多くの感想を送って頂き、誠にありがとうございます。さらにこの度、総合評価ポイントが一万を超えました。これもたくさんの読者の皆様のおかげです。
拙作ながらこれからも励んでいくつもりですので、どうか温かく見守ってください。
激動の年の終わりが見え始めた2011年12月25日。日本の歴史に決して消せない大きな傷痕を残した年も、もうすぐ終わりを迎える。
無論、新年を迎えた所で山積みとなった諸々の問題が解決するわけではない。被災した地域の復興は遅々として進まず、近しい人を亡くした人々の心の傷は癒えず、未だ行方不明のままの人達の捜索も続いている。
しかしそれでも人は立ち上がって歩かねばならず、そのためには喜びと楽しさが求められた。
この日は世間ではクリスマス。街はクリスマスツリーとイルミネーションに彩られて、一年の中でも指折りの華やかさが道行く人々の心を躍らせる。
多くの家庭でもケーキやご馳走がテーブルに並び、子供のいる家庭ではサンタクロースからプレゼントが贈られる。そんな楽しい日。
同時にこの日は、特定の業界人にとっても心躍る日でもあった。
中山競馬場の第10レース、G1有馬記念・右回り芝2500m。競馬関係者と競馬ファンにとっては一年を締めくくる、日本最大級のレースだ。
優勝賞金は一着に2億円と、日本ではジャパンカップに次いで高額。
出走条件は主にファン投票から上位十頭が選ばれて、残り枠はこれまで獲得した賞金額等で選出される。
今年は震災もあり特に辛く苦しい一年だった。それでもレースを戦い抜いた、素晴らしい14頭が名乗りを挙げた。
馬番 馬名 性齢 主な勝ち鞍と戦績 ()内は年度
1番 ブエナビスタ 牝5 G1六冠
2番 ヴィクトワールピサ 牡4 G1有馬記念(10) G1ドバイWC(11)
3番 ヒルノダムール 牡4 G2産経大阪杯(11) 凱旋門賞4着(11)
4番 アパオシャ 牝4 G1七冠
5番 エイシンフラッシュ 牡4 G3京成杯(10) 天皇賞春3着(11) 宝塚記念3着(11)
6番 キングトップガン 牡8 G2目黒記念(11) G3函館記念(11)
7番 トゥザグローリー 牡4 G2京都記念(11) G2日経賞(11)
8番 ローズキングダム 牡4 G1朝日杯FS(09) G1ジャパンC(10)
9番 オルフェーヴル 牡3 本年度クラシック三冠
10番 トーセンジョーダン 牡5 G1天皇賞秋(11)
11番 ジャガーメイル 牡7 G1天皇賞春(10)
12番 アーネストリー 牡6 G1宝塚記念(11)
13番 レッドデイヴィス 騙3 G3シンザン記念(11) G3毎日杯(11)
14番 ルーラーシップ 牡4 G2日経新春杯(11) G2金鯱賞(11)
以上14頭の、いずれも劣らぬ優駿達が師走の中山に集結した。
批評家は例年に比べても、かなりの高レベルの馬達が揃ったと太鼓判を押す。
中でも注目の馬は4頭。
昨年有馬記念王者にして、今年のドバイWCを制した≪世界王者≫ヴィクトワールピサ。
天皇賞春秋連覇馬・父スペシャルウィークを超えた≪女王≫ブエナビスタ。
今年度クラシック三冠を達成した≪激情の暴れ馬≫オルフェーヴル。
そして牝馬ながら昨年度クラシック三冠馬にして、日本馬で初めて凱旋門賞を勝利した≪太陽の神馬≫アパオシャ。
特に新旧の三冠馬対決は1984年のミスターシービーとシンボリルドルフの対決以来。実に27年ぶりの一大イベントとして、日本全国に大々的に放映される。
しかも今回は同日開催している阪神と小倉競馬場のターフビジョンにも、中継を繋げてレースを見られるようにしてある。
ひとえに世界最強馬アパオシャあっての処置である。
アパオシャの人気を分かりやすく示すのがファン投票の票数だろう。
今年の投票一位は彼女と、ファンやJRAはおおよそ予想はしていた。ただ、票数第二位のブエナビスタを大幅に突き放して、30万票超を獲得したのは予想外に違いない。
断っておくが他の馬が不人気だったわけではない。二位のブエナビスタも約11万票と、例年なら人気一位でもおかしくない。三位のオルフェーヴルとて10万票近く集めている。
当然だが歴代一位を更新した投票数であり、昨年までの歴代最高投票数は1989年に約197000票を集めたオグリキャップである。
ファンや競馬関係者は父娘揃って非常識な馬と苦笑するしか無かった。
投票結果を受けてJRAは事前に入場制限をかけて、有馬記念当日は当日入場券を販売中止。混乱と事故を避けるために来場者も15万人までとした。
さらに知らずに競馬場に来るファンの事も考慮して、外に特設ヴィジョンを幾つか用意してレース中継をするなど、JRAは可能な限り対応に力を入れていた。
全てはアパオシャが起点になった三度目の競馬ブームを絶対に逃さないという、JRAの貪欲さの顕れである。
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2011年12月25日 中山競馬場 天候:晴 芝:良
吾輩は馬である。中山レース場に缶詰めにされてから、久しぶりのレースに出られて機嫌が良い。
年末の中山レース場は今日も超満員。パドックにも沢山の客が押し寄せてごった返している。
クリスマスなのに、ウマ娘のレースとウイニングライブならともかく、こんな畜生を見に来ていていいの?
