片腕を失ったとあるポケモントレーナーの話   作:東方茄子

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第八話

 

相手の重量を利用して攻撃する草タイプ技『くさむすび』。

先程繰り出された『ボディプレス』のまさに真逆を行く技であり、その『ボディプレス』を繰り出したイワークにとって『くさむすび』は致命的なまでに有効な技なのだ。

 

「なん……だと……?」

 

異様な体勢で気絶しているイワークと、その足元で真顔のまま小踊りをして狂喜乱舞しているプクリンを眺めながら、タケシが愕然として呟いた。

彼の専門タイプは岩。それに伴って彼のポケモン達は防御力に特化した者が多い。

本来相性が良いとは言えないノーマルタイプのポケモンに、二連続で一撃ノックアウトされるというのはかなりの衝撃だったのだろう。

驚き様から推測すると、もしかしたら初めての経験だったのかもしれないな。

 

そもそもプクリンというポケモンはステータス面のみで考えれば決して強いポケモンとは言い難い。

しかし使用出来る技のレパートリーは非常に広く、あらゆるポケモンに対応することが出来る。

ポケモン自身のタイプだけではバトルの行方は決まらない。

幅広い攻撃手段と、柔軟な受け技の数々。それがこのプクリンというポケモンの最大の長所なのだ。

 

「馬鹿な!この俺達がノーマルタイプのポケモンに圧倒されるなんて……。流石はチャンピオンといったところか。だがしかし、このままでは終わらないぞ!!」

 

ボールに戻されたイワークと入れ替わりで繰り出されたポケモンは。

 

「キュウコン!頼んだぞ!」

 

最後のポケモンはやはりキュウコン。

思い入れのあるポケモンを最後に持ってくる気持ちは非常に良くわかる。

私も先のセキエイリーグの最終戦ではピカチュウに物凄く頑張ってもらったからね。

 

だけど、私の手持ちを見てキュウコンをチョイスしたのは間違いだ。

こちらにはまだタイプ相性バッチリの後続が残っているのだから。

 

そんなわけなので。

 

「ありがとうプクリン、もう戻っていいよ」

「プク……ッ!?」

「そんなに驚かなくても」

 

プクリンの体力も残り僅かであることだし、交代しようとボールを取り出したのだが、こちらを振り返った彼の「本気で言ってるんですか!?」みたいな表情からしてどうも不満の様だ。

 

そんな顔されてもな。

 

「充分頑張ってくれたから、もう休んで良いんだよ」

「プクッ!プクプク!!」

「え?ここまでやったんだから最後まで戦いたい?……君、そんなボロボロになってもまだ戦うって言うの……?」

 

問いかけに対して彼は頭がもげるんじゃないかと思うほど首を縦に振り肯定の意を示した。

意外と熱血派なんだよなこの子。

 

スポーツマンシップ的な心得は皆無なのに。

 

「……分かったよ。但し、厳しそうだったら問答無用でボールに戻すからね」

 

グッ!

 

綺麗なサムズアップが返ってきた。

 

心なしか見慣れた真顔も若干口角が上がってる気がしないでもない。

二体連続勝利に心がノッているのかもしれない。

 

「じゃあ行ってきなプクリン」

「プクーーッ!!!!」

 

雄叫びを上げながら見事なランニングフォームで地面に敷かれた石製の剣山の隙間を縫っていくプクリン。

凄い。普段の限界を超えた速度だ。

 

 

……でもなあ。

 

「キュウコン!『でんこうせっか』だ!!」

「ぐふっ」

 

ようやくプクリンが剣山を越えたという所で、美しい九つの尻尾がパァン!と桃色の横っ面を叩いた。

おじさんみたいなうめき声と共にプクリンの体がビターンッとバトルコートに叩きつけられる。

受け身を取る余裕も無かったのか、清々しいほどに綺麗な叩きつけられようだ。

 

 

『プクリン、ノックアウト』

 

 

無感情なアナウンスがコートに響き、こうしてプクリンの快進撃は呆気なく幕を閉じた。

 

やっぱり体力が残り少ない相手に対しては必ず先制攻撃が出来る『でんこうせっか』を使ってくるだろうとは思っていたけど。

 

ううん、本人の意志は尊重できたんだから、まあ良いとしよう。

 

