紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ 紅魔の忍びは駆け抜ける

 

湖のとある一角、そこで黒いゴブリンの群れが捕まえた妖精メイドたちを前に、興奮を隠しきれずに舌なめずりをし、わざと怖がらせるようにゆっくりと違づいていく。

捕まっている妖精メイドたちは、悲鳴を上げお互いの体にきつく抱き着く……勇敢な妖精メイドは、近づいてくる黒いゴブリンに足してにらみを見せるが……相手には効果が無く、目尻に涙をため始めていた。

 

あと少しで、妖精メイドの一人に黒いゴブリンの手が触れそうになったその次の瞬間、どこからともなくクナイが飛来し、触れようとしていた黒いゴブリンの眉間に突き刺さる。

悲鳴を上げることなく、前に倒れかけるその瞬間、クナイの元に一人の妖精メイドが瞬間移動し、前に倒れかけた黒いゴブリンの死体を蹴り飛ばす。

 

「…………。」

「ダーティさん!」

 

特注の忍者刀とクナイを構え、黒いゴブリンの群れに対峙するダーティ。

隙の無い構えだが、ここまで連戦だったのだろう……少しだけ、息が上がり、左手が震えている。

しかし、ダーティは自分にできることをしようと、気合で堪えていた。

 

「……火遁、炎柱!!」

 

クナイを持つ手で印を結び、地面に手を添えると、黒いゴブリンの群れの足元から炎の柱が立ち上がり、黒いゴブリンたちを焼いていく。その隙に、妖精メイドたちに逃げるように目配せすると、妖精メイドたちはその意味を理解したのか、何もいない方向へと逃げ出していった。

 

「……よし。」

 

ダーティは伝わった喜びをかみしめつつも、自分も早々にその場から煙幕を使いつつ逃げ出す。

正面切っての戦闘はできるものの、救出する対象が多いので、ダーティは妖精メイドたちを逃がせればすぐに次の場所へ向かうことにしていたのだ。

 

(私の強さは、速さ……正面切っての戦闘は、他の人に任せて……速さを生かして助けられる子は助けないと。)

 

そう考えつつ、ダーティは枝から枝へ飛び移り、次なるポイントに異動をしていると―――

 

ブーーーンッ

 

(……羽の音? かなり、大きい―――そして、近いッ!?)

「くっ……!?」

 

咄嗟に収めていた忍者刀を抜刀し、防御の構えを取ると甲高い金属音と共にダーティの体が枝から落ち、地面に落下する。受け身を取り、反撃の手裏剣を投げつけても、シュタタッ!と小気味よい音を立てて樹に突き刺さっただけだった。

 

(いない? いや、避けられた? 相手も速度型? 次はどこから……?)

 

ダーティが忍者刀とクナイを構え、辺りを警戒していると、背後からまた羽音が聞こえてくる。

咄嗟に、頭を下げ、返す刀で返り討ちにしようと、クナイを振り上げると―――

 

ガキィン!また、甲高い金属音と共に、襲撃者の姿をとらえることに成功する。

それは、人間大のカマキリであり、過去に見た魔物図鑑によれば、キラーマンティスと呼ばれる凶暴な魔獣だったはずだ。ある程度の知能と狡猾さを持ち、姿なき暗殺者としてもそこそこ知られているはずの魔獣……それがどういして、こんなところに?なんて、ダーティは一瞬考えたものの、1秒も満たない速度で思考を切り替え、キラーマンティスの胴部に向けて蹴りを放つ、しかもただの蹴りではなく、ブーツに仕込んだ仕込み刃を含めた一撃だ。

だが、キラーマンティスはひらりと後ろに下がり、また羽を広げて飛び始めた。

 

「……厄介。」

 

ダーティは前世で呼んだ忍者が出てくるマンガに、カマキリは昆虫界の中でも捕食者として相応しい身体構造をしている……と、書いてあったような気がしてならなかった。それに、あの速度では、印を組んでから忍術を使うまでのタイムラグは、大きな隙になると判断し、自分の能力の弱点に思わず舌打ちをしてしまう。一応、印を組まずとも忍術は発動できるが……安定性と威力は、キラーマンティス相手では意味がないどころか、隙を晒すことになるだろう。

ダーティの、ブラウに鍛えられた戦闘センスがそう囁き、どうすればいいのか高速で手を考え出す。

 

しかし、キラーマンティスは考える隙すら与えないために、高速で接近しダーティに鎌を振り下ろしてきた。防御はせずに、かわすことを優先したダーティだったが、振り下ろしている鎌が唐突に方向転換を行い、縦振りから横降りに強引に変わった。

 

「っ……!?きゃっ!?」

 

咄嗟に、忍者刀で防いだのだが、威力が凄まじくダーティはまたも吹き飛ばされてしまう。

吹き飛ばされながらもダーティは相手から目を離さずに観察していたのだが、キラーマンティスも無理して方向を変えたのか、振った腕があらぬ方向に向かっていた。しかし、それもほんの一瞬、グチャリグチャリと嫌な音を立てながら即座に再生し、再びダーティへ向けて突撃の構えを取っていた。

 

(何か、手は…………これしかない!)

