ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~   作:ノスフェラトゥ

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episode:8

古城と紗矢華は、増設人工島(サブフロート)表面を覆っていた鋼板地の大地濡れた身体で立っていた。

濡れている理由が、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"でナラクヴェーラを攻撃した際、地面が壊れて地下に落ちてしまった。その時、海水が浸水してきてしまい、濡れたというワケだ。

 

「……あなたは本当に無茶苦茶ね」

 

後ろに出来たクレーターを見て呆れた表情で紗矢華が嘆息する。

 

「俺じゃなく眷獣(アイツ)に言ってくれ。俺は通路を塞いでいる瓦礫をどうにかしてもらえればそれで良かったんだよ」

 

紗矢華の血を霊媒として覚醒した新たな眷獣、第四真祖の九番目の眷獣"双角の真緋(アルナスル・ミニウム)"。高周波振動を撒き散らす双角獣(バイコーン)

古城はナラクヴェーラに"双角の深緋(アルナスル・ミニウム)"を叩きつけ、あまりの威力に操縦者は死んだかと思ったが、紗矢華がそれを「獣人の生命力ならあの程度なら死なないわ」と古城に言う。

そして、操縦者が乗っていないナラクヴェーラを緋色の双角獣が襲おうとするが、横から来た戦輪(チャクラム)のような物に攻撃され、動きを止めた。

 

「―――なんだ!?」

 

古城が声を上げ、"オシアナス・クレイヴ"の後部甲板を睨む。そこから巨大ななにかが出現する。

ナラクヴェーラと同じ装甲まとっているが、桁違いに大きい。八本の脚と、三つの頭。女王アリのように膨らんだ胴体。

そして、双角獣に向かって、無数の戦輪が一斉に撃ち放たれた。被害は増設人工島だけではなく、絃神島本体へと落下していき、市街地がら黒煙が上がる。

 

「ふゥん……これが本来のナラクヴェーラの力か。やってくれるじゃないか、ガルドシュ。こんな切り札を残していたとはね。どうする、古城?ボクが代わろうか?」

 

ヴァトラーは古城の近くまで歩み寄り、挑発的な笑みを浮かべる。

古城は苦々しげに舌打ちをし、攻撃的な顔で睨む。

 

「引っ込んでろって言ったはずだぜ、ヴァトラー……。どいつもこいつも好き勝手にしやがって、いい加減こっちも頭に来ているんだよ!」

 

古城の怒りが眠っていた闘争心に火がつき、真祖としての"血"を滾らせる。

 

「相手は戦王領域(おまえら)のテロリストだろうが、古代兵器だろうが関係ねぇ。ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

 

古城が纏っている覇気を、ヴァトラーが満足げに眺めて笑った。

なにも言わずに立ち上がった紗矢華が、剣を構えて隣に立つ。

そして古城の右隣には、小柄な影が歩み出た。

 

「―――いいえ、先輩。わたしたちの、です」

 

銀の槍を構えた制服の少女―――姫柊雪菜が、何故か拗ねたような瞳で古城を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

「ひ……姫柊?」

 

古城は驚いて彼女の名を呼んだ。雪菜は無感情な冷たい瞳のまま、小首を傾げた。

 

「はい。なんですか?」

 

「え、と……どうしてここに?」

 

「監視役ですから。私が、先輩の」

 

雪菜はそのまま"雪霞狼(せっかろう)"の矛先を古城に向ける。向ける相手が違うッ!と叫びたかった古城だが、今の雪菜には逆らえない。

そして、古城の新しい眷獣、"双角の深緋(アルナスル・ミニウム)"と紗矢華を見比べる雪菜。

 

「新しい眷獣を掌握したんですね、先輩」

 

抑揚のない冷たい声で雪菜が古城に訊く。古城も雪菜のただならぬ雰囲気に唾を飲む。

 

「あ、ああ。何故か、色々あってこんなことに」

 

「そ、そう。不慮の事故というか、不可抗力的な何かがあって」

 

紗矢華が目を伏せて、着ている古城のパーカーの襟を引っ張った。

 

「そうですか」

 

雪菜は何か言いたげだったが、深いため息をつく。そして、銀の槍をナラクヴェーラに向けて構えなおす。

 

「では、その話はまた後で。ますは彼らを片付けましょう」

 

「あ、ああ」

 

雪菜は、もう一度短く息を吐き、地上に出てきた巨大な古代兵器を睨んで言った。

 

