オグリの娘 ~畜生ダービー~   作:ウヅキ

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 えー最初に謝罪しておきます。前話の八剣くんを男の娘と描写したのは、ただの誤字です。読者の皆さんの感想や指摘で気付いて、どうしようか頭を抱えました。
 訂正しても良いんですが、モデルにした『〇の匙』と差別化を図るために男の娘でも良くないかと思い始めています。
 どうせ文章だけでイラストがあるわけでもないですから、高校生ならギリ男の娘でもアリじゃないかと開き直っていいかなと思い始めました。
 というわけで八剣くんをどうするかは今話と次話でアンケートを取ります。




第32話 ヨーロッパ遠征の準備

 

 

 吾輩は畜生である。現在はG1四冠馬として、据え膳上げ膳の生活をしている。

 今回は春天皇賞3200mを走った後とあって、結構疲労が蓄積している。しばらくは休養に充てて体力を回復させないといけない。厩舎内が慌ただしいのを尻目に飯を食う。

 前世のウマ娘の知識と照らし合わせれば、週末は大抵日本のどこかでレースをやっているから、それに出走する馬の調整や輸送の手配で忙しいのは分かる。

 トフィはG1ヴィクトリアマイル、アロマカフェはG3新潟大賞典のために、最近トレーニングが厳しい。特にトフィは久しぶりのG1だから頑張ってほしい。

 疲れた疲れたと騒ぐ妹分達を宥めたり励ます横で、ここ数日俺もちょっと面倒な事をしている。

 

「はーい、大人しくしててね」

 

 俺は白衣を着たオッサンのぶっといモノを、尻の穴に挿入されて気分が最悪だった。

 何を入れられているかって?体温計だよ。

 馬というか動物は人間みたいに体温計を口に含めないし、腋に挟むことだって出来ないから、直腸にぶっ刺して熱を計るのが一般的だ。

 さらにこの後は――――――いや、よそう。アレを口にするのと思い出すのは可能な限りしたくない。

 

「いやーこの子は検査の時も大人しくて仕事が楽で良い」

 

 他にも腹に聴診器を当てたり、超音波検査器具で脚を丹念に調べている。

 レース後の異常を調べる検査は競走馬の日常なんだが、大抵一日で終わるのに今回に限っては、連日獣医が来てかなりの時間をかけて検査している。

 さらに採血以外に何本もの注射をして、何か薬を処方しているのが気になる。

 今のところ肉体に不調は感じられない。しかし医者の目から見たら何か問題があるのかな。

 自分の身体にも不安を感じつつ、専門家に任せるしかないのがもどかしい。

 

 

 数日健康診断が続き、飯を食ってまったりした昼下がり。

 厩舎にドタドタと足音を立ててテレビカメラや機材を用意している連中が入って来る。

 ああ、またテレビ取材かよ。

 傍に居た〇クザのオッサンに視線を向けると「スマンな」と申し訳なさそうに謝る。

 はいはい、分かったよ。テレビ局やメディアは好きじゃないが、仕事と割り切って取材に付き合ってやることにした。

 

 それと最近は余震が多いから、屋内で何かあると困るから厩舎の外での取材になった。

 女性レポーターがカメラ位置を確認して撮影が始まった。

 

「はい、こちらは美浦トレーニングセンターの中島厩舎前です。今日は昨年牝馬ながら数々の強豪牡馬を打倒して、無敗でクラシック三冠馬に輝いた、あのアパオシャを取材したいと思います」

 

 レポーターとオッサンにカメラが向く。

 その後、横から遼太に手綱を引かれた俺が登場した。

 

「現在アパオシャは4歳になり、先日は春の天皇賞を牝馬として58年ぶりに快勝しています。中島先生、この子の調子はどうでしょうか?」

 

「まずまずです。前のレースの疲れも粗方取れて、あと数日もあればトレーニングを始められます。アパオシャは頑強で病気知らずだから、体調管理が楽で助かります」

 

「なるほど、では次のレースのトロフィーも手が届く範囲にあるわけですね」

 

「レースに絶対は無いと言いますから、確実に勝てるとは言いません。ですが、ファンの方々は期待してください」

 

 こういう時のオッサンは前世のトレーナーを彷彿とさせる。絶対に勝てるとは言わないけど、ネガティブな意見でもない。絶妙に玉虫色の発言は年季を感じさせる。

 でも最近、オッサンの元気がちょっと無いのが気になる。なんかカラ元気というか、気丈に振舞っているようなところがある。身内か知り合いに悪い事でも起きたのかな。馬が心配してもどうにもならんだろうが。

 それはさておき、俺の次のレースってなんだろう?今は5月の初旬だから、トレーニングの間隔では6~7月のレースだろう。―――宝塚記念かな。

 中距離は長距離ほど得意じゃないんだが、他のG1はマイルだからそっちよりはまだマシと思うしかないか。

 

「中島先生はこのように仰っています。ファンの皆さんはぜひ、力いっぱいイギリスで走るアパオシャを応援してあげてください」

 

【ファッ!!イギリス!?】

 

「わわっ!どうしたんですかっ!?」

 

「おおう、落ち着け落ち着け。どうした、今度のレースが気になるのか?」

 

 驚きをすぐに鎮めて頷く。そこのアナウンサーはイギリスと言ったな。

 

「お前の次のレースはイギリスという遠い場所だ。そこでこの前のレースより、もっと長い距離を走る。だから今のうちに身体を万全にしないとダメだぞ」

 

