ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
「アスタルテ、皿を用意してくれるか?」
「
蓮夜はいつも通り家で朝食を作っているが、何故かアスタルテがいる。
理由としては、オイスタッハが居なくなりアスタルテは保護され、那月が引き取ったという感じだ。まだ保護観察だが。
「で、まだ那月ちゃんは起きないのか?」
「はい、今マスターのベッドの上で暴れています」
何故那月が蓮夜のベッドで暴れているのかと言うと、昨日ヴァトラーのオシアナス・グレイヴから帰ってきたら、那月が玄関前で倒れていたのだ。
アスタルテに訊いた所、那月は彩海学園中等部の女性教師である笹崎 岬と飲みにいったらしく、酔って帰って来て玄関前で限界が来て寝ていたらしい。
しかも、酔うと幼児後退する為、相手にするのがメンドクサイ。
丁度蓮夜が帰って来て時に目が覚め、抱きついてきて「一緒に寝ないとヤダ~!」とか駄々捏ねるから仕方なく一緒に寝た。
確かにメンドクサイが、この時の那月は昔の那月を彷彿させるため、つい微笑ましく思って悪くはないと思ってしまう。その度に「なんであんな狡猾な女になってしまったんだろう……」と寂しいような悲しいような気分になってしまう。
一応、那月は一応酔っている時の記憶もあるので、一緒に寝たという羞恥心の為か今蓮夜のベッドで悶えている、という状況。
ちなみに何故アスタルテは蓮夜のことをマスターと呼ぶのかと言うと、アスタルテの眷獣を支配下に置いたのとアスタルテ自身が蓮夜の所有物になるのを希望したからだ。
その時にアスタルテから「私の身体はマスターの物です。好きなように使ってください」と言われた際に那月からの殺気がやばかった。シャレにならないくらいに。
「全く、何で紅茶にブランデーを入れても大丈夫なのに、こうもアルコールに弱いのやら」
「マスター。教官を起こした方がいいですか?」
「大丈夫だろ。教師だし遅刻はしないぞ、アイツは。遅刻しそうでも空間転移で飛んでいくし」
蓮夜が那月のアルコールの弱さに呆れていると、皿を用意したのかアスタルテは蓮夜の側で待機していた。
今のアスタルテは俗に言うメイド服という奴だ。しかも露出が以外にも高いという。
容姿は整っており、藍色の髪と無表情さ、メイド服という以外にもマッチしてしまった為、定着した。最初は驚いた。まさかこんなに似合うとは思わなかったからだ。
ガチャ、とドアが開く音がしたので振り返ってみると、那月が黒いドレスを着た那月が現れた。顔がまだ赤い。
「おはよう、那月」
「おはようございます、教官」
「ああ、おはよう。アスタルテ……蓮夜」
蓮夜の名前を呼ぶ時、間が空いていたがそこはスルーしておく。
三人は席に着き、朝食を食べ始める。この朝と夜はアスタルテはメイドではなく蓮夜たちと一緒に摂ることになっている。
未だに蓮夜のことをチラチラ見ている那月。そんな那月をからかう事にした。
「寝ている時の那月、中々可愛かったぞ」
「~~~っ!~~っ!」
那月は顔を最高潮に赤くして俯く。
そんな那月を微笑ましそうに見る蓮夜。アスタルテは黙々と食べている。
―○●―
彩海学園高等部の職員室棟校舎―――
何故か学園著室よりも偉そうな見晴らしのいい最上階に、那月の執務室はあった。
分厚い絨毯やら年代物のアンティークの家具。天蓋付きのベッドなどがある。那月は事務の机に座り、蓮夜は高級なソファーに腰を下ろしている。
「那月ちゃん。悪い、ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど―――」
古城が分厚い扉を開けて、部屋に入り込む。そして次の瞬間、
「ぐおっ!?」
「先輩!?」
那月が古城に向かって分厚い本を投げ、見事に頭蓋骨に直撃した。その後ろを歩いていた雪菜は慌てている。
