紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ 庭園迷宮第1層フロアボス・『名もなき竜王』討滅戦(下)

side:レミリア

 

光が、満月が浮かぶ夜空を覆い、私たちは思わず光から目を守ってしまう。

それほどまでに強い光が、夜空を、そして庭園迷宮を照らしている。その光の向こうでは、骨が鳴り、肉が裂け、体が変わる音を生々しく響かせている。人間の体から慣らす時もそうだけど……どうもこの音は好きになれない。

 

『レミィ……アイツの行ったことは間違いないみたい、この魔力量……"竜王”よ。』

 

パチェの諦めたような声が聞こえてくる。

……正直、第3層からの敵は、聞いたことがあっても、勝てると確信していた相手だった。奴らに勝つ運命が、私には見えたからだ。

けれど、今……今この場に誕生しようとしている竜王には、そう言う運命は、まったく見えてこなかった。

でも……でも、それで、諦めていい理由にはならない!!

 

「フラァーーーーンッ!!」

「…………ッ!!ダメだお姉さま……目が、破壊の目が見えないし、引き寄せられないッ!!」

 

最後の頼みでもあるフランを呼んだが……どうやら生まれ変わる最中だからか、能力が効かないようだった。

 

「……真正面からぶつかるしかないわね。」

『正気なのレミィ!!?あ、相手は竜王なのよ?!』

「……パチェ。今ここで、竜王を倒さなければどっちにしろ、私たちは死ぬわ全滅よ。なら、少しでも希望のある選択を……多少の犠牲を払おうとも、ここで倒さなければならないわ。」

 

幸い美鈴(メイリン)も、咲夜(サクヤ)も、フランも……そして私も、まだ闘志を失ったわけではなかった。

これまで私たちは、教会の勢力を、人間の軍隊を、テリーの力を退けてきた。ならば、今回だって乗り越えられる。

 

『……あーもうっ、分かったわよ!!私も全力であの竜王の弱点を探ってみるから、分かるまで死なないでよ!?』

「ありがとう、パチェ…………行くわよ、美鈴(メイリン)咲夜(サクヤ)、フラン!」

 

私の言葉に、みんなが頷く。

それと同時に、闇夜を照らしていた光が収まり、老練(エルダー)ワイバーンもどきは、新しい姿を得ていた。

エメラルドを彷彿とさせるひどくきれいな鱗を持ち、2足歩行には変わりないが直立し、背中からは三対六枚の鎧のような外骨格がまとわりついている翼、なかったはずの前腕は生え、人間のように発達もしている。そして、ドラゴンの象徴たるその角も、天を突くような上向きの太い角と二対四本の逆巻く角が生えている。開かれた黄金に輝く双眸は、ひどく知的で、同時に怒りに満ちており……巨大で長い尻尾を地面に叩き付けながら、私たちを見下していた。

 

グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

竜王が、吼えた。

 

ただそれだけだというのに、ビリビリと身体……いや世界が震え、本能の奥底にある恐怖が呼び起こされる。アレには勝てない、アレに殺される、アレと戦うな。本能を通じ、理性がそう叫ぶ。その恐怖を振り払い、私たちは武器を構えた。

竜王は、地面にクレーターを作ったと思った瞬間、空を飛んで私の元に口を開けてくる。どうやら私を喰らいたいらしい。しかし、私も大人しく食われるわけにはいかないので、噛みつきを避けて、奴のがら空きの頬に拳を叩き込む。しかし、殴った瞬間―――私の腕からバキリと嫌な音が響いた。

 

(ッ、折れた?)

 

鋭く悲鳴をあげそうなほどの激痛が、殴った方の腕から神経を通じて脳に伝播される。

思わず叫びそうになるが、グッとこらえて竜王から目を離さないように睨み付ける。が、すでにそこに竜王の姿はなく、夜空だけが広がっていた。

 

(奴はどこに?)

『レミィ、上よ!避けてッ!!』

「くっ―――キャァーーーッ!!