「先輩、クリストフ・ガルドシュはあの女王ナラクヴェーラの中です」

 

「女王……指揮官機ってことか?」

 

古城の言葉が終わる前に、女王が再び、戦輪の一斉砲撃を放った。双角獣の咆吼がそれを撃ち落とす。再び、爆炎に包まれる。

続けて四機の小型ナラクヴェーラが、真紅の閃光を乱射した。

灼熱の光線を紗矢華が必死に撃ち落す。

 

「ああくそ、どいつもこいつも無茶苦茶しやがって……!」

 

絶え間ない攻撃に古城が切れる。

 

「―――疾く在れ(きやがれ)、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"!」

 

雷光の獅子が、稲妻を撒き散らしながら敵陣へと踊りかかり、数体のナラクヴェーラを蹴散らす。

残りのナラクヴェーラを蹴散らそうとした刹那、

 

「―――顕現せよ、"無限煉獄(ムスペルヘイム)"」

 

超膨大な熱量を含んだ灼熱の焔が一体のナラクヴェーラを呑み込み、溶解させた。

あまりの規格外の攻撃に、古城だけではなくクリストフ・ガルドシュまでもが動きを止める。

 

「一体目。後は……女王も入れて五体か」

 

声がする方向を見るとそこには黒髪の少年、縫月蓮夜が立っていて右手を前に突き出している。その周囲には、先ほどの紅蓮の焔が渦巻いている。

 

「……今の蓮夜の、か?」

 

古城は、冷や汗を垂らしながら蓮夜に訊く。

 

「ああ、さっきの焔なら俺の眷獣だ。だから気にするな、女たらし(古城)

 

「……今、不穏な発言を聞いたような気がするんだが……」

 

「さあ?俺に訊かれても」

 

古城は蓮夜を睨むが、どこか吹く風のように受け流す。

それにより、紗矢華と雪菜の緊張が解れ、ガルドシュもようやく正気に戻ったようで部下に命令を飛ばす。

 

「流石に古城たちでは、ナラクヴェーラを六体同時は無理があるだろうな。だから、二体ほど葬るから」

 

「どうせやってくれるなら、全部にして欲しいんだけど」

 

紗矢華が蓮夜にそう愚痴り、隣では雪菜も頷いている。その二人を呆れながら見て、蓮夜は口を開く。

 

「お前ら、俺がどういう存在か完全に忘れているだろうな?」

 

「「―――あ」」

 

雪菜と紗矢華は同時に声を漏らした。

そう、蓮夜は世間では存在しない者。そして、その力は真祖と同等と言われている吸血鬼。あまり表に出てはダメな存在なのだ(実際は、結構知れ渡っているか、今回のようなテロリストや真祖、"旧き世代"くらい)。

蓮夜の存在が知られれば那月にも迷惑が掛かるし、下手をすれば世界規模で人が動くとこになりかねない。

古城は未だに首を傾げているが、二人は理解できたようで渋々といった感じで引き下がった。

 

「ったく只でさえ手を出したくないのに……ということで三人共頑張れよ。俺はナラクヴェーラを破壊したら、高みの見物を決め込むから」

 

蓮夜は軽い調子でそう言い、未だに動いている一体に向かって突貫した。走りながら手元に"龍殺しの魔剣(グラム)"を顕現させる。

 

「よっ!と」

 

軽い調子でナラクヴェーラの足を二本斬り裂き、体勢を崩した。その隙を突いてナラクヴェーラを真っ二つにしようと跳んでから振り下ろすが、ナラクヴェーラの当たる寸前に見えないなにかに弾かれる。

それに驚いた蓮夜だが弾かれた瞬間、青白い火花のようなものを見た。

 

「う~ん……斥力フィールドか?触れたら斬れるから、触れさせないか。……機械の癖に学習能力は健在だなぁ」

 

そんな軽口を叩いている間に、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"で破壊されたはずのナラクヴェーラは既に自己修復を終えている。しかも素材が変化して耐性が増しているようだ。

その間にも蓮夜が相手しているナラクヴェーラも自己修復を終えている。

 

「はぁ、メンドクサイな……古城たちに言った手前、片付けないとな」

 

蓮夜は"龍殺しの魔剣(グラム)"を消した。

蓮夜の"意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン)"である"龍殺しの魔剣(グラム)"は、魔術的なものを斬ることは可能。だが、斥力など自然現象を斬ることは不可能。斥力フィールドを展開しているのなら、蓮夜の"龍殺しの魔剣(グラム)"は意味が無い。

