ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~   作:ノスフェラトゥ

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episode:5

「おおおおおおおおおォ!」

 

古城は単純に握りしめた拳で、巨大な腕の形の眷獣を殴りつける。

虹色に輝く眷獣の左腕が、勢いよく吹き飛んだ。そして眷獣の宿主である少女もその衝撃に転倒し、雪菜と戦ってた右腕が消滅する。

 

「なっ……」

 

雪菜は呆然とでたらめな光景を眺める。

 

「なにをやってるんですか、先輩!? こんなところで――!?」

 

どうにか気を取り直して、雪菜は訊く。古城は怒りを隠そうともせずに怒鳴る。

 

「それはこっちの台詞だ、姫柊! このバカ!」

 

「バ、バカ!?」

 

「様子を見に行くだけじゃなかったのかよ。なんでお前が戦ってんだ!」

 

「そ、それは―――」

 

うー、雪菜が物言いたげに口ごもる。古城は詳しくは理解せずともいろいろとあったことはわかる。

古城は空を飛べないし、空間転移魔法などももちろん使えない。二基の人工島を連結する長さ十六キロの連絡橋を、全力疾走は流石にきつかったらしい。

そして古城がたどり着いた時には、眷獣はすでに倒れ、雪菜は謎の法衣の男と戦闘の真っ最中だった。

 

「で……結局、こいつらはなんなんだ?」

 

「わかりません。あの男は、ロタリンギアの殲教師だそうですが……」

 

武器を失った法衣の男を睨んで、雪菜が答える。

 

「ロタリンギア? なんでヨーロッパからわざわざやってきて暴れてるんだ、あいつは?」

 

「先輩、気をつけてください。彼らは、まだ……」

 

雪菜の警告の前にケープコートの少女だ立ち上がる。その背後には虹色の眷獣が実体化したまま。

 

「先ほどの魔力……貴方はただの吸血鬼ではありませんね。貴族(ノーブルズ)と同等かそれ以上……もしや第四真祖の噂は真実ですか?……それならあの噂も真実の可能性が……」

 

破壊された戦斧を投げ捨て、オイスタッハは呟く。

そのオイスタッハを庇うように、前に藍色の髪の少女がいる。

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"―――」

 

「やめろ、俺はべつにあんたたちと戦うつもりは―――」

 

「待ちなさい、アスタルテ。今はまだ、真祖と戦う時期ではありません!」

 

古城とオイスタッハが、同時に叫ぶ。

だが、すでに宿主の命令を受け止めた眷獣は止まらない。虹色の鉤爪を鈍く煌めかせ、猛禽のように古城を狙って降下する。

 

「先輩、下がってください!」

 

槍を構えた雪菜が、古城を突き飛ばし、飛び出す。

だが、その動きを予知していたようにもう一本の腕が少女の足元から、放たれた。地面をえぐるように飛来した右腕に反応が遅れる。

 

「姫柊!」

 

古城が咄嗟に雪菜を突き飛ばす。雪菜は為す術もない吹き飛ぶ。目標を見失った右腕が眼下から、そして左腕が頭上から古城を襲う。

 

「せ、先輩っ!? なんてことを―――!」

 

受け身をとった雪菜が、体勢を立て直す。

 

その時、人工生命(ホムンクルス)の少女は何か気付いたかのように後退する。

ザアァ、と古城と少女の間に白い濃密な霧が遮る。

その出来事に雪菜や古城はもちろん、オイスタッハとアスタルテも驚いていた。

 

「なに!?いったい―――」

 

「全く、面倒ごとに巻き込まれているな。古城」

 

霧の中から―――いや、霧が人型に形成され、古城たちの良く知る人物になる。

黒い髪に蒼い瞳―――のはずだが、今は紅く輝き、不敵な笑み浮かべている蓮夜が立っていた。

 

「れ、蓮夜!?どうしてここに……」

 

古城が当然の疑問を言うが、蓮夜は答えない。

周囲の霧を身体に取り込み、蓮夜はロタリンギアの殲教師を見据える。

 

「……あなたは何者ですか?見たところ吸血鬼のようですが、ただの吸血鬼ではありませんね?」

 

「そこに居る奴らの友人だ」

 

「ふざけているのなら後悔するがいい。アスタルテ!やってしまいなさい!」

 

