ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~   作:ノスフェラトゥ

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~第三章 天使炎上~
episode:1


「まだ完全には元に戻らない、か……」

 

蓮夜は上半身だけベッドから起き上がらせ、自分の手を開いたり握ったりしていた。別に運動能力が低下したとかではなく、吸血鬼が持つ負の魔力についてだ。

あれから何百年と経ったが、一向に回復の兆しが見えない。ある程度回復しているので普段戦うのは問題ないが、真祖レベルと戦り合うのは現状不可能だ。

 

「……やはりあの杭が原因、なのか?」

 

かなり昔、蓮夜に傷を負わせた"真祖殺しの聖槍"思い出しながら、穿った左胸に触れながら眉を顰める。だが、それは考えにくい。既に効力を失っているからだ。

原因は分からないが、真祖と"アイツ"相手に戦わなければ大丈夫だ。と自分に言い聞かせる。

 

「さて、起きるか」

 

時計を見ていつもより早く起きてしまったことを確認してから、ベッドから出ようと思い片手をついたら何か温かいものを掴む。

おかしい、と蓮夜は思った。この部屋には自分一人。故に蓮夜以外誰も居ないのは当たり前なのだ。だが、右手から感じる温もりは間違いなく人肌の体温。

時々間違えて蓮夜のベッドで眠る那月は、確か最近起こっている事件のため家に居ない。

蓮夜はチラリ、と右手に感じる温もりの正体を見てみると、

 

「……すぅ……すぅ」

 

「あ……アスタルテ?」

 

蓮夜の隣で規則正しい寝息を立てているのは、藍色の髪の少女だった。

人工的な顔立ちに、ほっそりとした未成熟な身体。人工生命体(ホムンクルス)であるアスタルテだった。

 

―――しかもYシャツのみという扇情的な格好で。

 

彼女は動揺している蓮夜に気付いたのか、ゆっくりと瞼を開ける。そして水色の感情をあまり感じさせない瞳で蓮夜を捉えると、上半身を起こした。

 

「おはようございます、マスター。今回の起床は四十分ほど早いです」

 

抑揚の無い声で淡々と言葉を発しているが、これはいつもと変わらないので蓮夜自身特に気にしていない。

 

「……お前に幾つか訊きたいことがある。正直に言えよ?」

 

命令受諾(アクセプト)

 

「じゃあ訊こう。何故俺のベッドにで寝ている?」

 

まず最初に疑問に思ったことをアスタルテに訊く。アスタルテの中ではマスターが蓮夜、次が那月と命令優先権が存在する。故に蓮夜の言葉には逆らえない。

 

「教官がマスターを寝ていた日は、執務室で上機嫌でしたので私的理由により今回一緒に寝てみました」

 

どうやら間接的な原因は那月のようだ。そして自分と寝た日はそんなに上機嫌だったことを知った蓮夜であった。

 

「あともう一つ。何故俺のYシャツを着ている?しかも下着を着ていない理由は?」

 

アスタルテと蓮夜の身長は結構違うので、自然的に裾が長く完全に手が隠れており上ボタンを閉めていないため、白い肌の鎖骨やら胸元が見えている(下の方のボタンである第五ボタン?だけが閉められている)。

何故服を着ているのに、裸以上に扇情的に映るんだろうか?

そんな蓮夜の疑問を他所に、アスタルテは淡々と答える。

 

「先日、保健室に来た生徒からのアドバイスです。これで男性と一緒に寝れば、男性の方は嬉しいと。マスター、私と一緒に寝れて嬉しかったですか?」

 

アスタルテの言葉を聞き、蓮夜の頬は若干引き攣っている。そういう知識が全く無いアスタルテはそのまま鵜呑みにして遂行したのだろう。

アスタルテは医療用の人工生命体として作られているため、医師免許保有者と同等の知識を持っている。だから那月が授業で居ない時などは保健室にいる。学園でエプロンドレスを着ている少女はアスタルテしか居ないため、周知の事実だったりしている。

そして、那月と一緒に住んでいるということは必然的に蓮夜とも一緒に住んでいるという意味になる。その事を知っている女子学生が面白半分でアスタルテに教えたのだろう。医療系以外の知識はほぼ皆無に等しいから。

 

「……まぁ、必然的にこうなるか」

 

「マスター、どこかおかしかったですか?」

 

