ピーチ姫を捕らえた魔王の乱入で共闘するマリオブラザーズとクッパ。
だが魔王は構わず青いブラックホールをさらに広げ、クッパ城をさらに破壊する。
『────』
魔王が、何かを仕掛けた。
「なんだ?」
「黒い炎が、いっぱい?」
それは、黒い火球。
どこか禍々しい力を宿した闇の炎が、上空にいくつも展開された。
「っ! キサマら、ワガハイの懐に潜り込め!」
その危険性に気づいたクッパが、マリオブラザーズを懐に収めながらコウラを上へするように倒れ込む。
すると黒い炎の弾幕が一気に降り注がれ、周りの地面がどんどん崩壊していく。
無事なのは強靭なコウラを持つクッパと、そのクッパに守られたマリオブラザーズのみだ。
「ぬっ?!」
「これは──」
「──まさか地面そのものを?!」
そうして弾幕を凌ぎ切ったかと思えば、今度は足場が大きく揺れ始める。
すぐさま周りを見渡せば、今マリオ達がいる地面そのものが浮き上がり、青いブラックホールに飲み込まれようとしているのがわかった。
「ちくしょう……脱出だ!」
とにかく三人そろってその場から飛び上がり、まだ無事な足場に着地する。
「ヌゥ──ワガハイの城が!」
が、次々とクッパ城の壁やら塔やら浮き上がってブラックホールに飲み込まれていく。
今いるこの足場も、いつまでもつかわかったものではない。
「クッハハハハハ!」
「っ! あいつ──」
「──さっき吹っ飛ばしたオークか!」
そんな中、笑い声が聞こえる。
魔王ではなく、先に吹っ飛ばしたオークのものだ。
「見ろよこの力! これこそが魔王様だ! 我らが魔だ!」
「っ、……やっぱりあいつも魔王軍ってわけか!」
オークはマリオ達と同じ足場に現れ、その手に斧を構えている。
魔王に加勢しにきたということか。
「さぁ魔王様! その力でこの世界を滅ぼしましょうぞ! その姫に宿る魔力があれば、造作もな──っ?!」
が、その次の瞬間。
オークは、崩壊して斜めになった足場からずり落ちてしまう。
魔王が操る青いブラックホールに足場は飲み込まれ、そこからずり落ちたオークはそのまま真下へ真っ逆さまだ。
『────』
仮にも部下だというのに、魔王はオークを一瞥しない。
そのまま、見捨ててしまった。
「おいおい、何がどうなってんだ。仲間割れかよ?」
「オークを気にしている場合じゃねぇぞ。この足場もやばくなってきた」
だがマリオ達にもオークを心配する余裕はない。
また足場が崩れ始めた。
「おい、あの門を何とかする方法はないのか?! あれをどうにかしないと戦うどころじゃねぇぞ」
「……ピーチ姫曰く、スターピースが七つあれば、あるいは」
「スターピース?」
クッパが気になる単語を出してきた。
が、それを聞き返すよりも先に足場が崩れてしまい、会話どころではなくなってしまう。
とにかくまた三人そろってまた別の無事な足場に飛び移る。
「……仕方ない、一度ここを退くぞ! 今ではあの門に太刀打ちできん」
「でもピーチ姫が……!」
「そうもいってられん! このままではワガハイ達もお陀仏だ!」
「く、そぉぉ……!」
ここでクッパが退却を決意し、仕方なくマリオブラザーズもそれに従う。
今のままでは、魔王と同じ土俵に立つことすらできないのだから仕方ない。
『──っ──』
刹那、闇を纏う魔王に砲撃がぶち当たる。
ふと振り返れば、見覚えがあるものが見えた。
「あれは……戦艦?! あれもクッパ城と一緒に異世界トリップしてたのか!」
「あやつら、許可も出しておらぬのに! ……だが、でかした! ワガハイの戦艦ならあの門から逃れられるぞ!」
またマリオ達がいる地面が崩れ、青いブラックホールへ向けて浮かび上がる。
