アパオシャの産駒その1です。本来は一纏めにする予定でしたが予想以上に筆が乗って量が増えたので個別掲載に変更しました。
フォアランナ(アパオシャ14牡)
アパオシャの待望の初仔。父はイギリス最強マイラー10冠のフランケル。世間では23冠ベビーと話題になったが至って普通の幼少期を過ごした。
2歳になってから
新馬戦から勝利を挙げて未来の三冠馬と期待された。2戦目の条件戦を難なく勝利したものの、初のG1朝日F杯は3着に終わった。
3歳初戦はG3きさらぎ賞。こちらは順当に勝ち、続くクラシックG1の1戦目皐月賞も勝利。日本で初の皐月賞母子連覇を果たす。世間は初の母子クラシック三冠馬誕生を期待した。
馬主の南丸は次のレースはダービーと答えたが、後日ダービーはダービーでも英国ダービーを走ると宣言。6月3日、日本調教馬として初めて英国ダービーを走ったフォアランナは、見事勝利を手にした。次は7月のエクリプスS。こちらも快勝してイギリスG1を2勝。イギリスのホースマンは苦々しく顔を歪めた。一方で英国女王は終始笑顔で勝利したフォアランナを褒めちぎった。
意気揚々と日本に帰国後、次は菊花賞か天皇賞・秋と思われたが、次は何とアメリカ最大の競馬の祭典ブリーダーズカップ。芝1600mのBCマイルに挑戦する。
11月の本番に向けて9月に現地入りして重賞レースに出走。調整不足だったのか惜しくも2着だったが手応えは掴めた。そしていよいよ本番のブリーダーズカップ。結果はクビ差の1着。2013年のオルフェーヴル以来、日本馬がブリーダーズカップの一つを攻略した。G1勝利数は4に増えた。年末にはドバイへの遠征を発表していた。
JRAからは最優秀3歳牡馬賞を、イギリスからはカルティエ賞最優秀3歳牡馬部門を贈られた。
明けて2018年。最初のレースはアメリカJCC。こちらも余裕の勝利。3月に入り、多くの日本馬達とドバイへ向かった。同月末日、ドバイシーマクラシック芝2410mに出走。フォアランナ以外に日本馬3頭も出走していた。注目すべき馬がもう一頭いる。同じエクリプスS馬ホークビルである。10頭が鎬を削った末に、それでも勝ったのはフォアランナ。日本、イギリス、アメリカ、UAE四ヵ国を跨いだ5つ目のG1勝利だった。日本馬ではサンデーサイレンス系以外での初勝利になる。先月引退した中島大調教師への粋なプレゼントだった。
帰国後も2ヵ月後のレースG1安田記念に向けて調整を急ぐ。安田記念当日は早いレース展開に終始して、他の馬に差される前に押し切って勝利を得た。これで通算G16勝目。
夏の放牧を挟み、ジャパンカップの調整に京都大賞典に出走。馬体を搾り切れずにサトノダイヤモンドに負けて3着。負けはしても実のあるレースと新人調教師の中島遼太は語る。
翌月のジャパンカップ開催場所の東京競馬場は晩秋ながら異様な熱気が渦巻いていた。1番人気は世界の最先端を走り続けるフォアランナだが、同等の人気を持つ馬が居た。ジェンティルドンナ以来の三冠牝馬アーモンドアイである。
新たな世界王者と若き3歳女王の対決は異常な結末を迎えた。勝ったのはハナ差でアーモンドアイ。しかしその勝利タイムは前年までの記録を1.5秒更新。2400mの世界記録を1秒以上更新しての同タイム決着だった。僅差とはいえ、それでも負けは負け。事実を受け止めて、ラストラン有馬記念へ向けて調整を進めた。
年末の中山競馬場。引退表明を出していた世界王者の最後の走りを見ようと群衆は詰めかけた。
暮れの大一番を制したのは先駆者の名を与えられたフォアランナ。見事引退レースを有終の美で飾った。祖父オグリキャップ、母アパオシャに続く三世代による史上初の有馬記念制覇。そして安田記念と有馬記念を同一馬で勝利したのはオグリキャップ以来だった。