しかも今回はやけに子供が多いんだが。ドッグランみたいなものなら博打だろ。未成年に見せて良い物なのか。今世の娯楽は結構謎である。
客への関心は程々にして、今はレースに集中しよう。
いつも通りパドックをぐるぐる回ってお披露目をしつつ、一緒に走る馬に注意を向ける。
半分以上が過去に走った事のある馬だな。二つ前を歩くヴィクトワールピサの奴がしきりに俺を気にしている。そして間に挟まれたヒルノダムールが威嚇してブロックしている。
どうも一緒にフランスで過ごしてから勝手に舎弟と言うか、取り巻きみたいなポジに収まっている。実害は無いから放置していた。
後ろのエイシンフラッシュも股間のアレを大きくしているから、客がちょっと騒いでいる。だから対策に職員が真冬だろうが冷水をぶっかけて、無理矢理発情を抑えていた。牡馬は大変だな。
時間になり、計量を終えた騎手達がそれぞれの相棒に乗る。俺も和多が背に跨った。
「さあ、一年の総仕上げだ。去年の負けを取り戻そう。そして八つ目の冠を手にして、皇帝を超えよう!」
【ああ、前のような失態は犯さないよ。俺とアンタが世界最強だって、今日ここで見せつけてやる】
凱旋門賞の時も気合は入っていたが、自らのミスで負けてしまったレースの雪辱を果たすとなると、煮え滾る闘争心を抑えるのに苦労する。
―――――よし、行こうか相棒。
よく晴れて乾いた芝を踏み締めて、外周コース向こう正面の途中に設置したスタートゲートの前を回り続ける。
スタンド正面から楽団の演奏するファンファーレと、客の歓声が届く。レース開始まであと数分。
全身を駆け巡る沸騰するような血の熱さを、冬の冷風が程よく抑えてくれる。
同時に涼風に乗る騎手達の視線を感じる。勝ち続ける者を意識するのは分かるが、プロなんだからもう少し気を隠す事も覚えないと狙いを読まれてしまうぞ。
十四人の騎手が視線を向ける対象は二頭いる。凱旋門賞馬の俺と9番の馬。――――フェブちゃん、いや今世ではただのオルフェーヴルか。
前世の記憶ではクイーンちゃんの孫の一人だった子。普段は大人しい性格だったが、いざレースとなると理不尽と言われるほどの身体能力で相手を蹂躙する『暴君』と化す。
あまりにも身体能力が隔絶していて同期に並ぶウマ娘が居なかったゆえに、レースでは常に集中力が散漫で、たびたび勝てるレースに負けていた。
それでもクラシック三冠ウマ娘に輝き、ムラッ気の強さもまた多くのファンに愛されていた。
フランスから帰って缶詰にされていた時に、テレビで仕入れた情報と大体似通っている。前情報だけで判断するのは危険だが、全くの無価値と切り捨てる事も出来ない。
現に騎手達から、強く警戒する対象に見られている。無論、背の上の相棒も注意している。
と言う事は、今日は俺とオルフェーヴルが中心のレースになると言っていい。
ただ、こいつだけ警戒して他を切り捨てるなんて事は出来ない。
【立ち回りを工夫しないといけないか】
どうなるかは始まってみないと分からないが、作業員が奇数番の馬をゲートに押し込んでいる間に幾つかのプランを捻出しておく。
全ての馬がゲートに入り、後は息を整えて始まりを待つ。
―――――――来た!ゲートが開いたタイミングを逃さず、力を込めた一歩を踏み出す。
両の目でライバル達の様子をざっと捉える。出遅れは居ない。
最初は前に行かず、わざと他の馬に抜かせる形で最後尾に陣取る。さて、他の馬というか騎手達はどう出るかな。
外周から次々と馬達が一つ目のコーナーへ入る。『大逃げ』をするような大胆な人馬は居ない。ほぼ固まった一団のままゆっくりと駆ける。
そのまま500メートル近くをスローペースで一丸となって走り、歓声に包まれる正面スタンド前へ突入する。
最後尾の俺と先頭までは大体五馬身ぐらいしか離れていない。オルフェーヴルは俺の二つ前ぐらい。
警戒対象が二頭共に後方に居るから、大きく離れないようにペースを抑えているか。