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 

「へぇ……眷獣持ちの人工生命体(ホムンクルス)か。面白い―――顕現しろ、"龍殺しの魔剣(グラム)"!」

 

アスタルテは虹色の両腕を振り下ろし、蓮夜は左手に刀身が150cmはありそうな禍々しい大剣を出現させた。

蓮夜は迫ってきた"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"を一閃して斬り落とした。吸血鬼の身体能力も相まって不可視の斬撃となり、反応すら許さない。

 

「あああああああ――っ!」

 

アスタルテの悲鳴により、全員が気付いた。何時の間にか切断されたことに。

 

「え?」

 

「なにっ!?」

 

雪菜とオイスタッハが驚きの声を上げた。

蓮夜はそんな疑問の声を無視して、再び構える。

 

「……あなたは、一体」

 

オイスタッハは蓮夜を取るに足らない魔族と思っていたが、それは大きな勘違いである。一連の行動にオイスタッハは蓮夜の存在に軽い畏怖を感じていた。

そして気付いた。目の前の吸血鬼がどんな存在なのかを。

 

「まさか、あなたは……っ!!くっ、ここは引きますよ。アスタルテ!」

 

命令受諾(アクセプト)

 

アスタルテは残った腕で地面を砕き、粉塵に紛れて逃げていった。

 

「……逃げたか」

 

蓮夜は"龍殺しの魔剣(グラム)"を消し、姫柊と古城に向き直る。

 

「全く、勘弁してくれ。進んで厄介事に頭を突っ込むとか……いつか死ぬぞ」

 

「うっ……済まん」

 

「ご、ごめんなさい」

 

蓮夜の言葉に古城と雪菜は、さっき蓮夜が助けなければ、大怪我を負ってたかもしれなかったから文句は言えなかった。

それと同時に雪菜は蓮夜に対する疑問を持つようになってしまった。先ほどの眷獣といい、身体能力といい絶対にただの吸血鬼ではないと感じた。

 

「はぁ……さっさとここから離れろよ。那月ちゃんには今回の事は誤魔化しておくから」

 

「悪いな……今度なにか奢る」

 

「期待せずに待ってるよ」

 

蓮夜は古城と雪菜に手を振り、そのまま雪菜と古城の前から去った。

 

 

 

          ―○●―

 

 

 

翌朝には倉庫街の火災について取り上げられていたのをテレビで見て、那月に軽い尋問を食らったが、このことについては古城たちも混じって話をするらしい。

蓮夜は電車に揺られながら学校に向かっている。ちなみに那月は偶に急ぎの用がある場合空間転移で移動している為、遅刻と言う言葉が無い。ずるい!と言ったら「忙しいから私はいいんだ」と傍若無人な物言いに呆れた。

吸血鬼の力で短時間学校に辿り着くことは出来るが、蓮夜自身が吸血鬼なのは伏せられている為、電車で通学するしかない。

 

「おはよう古城、浅葱」

 

「ああ、蓮夜か。おはよう」

 

「おはよ、蓮夜。あんたも古城と同じく眠そうな顔をしてるわねー」

 

それぞれあいさつをして席に着いた。

三人で昨日の夜に起こった火災やら爆発の話をしていた。古城の顔色があまり良くなかったが。

その時、教室の隅っこで男子が数人、携帯電話を囲んで盛り上がっている。

 

「うん?一体なにを騒いでいるんだ?」

 

不思議そうな顔で蓮夜は興奮状態のクラスメイトを見ている。

浅葱が通りかかった友人である築島倫を呼び止める。

 

「ね、お倫。あれなに?男子共はなんで盛り上がってるわけ」

 

「ああ、あれ?なんかね、中等部に女の子の転校生が来たらしいよ」

 

「中等部の転校生……?」

 

倫の答えに古城が呻いた。蓮夜はその転校生が誰か知っている。古城は若干顔色が悪い。

 

「凄く可愛い子だって噂になってて、部活の後輩に命令して写真を送らせたんですって」

 

「……おい古城。それって姫柊じゃね?」

 

「ああ、たぶんな」

 

蓮夜は周りに聞こえないように古城に聞くと苦い表情で頷いた。

 

「暁くんと縫月くんは見に行かなくてもいいの?」

 

