ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
その日の夜。
蓮夜と那月は夜の街を歩いていた。家で本を読んでいると那月が見回りに行くからいってらー、と言ったら「お前もついて来い。なんか一人だけ家で寛いでいるのは腹が立つ」という理由で連れ出された。
見回りをしていたら不良生徒がどんどん見つかり、説教されている。深夜に見た目が幼女に説教されるって精神的にきつい、と思っていたら目前に日傘の先端が迫ってきたので慌てて避ける。
「ちょ、それは洒落にならないから日傘で顔を突き刺そうとするなよ!?」
「お前が余計な事を考えているからだ!それにこの程度じゃ傷もつかんだろ!」
フン!顔を背け、どんどん歩いていく。蓮夜はそんな仕草が子供っぽいな、と思いながら追って横に立つ。
蓮夜たちは暫く歩いていると、ゲーセンのクレーンゲームの所に見たことあるパーカーの少年とギターケースを背負っている少女を見つけた。この後ろ姿は古城と姫柊しかいない。
横を見てみると、那月も分かったのか、ニヤリと面白そうに見ている。完全に意地の悪い魔女だ。
「―――そこの二人。彩海学園の生徒だな。こんな時間まで何をしている?」
那月の言葉により、二人は硬直した。そんな古城たちを面白そうに見る那月とやや呆れ気味の蓮夜。
「そこの男。どっかで見たことあるような後ろ姿だが、フードを脱いでこっちを向いてもらおうか」
二人とっては公開処刑に等しい事態に黙っている。ガラスケース越しに古城と目が合うが、蓮夜は軽くウィンクをした。しかも容姿が良いからその仕草も似合っている。
「どうしたんだ?意地でも振り向かないというのなら、私にも考えがあるぞ―――蓮夜」
「りょーかい。許せよ、那月ちゃんには逆らえないから」
蓮夜は軽い口調で返事をして二人に近付いて振り向かせようとすると―――、
ズン、と鈍い震動が人工島全体を揺るがした。一瞬遅れて爆発音が続く。
「なんだ―――!?」
那月と蓮夜が爆発現場から強烈な魔力の波動を感じ取って、そちらに気を引きつけられた時、
「姫柊、走れ!」
「え、あ……はい!」
古城と雪菜が常人とは比べ物にならない速さで走っていく。
「あ、待て、おまえら!」
那月の制止の声を無視して爆発音は今も尚、響いている現場に走り去っていく。
「厄介な事に……那月!俺はあいつ等を追いかける」
「分かった。気を付けろよ!」
那月の許可をもらうと同時に蓮夜の体が霧となり、古城たちを追いに行く。
―○●―
爆発音が響く倉庫街に雪菜は走っていた。
戦闘する眷獣。巨大な漆黒の妖鳥の姿が浮かび上がる。
それを操っているであろう長身の吸血鬼がビルの屋上で操っている。
「あれは……」
闇を裂いて、伸びた閃光に気付いた雪菜は困惑の声を出す。
虹のような色に輝く、半透明の巨大な腕が鳥の翼を根元からひきちぎる。
実体を保てなくなった鳥の魔力の塊を虹色の腕はさらに攻撃する。
「魔力を……喰ってる!?」
その異様な光景に雪菜は戦慄した。倒した眷獣の魔力を喰らう――雪菜が知る限り、そんな眷獣は聞いたことがない。そしてその宿主を見てさらに驚愕した。
虹色の腕の宿主は、雪菜よりも小柄な少女。素肌にケープコートを纏った藍色の髪の娘である。
「吸血鬼……じゃない!? そんな……どうして、
呆然と立ち尽くす雪菜の背後で、ドッ、と重いなにかが投げ落ちる音がする。
驚いて後ろを見るとそこには、重傷を負って倒れた長身の吸血鬼の姿だった。肩口から深々と切り裂かれ、吸血鬼でなければ即死のような傷を負っている。
「――ふむ。目撃者ですか。想定外でしたね」
聞こえた男の低い声に、雪菜がハッと顔を上げた。
燃えさかる炎を背に立っていたのは、身長百九十センチを超える巨躯の男だった。
右手に掲げた
「戦闘をやめてください」
雪菜が、法衣の男を睨んで警告する。
男は、そんな雪菜蔑むように眺め、
「若いですね。この国の攻魔師ですか……見たところ魔族の仲間ではないようですが」
値踏みするような表情で淡々と言う。
