紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
フランがレミリアに、後を任せた一方。
「クソッ……!」
巨大なハンマーを軽々と振り回し、慣れない戦闘ながらに果敢に攻め立てるヘスティーナ。
しかし、目の前の黒いオーガは、あくびをしながらそのすべてを防いでいた。
「ドウシタ、ソノテイドカ?」
「うるせぇッ!」
舐め腐ったセリフを吐く黒いオーガにまた大ぶりの一撃を仕掛ける。
しかし、その一撃ですら黒いオーガは軽々と……指一本で防いでしまう。
「ツマラン……ジツニツマランゾ。」
「俺は元々鍛冶師だ!戦闘なんでさっぱりなんでね!」
黒いオーガがチラリと周りを見渡すと、頭、もしくは体の一部がペシャンコになった黒いゴブリンや黒いオークの死体が転がっていた。
雑魚とはいえ、黒いゴブリンや黒いオークは、普通の妖精では太刀打ちできない程度には強い。それをこうも一方的に虐殺し、黒いオーガは久々の強敵に心を躍らせていたのだが……
「ハァー……メストシテハマンテンダガ、センシトシテハラクダイテンダナ」
「テンメェ……さっきっから俺は鍛冶師だってのが聞こえねぇのか!?」
「ソレニシテモ、ズイブンソソルカラダダ……ゼヒトモクミシイテナカセタイ」
「気色悪いこと言うんじゃねぇッ!」
ヘスティーナは怒りすら力に変え、全力の一撃を黒いオーガに向けて放つ。
「カンガエタラムラムラシテキタナ、ヨシ、ヤルカ。」
しかし、全力の一撃は……黒いオーガのそんな言葉と一緒に立った一発のデコピンで、巨大ハンマーごと粉砕されてしまった。
破壊された反動で、ヘスティーナは地面を転がり……守っていた妖精メイドたちのすぐ近くに倒れる。
「俺の、ハンマーが?」
「オオ!ソノヒョウジョウハジツニソソル!!」
ヘスティーナは、自分のハンマーが粉砕されたことに絶望していた。
長年使ってきた相棒が壊されたこともあったが、それ以上にここは戦場……武器を失ったヘスティーナは、己の末路を予感してしまった。
黒いオーガに拘束され、この体を、好きなように貪られる。ゾクリとヘスティーナに悪寒が走る。
「や、やめっ……く、くるなぁっ」
「ウォオオオッ!イイゾイイゾ!!ジツニソソルイイヒョウジョウダ!!」
ヘスティーナの気丈な態度が、ポッキリと折れてしまう。
逃げたくても、体が思うように動かせない。体が震えている。
「チト、ランボウニシゴイテコワシテシマウカモシレンガ、シッカリトハラ―――『コツン!』―――ア?」
黒いオーガの頭に、身体に……小さな小石がぶつかる。
ヘスティーナは、震えながら後ろを見ると……ヘスティーナが守っていた妖精メイドたちが、石を拾って黒いオーガに向けて投げつけていたのだ。
全員、怯えながらも、勇気を振り絞り……ヘスティーナを守ろうと、必死になっている。
「へ、ヘスティーナさんに近寄るな!ばけもの!!」
「お、お前なんかこわくないもん!これでもくらえー!」
「ぼ、ボクたちがヘスティーナさんの代わりに相手になってやるっ!」
「おまえら?」
妖精メイドたちの必死な抵抗を見たヘスティーナは、僅かに体の震えが止まり……咄嗟に彼女たちを守ろうと抱き寄せた。
「ワイショウナヨウセイエゴトキガコノオレニ、イシヲ……キガカワッタ、ミセツケルヨテイダッタガイマココデカジヨウセイイガイハミナゴロシニシテクレルワ!!
オーガの怒気がその場を震わせ、ヘスティーナの腕の中にいる妖精メイドたちは泣き出した。
ヘスティーナは目をつぶり、彼女たちを守ろうと強く抱きしめ、振るわれるこぶしから庇おうと体勢を変えたその瞬間。
パシッ
拳が振るわれたにしては、軽い音が響いた。
恐る恐る……ヘスティーナは、目を開き、背後に振り返る。
「マグ……ノリア?」
「……ごめん、遅くなった。」
そこにいたのは、ヘスティーナの相棒……マグノリアだった。
マグノリアは、黒いオーガの拳を軽々と受け止めており、優しい笑顔をヘスティーナに向けていた。
黒いオーガはいきなりの乱入者に驚いたのか、拳を引き……構えた。
「見たところ、黒いオーガで……格闘技の構えも知ってるってわけ?」
その構えは、ヘスティーナでも分かる程、綺麗なボクシングの構えだった。
「ボクシング……この時代なら古代ギリシアのやつってわけ?」
「き、気をつけろマグノリア!こいつは―――」
「大丈夫、ヘスティ……私、こんな弱っちい奴と、そして親友を犯そうとしたやつとまともに戦ってあげるほど優しくないの。」
マグノリアがそう言うと、一瞬でその姿が掻き消える。
直後、黒いオーガの顎を蹴り上げたマグノリアがそこにいた。
蹴り上げられた黒いオーガは、空中にふわりと浮かび……直後、顔に靴底が突き刺さり、そのまま地面に頭から叩き付けられる。
それでも、気絶で済んだのは、黒いオーガであるからだろうか……マグノリアは、ゴミを見るような目で見下した後、もう一度、靴底を顔に突き刺し、頭蓋骨ごと踏み砕いた。黒いオーガの体がビクンと動いた後、糸の切れた人形のようにパタリと動かなくなってしまう。
「はい、おしまい。」
「マグノリア……ありがとう。」
「うへ~、ヘスティ~、大丈夫だったぁ?アイツに変なところ触られてない~?」
「おまっ、お前ぇ~……カッコいい所を見せた直後にそうなるなよ!雰囲気の差で風邪ひくわ!!」
「うへっ、ヘスティが初めてカッコいいって言ってくれた~!って……ふふっ」
キャイキャイとコントを始めたマグノリアとヘスティーナだが、マグノリアはヘスティーナの様子に思わず笑みを浮かべてしまった。
なにせ、恐怖からなのか、それとも懐いているからなのかはわからないが、妖精メイドたちがヘスティーナにヒシッと抱き着いているのだ。
「……おい、何か言えよ。」
「うへへ~、ヘスティにもかわいいファンができたね~。」
「…………うっせぇ。」
そのやりとりの後、狼女の部隊が到着し、ヘスティーナとヘスティーナが守った幼い妖精メイドたちは無事に保護された。
ヘスティーナは、黒いオーガの一撃で転がされ、軽い傷を負わされていたので治療を受けていたのだが……ヘスティーナは一つだけ、懸念があった。
(マグノリアが、黒いオーガを圧倒した……あの一瞬、あの日みてぇな嫌な予感がヒリヒリとしやがる。)
それは、マグノリアとヘスティーナが
(……頼むぜ、赤リボンの方のアンナさんよぉ。できるだけ早く、見つかってくれよなぁ?)
ヘスティーナは一人、身を震わせるような竜の咆哮のような声を思い出しながら、再び戦いに赴いた相棒の無事を祈るのであった。