ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
「さて、どうしようか……」
蓮夜はどうやって一キロほどの海上に浮いている豪華客船に乗り込もうかと現在考え中。
「いっそ、眷獣を出して行くか……いや、こんなところであまり出したくは無いな……なら霧化していくか」
霧化しても全く問題はないが、唯一の心配事が浅葱に見つかるかもしれないという不安だ。
今まで普通の人間のフリをして学校に通っているが、実は吸血鬼だったと知った反応がある意味怖いのだ。
浅葱なら「何で今まで黙っていたのよ」って怒られてお終い、という可能性があるがそこから"
「しかし秘密というのは、ふとした拍子でバレるようなもの。……腹を括るか?」
蓮夜はため息を吐きながら、一部を霧化して"オシアナス・グレイヴ"向かう。
"オシアナス・グレイヴ"に向かっている最中、船の周囲に結界が張られているのに蓮夜は気付いた。
「ちっ、力尽くで破壊するか」
船の上空で全身を実体化させ、足に魔力を集約させる。
「ぶっ壊れろッ!」
踵落としの要領で結界を紙のように破壊し、甲板に見事着地した。―――丁度甲板にいた雪菜と獣人の間に。
その登場に二人は呆気に取られ、蓮夜と認識した雪菜が慌てながら声を荒げる。
「ほ、縫月先輩!?ど、どうしてここに……」
「心配性たる古城に変わって、様子を見に来たんだよ。―――まぁ、タイミング的に要らなかったかも知れないな」
その言葉に雪菜が頭上に疑問符を浮かべている時、突風が蓮夜たちを襲った。
台風のような暴風が吹き荒れている中、獣人と雪菜はなんとか踏みとどまっており、蓮夜は普通に立っている。そして、暴風と共に銀色の槍がこっちに飛んでくる。
「あれは……"
どうやら雪菜にも判ったらしく、驚きの声を上げるが風に乗ってきた銀色の槍を空中で掴むと同時に風が止んでいく。
"雪霞狼"が飛んできた方角を蓮夜は、魔力を使いながら目を凝らして見ると、こちらに何かを投げたような体制でいる矢瀬がいた。
(へぇ……矢瀬か。成る程ねぇ……まぁ、害はなさそうだから別に手を加えなくていいだろうな)
「気流使いか……流石は極東の魔族特区。奇怪な技を使う者が多いな。だが―――」
獣人は蓮夜を見ながら口を開く。どうやら結界を紙切れのように破壊して現れた蓮夜に興味があるようだ。
「結界をいとも簡単に破壊し、侵入してくるきみは何者なんだ?」
「俺か?俺はここにいる剣巫の先輩であり、ワケありの吸血鬼さ!」
吸血鬼としての身体能力を駆使して一瞬で獣人に近付く。
蓮夜は上段蹴りを放つが、それに反応した獣人はしゃがむことで回避し、手にあるナイフで蓮夜を突き刺そうとするが、その部分が霧となり空しく通過する。
「なにっ!?」
「隙だらけだ!」
呆気に取られている獣人に蓮夜は魔力を纏った手刀を繰り出す。
なんとか反応した獣人だが、避けきれずにナイフを持っている右腕を肘あたりから切断された。
「ぐうぅ!」
激痛が走っているのにも関わらず、すぐに行動を開始して蓮夜と距離を取る。
鮮血が噴出している箇所を左手で押さえる。
「なるほど、君の正体が分かったぞ。まさか、"
「ふむ、そういうお前はクリストフ・ガルドシュか?」
蓮夜は獣人の頬にある大きな古傷を見て、相手がどんな奴なのかやっと分かった。
「敵としては最悪の相手だ……だが、この戦争は私の勝ちだ」
傷口から手を放し、懐から拳銃を取り出したかと思ったら、蓮夜に全弾発砲する。
蓮夜の持つ眷獣の特殊能力により、当たった箇所から霧となり全て効かなかったが、ガルドシュはその隙に斬られた右腕を拾い上げ、アッパーデッキの方へ跳躍する。
そこにはガルドシュの部下が二人いて、それぞれ浅葱と凪沙を抱えている。
「藍羽先輩!?凪沙ちゃん!?」
「ちっ、面倒な」
二人を見て短い悲鳴を上げる雪菜と、隣で蓮夜がガルドシュを睨み付けている。
雪菜は"雪霞狼"を構え、蓮夜も足に魔力を集約させ敵を薙ぎ払おうとした瞬間、二人の眼前に真紅の閃光が薙いだ。
「これは……」
「ナラクヴェーラ!?まさか……!?」
海面を突き破るように浮上してきた古代兵器は、"オシアナス・グレイヴ"に船体に張り付いているが、
その様子に蓮夜は首を傾げているが、雪菜は思い当たる節があるようだ。
「石板の解読は?」
「終わったようです。内容の正確性については、グレゴーレがすでに確認してます。あのように」
そうか、と満足そうにガルドシュがうなずいた。
「―――ということだ。投降したまえ、獅子王機関の剣巫、そして"