またも三人してそこから飛び上がり、今度はクッパの戦艦へと着地する。
「ご無事ですか、クッパ様! ……って、マリオにルイージ?!」
「今は味方だ。────それより、すぐ反転しろ! とにかくあの門から逃れて安全な位置に避難するのだ!」
「ア、アイアイサー!」
戦艦へと飛び移った瞬間、クッパは己の軍団員に指示を飛ばす。
するとすぐ戦艦は反転し、門を背にして動き出した。
目的地は、すべてを吸い込もうとしているあの門の届かない地だ。
◆
それからはかなりスマートに物事が進んだ。
クッパがテキパキと指示を飛ばすと、戦艦はクッパ城に取り残され、故に門に吸い込まれるクッパ軍団員を次々と回収していった。
戦艦から伸びる手で直接回収したり、戦艦に搭乗していたカメック軍団の魔法やらでワープさせたり、だ。
それと同時に、戦艦を攻撃してくるワイバーンなどの魔王軍を砲撃やパタパタ軍団の攻撃で対処。
そうして割と危なげなく門に吸い込まれる危険地帯から脱出した。
「すっげぇな。改めてみるとめちゃくちゃ統率されてる……」
「流石はクッパ軍団。味方にすると頼もしいわ」
「ふん、ほめたところで何も出さぬぞ────だが」
戦艦の上から門の方を見やる。
そこには地獄が広がっていた。
「ありゃ……ひっでぇな」
魔王が展開する大きな青いブラックホール。
それはクッパ城だけでなく火山そのものにも影響を及ぼし、岩やら山の一部やらを吸い込んでしまう。
その影響でマグマが滅茶苦茶に噴き出して、辺り一帯を赤く染め上げてしまった。
青いブラックホールはいまだ山を吸い込もうとしており、マグマは今も広がっている。
「今だからあの程度で留まっている。だが奴がピーチ姫を手中に収めたとなれば、あの門がこの世界を飲み込むほどの大きさになるのは時間の問題だ」
異世界への門こと青いブラックホールを見やる。
どうにもあれはピーチ姫の魔力と呼応することで大きくなるシロモノらしい。
今に限ってはさらに大きくなることがないとは、そのピーチ姫の魔力がまだ馴染んでいないからだろう。
そうなる前に、手を打たなければならない。
「クッパ……あの門を何とかするのに、何か必要なものがあるって言ったな」
「スターピース。それが七つあれば、あの門への絶大な切り札になる────だが、業腹なことにまだ一つしかない」
そういって、クッパは懐から一つの石を取り出す。
「おいクッパ、それ──」
「どうしたのだ、いきなり血相を変えて────ナヌ?! それは、スターピース?!」
クッパが取り出したのは、星石だった。
意外なところで、四つ目の星石が見つかった。
「スターピース──別名『星石』。よもやキサマらがもうすでに三つ集めているとは好都合だ。これであと三つ揃えれば、あの門に対抗できる!」
「なるほど、あの時のカンはこれが理由か。つまり俺達がこれからやるべきは──」
「──星石集めってわけか。まさかこんな形で返ってくるとは、何が功を奏するかわかったもんじゃねぇな」
その刹那、船の中が騒がしくなってくる。
「どうしたオマエ達、騒がしい──ぞ?」
「っ! あいつ!」
「あの時のオークか!」
「────」
騒ぎが起きた船から現れたのは、一匹のオークだった。
◆
「今更のこのこと出てきやがって……何が目的だ?」
「──無論、この船の略奪だ」
船の中から現れたオークは、しかしもうすでにボロボロだった。
だが、その目はギラギラと輝き敵意を宿している。
「魔王様のためにってか? あんたさっきその魔王にめたくそやられてたじゃねぇか」
「関係ねぇ。今更魔王様が俺様のことをどう思っていようが、もうどうでもいいんだよ」