 

 

 

この後のバトルの行方は交代したこちらのポケモンがキュウコンを危なげなく倒して終了した。

意識を取り戻したプクリンが四肢を突いて落ち込む様は、彼には申し訳ないが少し面白かった。

 

 

 

 

 

 

ニビ博物館に向かう道中、タケシが「そういえば」と話を切り出した。

 

「あの不遜なプクリンは元気なのか?」

「不遜て」

 

全く間違いではないんだけれども。

 

「元気だよ。ほら」

 

そう言って腰のホルダーからプクリンのボールを取りタケシに見せる。

覗き込むと、そこには「プクッ!!プクッ!!」と汗だくで一心不乱に腕立て伏せをするふうせんポケモンの姿が。

 

ノーマルタイプが自発的なトレーニングに腕立て伏せを選択するかね普通。

 

「……お、おぉ。確かに元気そうだな」

「タケシとの戦いの後からこうやって自分でトレーニングすることが増えたんだ。三連勝出来なかったのがよっぽど悔しかったみたい」

「うむ、こちらもあのテンションのポケモンに三連敗してたら、きっと今頃ジムリーダーを辞めてたと思う」

「ははは、冗談はよしなよ」

「……はははは」

 

……冗談、だよね?

 

こちらを見ずに作ったような笑い声を上げるタケシにたらりと冷や汗が流れた。

 

うん、やっぱりあの時プクリンが負けてくれて良かった。

優秀なジムリーダーが一人居なくなっていたかもしれない。

 

 

と、そんなこんな昔話に花を咲かせている内に博物館に到着した。

入館し、受付の女性にアポを取っている旨を伝える。

 

「オーキド研究所のショウビさんですね。事前にお話は伺っております。担当の者を呼んで来ますので、展示物をご鑑賞してお待ちください」

「はい、お願いします」

「タケシさんもどうぞ」

「ああ、ありがとう」

 

中に入ると、そこには古代ポケモンの化石を中心とした沢山の展示物があった。

何度か来たことはあるけど、何度見てもやはり壮観である。

 

タケシと一緒にそれらを鑑賞していると、コツコツと足音が聴こえてきた。

 

「こんにちは。オーキド氏の使いの方というのは貴方ですね」

「ええ、今回は貴重な資料をお貸し頂けるということで。研究所を代表して感謝致します」

「いえいえ、古代ポケモンを現代携帯獣学の観点から研究してもらうのはこちらとしても大変興味深いですからね。さあどうぞこちらへ」

 

軽い挨拶を交わし、担当の男性の後を着いてSTAFFONLYと表記された扉を潜る。

 

そこから資料倉庫とプレートに書かれた部屋に入ると、中には展示されていない化石やポケモンの骨格標本などがケースに入った状態で並べられていた。

 

「今回見つかった琥珀はこちらです」

「拝見します」

 

男性が棚から出した手の平サイズの木製の箱を受け取り、それを開く。

中にあったのは鮮やかな黄金色の琥珀。非常に綺麗な状態だ。

よく観察すると、琥珀の内部には小石程の大きさをした何かが内包されている。

 

「これが古代ポケモン、ですか。一見すると小型の虫ポケモンか何かに見えますけど……」

「ええ、我々も発掘当初はそう考えていたのですが。調査の結果、これは古代ポケモン・プテラの胎児であるという結論に至っています」

「胎児?」

「恐らく様々な要因が重なって樹液に取り込まれたのでしょう。何にせよこの年代の生物がここまで素晴らしい保存状態で見つかるのは初めての事です。これは古代携帯獣学界に激震が走りますよふふふふ」

 

失礼に値するので口には出さないが、物凄く危ない顔で笑ってるな……。

でも気持ちは分からなくもない。ここまで保存状態が良ければ研究の次第によれば現代にプテラを復元することも可能になるかもしれないからね。

 

……そう言えば最近グレンタウンでプテラとは別の古代ポケモンの復元に成功したというニュースがあったな。

もしかして博士が言ってた新たに図鑑に追加するべきポケモンの内の1匹はこの子なのかもしれない。

 

私は手の内で眠る、まだ見ぬ古代ポケモンへと想いを馳せた。

 

 

 

