ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
episode:1
「第四真祖、ですか?」
深い森の中にある神社の拝殿に中学生くらいの少女に、御簾に遮られて姿が見えない三人の計四人がいた。
「一切の血族同胞を持たない、孤高にして最強の吸血鬼と言われています」
「聞いたことはありますか?姫柊雪菜」
「……噂は」
二人の問いに姫柊は神妙に頷く。
第四真祖"
十二の眷獣を従える孤高の吸血鬼であり、世界最強の吸血鬼の肩書きを持つ者。
それは噂程度で実在しているわけじゃないと思う人が大多数である。
「魔族と混同するこの世界で、人類の最大の敵である吸血鬼が仮初めでも我ら人間と共存出来ているのは何故か?」
「聖域条約が締結された為です」
「そうだ。そしてその条約は欧州の支配者"
「ですが、第四真祖が存在するとなればその均衡が崩れ、人類を巻き込んでの戦争になるかもしれません」
「これを受け取りなさい」
女性の声が響くと同時に蝶のように折られた紙が姫柊に向かってくる。目の前まで来たら淡く発光して一枚の写真が手元に来た。写真には三人の男性が写っており、その中心には髪の色素がやや薄いフードのパーカーを制服の上に着ている。
「暁古城。問題の第四真祖と目されている人物です」
「例のものを此方に」
側に控えていた男性が姫柊の前に銀色のケースが置かれた。ケースの封印を解いたら、中には一振りの銀の槍。
「"
「姫柊雪菜。獅子王機関三聖の名において命じます。全力を以って第四真祖、暁古城に接近し、その行動を監視すること。そしてもし彼の存在を危険だと判断した場合――――此れを抹殺すること」
「……抹殺」
姫柊は顔には出ていなかったが心の中では結構動揺している。無理もない事だ。相手は最強の吸血鬼。そう易々と殺されるような弱者ではないからだ。下手をすれば自分が殺されてしまう。
「そしてもう一つ伝えなければなりません」
先ほどの声よりかさらに低く聞こえるのを感じた雪菜は同様を抑えて聞く姿勢をとる。
「この第四真祖がいる地―――絃神島には災厄の吸血鬼、真祖と同等の力を持つ吸血鬼、"
「"
雪菜は同様を抑え切れずに声に漏らしてしまうが、それを注意しない。"
「剣巫としての役目見事に果たす事、期待しています」
「……はい」
姫柊はその言葉の重みを自覚し、承諾した。
―○●―
「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……」
「……確かにこの天気はきついな」
午後のファミレスの窓際のテーブルにぐったりと突っ伏している第四真祖である暁古城とドリンクバーで汲んできたジュースを飲んでいる縫月蓮夜がいた。
片方は白いパーカーを着ている。それなりに顔の造りもいしが、ただ今ふて腐れている。
もう片方は漆黒を思わせる様な黒い長髪に蒼い双眸。髪は肩にかかるくらいに伸びている。容姿がかなり整っているから服装次第では女にも見えそうな……。
「今、何時だ?」
古城が呟いたのを聞き取ったのは真正面にいる蓮夜以外の友人だった。
「もうすぐ四時よ。後三分二十二秒」
「……なんで俺はこんな大量に追試受けなきゃならねーんだろうな」
古城の机の上には山積みになっている教科書の数々。古城が追試を命じされたのは、英語と数学二科目ずつを含む合計九科目。プラス、体育実技のハーフマラソン。夏休み最後の三日間で処理するという羽目にあっている。
「――――ってか、この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。こんなのまだ授業でやってねーぞ。うちの教師たちは俺に恨みでもあるんか!!」
蓮夜と古城の友人である男子一名と女子一名は呆れている。
「いや……そりゃ、あるわな。恨み」
そう答えたのは短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首に掛けた男子生徒だった。矢瀬基樹という。
「あんだけ毎日毎日、平然とサボられたらねェ。舐められているって思うわよね。フツー……おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ?」
もう一人の女性である藍羽浅葱が笑っていってくる。
「……だから、あれは不可抗力なんだって。いろいろ事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝一はつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は……」
「俺は必要最低限の出席日数は取ってるし、成績もいいから問題ないな」
「だとしても、授業中に寝るのは止めた方がいいわよ。一部の教師は蓮夜のこと敵視しているし」
