紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
side:フラン
……庭園迷宮の攻略が始まって、お姉さまと私たちは、廃屋敷で予想外の一手を食らい……
そして、お姉さまもまた、張り詰めていた集中力が切れてしまったからか……倒れてからというもの、目が覚めない。
かくいう、私もまた……目覚めてからというものの内に秘めている狂気が騒ぎ、どうしても心がざわついて、冷静さを取り戻せているとは自分でも思えなかった。。
いや、理由は分かっている。このまま攻略を続ければ―――
「フランお嬢様」
「……ノワール?」
庭園迷宮を見つめ、考え事をしていた私に、攻略前と様子が変わったノワールが声をかけてきた。
かつての、傍観者のような……諦観者のような、ただ見つめているような興味なさげな視線ではなくて、まるで星を見上げる天文学者のように可能性を見つけたようなキラキラした瞳。
「レミリアお嬢様が目を覚ましました。」
「お姉さまが?……問題なさそう?」
「ええ、記憶に多少の混濁がみられますが……それ以外は問題ないかと。」
「……そう。」
お姉さまが目を覚ました……とりあえず、これで一安心。
ここでお姉さまが折れてしまっていたら、私はビンタしてでもお姉さまを無理やり再起させていただろう。けれど、そんな様子はノワールの口ぶり的に内容で、一安心。
でもまあ、私の悩みはお姉さまが目を覚ましたからと言って、完全に解決したわけではない。
それに、あれだけの啖呵をを切っておいて、今更その事実に気づいて怖気付いたなんて、お姉様の前では口に出すのは難しい。
「フランお嬢様……何か悩み事が?」
「……ううん、問題ないよ。」
顔を覗き込んでくるノワールに悟られないように、作り笑顔を作って何ともないように見せる。今ここで、お姉様の負担になるのは嫌だ。
ただでさえ、お姉様は目の前でメイドたちを奪われ、メイド長を傷つけられ、どんなに最善を尽くしたとしても、パメラ・スカーレットはその上を行って……強がってはいるけれど、不安がっているはずだ。
今ここで、私の悩みがノワールからお姉さまに伝われば……きっとお姉さまは、今度こそ折れてしまう。
「よーし、ちょっとパチェのところに言って手伝ってくるね!ノワールはお姉さまのお手伝い、よろしくね!」
カラ元気を出して、ノワールの元から去ろうと足早にパチェのテントへ向かう。
けれど、数歩歩いたところで、ノワールに腕を掴まれ、止められてしまった。びっくりして振り返ると、悲しそうな表情を浮かべ、築いた時には足元が光り……運搬メイド隊の執務室、ノワールの部屋に転移していたのである。
「……パラドックスに、気付いたのですか?」
ノワールがひねり出すような小さな声で聴いてくる。
……そもそも、ノワールだって頭がいいんだから、そりゃ気付くよね。失敗だったかな……?
でも、もしかしたら、見逃してくれるかもしれない。そんな淡い気持ちを胸に、しらばっくれることにした。
「な、なんのことかなー?」
「……フランお嬢様、私もメイド長からあなたのあれこれを聞いていた身です。アナタが嘘をついていることぐらい分かりますよ?」
「…………そっか。」
ダメだった。嘘をついた仕草がまた出ていて、それはもうメイド長がノワールにも共有していたみたいだ。
そう……私が今、頭を悩ましている問題。それは、私の存在のパラドックスだ。
……このまま、順調に攻略していけばお姉さまはその内、パメラ・スカーレットを越えていくだろう。メイドたちの完全救出、メイド長の奪還、そして……庭園迷宮の完全攻略。
けれど、問題は……パメラ・スカーレットは、過去の私をそのお腹に宿していることだ。
「このまま、順調に攻略していけば……間違いなくパメラ・スカーレットは、過去のお腹の中の私に細工を施すと思う。ただでさえ、お姉様をいたぶり機嫌が良いとはいえ……想定外なことが起きて、ヒステリックになり続けている……そうなったら最悪、腹の中の私に八つ当たりして、殺してしまうかもしれない……。」
「それは絶対にありえない……そうは言いきれないのが、あの女の怖い所ですね。」
「……うん。」
もし、パメラ・スカーレットがヒステリックになったまま自身の体に強い衝撃を与えたら?お腹の中にいる過去の私は、おそらくその衝撃に耐えきれる保証はない。いくら吸血鬼とはいえ、子供の頃は非常にか弱く……生まれる前となれば、母体依存の状態だ。
それにもし、パメラ・スカーレットが、生まれる前の私に何か細工をした時……それは、”今の”私の死を意味する。そして、今この場に立っているのは、もしかしたら”その”私なのかもしれない。
この事実に気付いたのは、廃屋敷の攻略中、お姉様と別れて……ちょっと考えてしまったときの事。
「フランお嬢様……このことは、レミリアお嬢様に―――」
「―――絶対に言わないで!!」
私は思わず、大声を出し、ノワールの肩を掴んだ。
力強くつかんだせいで、ノワールが片膝をついて痛みをこらえる表情を浮かべる。
けれど私は、それを見て冷静になれていなかった。
「こんなこと……こんなことをお姉さまに伝えたら、お姉様は攻略を躊躇しちゃうっ……いま求められてるのは、お姉様の完全な勝利なのっ!