数々の栄光を背に、王者は静かにターフを去った。彼には血を残すという競走馬にとって、走ることと同じぐらい大事な使命があった。
引退後、JRAより栄光の7冠王者に最優秀4歳以上牡馬賞が贈られた。彼は名のごとく先頭を駆け抜けて行った。
引退後は社大グループの種牡馬となった。世界から注目を集める王者の血を欲するホースマンは世界中にいる。社大グループは一年ごとに日本、アメリカ、イギリスの三ヵ国の持ち回りでの種付けを提案。初年度を日本、2年目はアメリカ、3年目がイギリスで決着が付いた。種付頭数は年間100頭。初年度の種付け料は強気の1500万円だったが、あっという間に枠は埋まった。サンデーサイレンス血統が飽和する日本の中で、待望の非SSの血とあらば大枚を叩いてでも生産者は欲しがった。
翌年のアメリカでもフォアランナの種付け枠は完売。アメリカ競馬でサドラーズウェルズ系は非主流派だったが、BCマイルの勝利を見て十分アメリカでも通用すると思われての人気だった。
3年目のイギリスはやや人気が落ちていた。元々父フランケルはイギリス馬。本場でまだまだ現役の父親が居れば、わざわざ未知数の息子の種を付ける必要性は薄い。産駒の優秀性を他ならぬフォアランナ自身が証明してしまったわけだ。それでもアイルランドやドイツからも応募は集まり、予定分は確保されて無事に種付けは終わった。
以降も国を跨いだ種付け生活は続き、初産駒がなかなかの活躍を見せるたびに種牡馬としての評価も上がった。年を重ねるごとにサンデーサイレンス系統の対抗者として、産駒からも種牡馬になる馬が出始めて、日本競馬におけるサドラーズウェルズ系繁栄の功労者として認知されるようになった。
フォアランナ自身の特徴を一言で表すなら器用万能だろう。スピード、パワー、スタミナ、操作性、頑健性、勝負根性、知性、距離適性、輸送適性、世界各国の芝への適性。突出した面が少ない代わりに、非常に高水準で纏まっている真の意味で万能性を持っている。四ヵ国を空輸で移動、その国の芝へ適応したのはレース結果を見れば一目瞭然。頑健性も保障出来る。レースで勝利したのは1600~2500mだが、英国エプソムダウンズ競馬場の非常にタフな2400mコースのダービーを勝利した点を考慮して、おそらく1600~3000mまでなら対応可能だったのではないかと思われる。騎手や調教師の言う事をよく聞く性格、レースでは掛かりも少なかった。とにかく欠点らしい欠点が無かった馬と言われる。両親の優れた特徴から尖った部分を若干削って、必要分だけ上手く埋め合わせた円型に広がる八角形(レーダーチャート)をイメージすれば分かりやすいかもしれない。裏を返せば超特化型には分が悪かったとも言える。それでも世界のG1を七勝したのは各能力の高さ故だろう。
強いて挙げる欠点は頭が良いために本番と前哨レースで露骨にやる気に差が出た事だろう。BCマイル、ジャパンカップ前の叩きのレースに負けたのは、周囲の緊張感が無かったのを察して、重要なレースではないと理解していた可能性がある。事実G1以外のレースで負けてもあまり気にせず、アーモンドアイに負けたジャパンカップ後は、はっきりと落ち込んでいたと中島調教師は指摘している。どことなく母方の高祖父『シンザン』を思わせるエピソードだ。
2021年にJRA顕彰馬に選出される。祖父オグリキャップ、母アパオシャに続く、三代続けての顕彰馬選出は史上初。
主な勝ち鞍(G1):皐月賞、英国ダービー、エクリプスS、BCマイル、ドバイシーマクラシック、安田記念、有馬記念
通算成績15戦11勝2着2回
受賞:JRA最優秀3歳牡馬賞、カルティエ賞最優秀3歳牡馬部門、JRA最優秀4歳以上牡馬賞、JRA顕彰馬
ヒーロー列伝のキャッチコピーは≪光と共に世界を駆ける≫