「……土遁、岩石壁・円陣!」

 

空中で受け身を取り、着地をすると同時に印を結び、自分の周りを取り囲むように地面から岩をせり出させる。

幸いにも、創り出した岩壁の展開速度の方が早く、キラーマンティスの一撃を岩壁によって防ぐことに成功する。

堅いものに強烈な一撃を叩き込んだ反動なのだろう、キラーマンティスの悲痛な金切り声と、振りかぶったであろう両鎌が砕け、青緑色の血液が飛び散っている。

 

「貰った……ッ! 雷遁、紫電刃ッ!!」

 

印の代わりに忍者刀に雷を纏わせ、そのままキラーマンティスに向けて突き出す。

キラーマンティスは、岩壁に両腕を叩きつけた反動で、まだうまく体を動かせなかったようで、避けることもせずに、雷を纏っている忍者刀をもろに食らう。

キラーマンティスの絶叫が響き、思わず耳を塞ぎたくなったダーティだが、ひるまずクナイをしまい両手で印を結び―――

 

「風遁、鎌切風!!」

 

キラーマンティスに向けてとどめの一撃を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………死んだ?」

 

ダーティは肩で息を吸いながら、ひっくり返ったキラーマンティスを見降ろす……刃の風によって、斬りつけられたキラーマンティスは足を閉じたまま上向きになっており、ダーティは足の開き方で、もう完全に死んだということを理解した。

 

「…………使いすぎた。」

 

ズキリと、ダーティの頭が痛む。

ダーティの能力”忍術を使う程度の能力”は、霊力や魔力、妖力と言った力ではなく”神通力”と言った力を使い、ダーティが使う忍術や忍法、遁術を発生させる。この神通力は、時間経過で回復し、特訓によりその容量を増やすことはできるものの、使いすぎると脳へ負荷を及ぼし、最終的には気絶してしまう。

妖精メイドたちを助けるためにも、いくつもの忍術や遁術を使っていたので、キラーマンティスに放った遁術たちは特に神通力を消費することもあり、ダーティは限界に達してしまったのである。

気絶はしていない、最低限のライン……つまるところ―――

 

「「「「キシャァアアアアッ!」」」」

 

―――今のダーティは、絶好の弱り切った得物であった。

ダーティが苦労して倒した、キラーマンティス……それが、4体も出現する。

現れたキラーマンティスの群れに、ダーティは絶望しながらも忍者刀をキラーマンティスの死体から抜き取り、構える。

 

「…………ここまでか。」

 

ダーティは、己の死期を悟った。

今の自分では、逃げることも、そして立ち向かうこともできない。

前世と比べて、長く生きて……前世と比べて、友人も多くできて……充実した毎日だったと、ダーティは覚悟を決める。

 

が、次の瞬間

 

「邪魔よ。」

 

たった一言と共に、緋色の槍の雨が降り注ぎ、キラーマンティスたちは一瞬で串刺しになってしまう。

ダーティが後ろを振り向くと、そこにいたのは自らが使えている主、レミリア・スカーレットその人だったのだ。

狼女の……魔石が込められたライフルを持った小隊を2つほど連れており、その姿に土埃や血汚れなど一つもなく……しかし、煌々と輝く紅色の瞳が、ダーティを見つめていた。

 

「やっと見つけたわ、ダーティちゃん……主人に探し回らせた不忠はそこそこに重いわよ?」

「…………ご無礼を。」

 

疲れた体にムチ打ちながらも、何とかレミリアに頭を下げるダーティ。

ダーティは声色や表情から、本気で怒っているわけじゃないと理解しているものの、不忠を指摘されたことに少し冷や汗を流す。

 

「いいわ、あなたの不忠は、他のメイドたちを助けたことで帳消しにしてあげる。」

「…………ありがたき幸せ。」

 

内心、ホッと安堵のため息をつくダーティ。

しかし、ダーティはすぐに頭をあげずに、次の指示を待っていた。

なんとなく、そんな気がしていた以上に、今のレミリアお嬢様からは、何かしらの指示があることを直感していたのである。

 

「ダーティちゃん、あなたはすぐに地上に戻って休息をいち早くとったのち、第4層への先んじた突入を命じるわ。」

「…………他には。」

「可能であれば、そこにいるであろうブラウとの接触、そして第5層への足掛かりを確保してちょうだい?」

「…………御意。」

 

やはり、指示があった。

ダーティは指示を受け取った後、狼女の小隊長の一人から、転移のスクロールを手に取る。

使い方は何度も教えられたので覚えているため、特に苦労もせずに起動することができた。

地上に戻れば、レミリアお嬢様が先んじて用意させていたのであろう、先に救助された妖精メイドや毛玉メイドたちともに、休息の大きな手助けとなるライラックが待機していた。

毛玉メイドたちが持ってきた担架が目に入ると、ダーティは気絶するように眠りにつくのであった。

 

(…………第4層? そう言えば、あそこって…………()()()()がいたような?)

 

気絶するほんの一瞬、ダーティはそんなことを思い出すのであった。

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