紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ 庭園迷宮第2層 イレギュラー戦(下)

side:レミリア

 

フランに化けたドッペルゲンガーを倒し、美鈴(メイリン)咲夜(さくや)も、警戒は続けながらも、肩の力を少し抜き始めた。そろそろ、パメラ・スカーレットが展開したであろう、妨害魔術も晴れてくるころだろう。

そう考えていると、これまでの蓄音機……ではなく、どこからか声が聞こえ始めた。

 

《……レミリア、フラン。どうして、分かってくれないのかしら?》

 

なにも浮かんでいないのに聞こえてくるパメラ・スカーレットの声。

その声は、随分と低く、震えており、ヒステリックな感情を簡単に読み取れるほどの声色だ。

これまで、私に対して”打つ手が遅れている”とあれだけ言っていた、パメラ・スカーレットが、怒りに震えている。

 

《あなたたちは、自由に、ワガママに、子供らしく、吸血鬼らしく、生きていればいいのよ?それを、どうして、拒絶するのかしら?》

 

ピリッと、嫌な予感が走る。

 

「フラン、美鈴(メイリン)咲夜(さくや)……構えなさい、何かしてくるわ。」

 

私の言葉に、フランたちは言葉を発さずとも、身構えて返答してくれる。

なにかをしてくるその予感は間違いがない、それがどんなものなのか……私は”運命を操る程度の能力”を使い、先に答えを―――

 

《 精霊召喚(エレメンタル・サモン)―――呼出(コール) ―――魔力の海に揺蕩いし、世界の元素を統べる者、全ての生命(いのち)に力を与えし者、我が声にこたえて、我が示す生命(いのち)の敵をうち滅ぼせ!!

 

―――理より来たれ、精霊神(エレメンタルゴッズ)・アストッ!! 》

 

