ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
その辺はご了承を。
蓮夜はアナログ式の目覚まし時計の鳴り響く音で目を覚ます。
カーテンを開け、忌々しい太陽を軽く睨みつける。
「くそ……吸血鬼に朝はきついな。つーかその前に、俺が学生をやっていること自体おかしいだろ」
あいつらに今の俺を見られたなら絶対に唖然しかねない、と思いながらキッチンに立って朝食を作り始めた。今回の朝食は超和風に塩鮭に味噌汁とご飯だ。もちろん簡易のレトルトではなく味噌を溶かすところからやるという徹底振りだ。
もはや吸血鬼なのに一応悪名轟く吸血鬼である自分の趣味が料理になってしまったことに呆れながら作っていると、リビングのドアが開いた。
入ってきたのはフリルまみれのドレスを着ている幼女だ。
「おはよう、蓮夜。相変わらず料理は徹底しているな」
「おはよう、那月。それに関しては昔からだ」
「まあ、そのおかげで私は楽になっているからな」
そう言って那月そのまま新聞を持って椅子に座り、朝食を待つ。
こう見えて彼女、南宮那月は一応26歳である。だが、見た目は完全に中学生か小学生に見えるから、何も知らない人たちが蓮夜と並んで歩いていると、同じ黒髪に蒼い双眸と相まって兄妹か下手をすれば親子に見えるという始末だ。兄妹と言われた時は怒っていたが、親子と言われた時の怒りは凄まじかった。
那月は、蓮夜や古城が通う彩海学園の教師でもあり国家攻魔官の資格を持っている。
彼女のおかげで、蓮夜は学校に通ったり、この地に留まっていることが出来ているので、その見返りとして攻魔官の手伝いをしている。
朝食が出来上がり、机の上に並べる。
「「いただきます」」
二人は対面に座りながら食べ始める。そこで蓮夜が口を開く。
「そういえば昨日の捕まえた連中についてなんだけど」
「ん?ああ、あのD種の吸血鬼のことか?」
「そう。どうやらその件に古城が巻き込まれたらしい。しかも、側に剣巫がいた」
「なに?剣巫だと?」
那月は顔を上げ、こちらを見る。
「ああ、どうやら獅子王機関に古城の存在がバレたらしい。ご丁寧に"秘奥武装"を持っていた」
「……獅子王機関の連中め」
那月は顔を顰めながら忌々しげに呟く。
秘奥武装とは獅子王機関が作り出した武器であり、高度な金属精錬技術などが必要な為、数が少ない。あの処女が持っていたのは、魔力を無効化する術式である"
そして攻魔官と獅子王機関は商売敵のような関係だから那月はそこまで好きじゃない。
「……お前が言っても無駄なのは知っているが、あまり無茶な真似や一般人にバレるなよ。とは言っても真祖の連中には気付かれているようだがな」
「確かにこの地にいるのはバレているとは思うが、今の所問題を起こしていないから見過ごされているのかも知れない。今の俺も全快じゃないし」
蓮夜は特殊な吸血鬼であり、その存在は公にされていない。そして随分前に力をかなり削がれているので本調子ではない。おかげで強力な眷獣が一体使えない。
「それにしても……これから古城と一緒にいると、波乱万丈な日々が待ち受けていて俺にも良い刺激を与えてくれそうな予感がするなぁ」
「止めてくれ。お前が言うと本当になりかねない」
そんな呟きに那月はこめかみを押さえ疲れたような顔をする。実例があるだけに本当に当たるかもしれないのだ。
蓮夜も吸血鬼の中では比較的平和を望んでいるが、やはり面白い事には首を突っ込むという好奇心がある。
食べ終わったら先に那月は学園へと向かい、蓮夜は古城と一緒に通学する為、暫くしたら家を出た。
―○●―
「……まだ頭が痛い」
「どんまいだな、古城」
古城と蓮夜は今中等部の校舎に向かって歩いている。