その後、タケシと男性が琥珀に関しての研究資料を手に報告と話し合いをしているのを見学し、それが終わると少しの間博物館の展示を鑑賞して回った。

 

そして博物館を後にした頃、時刻は昼下がりになっていた。

 

────ぐぅ。

 

「っん!んん〜……」

 

不意に鳴ったお腹を即座に義手で押さえ、それを誤魔化す為に変な声を出してしまう。

いくらタケシが仲のいい知人と言っても、流石にお腹の音を聞かれるのは恥ずかしい。

普通に気付かれてると思うけど、それでも誤魔化したくなるのだ。

 

そんな私を見て柔らかく微笑んだタケシは自身のお腹を摩って。

 

「腹が減ったな。近くに美味い定食屋があるから、一緒に行かないか?」

「……うん、行こうか」

 

こういう時、敢えて指摘しないのがタケシの優しいところだ。

自分のお腹が空いたから昼食にしよう、という体で提案をしてくれた。

 

その気遣いは物凄く嬉しいが、いっそ普通に笑い飛ばしてくれた方が恥ずかしくなかったな……。

でもありがとうございます。昼食は奢ってあげます。

 

 

タケシの行きつけだという定食屋さんに入り、それぞれ料理を注文する。

先に出してくれた暖かいお茶を飲みながらホッとため息をつくと、対面に座るタケシがとある話題を振ってきた。

 

「そう言えば最近カスミには会ったか?あの子ハナダのジムリーダーになったんだぞ」

「新聞で見たよ。凄いよね、私達より年下なのに。……ん、そういえばあの子に就任祝いの贈り物と手紙を送ったけど、返事が来なかったな」

「あー、まぁな。カスミは君の為にジムリーダーを目指し始めたから、色々複雑な気持ちなんだろうさ」

「……そっか」

 

ニビシティから東に行ってオツキミ山坑道を抜けた先にあるハナダシティ。その町の現ジムリーダーであるカスミとは、前回の旅の途中で出会った。

私がチャレンジャーとしてハナダジムに挑戦した時に戦った、当時のジムトレーナーの一人が彼女だった。

 

 

 

 

その時の私の手持ちポケモンはピカチュウと、道すがら捕獲したニドラン♀の二匹。一つ前のニビジムはタイプの相性が悪かった為にかなりの苦戦を強いられたが、専門タイプが水のハナダジムは特にピカチュウからすれば非常に相性の良いジムだった。

 

えらく自信満々に勝負を挑んできた彼女のポケモンも当然水タイプの子達であり、それをピカチュウの『でんきショック』で全員一発KOしてしまったのが運の尽き。

 

ジムトレーナーとして新米だった彼女は、それでもジムトレーナーとしてはかなりの実力を持っていた。

正直、ピカチュウが居なかったら普通に負けていただろう。

事実、チャレンジャーに負けた事は片手で数えるくらいのものだったようで、そんな彼女を流れ作業のように淡々とボコボコにしてしまった私達は出来たてホヤホヤの自尊心を木っ端微塵に打ち砕いてしまったわけだ。

 

当時のジムリーダーに辛くも勝利した私はバッジを受け取ってジムを出ようとした、その時。

後ろから大きな声で呼び止められ、振り返るとそこにはカスミが居た。

彼女はクッキリと残った涙の跡を隠そうともせず、私に人差し指を向けてこう言った。

 

「いつかアンタを、完膚なきまでにぶっ倒してやるから」と。

 

そこから、私とカスミの奇態な関係が始まった。

 

翌日の朝、宿泊していたポケモンセンターから出てきた私を待ち伏せて勝負を仕掛けてきたことから始まり。

自転車ショップ『ミラクルサイクル』で買った新品の自転車に乗りハナダの北に架かるゴールデンブリッジ(よく分からないが通行してるとトレーナー達がめっちゃ勝負仕掛けてくる橋)を越えた先で仁王立ちをして待ち構えられていたり。

ハナダの南にあるクチバシティの入口あたりにある草むらからガサー!と飛び出してきて、一瞬ポケモンと間違えてピカチュウの『でんきショック』を浴びせちゃったり。

 

何せ旅の端々でエンカウントし、その度に勝負を仕掛けてくるようになった。

正直言うとかなり鬱陶しく思っていたが、それと同時に楽しさも感じていた。

戦う度に強くなっていく彼女に追いつかれぬ様にと日々の研鑽を積み、それがなんとも言えない充実感を私の中に生んだ。

 