……私たちが、負ける未来が見えた。

 

~~~~~

 

走馬灯が、見える

私が幼い頃にメイド長を拾ったときの記憶、メイド長がブラウとルージュを連れて帰って来た時の記憶、フランが暴走して……メイド長が倒されて、カッとなって泣くまでビンタした記憶……。

昔の懐かしい思い出から、つい最近の面白かったことまで、いろいろ記憶が浮かんでは、消えてゆく。

 

「ねえ、パチェ。」

「……なにかしら、レミィ。」

 

ふと、一つの記憶を鮮明に思い出した。

この記憶は確か……聖母(マリア)戦争の後の、長い長い平和な日々の時の記憶。

フランがユーリたちを連れて散歩に行ってしまったから、代わりにパチェをお茶会に呼んだ時の記憶……。

確か、会話の内容は―――

 

「精霊が、この紅魔館(こうまかん)に襲撃をしてきた時、どうすれば勝てるかしら?」

 

―――ちょうど、精霊の話だったはずだ。

 

「……近いうちに、精霊が攻めてくるの?」

 

記憶の中のパチェが恐る恐る記憶の中の私に確認する。

確か、この時は……興味本位で聞いただけで、別にそんなことはなかったはずだ。

けれど、記憶の中の私は、意味深な笑みを浮かべ、パチェに向き合った。

 

「来るともいえるし、来ないともいえるわ……それで、どうなのかしら?」

「……精霊の対処法は魔力をぶつけることよ。奴らは魔力で体を構成するから、別の魔力をぶつけて崩すしか倒す方法はない。

精霊に対して物理攻撃は悪手よ……魔力を帯びた物ならともかく、何も纏わせていない武器を振るっても、すり抜けるか折れるかのどちらかでしょうし……そう言う意味だと、レミィとフランさまの、あなたたちのグングニル・レプリカとレーヴァテイン・レプリカは精霊に対して特効なんじゃないかしら?」

 

そこまで、思い出したところで……私の意識はゆっくりと、現実に引き戻され始める。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「っ……はぁっ……はぁっ…………。」

 

痛い。

身体中が、痛い。

 

呼吸が、うまくできない。

息を吸うたびに、胸のあたりが痛い。

 

身体中から血が流れている。

戻ってきた意識が、途切れそうになる。

 

《……レミリア、そのまま死んでおけば苦しまずに済んだものを》

 

パメラの声が聞こえる。

精霊神アストをそばに控えさせた、映像魔術でそこにいるパメラ・スカーレットがそこにいる。

 

「おあい……にくさま、私は……お父様、みたいにっ……頑丈なのよッ!」

《えぇ、えぇ……まさにライルの血ね。あの人の遺伝を感じれて私はうれしいわ!》

 

グングニル・レプリカを何とか作って、杖代わりにする。

チラリと、視線を動かして、みんなが無事かを確認する。

フランは……壁にクレーターを作って、もたれかかっている。

美鈴(メイリン)は、床に詰まれたがれきから、脚だけが飛び出している。

咲夜(さくや)は、柱の下で倒れている。

……みんな、瀕死だ。命が消えかかってる。

 

パメラ・スカーレットに視線を戻すと、私がお父様の頑丈さを受け継いだことがそんなにうれしいのか、うふふうふふと笑いを隠せていない。

殺そうとした相手に、自らが好む個所を見つけて笑うそのしぐさは……私たち以上に人外のように見えて、思わずあの言葉が出てしまう。

 

「……”化け物”」

 

……ポツリとそう呟いた言葉に、パメラ・スカーレットが反応する。

うふふうふふと笑っていた表情が一転、スンッとした真顔になり、ただただ私を見つめている。

赤い赤い、緋色のような瞳が、私に向かっている。

 

《……母に、母に対して……化け物、だと?

わ、私……私は、あなたのためを思って、心を鬼にしているのに……っ!

あぁ……酷いわ、レミリア…………アナタは……アナタはッ……

もういい……殺す。

 

―――やれ、精霊神アスト!》

 

パメラ・スカーレットが、命令し、精霊神が剣を振り上げた。

私は……何とか立てているだけで、それを避けられるほどの体力も、魔力も、何も残されていなかった。

今から、メイドたちを呼び出しても……アレを防げるのはごく少数だろう。

なんだか、デジャブ感がある光景だが……今度こそ、本当に終わりだろう。

 

(ごめんね……みんなっ)

 

やがて―――

 

 

剣が―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……へ?」