 

パチェが直前で教えてくれて、避けようとした次の瞬間……私は、竜王の太い尻尾を振り下ろされ、地面に向けて落とされる。

吹き飛ばされた途中で受け身を取ろうと思ったその瞬間、地面に叩き付けられ血反吐と一緒に肺から空気が抜ける。幸い、竜王を殴った左腕以外は折れていないようだが……左腕は地面にたたきつけられた衝撃であらぬ方向に曲がり、色が青紫色に変色している。それに、まだ意識もギリギリ残っている。けれど、たたきつけられた時の衝撃で、体は少しいう事を聞かなくなっている。

 

『レミィがダウン!援護を!!』

「お、お姉さま!?」

「ふ……ら、だ………めっ!!」

 

パチェとフランの声が、少し遠くに感じるが……私はフランに忠告を飛ばす。

虫が鳴くような小さくか細い声ではあったが、姉妹ゆえかフランには伝わり、フランに向けて放たれた竜王の業火と、フランのレーヴァテイン・レプリカの火炎がぶつかり合った。炎と炎がぶつかったとき、炎はどちらもお互いを燃やし合う……けれど、フランのレーヴァテイン・レプリカの火炎と竜王の業火のぶつかり合いは、竜王の業火の方がフランのレーヴァテイン・レプリカの火炎を押していて……

 

(使う、使うしかない、私のあの能力で)「き……てっ、まぐ、のりあ!!」

 

今にも飛びそうな意識の中で、私はマグノリアちゃんを呼び出す。幸い、私の声はきちんと聞こえたらしく。マグノリアちゃんは即座に私の側に転移し……そしてフランの側に息を吸いながら駆け付け、そのまま青い炎を竜王の業火にぶつけていた。それでようやく、互角。竜王は、フランとマグノリアちゃんとの炎の押し合いに夢中で隙だらけ……美鈴(メイリン)咲夜(サクヤ)がその隙を逃すわけもなく、美鈴(メイリン)は右から、咲夜(サクヤ)は左からそれぞれ拳とバスターソードを振り下ろした。が……美鈴(メイリン)の突き出した拳からは血が噴き出し、咲夜(サクヤ)の振り下ろしたバスターソードは簡単に砕けてしまう。先ほどのワイバーンもどきの時よりも防御力が格段と上がっているのだろうか?ともかく、美鈴(メイリン)は拳の痛みで顔をしかめ、咲夜(サクヤ)は冷静に即座に竜王との距離を取った。その一瞬の判断の違いが、美鈴(メイリン)の命取りになったのだろうか、竜王のしっぽが美鈴(メイリン)に巻き付いたかと思うと、美鈴(メイリン)は何度も何度もしつこいぐらいに地面にたたきつけられ、最後には地面に向けて放り投げられていたが……

 

「ぐっ……この程度っ!」

 

しかし、そこはさすがの美鈴(メイリン)土埃に塗れ頬の切り傷から僅かな血が出る程度の負傷しか負っておらず拳を構え直し、咲夜(サクヤ)はノワールからもらっていたなんでも入る魔法のポーチから戦斧を取り出して構えていた。フランたちとの炎のぶつけあいも互角のまま終わりマグちゃんは帰らずにそのまま戦ってくれるようで、竜王に対して構えを取っていた。しかし、ここまでで、私は動けなくなり、フランも炎のぶつけあいで魔力を消費したのか少し汗を出していて、美鈴(メイリン)は軽傷、咲夜(サクヤ)の武器もおそらく竜王にダメージを与えるどころか眼中にさえないだろう、今来て戦ってくれているマグちゃんだって竜王に対する決め手はほとんどない……一つだけあるがそれはマグちゃんに死ねと命じる事と同義だ、家族に命を捨てろなんて命令……少なくとも私は出したくない。死神メイドのアリスちゃんを呼べば、勝てるかもしれないが……けれど、アリスちゃんの力に頼っているようでは紅魔館(こうまかん)の主として失格だ。本人は「ぜひとも使ってください」と言ってくれるだろうが……それでも、竜王程度の壁にぶつかっていてはこの先の神話クラスの怪物とは戦えない。

 

(……チェックね。)

 