おあつらえ向きに、すぐ先に名物の坂がある。ちょっと仕掛けてみよう。
脚のピッチ回転を上げて、ノロノロ走っている馬達を一気に坂で抜き去り、先頭に立って一度目のゴール板を通り過ぎる。
【お前ら、俺の勝ちだぞー】
【えーもうおわり?】
【やったーごはんごはん】
俺の勝利宣言とゴール板を通り過ぎたため、半分ぐらいの馬達はもうレースは終わったと勝手に思って脚を緩める。
畜生に生まれて分かったのは、馬という種族はそれなりに記憶力と理解力が高い。ゴール板の意味を分かっていて、そこを一番最初に走れば人間に褒めてもらえたり、自分が一番強いと認識する指標に使っている馬は、全部ではないがそこそこ多い。
ただし、二回通り過ぎないと終わらないレースがあるとかまでは、殆どの馬は理解していない。
だからすぐに気づいた騎手が気を緩めた馬に鞭を打って、まだレースが終わっていないと教える。
それは別にいい。元からこの程度のブラフで勝とうなんて思っていない。
【なんだとー!オレはまけてねえっ!!】
今回の狙いはこっちなんだよ。
読み通りオルフェーヴルは怒って、後方から一気に加速して俺に並ぶ。複数経路の事前情報とレース前のかなり神経質そうな振る舞いから、煽られたら七割ぐらいでこうなると予測済みだ。
目を血走らせた暴走状態のオルフェーヴルを、騎手が必死に手綱を引いて言うことを聞かせようとしているが効果が無い。
そのまま先頭で競り合いながら第一コーナーを回れば、後続達は置いて行かれまいと、序盤と打って変わってのハイペースに切り替えた。
【うおおおおーーー!!!】
「落ち着けオルフェーヴル!まだ半分も走っていないんだぞ!」
騎手の必死の制止も効果が無く、オルフェーヴルは第二コーナーで俺をあっという間に抜いて先頭を走り続ける。
うーん、こっちでもあの子の身体能力は桁外れだな。気性難さえなかったら、余裕で世界の中長距離レースを総取り出来たとクイーンちゃんが嘆いたのが分かる。
敢えて抜かせるため僅かにペースを落としたのもあり、先頭の猪坊やに五馬身差ぐらい離されて、二番手で向こう正面のストレートに入る。
後続も順次追いついて、トーセンジョーダンやヴィクトワールピサもすぐ後ろにいる。ここからが後半戦だ。
二番手を維持しつつ、やや遅いペースで直線を走り続けていると、オルフェーヴルが内ラチから離れて段々左に逸れて、脚色も緩めてしまった。
完全にレースが終わったと勘違いしたな。騎手が必死で走るように叱咤して、ようやく勘違いに気付いて再加速する。
「池園は大変だな」
蹄の轟音で聞こえてはいないだろうが和多の呟きに同調するように、他の騎手達からも呆れや同情の声が上がる。そしてアイツは終わったと全ての騎手が意識から外す。
さて残りは大体800メートル。ここからが本番だぞ。
残りの直線で一気にスパートをかけて、後ろを引き離して第三コーナーに入る。大半は追うべきか迷っているが、何頭かはこちらに続いて加速する。
これまでスロー、ハイ、スローと散々にペースを引っ掻き回して、騎手達はタイムと馬のスタミナを全く把握出来ていない。
混沌とした状況で残り600メートルもあるのに、軽率に動くのは危険と、動かない判断を出すは間違いではない。さりとて俺を放置も出来ないと、追従する選択も間違いとは言えない。
どっちつかずのまま、ただただ距離を浪費してゴールが近づくにつれて、焦りが募れば雑に動く連中も出る。
俺はそうした後ろの混迷には目もくれず、トータルで言えば抑え気味だったので、ひたすらスタミナの続くままスパートを掛け続けて先頭をひた走る。
最終コーナーを先頭で走り切り、残りは直線400メートル。後ろには相変わらず尻に引っ付いたままのヴィクトワールピサ。おまえはどんだけ俺の尻が好きなんだよ。
畜生の性癖に辟易しつつ、最後の切り札を出す。首を地面に着くぐらい低く下げて重心を下げ、全身の筋肉から限界まで力を搾り取るつもりで駆ける。
