ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~ 作:ノスフェラトゥ
ヒロインを那月と決まっていましたが、那月以外にも数人ヒロインを加えることにしました(恐らく)。
「―――暑い。早く冬にならないかなぁ」
「昼間からだらけるな。それにお前はある程度克服しているから問題なかろう」
昼休みになり、蓮夜は生徒指導室で那月とともに古城と雪菜が来るのを待っている。
暑いのが苦手な蓮夜は隅に置いている机でだらけていた。
「くそっ、あの時の自由が今は懐かしい」
「なんだ、今になって私との約束が嫌になったか?」
蓮夜は紅茶を飲みながら愚痴り、那月が蓮夜の愚痴に反応した。那月は俺の愚痴を聞き少し落ち込んでいるように見える。
「そうでもない。こういう生活も悪くは無いと最近になり実感してきたところだ。那月と出会っていなかったら今の尚何処かを彷徨っていただろうな……嫌になるわけない。むしろ礼を言いたい」
「……ふん」
蓮夜は机に紅茶を置き笑って答えるが、那月はそっぽを向いてしまった。心なしか顔を赤く染めていた。
その時、ドアがノックされ古城と雪菜が入ってくる。ドアがノックされる頃には既にいつも通りの那月になっていた。
「来たか、暁に転校生」
那月が古城たちを呼んだのは最近魔族狩りをする人物がいて、被害人数も相当な数になっているから、吸血鬼である古城に注意を促した。
恐らくその人物とは、昨晩のロタリンギアの殲教師だろう。
「という訳で、この事件が片付くまでは、暫く昨日のような夜遊びは控えるんだな」
「い、いや、夜遊びとは言われても、なんのことだが」
ようやく事件の話しが終わり、那月が昨夜の夜遊びを注意していた。
「……ふん、まあいい。とにかく警告はしたからな。……ああ、そうだ。ちょっと待て、そこの中学生」
雪菜を呼び止め、何かを投げて渡した。雪菜は反射的に受け止め、それを見た。小さなマスコット人形であった。
「……ネコマたん……」
「忘れ物だ。そいつはお前のだろう?」
受け取った雪菜と那月は意味不明な緊張感の中で睨みあう。蓮夜は呆れたような顔で眺める。やがて雪菜が会釈し、古城と共に出て行った。
「さて……蓮夜。お前、なにか知っているだろ?昨夜のことで報告していないことを教えろ」
「……分かったよ」
那月の指摘に蓮夜は肩をすくめて答える。蓮夜は知っている情報を言う事にした。
「俺が知っているのは
「なに?眷獣持ちの人工生命体だと」
那月は蓮夜の言葉に驚く。
本来眷獣というのは、不老不死である吸血鬼にしか宿すことが出来ない。それは前提条件でもある。ただの人間や獣人が宿せば、それは命を捨てているようなものだ。
「ああ。それにこの事に関わるなと古城に言ったがあいつの性格上、絶対にこの事件に介入してくるぞ」
蓮夜の言葉に那月は大きくため息を吐き、黒いレースの付いた扇子で机を軽く叩いた。
「全く、面倒な……お前は暁古城と姫柊雪菜を監視しろ。だが、なるべく手を出すなよ。あくまで監視だからな」
「はいはい、分かったよ。じゃあ早速行きますか」
蓮夜は生徒指導室から出て行き窓を開けてから霧化して、音も無く去った。
「さて、何処にいるのやら」
蓮夜はとあるビルの屋上の手すりの上に立ってどうやって見つけようかと模索している。
その時、手っ取り早い方法を思いつき、早速ある人物に電話した。
『もしもし、蓮夜?あんた学校サボってなにやってんのよ』
蓮夜が連絡したのは、同じクラスの浅葱だった。蓮夜の予想では浅葱に何か聞いていそうだからだ。
「那月ちゃんの手伝いだ。それより古城はいるか?」
『古城?あんな奴知らないわよ!あたしにロタリンギアの運営している会社を調べさせてどっか行ったわよ』
どうやらビンゴのようだ。
「ロタリンギア?詳細を教えてくれないか?」
『いいわよ。確か、スヘルデ製薬の研究所。主な研究内容は人工生命体利用した新薬実験。もう撤退済み、という事を教えたら教室を飛び出して行ったわ』
人工生命体を利用した新薬実験。あのアスタルテという少女の調整に持ってこいの場所だ。
「サンキュー。あの馬鹿がなにやってるか見に行こうか」
蓮夜は浅葱にありがとう、と感謝の言葉を述べ、スヘルデ製薬の研究所に向かう。
―○●―
「さらばだ、娘。獅子王機関の憐れな傀儡よ――せめて魔族ではなく、人である我が手にかかって死になさい」
「……っ!」
姫柊と古城はスヘルデ製薬の研究所まで来て、オイスタッハとアスタルテと戦っていたが、アスタルテの眷獣である"
今、その雪菜に戦斧の刃が振り下ろされる。
生温かい血が雪菜の全身を赤く染めるが斬られた痛みが来ない。代わりに感じたのが、全身を包み込むような温もりと柔らかな重さだった。