手はあるのだろう、けれどどうやってこの状況を覆せばいいのか分からない状態。

それが今、それが……パメラの言っていた「14手」の遅れ。今考えれば、庭園をフランのレーヴァテインで敵のみを焼き尽くしたり、咲夜(サクヤ)の時止め能力で救助するべき家族を救助したり、美鈴(メイリン)の強さでワイバーンもどきを進化させずに倒したり、それこそパチュリーの最上位魔法(エルドラド)で一面を吹き飛ばしたり……この状況より前に打てる手はごまんとあった。けれど私は、それをしなかった。最短の方法を捨て、確実で見え透いた手を打ち、パメラにいいように踊らされていた。

 

『レミィ……相手に弱点はないみたい……いくら見ても、変わらない。逆鱗が……一枚もないわ。』

「は……はは…………さいあく、ね。」

 

そして、パチェの報告を聞き、チェックメイトになってしまった。

か弱い存在がドラゴンを殺す時、その時、か弱い存在はドラゴンの逆鱗を攻撃するしかドラゴンに勝つ方法はない。しかし、その弱点が無いとすれば……真正面からのぶつかり合い、不死身に等しい再生能力と圧倒的な防御力を前に総力戦を挑まなくてはならなくなる。

無理だ。今の私たちの家族で、あの防御力を貫けるのは多くない。マグちゃんの6属性フルチャージブレスならば、一縷のチャンスはあるだろうが……それを放った瞬間、マグちゃんの身がブレスに耐え切れず喉を完全に焼き切ってしまうか、それとも最悪……死んでしまうだろ。

……マグちゃんに、最善の為に死ねと。いうしかないのだろうか。それだけは嫌だ。家族を捨てて得た勝利に、何の価値がある。

そう思い、立ち上がろうとしたとき……竜王が私の方に振り向き、私を焼き尽くそうとブレスをチャージし始めている。

 

「お姉さまっ!」

「お嬢様、今助け……ぐぅ!?」

美鈴(メイリン)お姉ちゃん、ダメージが……!」

「間に合わない!」

 

……これで、終わり?私が、これで死ぬ?家族も、そんなに多く救えていないのに?

もう、手がない。終わり、これで終わり。パメラの言葉通りに、怯えて、怖くて、絶望して……そして焼き払われて死んでしまうの?

 

 

「お姉さまぁーーーーーーッ!!」

 

 

フランが、懸命に手を伸ばす。

 

 

 

「ごめんなさい、フラン……愛してるわ。」

 

 

 

放たれた業火が、私の身を包みこもうとした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――しかし、長い胴体が私を覆い隠していた。

 

「……へ?」

コルルルルルル……ッ

 

絶望している私が映りこみ黄金と見間違うほど美しい黄色の鱗、ひんやりとした体は竜王の業火にビクともせず、優しげな青い瞳と、オレンジ色の鬣と髭が私のすぐそばにあった。

 

「ろ……ん、君?」

コルァ!

 

私を守ってくれたのは、美鈴(メイリン)のペットであるツチノコが進化した龍……ロン君だった。

ロン君は、私が名前を呼んだことが嬉しいのか可愛らしい笑顔を浮かべ頭を擦り付けてくる。ときどき、散歩に連れて言ったり頭を撫でたりしたうちに懐かれていたけれど……最近、姿を消していた彼が、どうして今ここに?

そう考えていると、竜王の業火が切れたのかロン君の体が解かれ外が見える。クレーターに居る事は、変わってない。ロン君とロン君に守られていた私の周りは、竜王のブレスで赤くなり溶けている。

けれど、ロン君の体は何ともない。むしろ、先ほどより光り輝いているように見える。

 

『れ、レミィ……?無事、なの?』

「え、ええ。ロン君が、護ってくれたわ。」

 

私を主と称えるようにか、ロン君は私を守るようにそこに居て、竜王はロン君ににらまれ怯えているのか、少し後ずさりをしている。

 

コルルルルルァアーーーーーーーーーッ!!!!

