オグリの娘 ~畜生ダービー~   作:ウヅキ

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 今回も感想数が多くて返信は出来ませんので、この場を借りてお礼申し上げます。
 皐月賞の回以上にダービーの反響が多くてニヤニヤしてしまいました。
 実はダービーだけはプロットの時点で結果を設定していて、副題の『畜生ダービー』もそこから名付けました。

 それでは、今後もよろしくお願いします。




第20話 家族

 

 

 吾輩は競走馬である。2010年日本ダービーの勝者になった。

 流石にG1レースを走り終えたら疲れた。

 それだけじゃなく、発情した牡馬共と第二レースをしないといけなかったから、余計に疲れたんだが。

 幸い、スタミナ勝負で俺に勝てる馬は居ないから、牡共のスタミナが枯渇するまで逃げ切って貞操は守られた。

 さらに最後の直線1ハロンで使ったナリタブライアンの走りで、脚に結構疲労が溜まっている。

 あの走りは体に負担がかかるから、出来る限り使いたくなかった。それに完成度の低さも不満がある。

 アイツなら最終直線だけじゃなく、最初から最後まで同じ姿勢で走り続けられた。やっぱりアイツはとんでもない強さのウマ娘だよ。

 それでも北海道の牧場や、年始の休暇を過ごした牧場でこっそり練習して、馬の体でもどうにか短時間なら再現は出来るようになった。

 おかげで勝ててオーナーや〇クザのオッサンは喜んでくれたし、産まれた牧場の爺さまと婆さまも泣くぐらい嬉しがってくれて良かった。

 

 ただ、関係者の集まった表彰式の時、『オグリ』と名乗った爺さんが俺を見て、号泣していたのが気になった。

 オグリキャップ先輩の事を口にしていたから、多分見た事の無い今世の父親の関係者なんだと思う。

 よく知らないがその爺さんの態度を見ると、この世界のオグリキャップ先輩も沢山の人から愛されているのが分かって、何となく嬉しかった。

 

 東京競馬場から美浦トレセンに戻って数日経ち、また車に乗せられた。

 またレースなのかと不満そうな顔を向けたら、厩務員達は笑って違うと言った。

 実際、一時間かそこら乗せられて連れてこられたのは、以前も来た事がある関東圏の牧場だった。

 しばらくここで休んで疲れを取れという事か。

 すぐに宝塚記念を走れなんて言われなくてホッとした。

 前世とレース日程が似通っていれば、次はクラシック三冠の最後になる菊花賞。あるいは9月にあるトライアルレースだろう。

 今が大体6月の初めだろうから、あと三ヵ月ある。その前に調整を始めようと思ったら、トレセンに戻されるのは8月に入ってからか。

 予想では最短でも二ヵ月は休める。それでもずっと食っちゃ寝生活をしたら後で絞るのが辛くなるから、適度に自主トレして体を鍛えておこう。

 

 休暇を貰って七日目ぐらいで疲労が抜けたから、食っちゃ寝生活からおさらばして自主トレを始めた。

 ここは放牧していても、俺達馬がある程度自由に運動出来るようになっている。小高い丘もあって自主的に坂路トレーニングもやりたい放題だ。

 と言ってもこの牧場には他の馬も多くいる。必然的に集団生活で生まれるのはボス争いである。

 幸い馬という種族は草食動物かつ、野生ならともかく飼い慣らされた家畜ゆえに、直接攻撃してボスを決めるより脚の速さが重視される。

 中には例外も多いんだろうが、俺はG1二冠馬だから色々と気を遣われている立場もあって、最初から粗暴な馬の居ない牧場を選んで預けると厩舎で耳にした。あと勝手に交尾されないように牝馬ばかりだし。

 そんなわけで、新入りの俺に偉そうにしてくる牝馬達を前に、坂路競争を提案した。

 

【おまえなんかにまけない】

 

【じゃあ確かめてみようか】

 

 五、六頭で一緒に坂道を走り、次々脱落していくのを尻目に、ボスっぽい牝馬に少しの差をつけて勝った。

 

【おー頑張るねえ。じゃあ、もう一回やろうか】

 

【ぜェぜぇ………まけない】

 

 下に降りてもう一回走ったら、次は結構差がついて走り切れた数も減っていた。

 

【俺はまだ走れるけど、どうする?】

 

【ふぅふぅ………やるっ!】

 

 三回目は俺を含めて三頭しか残っていない。当然俺の勝ち。

 

【さてと、遊びはこれぐらいにしてそろそろ本気でやろう】

 

【……うゅ】

 

 四度目の途中で一頭がへばって逃げ出した。やっぱり俺が先に坂を登り切った。

 

【遅かったな。もう一度だ】

 

【うわーん!!もうやだー】

 

 死にかけで上に登って来たボス馬は泣いて逃げた。

 けっ、根性無しめ。お調子者のジャンだって、あと二回ぐらいは気力で登れたぞ。

 けど、そこそこトレーニングにはなったし良いや。

 

 そんな感じで、大体半月近く太らないように飯食って日中トレーニングに費やした。

 嬉しかったのは、ここでも少量ながら味噌と醤油を飯に出してくれた事だ。やっぱり味を楽しめるなら、色々楽しみたいよ。

 他にも季節の果物として桃が出たり、早生のスイカや梨を食べられたのは良かった。

 後で知った事だが、こうした果物は俺宛に届けられたレースの祝勝の品らしい。

 この前の『オグリ』の爺さんや、俺の母方の祖父に当たる馬の馬主や牧場関係者からの贈り物だと聞かされた。

 

 