「……見事クリーンヒットしたな」
那月の執務室のソファーに腰を掛けていた蓮夜は、入っていて瞬間に直撃させる技能に舌を巻いた。
「私のことを那月ちゃんと呼ぶなと言っているだろう。いい加減学習しろ、暁古城」
蓮夜は?と思うが、蓮夜は那月をちゃん付けで呼ぶのは学校の中や公衆の面前だけだ。教師を呼び捨てにする生徒を見れば変な勘括りをされる。ただでさえ、親密な関係を築いているなどど言われているし。
ただ、そんな事情を知らない生徒から見れば「唯一ちゃん付けで呼んでも怒られていない生徒」と認識されている。そのおかげで噂に拍車を掛けていることは蓮夜は知らない。
「なんだお前もいたのか、中等部の転校生。それで質問というのはなんだ?子供の作り方でも訊きにきたのか?」
「は、はい?」
「子供の作り方、ねぇ。懐かしいなぁ……随分昔に那月から子作―――うおぉ!?」
ふざけて二十年前の事を口に出そうとしたら、蓮夜に向かって高速で飛来してきた本を間一髪で避けた。
「あ、あれは昔の話だっ!忘れろっ!!」
顔を赤くしながら怒る那月。蓮夜は「すまん、もう言わないから」と謝罪してから古城たちを見る。そこには蓮夜と那月のやり取りを唖然としながら見ていた古城と雪菜がいる。
那月は自分の取り乱し様を見られて顔を赤くするが、気を紛らわすように咳払いをし、古城に向き直った。
「で、子作りじゃなければ一体何の用だ?」
「あ、ああ……クリストフ・ガルドシュって男を捜してるんだ。なにか手がかりがあったら教えて欲しい」
古城がガルドシュの名前を出した途端、那月の雰囲気が一変した。その圧迫感に古城と雪菜は息苦しさを感じる。
「お前たち、どこでその名前を聞いた?」
「ディミトリエ・ヴァトラー。戦王領域の蛇遣いだ。昨日の夜、俺らが招待されたクルーズ船の持ち主だ」
「あの軽薄男か。お前を呼び出す可能性を予想しておくべきだったか」
那月は蓮夜の書き置きにヴァトラーに会うようなことを書いていたため、知っていた。
「暁、ガルドシュの居場所を聞いてどうする?」
「捕まえます。彼がアルデアル公と接触する前に」
那月の質問に雪菜が即答する。ヴァトラーは戦闘狂だから絃神島の事など考えずに眷獣を開放するだろう。雪菜はその前に止める、といった感じだ。
「無駄だ。止めておけ。ああ、アスタルテ―――そいつらに茶なんか出してやる必要はないぞ。もったいない。それよりも私に新しい紅茶を頼む」
「ついでに俺の分の紅茶も頼む」
「―――
古城たちに麦茶を運んできた藍色の髪のメイド服の少女に、那月がぞんざいに命令する。その少女を見て古城経ちは驚いた。
左右対称の人工的な顔立ちに、感受斧ない淡い水色の瞳。ほっそりとした未成熟な身体を、露出度高めのエプロンドレスに包んでいる
「お前、オイスタッハのオッサンが連れていた眷獣憑きの―――!」
「アスタルテ……さん!?」
「ああ、そういえば、お前たちは顔見知りなんだったな」
那月は特に驚かずに淡々と言う。そして、古城はアスタルテがここに居ることと着ている服に指を差す。
「なんでこの子が学校にいるんだよ。いやそれよりもあの服はなんだ!?」
「アイツは今三年間の保護観察処分中だ。丁度忠実なメイドも欲しかったしな。ちなみに服を選んだのは私の趣味だ」
その言葉に一度アスタルテを見て、那月に向き直り何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。
「―――南宮先生。ガルドシュを捕まえても無駄だというのは、どういうことですか?」
「捕まえても無駄だとは言ってない。お前たちがそんなことをする必要はないと言ってるんだ」
「え?」
「黒死皇派どもはどうせなにもできん。少なくともヴァトラーが相手ではな。奴はあれでも"真祖に最も近い存在"と言われている怪物だ。まぁ、あと一人いるがな」