 

……最後に戦ったのは確か、八個目のバッジを手に入れた後にセキエイリーグに向かう道すがら。

トキワシティから西口に出て直ぐの二十二番道路。

 

「来たわねショウビ。今日という今日は負かしてやるんだから!」

 

いつもの様に意気揚々と勝負を仕掛けてきたカスミに、私は苦笑交じりに頷いた。

 

────勝負の結果は、私の圧勝。

結局彼女は、ただの一度も私に勝てなかった。

 

お互いのポケモンをボールに戻し、暫くの間無言で見つめあった後、彼女は寂しげな表情を浮かべて、こう言った。

 

「結局、最後まで追いつけなかったなあ。……セキエイリーグ、絶対に優勝してよね。ずーっと負かされ続けた相手がカントーの頂点に立ったなら、流石の私も諦めがつくから。……絶対だよ」

 

小さな笑みを浮かべた少女は、私の返事も待たずにその場を去っていった。

 

一瞬、追いかけようとした。

 

しかし、見てしまった。

走り去る彼女の横顔に、きらりと光る雫が零れたから。

 

私は足を止め、カスミの姿が見えなくなるまでその背中をジッと眺めて見送った。

 

 

きっとその時初めて、私は気づいたのだろう。

私の背中には、今まで私が戦ってきた全てのトレーナーの思いが乗っていることに。

 

勝たなければならない。

自分や手持ちの皆の為だけじゃなくて。今まで自分を支えてくれて、成長させてくれた全ての人々の為にも。

 

 

「……頂点に、立たなくちゃ」

 

 

一人の少女と共にした、随分と昔の少しばかり変わった青春。

 

強くなるために走り続けていた私の後ろを、彼女はがむしゃらに食らいついてきた。

私が彼女に負けることはついぞ無かったが、それは私の一歩後ろを彼女が一緒の速度で走り続けていたから。

彼女が後ろに居たから、私は追いつかれまいとペースを落とすことなく走り続けることが出来た。

 

私がチャンピオンになった時、カスミは言った。

 

「私、ジムリーダーになるわ。アンタ、その、色々危なっかしいからさ。ポケモンリーグの一柱になって支えてあげる」

「……えっ」

 

赤い顔でそう宣言してきたカスミに、私は困惑を隠さなかった。

 

だって、なんか、プロポーズみたいじゃない?

 

その言葉を念の為オブラートに包んでカスミに伝えると。

 

「は?普通にキモいんだけど」

 

道端に捨てられた生ゴミを見るような目をして吐き捨てるように返された。

ごめんなさい。

 

「いや自分でも自覚はあるよ、自惚れたこと言ってる自覚は。でもその、なんでそんなに頬を赤らめて仰ったのかなと、はい、思いまして……」

「顔が赤いのはアンタがチャンピオンになったのが嬉し過ぎてさっきまで号泣してたからよ!!言わせないでよ恥ずかしいわね……!」

 

やはり私のこと好きでは????

 

……と茶化すのは止めておこう。多分、長年切磋琢磨してきたライバルとして、私の力になりたいということなのだろうな。

こちらとしても彼女がジムリーダーになってくれるのは非常に心強い。なんともありがたい話である。

 

ううん?いやまてよ。どっちにしろ私のこと好きだよねこの子?

 

「とにかく、いつになるか分からないけど全力で頑張ってみるから。それまでにチャンピオン辞めたりなんかしたら、絶対許さないからね!」

「えー、その辺はチャレンジャーの皆さん次第だから……」

「トップがそんな弱音吐いてどうすんのよ!そんなんじゃ今から先が思いやられるわね全く!!」

「痛い!」

 

バシンと叩かれた背中がジンジンと痛む。

だけれどその痛みが、チャンピオンという重過ぎる責任を背負っていく為の勇気を芽生えさせてくれた。

 

そんな気がするんだ。

 

 

 

 




読んでくださってどうもありがとうございます。
お気に入り、しおり、感想、評価、毎度ながら本当に嬉しいです。
拙い文章で非常に恐縮ですが、どうかこの先も私と一緒にショウビを見守ってくれると幸いでございます。
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