 春天皇賞より長いレース。ということは恐らく芝4000mのゴールドカップか。日本には長距離レースが乏しいから、海外遠征は妥当な選択かな。

 道理でいつもより健診が多いと思った。初めての土地への対策を万全にしておかないと、病気になったらレースどころじゃない。

 だが次のレースはイギリスか。またあの国で走れるとは思わなかった。

 ゴールドカップを走るのは分かったけど、グッドウッドカップはどうなるか。開催日が近いから、そっちも走るのかな。

 ああでも、トレセンの馬達の面倒はどうしようかな。前世の記憶だと、まだ結構な期間余震が続くから、あいつら不安になるな。

 何とかイギリスに行くまでに年上の馬の性根をもう少し鍛えて、若い馬を安心させられるようにしないとダメだな。

 

「落ち着いたな。お前も特別なレースと感じ取ったんだな。楽なレースにはならんが、きっとお前なら良い結果を出せる。その後は凱旋門賞に胸を張って挑もう」

 

 おい、ちょっと待て。俺が凱旋門賞を走るのかよ。

 確かにアスコットとロンシャンは日本のコースより数段タフなコースだから、俺みたいにスタミナ特化の方が向いているんだろうが。

 出来れば同じ凱旋門賞ウィークのカドラン賞か、その後のロワイヤルオーク賞の方が良かったんだが。

 残念ながら畜生の身では考えを伝える事は出来ない。

 オッサンやオーナーが決めた事は俺じゃ覆せない。でも、前世でカフェさんが勝てなかったレースを代わりに走って勝つのも悪くない。

 言われるまま走るのは気乗りしない所もあるが――――――また地震か。

 

「歴史上牝馬唯一のクラシック三冠馬のアパオシャには是非とも日本初の―――――きゃっ!!また地震!?」

 

 俺に遅れて、大きめの地震にレポーターが悲鳴を上げる。テレビスタッフも撮影を中断して、身を屈めたり機材を一旦地面に置いた。

 しばらく屈んで揺れが収まるのを待った。

 厩舎からは地震を恐れて馬達の悲鳴が上がる。特に最近はデビュー前の若い馬が多いから、そいつらが怖がってパニックになっている。

 やれやれ、また仕事だよ。

 手綱を握っていた遼太に目を向けて、手綱を離してもらった。そこからまず、近い厩舎に足を運ぶ。

 馬房でグルグルその場を回っている若い牝に声をかける。

 

【おーい、大丈夫だから落ち着け】

 

【だってだってこわいもん!】

 

【そうだな。地面が揺れるのは怖いな。でも揺れているだけだから、お前を食べたりはしないし、虐めたりはしないぞ】

 

【ほんと?】

 

【ああ、本当だ。落ち着いて他の馬や人を見てみろ。みんな逃げようとしていないぞ】

 

 牝は言葉を聞き入れて、回るのを止めた。

 

【本当に危ない揺れだったら、人がお前を助けてくれる。だから、そう心配するな】

 

【うん】

 

 大人しくなった牝の顔と顔を擦り合わせて、今度は厩舎に居る年上の馬達を窘める。

 

【お前達、若い子が怖がっているんだから安心させてやれ。それが年上の役目だろうが】

 

【だっておれたちもこわい】

 

【情けないこと言うんじゃねえ!そのブラブラ下げているモノは飾りか!蹴り潰すぞっ!!】

 

【ひ、ひえ~。ごめんよあねさん!】

 

 まったく、でかいだけで使い物にならん。

 あー、いかんいかん。こんな事している暇があったら、次の厩舎に行かないと。

 

 その後はいつも通り、行ける範囲の厩舎を覗いて地震に怯える馬達を励ます。

 さらにあまり動じない精神が図太い馬に、俺が居ない時は若い子の面倒を見るように頼んで回った。

 粗方厩舎を見回ってから元の撮影場所に戻ったら、なんかテレビスタッフが超いい笑顔で待っていた。勝手にどっか行って、随分待たせたのに怒っていないのが不思議だ。

 それから仕切り直しで、海外レースへのインタビューを一から撮り直して、今度は地震に中断されず無事に撮影は終わった。

 

 

      □□□□□□□□□□

 

 

  某テレビ局内

 

 

「おう、アパオシャの撮影ご苦労さん。良いインタビューは撮れたか?」

 

「お疲れさまですプロデューサー。予想以上に良い画が撮れましたよ。今から確認してください」

 

「へえ、そこまで言うのか」

 

 ~VTR確認中~

 

「こらぁ、すげえお宝だな。チラッと美浦トレセンの噂は聞いてたが、実際に現場を撮ったのはウチが初めてじゃないのか」

 

「あんまり近くで撮ると調教師が煩いから離れて撮ってましたが、音も入ってて良いでしょう?」

 

「地震に怯える仲間を必死で励まして勇気付ける、美浦トレセンの若きボス『アパオシャ』。これは半端に出すより、きっちり編集してヨーロッパ遠征前の特集番組の中で流そう。それとJRAにも伺いぐらいは立てておくか」

 

「あそこ、すんなり許可出してくれますかね」

 

「心配いらん。JRAもアパオシャを使って競馬界を盛り上げたいんだ。こういうイメージアップの映像なら、喜んで許可を出すさ」

 

「なるほど。じゃあ、こいつは特番用に編集しておきます」

 

「ああ、なるべく早くな。―――――毎回こういう誰からも誹られない良い仕事したいんだけどな」

 

 テレビプロデューサーのぼやきに、仕事をしていた他の社員達は頷くか、小さく同意した。

 

 

八剣くんの処遇を決めます。

  • 誤字だから男の子に訂正しようよ
  • このまま眺めているのも良い(男の娘)
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