フォームを変えて一気に加速力を倍増させて、ケツに張り付いたままの変態を引き離した。
そのまま差を広げながら二度目の中山の坂に入り、力任せに坂を上り続ける。背の和多が苦悶の声を漏らそうとも止まるつもりは無い。残りあと100メートル。
油断はしない。さりとてここから抜かれるとは思ってはいない。
―――――と思っていたがちょっと甘かった。
後ろからひと際強烈な蹄の音を響かせて、ガンガン迫ってくる奴がいる。
何となく予想はしていたから動揺はしない。抜かせるつもりも無い。
後ろに意識を一切向けず、ただひたすら四肢を動かして坂を上り切っても息をつかず、残り70メートルを走り抜いて、拍手と絶叫に出迎えられてゴール板を駆け抜けた。
「―――っし!!勝ったぞ!お前はこの一年、誰にも負けなかった!お前が最強だっ!!………えっ?池園?なんで??」
相棒は喜びのガッツポーズの後に、後ろを通り抜けた馬に気付いて困惑する。気持ちは分かる。俺も肝が冷えた。
【うおおおーー!!オレはまけねーー!!】
ゴール板を通り過ぎても暴走を止めないオルフェーヴルを、池園騎手が落ち着かせようと四苦八苦している。
あの暴走癖が無かったら、圧倒的な身体能力の差でこっちが圧し潰されていた。まだまだ精神が幼くて助かった。
とはいえ今日のレースはお前の負けだぞ。冷静になれない自分の未熟を恥じろヒヨっ子。
コーナーでゆっくり反転して、スタンド正面に戻る。
応援してくれた観客の前でウイニングランをして、声援への返礼とした。
2011年戦績 6戦6勝 内G1五勝(春天皇賞、英ゴールドカップ、英KG6&QES、仏凱旋門賞、有馬記念)
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『アパオシャだっ!!アパオシャが中山の坂を駆け上がるっ!!世界の女帝が圧倒的なパワーを見せつける!!』
『ヴィクトワールピサ、エイシンフラッシュ、トーセンジョーダンが必死に食い下がるが追いつけない!!』
『このまま女帝が勝つのか!?――――ここからオルフェーヴルが来た!!大外から≪暴れん坊≫が戻って来た!信じられない!!』
『勝つのは≪太陽の神馬≫か≪金色の暴れん坊≫か!?坂を駆け上がり、残りあと50メートルだ!!』
『先頭は未だアパオシャ!それでもオルフェーヴルは喰らい付く!!どうなるゴールはあとわずかだっ!?』
『アパオシャか!?世界最強の女帝がクラシック最強の若馬を捩じ伏せるのか!?―――――き、決まったーーー!!!今年の有馬記念を制したのは世界最強の≪太陽の神馬≫アパオシャだーー!!』
『今年亡くなった皇帝シンボリルドルフの七冠を超えて、八つ目の冠を堂々と戴いた!!やはり凱旋門賞を征服した最強馬にこそ、新たな歴史を紡ぐに相応しい!!』
『鞍上の和多流次騎手は渾身のガッツポーズの後に…どうした?横のオルフェーヴルを見て驚いている。いえ、これは気持ちは分かります。まさか向こう正面外への逸走から戻っての、常識外の追走で堂々の2着。負けてなお強しとはこの事でしょう』
『えー掲示板に出ました。勝ちタイムは2分34秒7。3着はエイシンフラッシュ、4着にヴィクトワールピサ、5着はトゥザグローリーで確定です』
『場内はアパオシャコールが止みません。大震災で傷付いた人々の心を沸かせました。さすが女帝。さすが神馬です』
中山 10R 有馬記念 右・芝2500m
着順 馬番 騎手 着差
1着 4番 アパオシャ 和多
2着 9番 オルフェーヴル 池園 アタマ
3着 5番 エイシンフラッシュ ルノール 1
4着 2番 ヴィクトワールピサ デニーロ クビ
5着 7番 トゥザグローリー 福水 1/2
勝ちタイム 2:34.7
皇帝を超えし≪太陽の神馬≫!堂々年間無敗の八冠達成!!