 

そんな竜王を見たロン君は怒りの咆哮をあげ、優しげな青い瞳が激情に染まる。竜王はロン君の咆哮に怯えたのか、先ほどの業火を放とうと再びブレスをチャージし始める。

しかし、ロン君は何もせず、ただそれを見つめ―――

 

いや、竜王に怒りを抱いていたのはロン君だけではないと、ロン君は知っていたのだろう。

 

生垣から岩に覆われた人間のように発達したドラゴンの手が伸び、竜王の首を掴んだかと思うとそのまま地面に叩き付けていた。

 

グガルルルル………

 

……生垣から出て来たのは、苔むした岩石に覆われた鱗を持ち、竜王と同じ直立して腕が人のように発達しており、朱い瞳はまっすぐ竜王に向けている一対二翼のマッシブ体系のドラゴン。岩石竜(ロックドラゴン)のユーリが、ひどく変わった姿で竜王を地面にたたきつけたのだった。

 

「ゆー、り?」

グルガァウ……

 

私がユーリの名前を呼ぶと、ユーリは竜王を地面に縫い付けたまま、私に向かい膝をつき頭を下げた。

ユーリの鼻先をそっと触れると、ユーリは少しくすぐったそうに鼻孔を動かすがけれど、拒絶せずただ私の手のひらを受け入れていた。

 

『……すごい、2匹とも、進化してる。ロン君は黄龍に、ユーリ君は古代岩石竜(エンシェントロックドラゴン)……?一体、見ない間にどんな進化を遂げたの?』

「……すごいすごーい!さっすがユーリ、ロン!お姉さまのペットは伊達じゃないね!!」

 

……そうだ、私は何を忘れていたのだろう。ユーリもロンも、そしてユグも、エメナスもローウィルも、私の……私たちの大切な家族じゃないか。

 

「ありがとう、ユーリ、そしてロン。そしてごめんなさい。これまでアナタたちを忘れていて。」

コ、コルァ!?

グ、グルゥ……

 

忘れられていたことに少しショックを受けているのか、ユーリ君とロン君の顔が面白い表情になる。

けれど、この2匹がいるのなら、もう負けはない。

 

「ユーリ、ロン。命令よ……その竜王を、コテンパンにやっつけなさい!!」

コルルルルァーーーーーーーーーッ!!!!!!

「グガルァーーーーーーーッ!!!

 

私の命令に従い、ユーリ君とロン君が大きく吼えたと思うと、竜王は暴れ、ユーリの手から逃れて、空へと舞う。逃げる気なのだろう。だがしかし、ユーリ君とロン君は龍王を逃すつもりはないらしく、それぞれ空へと舞う。

素早いはずの竜王はすぐに追いつかれ、ロン君から黄色と紫が混じったブレスを受け、ユーリ君には横っ面を殴られ、地面に向けて落ちてくる。たったそれだけで、竜王の圧倒的な防御力は砕かれ、体中から血が噴き出している。

まさに、一瞬の決着。私たちがあれほどまでに苦戦した相手を、ユーリ君とロン君は簡単に倒してしまった。

 

「あのブレス、雷の単体ノーチャージで~す……」

「それで、あの威力なの?」

 

地面に叩き落とされた竜王は、未だ抵抗しようと足掻こうとするものの……ユーリ君が頭に足を乗せ、ロン君はいつでもブレスを出せるようにか、口元で電気をパチパチしている。おそらく、ユーリ君とロン君はこの竜王に慈悲をかけているのだろう。このまま抵抗しなければ、殺さず……抵抗すれば、殺す。そのつもりなのだろう。

けれど、竜王は最後の力を振り掘り、ブレスを放とうとエネルギーを溜め始めるが……

 

グルガァウ……

 

……それをユーリは許すわけもなく。骨が砕ける嫌な音を響かせながら、ユーリは竜王の頭を踏み潰した。

そして、足をどけたユーリ君に合わせるように、ロン君がまだわずかに息のある竜王の頭に向け、あの雷属性のブレスを放ち……竜王の体は、完全に動かなくなったのである。

 

『竜王の魔力反応……生体反応……ともに消失、私たちの勝利よ』

 

パチェの声のおかげで、ようやく、第1層の完全攻略が終わったことを思い出す。これだけの大激闘、そしてユーリ君とロン君が来てくれたからこそ勝てたフロアボスの竜王……。

 

「……辛いわね。」

 

ふと私は、弱音を零してしまうのであった。

 

 





と言うわけで、ユーリ君とロン君の活躍回でした!

ちなみにユーリ君とロン君は行方不明になっている間庭園迷宮第1層の深部に行っていたのかもしれませんね……。
あ、それとユーリ君とロン君は喋りませんし擬人化もしません!
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