ナラクヴェーラは丸腰になった蓮夜に"火を噴く槍"であるレーザーを放ち頭に直撃するが、またもや霧となってダメージなど負わなかった。吹き飛ばされた霧は頭部に収束され、蓮夜の頭に形成された。見事な規格外っぷりである。

 

「そうだ!倒せないのなら異空間に封印すればいいか」

 

名案だ、と言わんばかりにポン、と手を叩き早速実行に移すことにした。

 

「悪く思うなよ、中にいる獣人。―――"万魔の王都(ニヴルヘム)"」

 

ドァ!と蓮夜の下半身を中心に一気に霧となり、ナラクヴェーラの退路を断つようにして霧を展開し、その巨体を呑み込む。そして、霧が蓮夜に戻った時にはナラクヴェーラの姿は何処にも無かった。

これが蓮夜の持つ眷獣、"万魔の王都(ニヴルヘイム)"であり、蓮夜が"不死王(ノーライフキング)"たらしめている眷獣。縫月蓮夜の代名詞との言われている眷獣。

身体を霧化して攻撃を回避することも可能。霧に触れた対象物を、蓮夜の意思により消滅させたりすることも、全て"万魔の王都(ニヴルヘイム)"の能力だ。眷獣の中でも唯一、常時展開型の眷獣である。

現在、ナラクヴェーラは霧化した蓮夜の体内に展開した異空間に取り込まれ、封印されている。自力での脱出は不可能に等しい。

 

「さて、こっちは終わり。古城たちは―――」

 

「―――妖霊冥鬼を射貫く者なり―――!」

 

紗矢華の持つ武器、"六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)"である"煌華麟(こうかりん)"が剣から弓に変わっており、銀の矢を上空に放っていた。

上空に巨大な魔法陣が展開され、生み出された膨大な"瘴気"が古代兵器に降り注がれる。それにより、ナラクヴェーラの機能を阻害する。

 

「もう終りが近いか……」

 

もう、その先の結末が見えてきたので傍観することにした。

機能を阻害されている"女王(マレカ)"に"獅子の黄金(レグルス・アウルム)と"双角の深緋(アルナスル・ミニウム)"の同時攻撃を行う。

"女王"から出てきたガルドシュが笑いながら左手でナイフを引き抜いた。

ナイフを雪菜に向かって振るうが、槍を構えずに身体をずらして避けるだけだ。そこで、飛来してきた矢がガルドシュの左肩を貫き、ナイフを落としてしまった。

放ったのは、遠方にいる紗矢華だ。それだけで彼女の弓の腕が分かる。そして、

 

「―――終わりだ、オッサン!」

 

先日戦った殲教師を倒した時と同じ言葉を言い放ち、ガルドシュの顎に目掛けて渾身のアッパー食らわせた。

完全に力尽きたガルドシュを放って、雪菜は"女王"の操縦席に乗り込み携帯を操作して音声ファイルを再生した。すると、"女王"含めた全てのナラクヴェーラは朽ち木のように地面に転がり、石化して崩れ去る。

神々の古代兵器の最後しては呆気ない幕引きだ。

 

「これで終わりか……これでしばらくはゆっくり出来る。だからあまり厄介事を持ち込まないで欲しい―――ヴァトラー」

 

「さァ、それは分からないヨ?」

 

蓮夜の隣に来たヴァトラーは古城たちを見て満足気に笑っている。

 

「退屈凌ぎには、なったらしいな」

 

「ああ、もちろんですとも。堪能させてもらったヨ。それに、久し振りに"不死王(ノーライフキング)"であるあなたの眷獣を見させてもらったしね」

 

ヴァトラーたちの前で"無限煉獄(ムスペルヘイム)"を見せてしまった。相変わらずの規格外の眷獣を目の当たりにしても、どうやらヴァトラーは蓮夜のことを諦めていないようだ。

 

「それと、これからも(・・・・・)よろしくお願いするよ」

 

「は……?いや、ちょっと待て―――」

 

何か不穏な言葉を言葉を残して、この場を去ったヴァトラーに頭を抱えた。

 

―――あれ?これって厄介事に巻き込まれていないか?

 

意外にも苦労が絶えない、災厄の吸血鬼"不死王(ノーライフキング)"であった。

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