2011年3月20日 日曜 阪神競馬場 天候:雲 芝 : 良
未曾有の大震災から十日後。被災地から少し離れた宝塚に俺はいる。
日本の半分を壊滅に追いやった天災があっても、この世界でもレースは続けるようだ。
前世の日本でも東日本大震災はあった。当時はまだ幼稚園に通っていた年で、何があったのかおぼろげでしか覚えていなかったが、テレビや大人達が大騒ぎをしていたのは覚えている。
そんな時でも、ウマ娘のレースやライブは継続して行われていた記憶はある。
名目上は被災して亡くなられた方々への鎮魂の意を含めたライブと、トレセン学園の授業で知った。
ウマ娘のライブの祖は『駿大祭』と呼ばれるウマ娘のための神事。その祭典の中の『神メ駆』と呼ばれる儀式とレース文化が結びついて、俺の知るレースの形になった。
儀式にはウマ娘の幸運を祈願し祈り、過去から未来へと繋がる願いと想いが込められている。
大震災により、多くのウマ娘達が命を落とした。いや、ウマ娘以外の人々もまた等しく辛い想いを背負う事になった。
中には自粛を求める意見も大きかったが、神事を発端とする歴史と文化、そうした被災者と犠牲者への追悼や鎮魂を目的としてレースは行われた。
被災者も暗く辛い話ばかりで、明るく楽しい話題に餓えていたのもある。少しでもそれが和らぐならと、世間はレースを概ね好意的に受け止めた。
URAに就職してから裏事情も知ることになり、色々と生臭い話も絡んでいたのも聞かされた。
それでもウマ娘達の懸命に走る姿や、ライブの歌声が荒んだ心を一時でも癒したのは紛れもない事実だ。
この世界ではライブこそ行われてはいないが、レースで馬の走る姿に何かしらの感情を震わせる人も多いのだろう。だから今日もパドックには多くの人達が詰めかけて、俺達を見続けている。
畜生の身になったとはいえ、俺もかつてはウマ娘。レースを見る人々が少しでも暗く辛い気持ちを紛らわせられるなら、走る事を厭いはしない。
パドックを回る馬達を観察する。何頭かは落ち着きを欠いている様子だ。興奮というより不安が強い。
震災があったばかりなのと、世話をする人々も不安が抜けていないのを察してストレスを感じているんだろう。
今日は俺を含めて14頭で走る。相変わらず牝は俺一頭だけ。
ダービーで後ろにいたゲシュタルトとかいう馬もいる。他に見知った馬は美浦トレセンにいた二頭か。名前はコスモメドウとコスモラピュタというのか。
でも見知った顔が居ても手加減はしないぞ。
時間まで歩き続けたら和多が来た。
「震災でみんなが辛い想いをしている。今日は勝って、見ている人を喜ばせてあげよう」
【ああ、俺に出来るのはそれぐらいだから、そうしよう】
返答に満足した和多は首を軽く叩いて背に乗る。
誘導馬の後に続き、コースに出れば数万人の観衆が拍手と声援で出迎えてくれた。色々と大変だけど、わざわざ見に来てくれた事に感謝する。
ウォーミングアップを済ませて11番のスタートゲートに入る。今日は芝もよく乾いて走りやすい。3000メートルの長丁場だし、あまり小細工は必要ないだろう。
開け放たれたゲートからの一歩目はまずまずの出来だ。焦らず、向こう正面の直線を駆け、右側の内ラチに沿って馬群を形成する。
後方10番程度で様子を見ながら最初のコーナーを通過した。
体感的に展開は早過ぎもせず、遅くもない。阪神大賞典は3000メートルの間に六度コーナーを回る都合上、小回り重視で序盤はあまり急がなくてもいい。
第二コーナーも目立った動きは見せず、後方のまま一度目のスタンド正面を通過する。
スタンド席からの観客の声援を最初にコスモラピュタが受け、それに俺達が続いた。
馬群に動きはほとんど見られない。どの馬も自分のペースを守り、無駄にスタミナを減らさないように機会を待ち続けている。
さすがにウマ娘でのシニア相当となると、落ち着きのある連中ばかりで走りやすくもあり、揺さぶり難い。
第三コーナー、第四コーナーを回り、向こう正面のスタートに戻って来た。これであと半分だ。
【じゃあ、そろそろ行ってみようか】
「おっ、ここから動くか。有馬の時みたいな心配はしなくて良かったな」
それは言わないでくれよ和多。若さゆえの過ちってヤツは、忘れなくていいから口に出すな。
前と左側を注視しつつ、直線で馬群のスピードにムラが出るのを待つ。
200メートルほど待ち続けて、外側の蓋をしていた12番ゼッケンのオウケンとかいう馬がペースを上げたのに追従して外に出た。
そこから第五コーナー手前まで一気に加速して、大外から馬群を抜き、4番手まで順位を上げた。残りはあと800メートル。
前には美浦のコスモの二頭ともう一頭。このペースなら最後までスタミナは持っても、強烈な末脚は残っていないな。
【なら最終直線の残り300からが勝負だ】
コーナーを回る際に外から内にラインをずらしつつ好位置を堅持して、最終コーナーに入った。
後方も俄かに動き始めているがちょっと鈍い。機を見計らっているかと思ったが、結構息が上がっている馬も多い。スタミナが持たなかったのか?
