピーチ姫を食い物にしてるだけだ!!!」
「否! ……ピーチ姫には、改めてワガハイの夢を説く! 彼女もまた、ワガハイの帝国で笑っていけるのだと説得する!!!」
でなければ、大きなゆがみが生まれてしまう。
そのゆがみは、いずれきっと征服した側・征服された側関係なしの大きな悲劇を生むだろう。
魔王軍がそうであったように。
いくつもの世界が『門』のせいで滅んだように。
魔王が火山周辺の小国・集落を消し飛ばしたように。
そして、キノコ王国が次の悲劇の地になる筈だったように。
「……やっぱり、異世界トリップなんてするもんじゃねぇ。やっと帰れるんだからよそに迷惑かけてんじゃねぇぞ、クッパ」
「……知ったことか。何より、此度のワガハイは一度も『負けていない』。どこまでも突き進んでやるぞ、マリオ」
「させるかよ。ピーチ姫も、キノコ王国も、この世界も、お前の好きにはさせねぇ!」
「ふん、それでこそキサマだ」
それに、なにより。
今回の冒険では、まだ一度足りともクッパとの勝負にケリがついていない。
「だから」
「故に」
であるならば。
最後の最後。
すべてを終えたこの時にこそ。
こうしてぶつかるのは、運命であったのだろう。
「お前の野望を今度こそ砕いてやる! クッパ!」
「キサマはここで滅んでいけ! マリオ!」
◆
エルフ薬の空瓶が二つ転がる。
それが死闘の始まりだった。
『大魔王』クッパ。
彼との戦いが、この世界での最後の戦いだ。
「っ!」
「っ!」
マリオは火属性ハンマーを構えて右から左へ薙ぎ払い、クッパは丸太のような右腕で殴りかかる。
「おいおい、てめぇの分もちゃっかり買ってやがったのかよクッパ」
「ふん、どうせこうなるのはわかっておった。キサマらだけに戦力を分けるような愚はしない」
「道理だなっと!」
クッパの右腕がマリオのハンマーを弾く。
そりゃそうだ。
純粋なパワーならクッパに勝るような奴はいない。
真正面からの攻略は難しいだろう。
「けど。不利な戦いなんて、いつものことだわな」
「いきなり何を……?!」
弾かれた衝撃を逆利用して後方へ飛び、すかさず左手からファイアボールを放って煙幕を張る。
「いくぞ……!」
その隙に火属性ハンマーにより大きな炎を灯し、そのまま視界を潰したクッパの腹へハンマーを叩きつける。
「ぬっ?!」
クッパの重い巨体が持ち上がり、衝撃で後方に飛ぶ。
これは手応えあった。
「っ!」
「うぉ?!」
次の瞬間、クッパの口から洪水のような炎が解き放たれた。
思わず横へ跳躍するが、洪水の如き炎はまだ止まらない。
「っ──これだからこいつの炎は!」
すばやくハンマーをしまって、代わりにポンプを取り出す。
ポンプから勢いよく水を噴射して、クッパの炎の勢いを殺す作戦だ。
「甘いわ!」
「なっ?!」
だがクッパは、自らの魔法でブロックを生み出して投げつけて来た。
これは水の噴射では対応しきれない。
「っ──?!」
とっさに後方へ飛んで少しだけ衝撃をそらしたが、投げつけて来たブロックの回避には至らず吹っ飛んでしまう。
「ガハハハハ! 今のワガハイは魔力が漲っておる!」
「っ──さっきも使った、闇の力か!」
クッパは自らに闇のオーラを纏わせ、さらに両手にいくつもの炎の玉を浮かび上がらせる。
どうやら、ここからはふんだんに魔力を使ってこちらを仕留めにかかるつもりらしい。
「さぁここからどうする、マリオよ?」
「っ──!」
クッパが両手の炎の玉を飛ばし、さらには自身の口からまた炎を吐きだしてくる。
それに対して、マリオはしっかりと立ち上がり、その現実を見据える。
そうだ。
この程度のピンチなど、それこそいつものこと。
まだ体は動く。
魔力もまだある。
手札も残っている。
持てる力、持てる全てを懸けて、目の前の敵に挑む。
倒すべき敵は目の前にいる。
あの時の続きは、まだ終わっていないのだ。
『抑制機構』ヒーロータワーと遭遇し。
『輪廻機構』グレート・ニュー・ワンに苦しめられ。
『終末機構』ディストロイに追い詰められ。
『修正機構』スターピースに助けられた。
そして。
『大魔王』クッパとの激突を以て、この物語は幕を閉じる。