《っ、この天秤はッ!?》

 

私を守るように、フヨフヨと高度を下げるその天秤。

ピカピカと魔力を放っては、その受け皿をユラユラと揺らしている。

黄金一辺倒の天秤ではなく……ところどころ、黒曜石のような素材でできている天秤。

一番目立つ頂点には、黒曜石でできた馬のスタチューが付けらえていた。

 

《バカな、バカな、バカなッ!黒馬の天秤だと!?そ、そんなはずがない……そんな未来、私には見えていないッ!!

「あぁ、貴様が対策をしないように、先ほどからありとあらゆる妨害魔術を仕込ませてもらった……おかげで、パチュリーからひどくお叱りを受けたがな。」

 

コツコツと足音を鳴らしながら、余裕の表情を浮かべるメイドが……私のそばまで歩いてきた。

 

「……の、わーる?」

「ええ、私ですよ、レミリアお嬢様。他の誰でもない、あなただけの私でございます。」

 

さっと手を指し伸ばされ、私はその手を掴んだ。

ノワールは私の手をグッと握ったと思うと、そのままお姫様抱っこで抱えてしまう。

 

「あぁ、こんなに傷だらけになって……メイド長が見たら、心配で倒れてしまいますよ?」

「私より……フランたちが……」

「ええ、見えております。」

 

《貴様ッ!私のレミリアに話しかけるなぁッ!!》

 

私と、ノワールが話していると、パメラ・スカーレットが激昂し、精霊神アストをけしかけて来た。

アストが、瞬間移動のように私とノワールに近寄り、剣を振り上げた。

私は思わず、小さな悲鳴を上げ……ノワールは、面倒臭いという表情を浮かべたと思うと、天秤が移動し、またアストの攻撃を防いだ。

 

「まずは、フランお嬢様方の回収からとしよう……」

 

ノワールがそう言うと、バラバラに倒されていたみんなが、ノワールの足元に転移する。

魔術陣を展開しない、無言詠唱の転移魔術……今まで、見せたことのないような仕草。

そして、みんながノワールの足元に転移したと思うと、黄緑色の魔術陣が展開した。

その魔術陣が光ったと思うと、私を含めたフランたちの傷が見る見るうちに癒えてゆく。

とっても温かく、痛みはないけれど、深い傷まで治る回復魔術は、ノワールが私たちをどう思っているのか、よく分かるものだった。

 

「……うむ、これでいいだろう。

 

―――さて

 

ノワールの声色が変わる。いつもの、知的でミステリアスながらも優しさの含まれた声色から……酷く怖くて、冷たい声色になる。

 

「パメラ・スカーレット……そう言えば、何故私がレミリアお嬢様を、主と仰ぐか、答えていなかったな?

いま、その答えを提示してやろう……私は、レミリアお嬢様のその優しさに惚れたのだよ。レミリアお嬢様であれば、たとえ人であろうと、神であろうと……敵出なければ優しさを与える、その優しさにな。」

《―――黙れぇえええええっ!!

 

耳を塞ぎたくなるような、金切り声。

パメラ・スカーレットが、キンキンと嫌な声でまくし立てている。

 

《レミリアに優しさなんていらない!レミリアはワガママで暴君で、支配者じゃなきゃダメなのよッ!!それを、それを変えた貴方たちを許さないわ……ええ、絶対に許すものですか!!》

「何ともまあ、哀れなものだ……ここまでとは」

《うるさいうるさいうるさい!奴を殺せ、精霊神アスト!!》

 

再び、精霊神アストが剣を振るい、ノワールに危害を加えようとする。

 

「そして、久しいな……”精霊兵・アスト”。」

「◆◆◆◆◆◆◆――!!」

 

ノワールが、そう言うだけで……今まで無言を貫いていた精霊神アストが怒り狂った。

怒りに身を任せても、素早い攻撃をノワールは天秤を操って的確に防ぎ続けている。

 

「あぁ、この癖も全く変わらない……さては、私が貴様の上司を皆殺しにした後、その手に入れた権力に胡坐をかいていたな?その癖、自らを精霊”神”と名乗ったのか……?

あっはっはっ!!

君は実に面白いな!コメディアンの才能があるじゃないか!貴様程度が精霊神を名乗れるほどの強さじゃないだろう?!私が精霊界を襲撃した、あの日あの時!貴様は真っ先に逃げて世界の隅でガタガタ震えているだけだったじゃないか!!」

「◆◆◆◆―――!!」

 

ノワールが散々煽り、精霊神アストはさらに怒りを露わに攻撃を苛烈にする。

だが、ノワールが操る天秤は、そのすべての攻撃を防いでしまった。

 

「図星を突かれてご機嫌斜めだねぇ、けれど私に攻撃が届かないねェ……はぁ、やはり貴様はその程度か。その程度の実力で精霊神を名乗るな……いくら私でも、奴らに敬意はあったのだぞ?」

「◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆―――!!!」

 

精霊神アストが距離を取ったと思うと、両手を構えてその手の中心が光り出す。その余波で、パメラ・スカーレットの姿が消える。魔力のリソースとして、姿を見せていた魔術が取り込まれたのだろう。

魔力が集まりだすと同時に、全身に鳥肌が立つ。あれは、ダメだ、当たったら、死んでしまう。

けれど、その光が放たれる寸前、アストの体勢が崩れ、壁に叩き付けられた。

 

「はぁ……大技を撃つなら、対策の一つぐらいするべきじゃないのかね?」

 

やれやれという感じに、ノワールは私に振り返った。

 

「レミリアお嬢様……私は、あなた様に一つ、謝らなければならないことがあります。」

「……今?」

「ええ、今でなければならないのです……ご理解を」

 

カーテシーをしながら頭を下げるノワール。

今この場を支配しているノワールが、私に対して頭を下げている。

それがどうも、違和感があって……でも、なんとなく悪い気がしなくて

 

「私は、初めて会ったとき、名前が無いと偽り……メイド長から、ノワールの名を与えられ、これまで名乗ってまいりました。

ですので……これより私は、ノワールを名、それ以前に名乗っていた名前を家名とし、あなた様に永劫と絶対の忠誠をお誓いいたします。」

「これまでの、その不忠……レミリア・スカーレットの名前において許すわ。そして、その宣言通りに、私のメイドとして最期までついてきてもらうわよ。」

 

「ありがたき幸せ…………我が古き名は、”ブラックライダー”。黙示録に記されし、第三の騎士!天秤をもって、飢餓を司るもの!!

これより、我が名は”ノワール・ブラックライダー”となり、我が主、レミリア・スカーレットに永劫と絶対の忠誠を、今ここに、我が天秤もって誓おう!!」

 

声高らかに、そう宣言するノワール。

薄々、ノワールたちがそうじゃないかと思っていたけれど、まさか本当にそうだったなんて……

けれど、そんな思いに身をゆだねる時ではない……私は立ち上がり、ノワールに命令する。

 

「ノワール……あの精霊を、一撃で完全に破壊なさいっ!!」

「!……あぁ、承知した、我が主(マイロード)よ!!」

 

「◆、◆◆◆◆―――!」

 

「悪いが……今の私は、最高の気分を邪魔されたくないのでな……文字通り、消し飛ばしてくれよう!」

 

ノワールが天秤を手に乗せ、目をつぶり、集中しだす。

先ほどよりも強い魔力の流れが、徐々に徐々に天秤に集まりだし始める。

その圧倒的な魔力量……そして、魔術式から感じる気配に、私は動けなくなってしまう。

 

根源より来たるもの、深淵の彼方に潜むもの、永久の眠りを与えし、偉大なる汝の名において、我、魔術の祖なり、我、汝が古き友なり!消え去り、忘れ去られし、わが友たる汝の名を、今ここに再現しよう!!

 

闇夜ノ支配者ッ!!

 

ノワールが魔術の名前を叫んだと同時に、天秤を中心に真っ黒な闇が広がり始める。

それは、ノワールを包み、私たちを包み……敵たる精霊神アストを飲み込んだ。

一秒、十秒……酷く冷たい闇が、私を抱擁し、震えそうになる。

けれど、すぐそばにノワールがいてくれている。大丈夫。大丈夫。

 

「―――あぁ、キミはまだどこかで生きているんだね。」

 

ノワールが小さくつぶやくと、冷たいはずの闇にほんのり温かみが混ざった。

直後、闇が晴れ、激闘を繰り広げたホールに残されていたのは、私と、気絶しているフランたちと、ノワールだけだった。精霊神アストは、すでにその姿はなく、パメラ・スカーレットの姿も再度現れない。

 

《―――ィ、―――ミィ、―――レミィ!応答して、レミィ!!》

 

パチェの声が、聞こえて来た。

 

「パチェ……第2層、攻略、完了よ。」

 

慌てているパチェに、それだけを伝えて、私もゆっくりと意識を手放し始める。

ノワールが優しく受け止めて……私は、完全に意識を手放したのであった。

 





ノワールさんの正体は、ヨハネ黙示録に出てくるブラックライダーさんでした。
原初の妖精にして、穢れの表徴であり、飢餓を司る黒騎士と属性もりもりのノワールさんですが、実はこのお話の最中はテンションが上がっておりキャラブレしております()
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