男の身体から滲み出る殺意を感じ、重心を低くした。
「行動不能の魔族に対する虐殺行為は、攻魔特別措置法違反です」
「魔族におもねる背教者たちが定めた法に、この私が従う道理があるとでも?」
男は巨大な斧を振り上げる。
「くっ、
槍を構えて、雪菜が疾走った。負傷する吸血鬼めがけて振り下ろされる戦斧をギリギリ受け止める。
「ほう……!」
戦斧を弾き飛ばされた男は、巨体からは想像できない敏捷さで後方に飛び退き、雪菜に向き直る。
「なんと、その槍、
男の口元に、歓喜の笑みを浮かべ、眼帯のような片眼鏡が、紅く発行を繰り返す。
「いいでしょう、獅子王機関の剣巫ならば相手にとって不足なし。娘よ、ロタリンギア殲教師、ルードルフ・オイスタッハが手合わせを願います。この魔族の命、見事救ってみなさい!」
「ロタリンギアの殲教師!? なぜ西欧教会の祓魔師が、吸血鬼狩りを――!?」
「我に答える義務なし!」
男の巨体が、大地を蹴り猛然と加速した。振り下ろされる戦斧が、雪菜を襲う。それを完全に見切って紙一重ですり抜けた。そして反撃。旋回した雪菜の槍が、オイスタッハの右腕へと伸びる。
オイスタッハは回避不可能と悟り、鎧で覆われた左腕で受け止めた。
魔力を帯びた武器と鎧の激突が、青白い閃光が撒き散らされる。
「ぬううん!」
左腕の装甲が砕け散り、その隙に雪菜が距離を稼いだ。
「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか!さすがは"
破壊された左腕でを眺めながら、オイスタッハが満足そうに舌なめずりをする。
彼はここで倒さなければならない、と剣巫の直感が告げる。
「――獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
「む……これは……」
雪菜の体内に練り上げられる呪力を、
直後、雪菜はオイスタッハに猛然と攻撃を仕掛けた。
「ぬお……!」
閃光のように放たれた銀の槍を、殲教師の戦斧が受け止める。だが、その威力に数メートル近く後退。過負荷によって各部の関節が火花を散らす。
しかも雪菜の攻撃は終わらない。至近距離からの嵐のような連撃にオイスタッハは防戦一方。
単純な速さではない。人間である雪菜は、霊視によって一瞬先の未来を視ることで、誰よりも早く動くことができる。
「ふむ、なんというパワー……それにこの速度!これが獅子王機関の剣巫ですか!」
雪霞狼の攻撃を受け止めきれずに、半月斧がひび割れ、音を立てて砕け散る。
その瞬間、人間であるオイスタッハに攻撃を加えることを躊躇する。それをオイスタッハは見逃さない。
「いいでしょう、獅子王機関の秘呪、確かに見せてもらいました――やりなさい、アスタルテ!」
強化鎧の筋力を前回にして、殲教師が背後へと跳躍。代わりに雪菜の前に飛び出してきたのは、ケープコートを羽織った藍色の髪の少女だ。
「
少女のコートを突き破って現れたのは、巨大な腕。それは虹色の輝きを放ちながら雪菜を襲う。雪菜は雪霞狼でこれを迎撃する。
「ぐっ!」
「ああ……っ!」
かろうじて雪菜が激突に勝つ。"
「あああああああああ――っ!」
少女の絶叫と同時に背中を引き裂くもう一本の腕が現れる。
眷獣が二体、というわけではない。もとより左右一対ひとつの眷獣なのだろう。しかしそれは、独立した別の生き物のように頭上に襲う。
「しまっ――」
雪霞狼の穂先は、眷獣の右腕に突き刺さったままだった。もし一瞬でも雪菜が力を抜けば、手負いの右腕に雪菜は潰される。そしてこの状況では雪菜は、左腕をよけられない――!
死を覚悟する。
ただ最後に一瞬だけ、見知った少年の姿が脳裏によぎる。ほんの数日出会ったばかりの気怠そうな顔をした少年の面影が。
自分が死ねば、きっと彼は悲しむだろう。
だから死にたくない、と雪菜は思った。そう思った自分自身に雪菜はひどく驚き、そして、
「姫柊ィーーーーーーー!」
思いがけないほど近い距離から、その少年の声が聞こえてきた。
第四真祖、暁古城の声が。