「何?」
その敵意は、魔王のためのものではない。
「それに何より──こんな船を前にして魔物の本能を刺激されないわけがねぇ」
「魔物の本能?」
「破壊、殺戮、略奪……! これこそが我ら魔の本懐! 魔の花形というもんだ!」
「こいつ……」
それは、オークという一匹の魔物のものだった。
「魔王様は間違っている」
オークは吠える。
「俺達魔物は、破壊を繰り返すものだ。殺戮をまき散らすものだ。略奪で食っていくものだ!」
それは魔物という存在にかけられた呪いであり。
「そうして壊して殺して奪って──」
魔物が魔物として謳歌するのに必要な本能であり。
「そして最期に殺されて、地獄に落ちるもんだ」
魔物として生まれたが故の、在り方だった。
「俺様は臆病者のウルフリックとは違う。よそ者のハクとは違う。古株なだけのルドラとも違う!」
「────」
「証明してやる──! 俺様が、魔物ってことをぉ!」
だからこそ、オークは斧を構える。
「ブラザー」
「俺がやる。……今までいろんな奴と会ってきたが、あいつだけは『ない』。変なことをしでかす前に、さっさと倒すに限る」
「ワガハイとしては船で騒ぎを起こしたことに対して物申したいことがあるのだが……此度は空気を読んでやる」
ハンマーを構えたマリオが前に出る。
それに合わせて、オークも斧を構えて前に出る。
「っ!」
「ッ!」
そうしてハンマーと斧がかち合い、つばぜり合いとなる。
「おおおおおおお!」
「っ!」
オークが優勢となり、ハンマーごとマリオを下に押しのける。
このまま押しつぶしてしまいそうな勢いだ。
「っ──なめる、なぁ!」
だがそうなる前にマリオがオークの斧を弾き、オークの体勢を崩す。
「おらもう一度だ! ハンマーホームラァン!」
「ッ?!」
そしてそのままオークの横っ面をハンマーで叩きつけ、オークを船の外へまで吹っ飛ばす。
それで、終わりだ。
◆
「ぐあああああぁぁ…………」
「あっけないな」
オークが落ちていく。
情けない悲鳴をあけて、火山の底へと落ちていく。
「最初のハンマーホームランに、さっきの魔王のブラックホール、それから下の騒ぎで色々消耗してたんだろうな。かなり弱かった」
「たまたまここまで来れただけで、あの魔物にはどこまでも力がなかった──それだけのことよ」
結局のところ、奴は何がしたかったのか。
それを探るつもりはない。
あんな奴の価値観など、考えたくもなかった。
そんなことよりも、疑問が残っている。
「それにしても。『魔王様が間違っている』ねぇ」
「魔王軍も一枚岩じゃないってことだろうが……」
「それ以上に、あの魔王とやらは何を目論んでいるのか──いずれは、そこも暴かねばならぬな」
異世界への門を開く魔王。
彼の脅威を思い知らされ、けれども対抗する道筋は見えた。
だが、彼の目的はわからない。
それがどうにも、のどに詰まって仕方なかった。
────
「は、ははははは……やっぱり、何もできなかった。攻撃も、まともに当たらなかった……。結局、独りのまま消えるんだ…………」
一匹の魔物が落ちる。
船から落ちて、魔王によって壊され殺され奪われた火山の底へ消えていく。
その魔物に罪はなく、すべての業は未遂のまま終わる。
そこに、尊い光はない。
「……あぁ、でも。あの、人間から略奪する作戦を考えていた時間。どんな悪いことをしてやろうと、寝る間も惜しんで悪巧みをしていた時間」
諦観はある。
絶望がある。
憎悪もある。
「そして、一度あの船にたどり着いた時の……俺様はまだやれるという確信!」
だが、それでも。
「────あれは、とても楽しかったなぁ」
魔物は笑っていた。