「縫月先輩の事ですか?確かに縫月先輩は"
「……おい、蓮夜。どういうことだ?」
那月は何故雪菜が正体を知っているのか?と言いたげな視線を蓮夜に送る。
「ヴァトラーの所為だ。コイツらがいる前で堂々とバラしやがったよ……」
「ちっ、本当に余計な事を……」
蓮夜はため息を吐きながらそう吐き捨てた。那月はあっさりと蓮夜の正体をばらすヴァトラーに苛立ちを感じている。
雪菜との関係に関しては古城と同じく、監視対象に入ってしまった。どうやら獅子王機関にも十分注意しろ、と言われていたらしい。あと、敵対するなとも言われているようだ。
流石に今まで築いてきた関係が失うと思っていたが、そうでもなかった。むしろ納得したような表情だった。
「黒死皇派の悲願は、第一真祖の抹殺だと聞いています。彼らはそれを実現する手段を求めて絃神島に来たのではないのですか?」
那月は退屈そうに首を振った。
「そうだな。だから無駄なのさ。ガルドシュの目的はナラクヴェーラだ」
「ナラクヴェーラ……?」
聞き慣れ言葉に、雪菜が眉を寄せる。
「南アジア、第九メヘルガル遺跡から発掘された先史文明の遺産だな。かつて存在した無数の都市や文明を滅ぼした神々の兵器の事だ。覚えておく意味もないから知らないのも無理は無い」
雪菜の疑問に蓮夜が答えた。
「神々の兵器……って、なんだそのヤバそうな代物は? まさか、そいつが絃神島にあるって言い出すんじゃないだろうな」
「表向きには、もちろんあるはずのないものだが、実はカノウ・アルケミカルという会社が、遺跡から出土したサンプルの一体を非合法に輸入していたらしい。もっともそいつは少し前にテロリストどもに強奪されてるんだがな」
「あんのかよ!? しかも盗み出されたあとなのかよ!?」
「九千年も前に造られた兵器だ。別段焦ることは無いだろ?」
「それは……どうだが……」
慌てふためく古城に蓮夜は落ち着けという意味を籠めて言う。それに蓮夜なら、その程度の古代兵器は玩具のような感覚だ。その程度じゃ
「奪われたのは遺跡からの出土品だと言っただろう。とっくに干からびたガラクタだぞ。仮にまだ動いたとしても、それをどうやって制御する気だ?」
「……制御する方法に心当たりがあったから、黒死皇派は、その古代兵器に目をつけたのではありませんか?」
雪菜が冷静に指摘した。那月は愉快そうに口角を上げ、
「ふん、さすがにいいカンをしているな、転校生。たしかにナラクヴェーラを制御するための呪文だか術式だかを刻んだ石板が、最近になって発見されたらしい」
「だったらやっぱりその兵器が使われる可能性があるってことなんじゃねーかよ」
「世界中の言語学者や魔術機関が寄ってたかって研究しても、解読の糸口すらつかめていない難解なブツだぞ。テロリストごときが、ない知恵を絞ったところでどうにもならんよ」
那月はやる気の無い声で突き放す。
「とにかく、あの蛇遣いがなにかを言ったところで、おまえたちの出る幕はない。強いて言えば追い詰められた獣人どもの自爆テロに気をつけることくらいだな」
「自爆テロ……!」
思いがけない言葉に古城は顔色を変える。
「それからもうひとつ忠告しといてやる。暁古城。ディミトリエ・ヴァトラーには気をつけろ」
運ばれてきた紅茶をすすりながら、那月がぼそりと呟いた。
「やつは自分よりも格上の"長老"―――真祖に次ぐ第二世代の吸血鬼を、これまでに二人も喰っている」
「―――同族の吸血鬼を……喰った?あいつが!?」
さすがに古城、雪菜は驚愕の色を隠せない。
ソファーに座っている蓮夜は、その事を聞いて自分も喰った事は言わない方がいいかなぁ、と思って口を開かなかった。
「奴が"真祖にもっとも近い存在"といわれる所以だよ。せいぜいおまえたちも喰われないようにするんだな」