紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
……庭園迷宮の第3層、湖のある個所では、芳醇な紅茶の香りが漂っていた。
温かみのありつつも、渋みがあるような、安心する香り。そんな臭いが、戦場と化している湖に漂っている。
話は変わるが、
例えば、レミリアお嬢様が愛飲している飲み物であるし、メイドたちにとっても休憩中の安らぎをもたらすもの立ったり、パチュリーの場合は作業に集中するために必要な物だったりもする。
しかし、
実をいうと、総括メイド長たるマリアが結構、紅茶に厳しかったりする。特に、仕事中であればやんわりとした口調で「紅茶舐め腐ってんのかテメェ」(意訳)と言われる。(娘であるアンナと
さらに言えば、レミリアお嬢様も結構、紅茶についてはかなり細かい。その日と時間、気分によって、紅茶の好みをコロコロと変えるのだ。期待に沿えない紅茶を出しても、「せっかく淹れてくれたのだし、ちゃんと飲むわよ?」と何ともない様子を見せるが、少しだけシュンとした表情を浮かべ、メイドたちの良心を痛め付けてくるのだ。
まあ、そんなこんなで
総括メイド長たるマリアは当たり前だが、吸血鬼メイドの中で紅茶を淹れるのが上手いフーリンでさえ、その立場を手に入れるのに苦労し、今回、湖の一か所で、紅茶の香りを漂わせているセリアでさえ、つい最近、紅茶係の立場を確固たるものにしたのだ。
さて、セリアと言えば”好みの紅茶を生み出す程度の能力”を使ったうえで、メイド長の淹れる紅茶に敗北した経験を持ち、セリアはとても悔しい思いをしていた。当然、セリアは初めて自身のあった紅茶で負けたことがショックだったし、同時に自分よりおいしい紅茶を淹れるメイド長に対して、挑戦の炎を燃やすことになった。
セリアは紅茶に関して、さらに深い勉強と、自分の能力の成長に力を入れた。僅か一グラムの差で変わる味を細かに記録し、茶葉の状態や育て方の一つ一つも研究し、能力を使い自分で飲んでは首を傾げ、たまには息抜きで戦闘訓練に参加しつつ、理不尽な戦闘能力トップ層にボコられながらも、立ち上がり、ひたすらに己を鍛えていた。
その結果―――
出来上がったのが、黒いオークの死屍累々だった。
そのどれもが、セリアの生み出した紅茶が顔に張り付き、息ができずに溺死するか、もしくは紅茶に混ざった毒が回り、白目をむいて痙攣しながら泡を吹いているか、熱い紅茶で頭全体を火傷し、地面をのたうち回るかのどれかだった。
そんな中、当のセリアは―――
(くっ―――メイド長の紅茶の腕を超えるつもりが、関係ない才能を伸ばしてしまいました……。)
すごく気まずそうな表情を浮かべていた。
セリアの目標は、メイド長……マリアの紅茶の腕を越えることであった。
もちろん、その理由はセリアはとっくの昔に気付いている……レミリアお嬢様とフランお嬢様への愛情に他ならない。
セリアはそこで、絶対に勝てないと悟っていた。しかし、紅茶の腕で負けた悔しさから、愛が関わらない部分を磨こうと考えていた。
実際、その磨きは効果があった。レミリアお嬢様からは、「メイド長を超えるのももうちょっとね」のお言葉を貰い、フランお嬢様からは「フラン、この紅茶好き!」とまばゆい笑顔で伝えられていた。
ついでに、息抜きで参加した戦闘訓練でも、自らの能力を遺憾なく発揮し、(結果的に負けたとはいえ)アンナから1デスを取った。と言う、大金星も手に入れていた。
―――そう、つまり……セリアちゃんは強くなり過ぎたのである。(それでも
「ぶ、ぶひぃ~……」
「ぶぎゃ~……」
僅かに生き残り、何とか武器を向ける黒いオークたちもいたが、目の前にいる小さな妖精の強さに恐れおののき、武器の切っ先が震えていた。
セリアは、そう言うのは(私のキャラじゃないのですが)とは思いつつも、自分の立場的には必要かと思いなおすことにした。
吸血鬼メイドのフーリンと、セリアの役割はレミリアお嬢様に紅茶を淹れるだけが仕事でない。紅茶を淹れる仕事は、あくまでレミリアお嬢様の側仕えの仕事の一つに過ぎない。この場合で使われる側仕えは、あくまで総括メイド長たるマリアの代わりであることを強調させてほしい。マリアはレミリアの専属メイドだが、フーリンとセリアはあくまで側仕えであるということは、大きく意味が変わってくるのである。
側仕えには、当然、護衛の仕事も含まれているため……レミリアお嬢様の側にマリアがいない場合、彼女に変わってレミリアお嬢様の護衛をする必要があるのだ。当然、強く無ければその立場を任せられることはないだろう。
(これもまあ、メイド長を超えるための一環ってことで)
と、自分に向けて言い訳しながら、おもちゃのナイフのような小さいナイフを右手の指先で回しながら、左手で新しい紅茶の水球を創り出す。
生き残っている黒いオークに向けて駆け出し、たった数歩の移動で、生き残った2体の黒いオークの懐に入り込んだ。
セリアは左側にいる黒いオークの顔に紅茶を纏わせる、ただただ熱い熱湯紅茶を顔にへばりつかせ、右側の黒いオークの足首の腱を小さいナイフで切り裂き、肩の腱も斬り裂き地面に倒して無力化させる。
死屍累々の場所に、また一つ、熱湯で頭を火傷し地面をのたうち回る黒いオークと、動かなくなった手足を必死に動かそうとイモムシのように這いずる黒いオークが出来上がった。
「う、うわぁ……地獄かな、ここ?」
「あっ、ディーナさん!」
と、黒いオークの群れが転がる場所に、狼女の一小隊が救援に来た。
しかし、その狼女たちは、目の前に広がる光景にドン引きしていた。
そして、この阿鼻叫喚の地獄を創り出したヌシがセリアだと判明すると、納得したようにジト目になった。
「セリアさん……ほんとにえげつない戦法使いますよね。」
「えーだって、ブラウ様が、戦いに容赦は必要ないからえげつない戦法はどんどん使えって……」
「あぁ、あの純粋で明るいセリアさんが……まあともかく、
「あっ、やっぱりあの声の主何か仕込んでたのね?」
その小隊の隊長、ディーナとセリアはそんな会話をしながら、脱出口へと移動を始めるのであった。