その温もりは―――雪菜に覆い被さって身を挺した古城だった。
「かはっ……!」
雪菜の耳元で、古城が小さく咳き込んだ。その唇から大量の鮮血が溢れる。
アスタルテとの戦闘で重傷を負っていた古城が、雪菜を庇って彼女を突き飛ばし、代わりにオイスタッハの戦斧を受けたのだ。
「せ……先輩……!?」
倒れこむ古城を支えて、雪菜が声を震わせる。
古城の身体が異様に軽い。必死に抱きとめようとする雪菜の腕から、ちぎれた胴体が滑り落ちていく。分厚い戦斧の一撃は、古城の背骨と肋骨を砕き、胴体を細かく肉片に変えられ、床に零れる。
吸血鬼は不老不死。だが、殱教師の一撃によって、その能力の根源である心臓は潰され、魔力の拠り所たる血は虚しく流れ落ちるだけ――――
「先輩……どうして……そんな……いや……ああああああああっ……!」
オイスタッハは雪菜に戦闘の続行は不可能と判断し、神格振動波駆動術式が完成した今となってはオイスタッハは雪菜と戦う理由が無い。
「行きますよ、アスタルテ……我らが至宝を奪還するのです」
「――
人型の眷獣に包み込まれたアスタルテとオイスタッハは研究所の外壁を破壊し、奥に進んでいく。
その場には古城の頭を抱えている雪菜がいた。
「やれやれ、まさかこんな事になるとは……」
「……っ!」
雪菜は急いで声をする方向に顔を向けると、蓮夜が困ったような表情でバラバラになった古城を見ている。
「縫月先輩!?……暁先輩が!暁先輩が私を庇って……!」
「分かったから落ち着け、古城はそんな簡単に死なないぞ」
「え?それはどういう――――」
姫柊が何か言う前に古城に変化が起きた。
雪菜は驚きで頭を落としたらどんどん傷が修復されていき、飛び散った血も時間が巻き戻したように体の中に入っていく。
その異常な光景に雪菜は驚いて声が出ない。
「古城――第四真祖は他の真祖とは違う。規格外なんだよ」
蓮夜はため息を吐いて、オイスタッハが作った道に向かって歩き出す。
「縫月先輩は何処にいくんですか?」
「ん?足止めだよ。姫柊も古城が起きたら来てくれ」
そう言って蓮夜は歩き出す。自分はあまり手を出したくないが、足止めくらいはいいだろ、と思いながら。
―○●―
その場所は、光すら届かぬ海中深くに造られた、永遠の牢獄のようにも思われた。
キーストンゲート最下層があるのは海の中。海面下二百メートルである。
高い水圧に耐えるために円錐形の外壁は、神話のバベルの塔にも少し雰囲気が似ている。
この階層の役割は、四基の人工島ギガフロートから伸びる連結用のワイヤーを調律することで、島全体の振動制御を行っている。
ゲートの壁を経由して届いたワイヤーケーブルは、この最下層にまで巻きつけられている。
圧倒的な鋼の質量と、爆発的な力を秘めた駆動機関の威圧感。そして建物を包み込む強烈な水圧。
その最下層の暑さ七十センチの気密隔壁が、悲鳴のような軋み音を上げて、虹色に輝く人型の眷獣がこじ開ける。
眷獣の胸の中心には、藍色の長髪、薄水色の瞳を持つ、
彼女の背後から姿を現したのは、法衣をまとった屈強な体つきの男――ロタリンギア殲教師ルードルフ・オイスタッハは、感慨深げに最下層をゆっくりと見渡していた。
「
自らの眷獣に取り込まれたままの姿で、アスタルテが告げる。
宿主の寿命を喰らう眷獣の力を使いすぎたアスタルテは完全に感情を失っている。
しかしオイスタッハは、そんなアスタルテには一瞥もくれずに、最下層の中央、四基のギガフロートから伸びる、四本のワイヤーケーブルの終端。全てを固定するアンカーの小さな逆ピラミッドの形の金属の土台に近づく。
そのアンカーの中央。一本の柱が杭のように貫いている。
直径は僅か一メートル足らず。
それが絃神島を連結させる黒曜石に似た質感の半透明の石柱――
「お……おお……」
オイスタッハの口から、悲漢と歓喜の声が同時に漏れる。
「ロタリンギアの聖堂より簒奪されし不朽体……我ら信徒の手に取り戻す日を待ちわびたぞ!アスタルテ!もはや我らの行く手を阻むものはなし。あの忌まわしき楔を引き抜き、退廃の島に裁きを下しなさい!」
高らかな笑い声を上げながら、オイスタッハが従者たる人工生命体アスタルテに命じる。
しかしアスタルテは動かない。実体化した眷獣の鎧に包まれたまま、無表情に告げる。
「
「なに?」
巨大な戦斧を握りしめて、オイスタッハは立ち上がった。アスタルテの命令拒否にの理由にもう気付いていた。要石によって固定されたアンカーの上に、誰かがいる。
「ルードルフ・オイスタッハ。悪いがこれ以上お前の好きにさせるワケにはいかない。済まないがしばらくの間、俺の相手になってもらおうか」
正体不明の吸血鬼―――縫月蓮夜が不適な笑みを浮かべていた。