蓮紅夜も古城と同じくサボリ気味だが、最低限の出席日数は取ってあるし、テストも学年で10位内に入っているので、追試が無い。しかも授業の大半を寝て、しかも点数がいいから文句は言えない。故に蓮夜は一部の教師から敵視されている。
「……理不尽だ。俺は朝は起きれないっていう体質だって言ったのに……」
「朝起きれないとか……随分自堕落した生活だな」
古城は蓮夜を睨むが、本人はスルーして飲み物を飲んでいる。
「体質ってなによ?古城って花粉症かなんかだっけ?」
浅葱が不思議そうに訊いてくる。古城が唇を歪める。
「つまり夜型っているか、朝起きるのが苦手っつうか」
「それって体質の問題?吸血鬼でもあるまいし」
「だよな……はは」
実を言うと蓮夜と古城は自身が吸血鬼ってのを隠しているから安易に言えるものじゃない。蓮夜は古城が第四真祖だと知っているが、古城は蓮夜の事は吸血鬼であるって事しか知らない。
―○●―
絃神島は、太平洋のど真ん中、東京の南方海上三百三十キロ付近に浮かぶ人工島だった。ギガフロートと呼ばれる超大型浮体構造物を連結して造られた、完全な人工の都市である。総面積は約八十平方キロメートル。総人口は約五十六万人。
暖流の影響を受けた気候は穏やかで、冬でも平均二十度を超える熱帯に位置する、いわゆる常夏の島。
学究都市である絃神市は、製薬、精密機械、ハイテク素材産業などの、大企業や有名大学の研究機関がこの島でひしめき合っている。
この島は、少々特殊なところもある。
魔族特区。
それがこの絃神市に与えられたのもう一つの名前である。
獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体、そして吸血鬼――この島では、自然破壊の影響や人類との戦いによって数を減らし、絶滅の危機に瀕していた魔族たちの存在が公認され、保護されている。
――絃神島はその為に造られた人工都市である。
「暑い……完全に克服しているわけじゃないから、少しだるいな」
蓮夜は古城と別れ、ゲーセンに向かって歩いていると、ポケットに入れてたスマホに着信が来る。
覗き込むとそこには―――南宮那月と表示されていた。
「もしもし、何か用?那月ちゃん」
『教師をちゃん付けで呼ぶな……はぁ、まぁいい。それより蓮夜、今どこにいる?』
「今?ゲーセンの前にいるけど」
『都合かいいな。その近くで"
傍若無人な物言いに蓮夜は軽く苦笑する。あの時のような可愛さが今は全く無くなっているなぁと思いながら電話越しで話す。
「はいはい。手荒な真似をしていいか?」
『構わん。だがやり過ぎるなよ。……ああ、ちなみに相手はD種だ。全く、面倒事を増やしてくれる』
那月の声色には本当にメンドクサイ、と感じる。その時、蓮夜は近くの場所で魔力が高まっていくのを感じる。
「ああ、確かに魔力を感じるな。アイツの血族か……んじゃあ行ってくるか」
那月からの命令が出たので、早速現場に向かって行く。向かっている時に爆発音と火柱が見えた。
眷獣を使っているらしく、速く行くべきだと、蓮夜は判断した。
こうりは急いで現場に向かい着いた時に、炎の馬の眷獣が銀の槍を持った少女と相対していた。
(あの銀の槍は――――)
「――
蓮夜は少女の実力を見てみたかったが、那月からの命令が来ているから止めることにした。
「ふっ!」
蓮夜は少女と眷獣の間に割り込むと、魔力を乗せた蹴りで眷獣を吹き飛ばす。
「……え?」
「しゃ、灼蹄!?」
槍を持った少女とD種の吸血鬼が目の前で起こった現象に唖然とした。急に割り込んで来た少年が蹴りで眷獣を吹き飛ばしたからだ。
「とある攻魔官の補佐だ。聖域条約違反で捕まってもらおうか」
攻魔官補佐と聞きホスト風の男は顔色を変え、必死に言い訳を始めた。
「なっ! 待ってくれ正当防衛だ! 先に仕掛けたのはそのガキだっ!!」
「なっ!?」
吸血鬼は少女に指を差し、少女は自分に罪を擦り付けるような発言に目を見開く。
「だとしても眷獣まで出されると言い訳は効かない。それに中学生相手に眷獣を使うのは過剰防衛だ」
それでもいい訳をしようとするから、蓮夜は手刀を入れ、気絶させた。
「さて、そこの中学生。矛を収めろ。吸血鬼にそれは明らかに過剰防衛だ」
「うっ……す、すみません」
槍を持っている少女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「気にするな。それとそこの馬鹿、来い」
「馬鹿とはひでぇな」
蓮夜の掛け声と共に、側に隠れていたいた古城がこっちに向かって歩いてきた。古城を見て顔を強張らせている。古城の顔を見て顔を強張らせているのか疑問が起こったが、さっきの槍を持っているのなら獅子王機関の連中が古城の存在に気付いたのだと分かり、納得した。
「俺はこいつらを持って行くから。そっちの少女は任した」
「任されたくないが、分かった」
古城の返事を聞き、蓮夜は気絶している二人を担いでその場を去った。