「いや、俺はべつに」

 

「俺も見なくてもいいや」

 

蓮夜と古城の投げやりな言葉に倫は満足そうに頷いた。

 

「そうね。暁くんには浅葱がいるものね」

 

「へ?」

 

古城は驚いて顔を上げた。近くの浅葱は頬を赤らめている。

 

「ふふ、それに……」

 

そう言って今度はこっちの見る……嫌な予感がする蓮夜。

 

「縫月くんは那月ちゃんと禁断の恋をしているんでしょ」

 

「……は?」

 

予想外の答えに蓮夜はアホみたいに口を開けた。

 

「あ、それあたしも聞いたことがあるよ。一緒に暮らしている二人は愛を育んでいるとか」

 

「それなら俺も聞いた事があるぞ。後、那月ちゃんはやけに蓮夜には優しいから気があるとか」

 

浅葱と古城は聞いた事があるらしく蓮夜は「マジ?」と聞いたら三人ともうなずいた。

 

「つーかこれって結構有名な話なんだが……本当に聞いた事が無いのか?」

 

矢瀬が蓮夜にそう訊いてくる。だが、本当に蓮夜はそういう噂話を耳に入れた事は無い。後、蓮夜と那月は付き合っていない。むしろ蓮夜にとって那月は妹か娘のような感覚だ。

 

「……いや、俺は付き合ってないぞ。那月ちゃんもそんな暇ないし」

 

その返事に倫は一応それで納得しておくね、と言われた。含みのある言い方だが蓮夜は追求しない。

あと、古城はどうやら世界史のレポートをやっていないらしく、浅葱に見せてもらうようにお願いしていた。その時、今朝家から出るときに那月に言われた事を思い出した。

 

「あ、古城。一つ言っておくことがあった」

 

「ん?どうした蓮夜?」

 

「そういや那月ちゃんが古城に言うように伝言を頼まれていたんだよ」

 

古城が自分に指を差し、蓮夜は頷いた。

 

「なに、古城。あんたまた宿題を忘れたとか?」

 

浅葱の言葉に蓮夜は首を振った。

 

「『昼休みに生徒指導室に来い。それから中等部の転校生も一緒に連れて来い』ってな」

 

「え?姫柊を……なんで?」

 

古城の言葉にクラスメイトの数人が聞き取って、話題の転校生の名前を出したことで動揺が広がった。

 

「昨夜の件、と言ったら分かるか?」

 

「い、いや……それは……」

 

「とぼけても無駄だぞ。深夜のゲーセンから逃げ出した後、お前ら二人は朝まで何をしていたのか、那月ちゃんと俺に話してもらうぞ」

 

「はっ?い、いや、ちょっと待て!あの時、お前が―――」

 

蓮夜が言い終わったら古城は脂汗を掻きながら反論しようとする。蓮夜は、昨夜起こった事件に居合わせているため、事情を知っているがこっちの方が面白そうという理由でワザとクラスメイトに聞こえるくらいの声量で言う。

案の定、深夜のゲーセンと朝まで一緒に居たという言葉に反応して男子生徒諸君は古城に殺気混じりの視線を送る。そして、

 

「暁くん……今の蓮夜くんの話、どういうことかな?詳しく話してくれる?」

 

長身である倫がにこやかに見下ろし、古城に聞いている。

 

「つ、築島……あれ、浅葱は?」

 

古城は恐らく浅葱に助けとを求めたが、その場には居ない。

 

「浅葱ならあっちだよ」

 

倫が指差す先にはゴミ箱の隣に立ち、紙束をビリビリと無心に破り続けている浅葱がいた。

 

「ま、待て。それって、もしかして俺が頼んだレポート……」

 

慌てて立ち上がるが、浅葱は怒気を孕んだ半眼で古城を睨みつける。

 

「ふん」

 

荒っぽく鼻を慣らして破ったレポートを纏めてゴミ箱に投げつけた。




眷獣紹介↓
龍殺しの魔剣(グラム)
意思を持つ武器。龍殺しの特性が付与されており、故に蛇に関する眷獣・獣人なら絶大な効果を発揮する。
それ以外にも、魔力を食わせればそれに応じた規模の魔術を切り裂く事も可能。
とある蛇遣いには天敵のような眷獣。
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