ストライク・ザ・ブラッド~不死王の物語~   作:ノスフェラトゥ

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~第二章 戦王の使者~
episode:1


「糞っ、糞っ、糞っ、糞っ……やってくれたな!」

 

豹頭の男はある人物から逃げるために深夜の街を疾走する。男の体は鋭い刃物で斬られている痕や所々凍っていたりしている。

 

「はぁ……はぁ……ここまで来れば……」

 

そう言って同志たちが殺られた現場から遠く離れた場所で安堵した。だが、それはすぐに恐怖へと変わった。

 

「やっと見つけた。あまりどっかに行かないでくれるか?メンドクサイから」

 

目の前に黒髪の少年が上から降りてきた。夜なのに真紅の輝く双眸で豹頭の男を見つめる。男は全力疾走でここまで来た。決して手を抜いたわけじゃないのに、息切れ一つしないで追いついてきた。

そして気付く。少年から発せられる濃密なまでの血の臭い。そしてただの吸血鬼では有り得ない莫大な魔力。

 

「まさか……まさか、貴様が"不死王(ノーライフキング)"か!!?」

 

男が悲鳴のような声を上げる。

"不死王(ノーライフキング)"と呼ばれた少年―――縫月蓮夜は笑った。

"不死王(ノーライフキング)"と言えば魔族の中でも有名だ。真祖と同等の力を持つ吸血鬼。その気になれば真祖と呼ばれていたかもしれない人物。人間の間では"悪霊王(ヴァルコラキ)"等とも呼ばれている。

 

「そういう事だ。さて、大人しく捕まってもらおうか」

 

蓮夜の身体が霧となり、どんどん周囲に満ちて男を囲むように展開する。男の逃げ道を塞ぎ、完全に退路を絶たれた状態だ。

もう逃げられないと悟ったのか、男は懐に手を突っ込み何かスイッチのような物を取り出した。

 

「まだだ!必ず貴様らを後悔させてやる!」

 

そう言って男は持っていたリモコンを持ち直した。最初に爆発で敵の仲間を引き寄せ、第二の爆弾で殲滅する。よく戦場で使われる手口である。

そんな男を蓮夜は呆れたように見る。男は蓮夜の表情の気付いていない。

 

「同志の仇だ。思い知れ―――!」

 

男がリモコンのスイッチを押そうとした瞬間、蓮夜は一瞬で男の懐に潜り込みんで掌低を打ち込んだ。

 

「ごはぁ!!?」

 

スィッチを押す間も無く、蓮夜の吹き飛ばされた男は後ろにあったコンテナに激突した。

続けて男にめがけて凍りの槍が飛んできて四肢を貫通して、後ろの建物に縫い付ける。蓮夜が魔力を氷の槍に変換して殺さないように注意を払った結果だ。

 

「ぐ、があぁぁぁぁぁっ!!」

 

貫いた箇所からどんどん凍っていき、出血はしてないが激痛がくる。そんな男を無感情で見る蓮夜。その時、蓮夜の側に空間に波紋を残しながら、一人の少女が転移してきた。

 

「どうやら捕まえたらしいな……生きているが、やり過ぎだ」

 

急に現れた人物は、幼女と見まがうばかりの小柄な少女であり、フリルにまみれたドレスに真夜中なのに日傘を差している。

 

「別にいいじゃないか、喋れるんだし。で、もうそっちはいいのか―――那月」

 

「ああ、全ての爆弾は除去し終わったぞ」

 

蓮夜が呟いた名前に男は低く呻いた。

 

「お前、南宮那月か!?何故"空隙の魔女"がここにいる!?」

 

「やれやれ……野良猫がよく喋る」

 

那月は冷ややかに告げたが、それよりも驚きの事態がある。

 

「いや、それよりも"不死王(ノーライフキング)"が人間と―――攻魔師と共にいるだと!?あり得ん!どうなっている!?」

 

「それは教えられないな……。那月、クリストフ・ガルドシュについての情報は特区警備隊(アイランド・ガード)に任せるのか?」

 

「ああ、取り敢えずだが。明日の英語の授業の支度があるしな。蓮夜、お前は授業をサボるなよ」

 

場違いな言葉に男は呆然とする。普通はそうだ。屈指の実力を持つ"空隙の魔女"が教師をやっていて、災厄の吸血鬼が生徒をやっているからだ。

那月と蓮夜は空間に波紋を残して虚空に消えた。

 

 

 

          ―○●―

 

 

 

九月半ばの水曜日。モノレールの中には蓮夜と古城、雪菜と凪沙が一緒に乗っていた。

 

「くくく、はははははっ!ま、まさかそんな展開になっていたとは。古城……お前ってラッキースケベだな」

 

「そんなの嬉しくねーよ!まさか姫柊がいると思わなかったんだよ!」

 

何故蓮夜が笑っているのかと言うと、今朝暁家で起きた事故についてだ。

古城が早く起きて、凪沙の部屋のノック無しで開け、中にいた姫柊の着替えているシーンを見てしまったという漫画みたいな展開があったらしい。

この事が学校に知れ渡ったら、絶対に古城は嫉妬と殺意の視線を浴びる羽目になる。面白そうだが古城が可哀相なので心の中に仕舞うことにした。

 