 そこまでは良かったが最後まで良いままで終わらないのが世の常だ。

 時々牧場の入り口にテレビ局の車が何台も押し掛けて来ては、牧場のスタッフと押し問答している光景を見かける。

 おまけにどこから入って来たのか知らないが、ワーワー騒ぐ数名がデジカメや電話のカメラでバシャバシャ写真を撮ってて煩い。

 そいつらは警備員がかなり手荒に取り押さえて、やって来た警察に引き渡した。

 あいつらトレセン学園にも時々居た、無許可で敷地に入り込んだ自称ファンという名の犯罪者か。

 まったく、いつの時代もあの手の連中は滅びないな。

 そいつらのせいで他の馬達がすっかり怯えてしまって、いつの間にかリーダーになっていた俺が宥めたりメンタルケアする羽目になった。

 何で休暇で来たのに余計な仕事をしなければならんのだ。

 

 せっかくの休みが台無しになった数日後、急に俺はトラックに乗せられて、また連れて行かれた。

 美浦トレセンに戻るのかと思ったが、トラックは丸一日以上北東に向けて走り、途中船も乗った時点で行先は北海道と気付いた。

 ちょうど暑くなる七月前だから、涼しい函館か札幌でのレースは悪くないと思うけど、碌に調整せずに走らせるのは不味いだろうと思った。

 ただし、予想は良い意味で外れた。

 

 連れて来られてトラックから降りた場所は、今までのように馬だけの牧場じゃない。

 生まれてからたった一年だけ、牛や母たちと共に過ごした美景一家が経営する牧場だった。

 

「よう戻って来たな黒子。短い間じゃがゆっくりしていけ」

 

 おう、日本ダービー以来だな爺さま。婆さまも応援に来てくれてありがとうよ。とっつぁんとお袋さんも元気そうで何よりだ。

 

「おかえり孝行娘。何もねえがせめて疲れを取って、また走りに行くんだぞ」

 

 はて?俺が何かしたのか。娘と言ったらナツちゃんはまだ学校か。

 

「とりあえず、こっち来い黒子。お前の寝床を用意せんといかん」

 

 はいはい。どこにでも連れて行ってくんなしぇ。

 それにしても牛の臭いを嗅ぐと、ここに帰って来たと実感が湧くねえ。

 厩舎に向かう時、外ででかい馬達と走り回っている若い牡馬が目に留まった。

 

「あいつは去年産まれたお前の弟だ。ナツの奴はクーって呼んどる。8月の競りに出す予定だから、それまでは仲良くしてやれ」

 

 ふーん、弟ね。後輩や妹分はそこそこ居て、甥や姪も居たけど弟は居なかったな。

 すぐにお別れになって、もし会ったとしてもレースを走る仲になるだろう。だから肉親なんて実感は無い。でも爺さまの頼みだから程々に仲良くしてやる。

 弟とやらはこちらに気付いて、トコトコ近づく。

 柵越しにハナを突き出して、俺に興味津々だ。

 

【おねえさんここにすむの?】

 

【ちょっとだけな。あとで走るか?】

 

【うん!ぼくはやいよ!】

 

【俺の方がもっと速い。またな】

 

 血族のよしみだ。買われる前に少しでも強くなれるように鍛えてやる。

 弟と一旦別れて、かつて寝起きした厩舎に連れて来られた。

 すると、懐かしい顔が馬房からニョキっと顔を見せた。

 久しいな母よ。ああ、二年以上も会っていないけどちゃんと覚えていてくれたのか。

 馬房越しに顔を擦り合わせた時に、側に居た小さな牝馬に気が付いた。

 そうか、今度は妹も居るのか。

 俺の事を不思議そうに見上げている。ふふ、前世の姪の小さい頃をちょっと思い出す。短い間だけど、よろしくな妹。

 この日は移動疲れもあって早々に休んで馬房で休息を取った。

 

 翌日からは弟のクーと一緒に放牧地を走って、へばるケツを叩いて出来る限り鍛えた。

 それが終われば母や妹とゆったり草を食べて過ごして、リフレッシュに努める。

 仲間と共にトレーニングに明け暮れるのもいいが、こうして肉親とゆったり過ごす時間も懐かしくて悪くない。

 おまけに煩いマスコミも全く来る気配がない。

 少し思い返すと先日まで居た牧場から移動したのは、避暑以外にパパラッチ共に嗅ぎつけられないように退避したのではないか。

 なにせ無敗のクラシック三冠まであと一歩だ。マスコミはどんな小さな情報だって逃がしたくないから無茶無法をする。

 そんなつまらない行為で調子を落とされては堪らない。そこで里帰りも兼ねて美景牧場を選んだ可能性が高い。オーナーや中島のオッサンの配慮かな。

 家族との時間を作ってくれた人達の気遣いはありがたく受け取っておこう。

 

 

 さらに数日を平穏に過ごした心地良い夏の日の夕刻。

 爺さまが血相変えて、弟と走っていた俺の所にやって来た。

 

「はぁはぁ」

 

 どうした爺さま、そんなに息を切らして急いで。

 

「黒子……ええか、落ち着いて聞くべ。―――お前の親父のオグリキャップがさっき死んだと連絡があった」

 

 そこから日が完全に暮れるまで記憶が判然としなかった。

 

 

感想の中に、競走馬のアパオシャが再度ウマ娘化したら、どうなるかという意見がありました。ちょっと興味を持ったので、本編終了後の外伝で書いてみるのも面白そうだと思いました。おそらく日本語→英語→日本語の再翻訳のように、オリジナルと違うウマ娘になると思いますが、読みたいですか?

  • 面白そうだから読みたい
  • 興味無いから要らない
  • パクパクですわ(お好きにどうぞ)
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