その勧告に雪菜は唇を噛んで悔しそうしている中、蓮夜は軽く笑い声を上げている。
「……何がおかしい?」
「いやいや、おかしくはないさ。ただ―――あまり第四真祖を舐めない方がいいぞ?」
その直後―――
蓮夜たちの耳をつんざく、絶叫にも似た獣の遠吠えが空に鳴り響いた。
そして爆発が喰らったのかのように、無数の破片を撒き散らして、
―○●―
「くそ……やっぱダメだったか」
矢瀬荒い息を吐きながら言う。
先ほどは気流を制御して"雪霞狼"を"オシアナス・グレイヴ"まで吹き飛ばすという荒業を使った。
上手くいったのに、矢瀬の表情は険しいままだ。
「いくら姫柊っちでも、あの古代兵器が相手じゃどうにもならねーよな。こっちは懲罰もののリスクを冒してまで手助けしてるってのに。浅葱のやつ、頑張りすぎなんだよ―――」
あそこには一応蓮夜がいることは矢瀬も知っている。だが、矢瀬は蓮夜に期待なんてしていない。
確かに蓮夜は古城を助けたりと積極的に動いているが、実は違う。
矢瀬には蓮夜の考えが全く判らない。だが、彼女には「蓮夜が助けてくれると期待するな」と言われている。
まぁ、蓮夜が本当にこの事件を終わらせて行動しているのなら、すでに終わっている。
そんな矢瀬を面白そうに眺めながら、派手な三揃えを着たヴァトラーが言う。
「なるほど。監視者であるきみが直接、戦闘に介入するのは禁忌というわけか。きみも意外に苦労してるんだねェ」
丁度十三号
一機でも相当な破壊力のナラクヴェーラが合計六機。ヴァトラーにとっては興味深い戦いになるだろう。
「さて、ガルドシュのほうの準備も済んだみたいだし、そろそろボクの出番かな」
久々な死闘の予感に、ヴァトラーは浮き浮きとしながら歩き出す。
その背中に、矢瀬は皮肉っぽく笑いかけた。
「そいつはどうかね。第四真祖の親友として言わせてもらえば、
その言葉を肯定するかのように、キィン、という耳障りな高周波が、ヴァトラーたちの周囲を覆った。
「……へぇ」
ヴァトラーは関心したように呟いた。地下から凄まじい魔力の塊が出現し、その禍々しい波動を無差別に撒き散らしている。
「来たか、古城」
矢瀬は満足そうに呟いて、力尽きたように目を閉じる。
―○●―
「流石は俺の親友。期待を裏切らないなぁ……」
"オシアナス・グレイヴ"の甲板から蓮夜は人工増設島から感じ取れる魔力の塊に笑みを浮かべる。
「第四真祖の眷獣か!グリゴーレ!わたしが
『了解です、少佐』
ガルドシュは無線機で部下と連絡を取り合い、すぐに船倉の方へと走り出す。
「待ちなさい、クリストフ・ガルドシュ!」
雪菜は銀色の槍を翻して、彼らの後を追おうとする。そんな雪菜を一瞥して、ガルドシュの部下が何かを放った。ジュース缶ほどの大きさの金属の筒。
それは手榴弾だと気付き、愕然とする。
上甲板には、浅葱たちが放置されたままである。手榴弾なんてものを喰らえば、死ぬのはほぼ確実と言っていいだろう。
雪菜はガルドシュの追跡を諦めて、倒れている浅葱たちへと覆いかぶさろうとする。
「―――こんなものを放り投げるなよ」
蓮夜はそう呟き、白い霧を放つ。手榴弾を覆うように呑み込むと、霧に触れた箇所まで丁寧に抉れていた。
「……え?」
雪菜は、目の前で起きた手榴弾が消失する現象に目を丸くする。
吸血鬼は確かに身体を霧にすることが可能だが、霧を使って物質を消すなんて芸当は絶対に出来ないからだ。
雪菜は何をしたのか分からなかった。蓮夜に視界を向けようとすると、
「―――取り合えず、全員無事のようだな」
雪菜の眼前に空間の波紋を揺らしながら、黒いフリルの日傘をさした豪華なドレスの幼jy―――女性が現れた。
「そこにいる、規格外の吸血鬼が結界を破壊したおかげでようやく転移出来た。うちの生徒を庇ってくれたことには、一応礼を言っておこう、姫柊雪菜」
「雨宮先生!?」
「規格外とは酷い……事実だからしょうがないか」
雪菜は突然現れた那月の驚き、蓮夜は規格外呼ばわりしたのを心外だ、というが事実だから肯定してしまった。
雪菜は那月が空間転移がこんな簡単に使えることが知らなかったようだ。一応"空隙の魔女"の二つ名は知っていたみたいだが。
「私はこいつらを安全な場所まで連れて行く。お前はどうする、転校生?」
「私は暁先輩と合流します。監視役ですから」
「ふん、仕事熱心なことだ」
那月は蓮夜の方を向いて口を開く。
「お前はどうするんだ、蓮夜」
「俺か?そうだな……ふむ、手助けくらいはしようかな?」
蓮夜は今まで雪菜が見たことが無い好戦的な笑みを浮かべて人工増設島の方を見ると―――突如上空に浮かんできた、緋色の鬣を持つ