「悪かったな、姫柊。覗くつもりはなかったんだけど」

 

「その事については怒っていませんから。……先輩がいやらしいのは最初から分かっていたことですし、警戒を怠った私の責任です」

 

「……古城。お前さ、普段なにしていたらこんなに評価が下がるんだ?」

 

「い、いや俺も分からない。つーか俺が覗きをするのが当然みたいな扱いになっているんだが……」

 

蓮夜は半眼で古城を睨むが、本人が原因が分かっていないらしい。とは言っても原因が全て古城にある、と蓮夜は踏んでいる。

 

「ダメだよ、雪菜ちゃん。この変態くんをそんなに簡単に許したりしたら!」

 

凪沙が古城を非難するような視線を送っている。つーか、妹に変態扱いとは……思わず古城に同情してしまう。

 

「つーか、普通はノックぐらいするだろ。年頃の女の子なんだぞ」

 

「そうだよ!昨日の夜にもノックしてって言ったじゃん!」

 

凪沙はそう言うが、肝心の古城は完全に忘れているのか、聞いていなかったのか首を傾げている。

 

「凪沙。こんな鈍感な兄を持つと苦労するな」

 

「うぅ。分かってくれるのは蓮夜くんだけだよー」

 

蓮夜の慰めに凪沙は分かってくれる人がいた、といった表情になっている。

実際は蓮夜自身も古城ほどとは言わないが、十分に恋愛ごとに関しては鈍感だ。まぁ、経歴がアレだから仕方ないと言えば仕方ない。

 

「そういや蓮夜は那月ちゃんの部屋に入る時はノックをするのか?」

 

「うん?そうだな……那月ちゃんは時間の管理をしっかりしているから、寝坊することはあまり無いかな。つーか、稀に俺の布団に入ってくるし」

 

「……はい?」

 

蓮夜の爆弾発言に姫柊と凪沙は思考が停止し、古城は驚きのあまり一言しか喋れなかった。

 

「寝ぼけて俺の布団に入ってきたりしている、と言ったんだ。頻繁に侵入してくるワケじゃないが」

 

那月とは本当に小さい頃からの知り合いであり、よく眠れないと言われた時に一緒に寝ていたりしていた。

その所為なのか、時折寝ぼけて蓮夜の布団に入り込み、すやすやと寝ている。

妹、下手をすれば娘のような那月が成長するのはいいがあんな我が強くなってしまい、「何処で教育間違えたんだろう」と時折落ち込んでいる。

よく布団に入ってくるのを蓮夜は軽く笑って流しているが、古城と雪菜と凪沙はあの天上天下唯我独尊を貫く那月からじゃ想像出来なかった。

 

「あ、南宮先生……結構大胆だね……」

 

凪沙は想像もしたこともない、那月の一面を知って少し顔を赤くしている。顔を赤くしているってことは、なにを想像しているのやら。

 

「お前らが隣同士なのは知っているが、なんで姫柊が凪沙の部屋で着替えていたんだ?」

 

「それはね、球技大会で使う衣装の採寸と仮縫いをやってたんだよ」

 

「……球技大会の衣装ってなんだ?普通に体操服かジャージだろ?」

 

古城が凪沙のそう言ったが、首を振って古城が間違っていることを示唆する。蓮夜も判らなかった。

 

「違うよ。試合じゃなくて応援のときに着るチアの衣装だよ。なんかクラスの男子全員が土下座して雪菜ちゃんに頼んだの。姫がチアの衣装で応援してくれるなら家臣一同なんでもする、死に物狂いで優勝目指して頑張るって」

 

「クラス全員土下座って……男子は馬鹿か?」

 

蓮夜は雪菜のクラスの男子に呆れて言う。確かに雪菜は可愛いのは分かるが、そこまでしてチアの衣装を着て欲しいと言う男子たちを蓮夜は同じ男として恥かしい。

一瞬チアの衣装を着た那月が頭を過ぎってしまった。そんな想像をしてしまい、あれ?俺って変態なのか!?と心の中で落ち込む蓮夜。

 

(いや、そんなはずはない!これはきっと……成長した妹?娘?の成長した姿を見たい衝動のはず!……多分)

 

そんな風に蓮夜は自己完結しようと躍起になっている。蓮夜自身、こんな想像をしたことが無かった為、結構動揺している。凪沙に「どうしたの?」と訊かれたが、首を横に振ることしか出来なかった。

 

「雪菜ちゃん、転校してきて一躍有名人になったもんね」

 

「……別に嬉しくないんですけど」

 

凪沙の言葉に雪菜は男子全員の土下座を思い出したのか、若干気疲れのようなものが見える。

そんな会話をしている時、モノレールの窓から海上に浮いている豪華客船が目に入る。

 

ひと騒動起こりそうな感じが、蓮夜の頭を過ぎった。

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