先ほど古城の追試の試験が終わり、どうやら獅子王機関の剣巫が落としたサイフを届ける為に歩いている。何故古城が額を押さえているのかと言うと、先ほど那月を「那月ちゃん」と呼んでしまって、「教師をちゃん付けで呼ぶな!」と言われて黒レースの扇子を一閃されたからだ。
「見つからないねえ……」
「せめて連絡先が分かるものでも入っていれば……」
そんなことを呟きながら古城はサイフを開いて見ている。
「う……」
古城は呻いて自分の口元を覆った。そんな古城に気付いた蓮夜は呆れながら言う。
「おいおい、なんでこんな所で吸血衝動が起きるんだ?」
「仕方ないだろ。上手く制御出来ないんだから」
古城は暫くそうしていたらやっと落ち着いたらしく、ため息を吐いた。
「女子のお財布の匂いを嗅いで興奮するなんて、あなたはやはり危険な人ですね」
いつの間には近くに来ていた少女に古城は驚いた。
「姫柊……雪菜?」
「はい。なんですか?」
姫柊と呼ばれた少女は返事をしながらも蔑むような視線に冷ややかな口調とダブルコンボを食らって、古城は気まずそうにしている。
「どうしてここに?」
「それはこちらの台詞だと思いますけど、暁先輩?ここは中等部の校舎ですよね?」
「う……」
雪菜の冷静な指摘に何も言い返せない古城に、はあ、と呆れたようにため息をつく。
「それって、わたしのお財布ですね」
「あ、ああ。そう、これを届けに来たんだった。けど今日は笹崎先生が休みだって言われて」
雪菜が差し出したポケットティッシュを古城は受け取り頷く。
「それで匂いを嗅いで、鼻血を出すほど興奮してたんですか?」
「事実そうだったしな。発情しやがって……ロリコンが」
「誤解をまねくようなこと言うんじゃねぇよ、蓮夜!後ロリコンでもねぇよ!」
蓮夜の言葉に雪菜が古城を見る目が一気に冷たくなる。実際蓮夜は古城で遊んでいるのだが、古城は気付いていない。
「俺はただ昨日の姫柊を思い出して――」
すると一瞬、雪菜が硬直したと思うと制服のスカートを抑えて後ずさる。かなりの赤面だ。蓮夜はそんな反応をさせる出来事を詳しく知りたくなった。後で根掘り葉掘り訊くことにする。
「き、昨日のことは忘れてください」
「いや、忘れろと言われても……」
「忘れてください」
「…………」
雪菜に睨まれた古城は、黙って肩をすくめた。
「お財布も返してください。そのつもりでここに来たんですよね」
静かな口調で告げる雪菜。しかし古城は、その要求に応じないで財布を高く掲げ姫柊が届かないようにする。
雪菜と古城は身長差があり、跳んでも届かない。
「その前に話を聞かせてもらいたいな。おまえいったい何者だ?なんで俺を調べてた?」
「……わかりました。それは、力ずくでお財布を取り返せという意味でいいんですね」
そう言って雪菜がギターケースに手を伸ばす。その瞬間、グルグルグル……という低い音で動きが止まる。
古城は無言で眉を寄せ、傍観していた蓮夜は苦笑していた。
彼女の頬か羞恥で真っ赤に染まっていく。
「えーと……もしかして、姫柊、腹減ってるの?」
硬直したままの雪菜に古城が訊く。
「お前には、デリカリーってものがないのか……古城よ」
「だ、だったらなんだっていうんですか?」
古城の監視に来た雪菜は、この時期に転校してきたのであろう彼女に金を貸してくれるような友人はまだいないであろう。
だから昨日からおそらくなにも食べてないなと蓮夜は推測した。
古城は、財布を雪菜の前に差し出す。
「な、なんですか」と動揺しながらも、警戒の表情を崩さない雪菜。
「昼飯、おごってくれ。財布の拾い主には、それくらいの謝礼を要求する権利があるだろ」
「……後輩に飯を奢らせるとは、最悪だな。一回死ねば?」
「うるせぇよ。後、死ねは言い過ぎだ!」と古城はそっぽを向きながら言い、蓮夜はため息を吐いて二人について行く。