いつものように無表情で訊いて来るが、不安が見て取れた。

それだけなら、まだ下僕として可愛げがあったが、那月が選んだとされる黒い大人の下着を付けているアスタルテは、色んな意味で危ない。下着とのミスマッチ具合、Yシャツ一枚、容姿などが相まってロリコンじゃなくても軽い性的興奮を覚えてしまう。

 

「いや、どこもおかしくは無い。ただ驚いただけだ」

 

性的興奮を誤魔化すようにアスタルテの頭を撫でる。アスタルテは蓮夜になされるがままになっていて、撫でられている本人は気持ちいのか目を細めて笑みを浮かべている。

いつも無表情だからそのギャップに蓮夜は「あ、コレ失敗だわ」と完全にアスタルテに性的興奮を覚えてしまった。だが、そこは真祖と並ぶ吸血鬼。吸血衝動くらいは完全に制御出来るので問題ない。

 

「あ、これ那月に見られたら終わりじゃね?色んな意味で」

 

今この状況がバレた時の那月の反応を思い浮かべて冷や汗を流すが、幸いにして今回は家に帰って来ていない。

いつまでもこうしているわけには行かないので、早々に着替える。

 

 

 

 

 

 

「アスタルテ、準備は終わったか?」

 

「はい、いつでも行動可能です」

 

吸血してから、二人共着替えて、朝食を食べたらいつもよりか早い時間だったが別に構わないということで学園に行こうということになった。

蓮夜が他の吸血鬼とは違う。だから吸血する意味までの違ってくる。

蓮夜の吸血する理由は、主に未だ眠っている眷獣への供給のためだ。蓮夜が持っている眷獣の中でも特に強力なので、暴走させないように血を飲み、魔力を高めたものを供給している。

 

「……その服で行くのか?」

 

「はい。身体機能を特に阻害される事なく行動可能ですので、衣服を変える必要はないかと進言します」

 

「……そうか」

 

何故蓮夜がそんなことを訊くのかと言うと、アスタルテの格好がいつものエプロンドレスだからだ。

普段那月はそうやってアスタルテを学園まで連れて行っているのか分からないが、一介の高校生には共に行動する気にならない(吸血鬼のことは差し置いて)。

本人が良いと言っているので、蓮夜は結局アスタルテと一緒に学園へ行く羽目になった。

 

 

 

          ―○●―

 

 

 

その日の放課後。

蓮夜は那月に呼び出されたため、那月専用の執務室まで赴いていた。何故那月の部屋が理事長室よりか豪勢&高い位置にあるのか疑問に思う。その時は蓮夜が側に居ず、いつの間にかこんなことになっていた。

一瞬、結界についてだと思ったがそれも遠からず、といった感じだ。

 

「仮面憑き、ねぇ……まだ事件か」

 

「私だって平和が一番なのだがな。仕方なかろう、これも私たち攻魔官の仕事だ」

 

那月はため息を吐きながら、アスタルテが淹れてくれた紅茶を飲む。蓮夜もソファーに腰深く座り、天井にあるシャンデリアを見上げる。

今二人が話している内容は、最近多発してきた事件についてだ。那月もこの事件を追っているらしく、写真やら長所などが机の上に無造作に置かれている。

 

「ヘンな仮面を付けてお互いに殺し合い、勝った方は何処かに飛んで行ってしまう。先日その死体を回収してな、近い内見に行くつもりだ。その際にお前もついて来い」

 

「別にいいが……何故俺?」

 

「お前は膨大な時間を生きているからな。それこそ真祖に匹敵するほどの時間を、な。だからもしかすると、お前なら何か気付くかもしれないと思って連れて行くワケだ」

 

どうやら那月は蓮夜の意見を聞きたいようだ。蓮夜は何百年もの間生きているからそれなりに詳しい。那月が気付かない所も蓮夜なら気付くと思っているのだろう。

 

「なるほど、ね。まぁ、期待はするなよ。俺にも判らないことがあるんだから」

 

「それぐらいは百も承知さ。取り敢えずついて来るだけでいい」

 

了解、と返事をして蓮夜は那月の執務室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「あ、蓮夜くん。どうしたの?こんな所で」

 

「うん?……ああ、凪沙か。部活は休みなのか?」

 

学園の中庭のベンチに座っていたら、古城の妹である凪沙が蓮夜のことに気付き、小走りで目の前に来た。

大きな瞳が印象的な表情豊かであり、一緒に居ても飽きない子である。顔立ちなどが幼い印象があるから小動物に感じる。

 