ついて来られないならそれでもいい。どうせ最後の勝ちを譲る気は無い。
最終コーナーを回り切り、最後の直線に入る。
スタンドからは最後の瞬間を見逃すものかと、観客が馬達とゴール板を食い入るように見続ける。
最初から先頭を走っていたコスモラピュタの脚が衰えて先頭を奪われた。
ならそろそろ仕上げに入ろうか。
残り300メートルでこれまで溜めていたスタミナを使い、今回は首を下げずに姿勢はそのまま、脚のピッチ回転を上げて加速する。
それだけでもどんどん前との差は縮まって、先頭の3番と並んだ。
隣はかなり息が上がっていて苦しそうだ。反対に俺はそこそこ余裕という顔を崩さずにジリジリと前へ行き、着実に差を広げたまま走り続けた。
そのまま一馬身程度離してゴール板を先に駆けて、今年の初勝利を手にした。
「よし、良い走りだったぞアパオシャ」
和多の賛辞を受けつつ、勝利を祝福してくれる観客達のために、今回は少し長めにウイニングランをしてレースは終わった。
G2程度ならこんなものかな。次はおそらく春天皇賞になる。油断せずに行こう。
馬番 着差
1着 アパオシャ 11
2着 ナムラクレセント 3 1.1/2
3着 コスモメドウ 2 3.1/2
4着 モンテクリスエス 10 3/4
5着 コスモラピュタ 1 クビ
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『阪神大賞典を制したのは新たなステイヤー女王アパオシャ!』
東北大震災の混乱が続く3月20日。阪神競馬場で第59回G2阪神大賞典(芝3000m)が予定通り開かれた。
勝利したのは和多流次騎手が操る、1番人気単勝2.3倍の無敗のクラシック三冠牝馬アパオシャ(牝4歳 美浦・中島厩舎)。勝ちタイムは3分3秒4。
斤量は牝馬ながら56kgと牡馬並みに重かったが、女王には如何ほどのハンデにもならない強さを観客に見せつけた。牝馬が本レースを制するのは59回目にして初。
レースは開始から5番コスモラピュタ、3番ナムラクレセント、2番コスモメドウの三頭が先行してレースを作る。
アパオシャが動いたのは向こう正面の残り1300m地点から。一気に加速して順位を上げた後、最終直線で先頭を奪取。そのままジリジリと差を広げて余裕のゴール。二着のナムラクレセントと一馬身半差だった。
中島調教師は「有馬記念から三ヵ月空いても調子は維持したままです。むしろ馬体の完成が近づきつつあり、去年以上に強くなりますよ。トレセンは余震続きでゴタゴタしていても、アパオシャはメンタルが頑強なおかげで崩れないのがありがたいです。春の盾も期待しています」
「今日は有馬記念より落ち着いています。位置取り、仕掛けのタイミング、スタミナ、全てが申し分ありません。今年もアパオシャと一緒に駆け抜けます」
女王と確かな信頼で結ばれた和多騎手は、まるでお伽噺の騎士のようだった。
≪大阪スポーツWEBニュースから≫
感想の中に、競走馬のアパオシャが再度ウマ娘化したら、どうなるかという意見がありました。ちょっと興味を持ったので、本編終了後の外伝で書いてみるのも面白そうだと思いました。おそらく日本語→英語→日本語の再翻訳のように、オリジナルと違うウマ娘になると思いますが、読みたいですか?
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面白そうだから読みたい
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興味無いから要らない
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パクパクですわ(お好きにどうぞ)