もし、もしフランが原因で、お姉様が負けたら……私は、私が許せないよっ。」
「し、しかしッ……フランお嬢様が消える可能性がっ」
「フランはっ!……私は、お姉様の完全な勝利で消えたって、構わない。それで、メイド長が救われるなら……私は…………。」
私のお姉様は、いつもカッコいい。ときどき、変なことを言うけれど……それでも、みんなのためにと頑張るお姉さまは、私の誇りだ。そんなお姉様の邪魔となってしまうような私は……きっと、お姉様の妹としてふさわしくはないと思う。私は、お姉様のようにはなれない、お姉様の邪魔しかできない。
……そんな私は、消えた方が―――
「……フランお嬢様、私は……メイド長のようにあなたを優しく叱ることも導くこともできない。」
「ノワール?」
「失礼を承知で、無礼を働く…………
―――この、馬鹿者ッ!!」
バチン!
……私の方に、痛みが走る。気が付けば、私は……怒りを露わにしたノワールに、ひっぱたかれていた。
けれど、ノワールの手の方が、赤く腫れて、プルプル震えて痛そうで、涙がポロポロこぼれていて。
「フランドール!アナタは、別れがどれほどつらいモノか、分かっているのかッ!?」
ガシリと、今度はノワールが私の肩を強くつかんで、声を荒げる。
「アナタはこれまで、別れの経験はなかっただろう……だから軽々しく居なくなることを口にできる!!アナタが消えて、レミリアお嬢様とメイド長が喜ぶと思うのかッ!?」
「……消えたら、みんな忘れるじゃない。」
「忘れると思うのか!?あの二人がッ!!」
……ノワールの声に、私の決意が揺らぎだす。
でもダメだ。お姉さまに必要なのは、完全な勝利。たとえ私が消えたとしても、メイドたちをすべて救い、メイド長を救い出すのが―――
「―――あれ?」
ポロポロと私の瞳から、涙がこぼれていた。
ダメだ、ダメだ。泣くな、泣くな私……泣いたら、また弱虫だって、狂った私に笑われる……。
「ヤダ、消えたくない……消えたくないよぉっ。」
ノワールの胸の中に縋り、塞いでいた感情があふれ出してくる。
「……ちゃんと、言えたじゃないか。」
私は、ノワールの胸の中で、ただわんわんと泣いた。
泣いて泣いて泣き続けて……私は、やがて泣きつかれて眠ってしまった。
けれど、ノワールは最後まで私を抱きしめてくれて……目覚めた時には、お姉様と一緒になって眠っていた。
お礼をしに行ったとき、ノワールの右手に包帯を巻かれていたのを見た時、ちょっと笑ってしまったのは、余談ってやつなのだろう。
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時間は少しさかのぼり……
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side:ノワール
レミリアお嬢様の元に、フランお嬢様を連れて行き、姉妹仲良く一緒のベットに眠らせて……私は、フランお嬢様をひっぱたいた時に捻挫した右手の治療を受けてから、パチュリーの元へと向かった。
「あら、ノワールさんおそかった……って、その右手どうしたの?」
「なに、自分の体の弱さが原因だ。気にしないでくれ。」
「あぁ、そう?ちゃんと栄養あるもの食べてる?」
「パチュリーにだけは言われたくないぞ。」
軽口をいくつか叩きつつ、私はさっそく本題に入ることにした。
「レミリアお嬢様とフランお嬢様……その双方に、意識操作の魔術が施されていた。」
「……一応、聞いておくわ。パメラね?」
「やつ以外にこんな外道な魔術を使うモノは、そう居るまいよ……。それも、徐々に徐々に、パメラ・スカーレットの言葉を信じやすくなるものは、あからさまであろう?」
レミリアお嬢様とフランお嬢様には、いつの間にか、パメラ・スカーレットから与えられる情報や言葉を真に受けるような意識操作魔術が施されていた。
私の知らない魔術ではあるものの、原理や構成式は簡単で……無駄に難しくしようと、無駄の多い設計だったが、簡単に解除できた。
「……手段を択ばないわね、パメラ・スカーレットは」
「それほど、自分の娘が自分の言うことを信じないのが気に食わないのであろう。」
「クズね……レミィとフランの事を人形としか思っていないのかしら……。」
ため息をつきながらパチュリーは、怒りを露わにした。
「……でも、それ以上の問題はフラン様ね……。」
「事実上の人質と言っても、差支えがないからな。」
過去から、私たちを苦しめるパメラ・スカーレット。
殺すこと自体は、私にしてみればペンで字を書くかの如く容易だ。だが、そのパメラ・スカーレットの胎の中には、フランお嬢様がいる。
もし、今この場で、パメラ・スカーレットの首を刎ねれば、我々のよく知るフランお嬢様
は消え、最悪……ラウル卿の記憶の中にしか存在しなくなるだろう。
私も……パチュリーに言われるまで、パメラ・スカーレットの胎の中にフランお嬢様が居る事を失念していたのだ。
下手すれば、私の手でフランお嬢様を消していたと思うと……ゾッとしてしまう。
「……やりようはあるが、タイミングが難しい。」
「それに賭けるしかないわ。」
「準備は私がしよう……パチュリー、起動は任せた。」
「魔術の祖に託される名誉は嬉しいわね……でもそれ以上に、友人として任せて頂戴。」
私は握手をしようとして右手を取り出し、捻挫していたことを忘れて机の角に捻挫した右手をぶつけ、しばらく痛みに悶えるのであった。
Tips:実はノワールさんは物理耐久力がこの