紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
湖の戦いの中でも、一か所だけ特に激しい激戦区が存在した。
敵陣の真正面と言うこともあるのだが、攻める側としてみれば非常に不利な丘陵地帯。高低差があり、なおかつ遮蔽物も少ない危険な場所だ。
そこで一人の妖精が、自作した武器を黒いゴブリンと黒いオークの群れに向けて振り回していた。
その妖精の名は、フォリア……メイド隊の戦力の中でも上位に入る強さの妖精メイドだ。
張りつけた笑顔を少し強張らせ、返り血の血飛沫と汗を流しながら戦い続けるフォリア……既に3桁に届きそうなほどの敵を倒したというのに、倒したとは思えないほどの数に取り囲まれていた。
フォリアが一人で、敵陣の真正面に単騎で突撃したのには訳があった。
彼女は自身の能力、”答えを知る程度の能力”を使い、自身ができる恩返しのやり方を自分自身に質問し、そして得た答えが、これだった。
敵陣の真正面でとにかく戦い、死んでも敵の多くを引き付ける。それが、彼女の能力が示した答えであり……彼女は後先を考えずに単騎で突撃したのであった。
しかし、フォリアも強いとはいえ妖精。幼い身体では、疲労は貯まりやすく、体格差による力の差は歴然……さらにいれば、数で囲まれていることもあり、ジリジリと追い詰められている状況に陥っていた。
(……まだ、まだ私はできるッ!)
自分に言い聞かせるようにそう思い、自らを奮い立たせる。
クレセントアックスを両手で保持し、下手に構えて相手の出方を待つ。相手が近づいた時に切り上げ、そのまま次の攻撃につなげようとしているのだ。
(大丈夫、能力を使って……
一体の黒いゴブリンがしびれを切らして棍棒を掲げて突進してくる。
即座に能力を使用し、頭痛に耐えながら、ゴブリンの一撃を躱してからクレセントアックスを振り上げる。
肉と骨を断つ感触が、武器からフォリアの手に伝わり、その感触が、攻撃してきたゴブリンの命を刈り取った事を理解させ、そのまま振りぬき、次に近づいてきたゴブリンに向かって振り下ろす。
振り下ろしたクレセントアックスは、またも黒いゴブリンの命を奪い……フォリアはその死体を蹴っ飛ばして、追撃しようとしたオークにぶつけてそのまま足を切りつけて転ばせ、無防備な首に向かってクレセントアックスを振り下ろした。
ゴロンと黒いオークの首が転がり、黒い魔物の群れがざわりとその様子にたじろいだ。
「次は、誰だ?」
かつて見た恐怖の象徴……ブラウの姿と雰囲気を真似てフォリアが声を出す。
返り血を浴び、まるで鬼のようにゆらりと首のない黒いオークの死体を踏みつけるフォリアのその姿は、黒い魔物たちにとっては死神のように見えており……殺し、奪い、犯すことしか考えていなかった黒い魔物たちは、初めて恐怖という物を感じ取っていた。
……そしてフォリアは、自分の強さに酔い始めていた。
自分はこんなに強かったのだ。自分の力に相手は恐怖している。私の姿が怖いのだ!かつて虐げられていた弱い自分とは違う、みんなに優しく守られるだけの私じゃない!私は、こんなにも戦えるんだ!私は、こんなにもみんなを守れるんだ!!
その優越感が、彼女の心を、思考を、身体を支配して行く。
(今の私なら、ブラウ様にもルージュ様にだって勝てる!!)
そう思い上がったところで、ピタリと空気が止まったような感覚に陥る。
フォリアだけではなく、黒い魔物たちも……敵陣の方に目線を向けていた。
フォリアは、周りを取り囲む敵とは違う禍々しい雰囲気を、魔物たちはこれまで感じたことのない、死の気配に怯えていたのだ。
フォリアと黒い魔物たちが向けた先には……体の一部が腐っている騎士の姿があった。
パラディンゾンビ……第5層にいるはずのその魔物は、どういうわけか”湖”に現れていたのである。
「あ……ア”ァァァッ」
パラディンゾンビがうめき声を出すと、黒いゴブリンと黒オークの壁は、左右に分かれ……フォリアに続く道を作った。パラディンゾンビは、腰脇のボロボロのブロードソードを引き抜くとその道を進み、フォリアにゆっくりと近づいていた。
フォリアは、苦戦もしない相手だ。と思い、クレセントアックスをしっかりと両手で保持し構える。
しかし、次の瞬間には、自分の手首が宙に舞っているのを、幻視した。
「ッ!!」
咄嗟に、バックステップで距離を取り、クレセントアックスを横に構えて防御の姿勢になると、金属で補強された持ち手にボロボロのブロードソードが振り下ろされ、金属同士がぶつかる高い音が響き渡った。
フォリアはその一瞬で、何が起きたのか理解できなかった。その為、能力を使って答えを知ることにした。
(私が、コイツに気圧されたのはどうして!?)
―――相手は格下だけど、気迫に負けた。
頭痛と同時にそんな文字が脳裏に浮かぶ。
気迫……気迫?そんなものに、自分は守ることを強いられたの?フォリアは出された答えに唖然となり、同時に怒りがわいてくる。気迫ごときに、強くなった私が?