大震災に揺れた2011年を締めくくるG1有馬記念は大いに荒れた。
1番人気単勝2.5倍、凱旋門賞を常識外の『大逃げ』で制したアパオシャが今度は最後尾からレースを始める。例年に無いスローペースは、多くの人馬が後方のアパオシャと今年の三冠馬オルフェーヴルを意識した顕れだろう。しかし世界最強七冠の神馬に跨る和多流次騎手には微塵の焦りも無い。
先頭は宝塚記念覇者アーネストリー、後ろにはドバイ王者ヴィクトワールピサ、天皇賞馬トーセンジョーダン、有終の美を望み七冠目を追う女王ブエナビスタ達が油断無くレースを進める。
昨年の菊花賞のように向こう正面から動くのではないかと思ったファンの予想は容易く崩れた。序盤のスタンド正面、中山の坂を外から一気に駆け上がる女帝に場内は騒然となり、共に走る馬達も呆気に取られた。
その走りに最も反応したのは≪暴れ馬≫オルフェーヴル。鞍上の池園賢一騎手の制御を受け付けず、女帝を追走。新旧三冠馬のあまりにも早い直接対決が繰り広げられた。
激突する両馬の対決はしかし、あっけなくオルフェーヴルの逸走という形で終わった。向こう正面の外に大きく流れていく≪暴れん坊≫をよそに、先頭に立ったアパオシャが残り800メートル第3コーナー前からロングスパートをかけていく。
そのまま最終コーナーを回り、ヴィクトワールピサ、エイシンフラッシュら強豪牡馬を従えてスタンド正面、二度目の登坂を疾走する。
数多くのG1牡馬を捩じ伏せて、もはや勝ちは揺るがないと思った瞬間、レースを見る全ての者が唖然とした。終わったと思われたオルフェーヴルがいつの間にか大外から吶喊。二番手でアパオシャに喰らい付く。
しかし≪金色の怪物≫の快進撃もここまでだった。猛追撃も及ばず、最後はアタマ差で七冠の女帝が押し切り、年末最後の大接戦は幕を閉じた。
「最後は唖然としましたが、誰よりもレースが上手く強かったのはアパオシャです。彼女と共にずっと走れたのは僕の生涯の誇りです」和多騎手はインタビューで涙を流しながら語る。
「常識外の暴れ馬を常識外の技量と戦略で封じ込めて勝った、というところかな。未だにアパオシャが何を考えて、何を見て走っているのか我々にだって分からない。多分本当に馬の神様なんじゃないかな」中島調教師は苦笑しながら話す。
2011年はG1五勝を含めた六連勝。オーナーの南丸氏はアパオシャを2012年末を目途に、引退させて繁殖牝馬への用途変更を表明。
見る者を魅了し続ける神馬の最後の一年は、一体どのような年になるのか目が離せない。
≪競馬ジャーナルWEB≫
前話でネコ太郎=カラバがステイヤー王のストラディバリウスと、トロフィーを賭けてレースをしたと書きましたが勝ったとは書いていません。つまりカラバはストラディバリウスに勝てなかったシルバーコレクターです。
それでも日本産の馬が本場ヨーロッパの長距離重賞を勝ったのは、かなりの快挙でしょう。