「うん、そうだよ。今日は先輩たちが抜けれない事情があるからって言う理由で今日は休みだよ。ところで、なんで中庭のベンチに座っているの?いつもは古城くんと一緒に居るのに今日は別々なんだね。あ、もしかして誰かと待ち合わせをしているの?ダメだよ、あまりブラブラしちゃ南宮先生が心配しちゃうよ。それに最近事件が頻繁に起きているんだから気を付けなきゃ―――」

 

「あー、分かった。分かったから落ち着け。誰とも待ち合わせしていないし古城なら浅葱の美術の手伝いだ。俺が此処に居る理由はただ落ち着きたかったからだ」

 

凪沙の相変わらずのマシンガントークを聞き、呆れる。でも、しっかりと聞かれた事を返しているのは蓮夜の優しさ?だ。

蓮夜が待ち合わせじゃなくただ座っていると知った凪沙は蓮夜の隣に腰を掛けた。

 

「あたしも用事が無いから、蓮夜くんと一緒に居るよ。最近こうやってゆっくり話してないし」

 

凪沙の言う通りである。最近の蓮夜は事件に巻き込まれまくっているので、最近古城の家に遊びに行っていない。

 

「そうだな……今度そっちに遊びに行こうかな」

 

「え、ホント!?遊びに来てくれるの!?」

 

蓮夜がぼそり、と呟いた言葉を聞いたようで腕に抱きつき、上目遣いで見上げてくる。その瞳には期待の二文字が見て取れる。

あまりに嬉しそうな凪沙に苦笑いしながら頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細め、催促してくる。

 

(なにこの小動物、めっちゃ可愛いんだけど。そう言えば凪沙はモテるって聞いたことがあるな)

 

築島から聞いた限りじゃ、可愛いやら話しかけやすいなどの理由から二桁ほどの告白をされたことがあるらしい。全員玉砕したらしいが。

だが、かなりのお喋りな事を除けば、『家事も出来て料理は美味しい、いつも明るい可愛い子』といった至り尽くせりの子になる。モテる理由は沢山ある。

 

「ん?蓮夜くん、その包みって何?」

 

凪沙が指差す先にあるのは、蓮夜のバッグから見えるクッキーが入っている袋だ。心なしか声のトーンが少しばかり下がっているような……。

 

「ああ、これか?このクッキーはお返しのようなものだ」

 

「お返し?」

 

「この前、高等部一年の女子の悩み相談を受けてな、そのお返しだ」

 

そういって袋をバッグから取って見せようと思ったら、袋の口を止めているリボンに引っかかったのか、一枚の白い手紙が下に落ちる。

 

「あ、手紙が落ちちゃったよ蓮夜くん」

 

「は?いや、ちょっと待て。それは―――」

 

凪沙は手紙を拾い、好奇心で誰からなのか見た瞬間ピシリ、とまるで石化したように動きを止めてしまった。表情も全く動いていないため、かなり怖い。

 

「……ねぇ、蓮夜くん」

 

「は、はい。何でしょうか、凪沙さん」

 

ただならぬ雰囲気に呑まれ、年下でもある凪沙に敬語を使用した。凪沙の身体から黒いオーラが漂っているのは目の錯覚だろうか。

 

「これ、何?」

 

蓮夜の目の前に突き出したのは、さっきの手紙の裏側。

そこには赤いハートのシールで手紙の口を閉じており、下には女子生徒であろう人の名前が書かれている(もちろん前には蓮夜の名前が書かれている)。

 

「えーっと……手紙?」

 

「そう、手紙だよね。蓮夜くんの名前が書かれているのは分かるよ、うん分かる。けど、後ろのハートのシールと女の子の名前は何かな?しかもこの子、あたしのクラスメイトなんだよね。ねぇ蓮夜くん、これはラブレターなんじゃないのかな?」

 

確かにいつも通りの笑顔なのだが、蓮夜にとってこれは恐怖でしかない。目が完全に笑っていない。側の木で止まっていた鳥たちが一斉に何処かに羽ばたいて行った。口元が僅かに痙攣していることから怒りが頂点に達していることが分かった。

蓮夜は話題を逸らそうとするが、いい話題が思いつがず冷や汗が流れていく。しかも話題を逸らせる自信が無い。そして改めて認識した。

 

―――女の子って怖い。

 

 

真祖に近い災厄の吸血鬼でも、女には勝てないことが証明された瞬間である。

 

 

蓮夜は凪沙が今抱いている感情を理解できるようになるのは、一体いつになるのか……。

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