「い……、許せない……許せない……っ、許せない許せない許せないッ!!」
初めて抱いた強い怒りが、フォリアが抱えていた狂気に触発され、凶暴化する原因となる。
フォリアは、グッと力を籠めパラディンゾンビを押し返すと、すぐに懐に飛び込みクレセントアックスを回転しながら刃を相手に叩き込んだ。しかし、その一撃はブロードソードに防がれ、そのまま体勢を立て直されてしまう。
だが、フォリアはすぐに弾かれた勢いを使用し、パラディンゾンビの足に向かって蹴りを放つ……が―――
相手の足甲冑は錆び付き、腐りかけているとはいえ元は強固な物なものだったのだろう。無理に硬い物を蹴ろうとしたため、強烈な痛みがフォリアを襲った。
「っ~~~~!?」
叫びそうになりながら、フォリアは次の一手を繰り出そうとし、とっさにクレセントアックスを盾代わりに使い、パラディンゾンビのパンチを防いだ。だが、その一撃は重い物だったのだろう。フォリアは、吹き飛ばされ岩に叩き付けられた。
吐血と同時に、肺の空気が衝撃で追いだされ……そして、フォリアの体は限界を迎えてしまった。
(立ち上がれない……?)
フォリアが、クレセントアックスを杖代わりに立ち上がろうとしても、身体中が震えて、うまく立ち上がることができない。
その間も、パラディンゾンビはガチャぐちゃと腐った肉体と甲冑を鳴らしながら、フォリアに近づいてくる。
(私は、強くなれたのに……こんなところで死ぬの?)
なんとか、首を持ち上げ相手を見上げると、既にパラディンゾンビはブロードソードを両手で持って振り上げており……油断もせずにとどめを刺そうとしていた。
フォリアの張り付けた笑顔がついに崩れ、今にも泣き出しそうな表情になる。
(…………いや、しにたくない。
まだ、やりたいこと、いっぱいあるのにっ!
やだっ……やだっ!やだぁぁぁっ!!)
「―――だれか、助けてッ!!」
助けを求めたフォリアに、パラディンゾンビの無慈悲な刃が振り下ろされ――――――
「うちのメイドを泣かせたのはアンタね?」
ドゴォッ!と鈍い音が響き、パラディンゾンビの体がバラバラになって吹き飛ばされた。
バサリとコウモリの羽根が音をたて、フワリとその持ち主が優雅に着地し……紅色の槍を杖のように持っていた。
「レミリア、お嬢様?」
「間に合ってよかったわ……さて、フォリアちゃん? 今度から、一人で無茶をしようって考えないで頂戴ね?」
「で、でもっ!!」
「口答えはなしよ。」
……そう言われては、フォリアも頷くしかなかった。
その直後、レミリアがフォリアの肩に手を添えたと思うと、足元に魔術陣が出現して、強く光ったかと思うと、激戦区から味方の本陣に転移していた。
「さっ、フォリアちゃん。アナタに指示を出すわ……ここで傷を癒した後、早めに地上に戻りなさい。」
「レミリアお嬢様っ、私はまだ戦え……うっ。」
フォリアが立ち上がろうとした瞬間、脚の力がフッと抜けて、そのまま倒れかけてしまう。幸いにも、近くにいた狼女が受け止めてくれたからか、地面に倒れこむことはなかったが……フォリアは悔しそうに唇をかんだ。
「その状態での戦闘はハッキリ言って無謀よ。」
「……い。」
「……? フォリアちゃん?」
「やくたたずでごめんなさいつかれてしまってごめんなさいたたかえなくてごめんなさいすてないでくださいたたかないでくださいおねがいしますっ!!」
ボロボロと大粒の涙を流し、鬼気迫る表情でレミリアの足に縋りつくフォリア……かつてのトラウマが刺激され、役に立たなくなった自分は、レミリアに捨てられると勘違いしてしまったのだろう。周りの狼女や妖精メイド、毛玉メイドたちはどうすればいいのか分からずおろおろしだすが……脚に縋りつかれたレミリアは、そっとグングニル・レプリカを狼女の一人に持たせると、その場にしゃがみ込み、フォリアを優しく抱きしめた。
「大丈夫、私はアナタを捨てないし叩かないわ。」
優しく抱きしめ、背をゆっくりと撫でるレミリア。その姿はまるで、心優しい母親のようにも見え……そして、メイド長の姿にも似ており……誰しもが、レミリアのその姿に見とれていたのである。
「それに、あなたは今日、誰も文句が言えないぐらい頑張ってくれたじゃない。」
「わたし……わたしはっ、もっとがんばらないと……」
「フォリアちゃん……今日はもうゆっくり休んで、また明日から私のために頑張ってくれる?」
「ぁっ…………はい、レミリアおじょうさま……。」
レミリアの言葉に、フォリアは安心し、疲れと緊張感が抜けたことにより、ゆっくりと意識を手放し、穏やかな寝息を立てはじめた。レミリアは、しばらくの間フォリアを抱きしめ続けたかと思うと、もう一人の狼女にフォリアを任せ、グングニル・レプリカを再び手に取る。
「さて……私は私の責任をまだまだ果たさないとね。」
「お供いたします!レミリアお嬢様!!」「私たちもついていきますよ!!」
「レミリアお嬢様の責任、少しだけでも背負わせてください!!」
「……ふふっ、みんな。ありがとう、ついて来れる子だけついてきて!行くわよ!!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
―――レミリアは、もうすでに勝利を確信していたのであった。