紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ クエスの知りたい答えの先

 

クエスの前世は、幼稚園の先生だ。子供が好きだった彼女は、その仕事がまさに天職だった。

疲れることも確かにあった、悲しいことも多かった。けれど彼女は、川に流された子供を助け、その最期まで、子供のために動いていたのである。

 

クエスは転生した後も、その子供好きな性格は健在だった。

流石に、自分が妖精になったこともあり人間の子供には近寄らず、かといって別の妖精を育てることもできなかったが、クエスの運命の出会いであるフォリアとの出会いは、彼女の転生後の運命を変えるものであったのは違いが無い。

事実、彼女はフォリアの保護者となり、フォリアを娘のように思っている。まさか、独り立ちかなと涙ぐんでいたところで、フォリアが現れ紅魔館(こうまかん)に連れていかれるとは思わなかったが……けれど、クエスは今の生活に満足していた。

フォリアが居て、信頼できる仲間たちがいて、頼れる上司がいて、そのうえ幼い子供のような妖精たちがいて……自分の居場所は、ここだと理解していた。

けれど今、クエスは焦っていた。

 

「シッ!」

 

弓から、番えた矢を放ち黒いゴブリンの眉間を打ち抜く。

すぐに矢筒から矢を取り出し、再びつがえて、また放つ。近づいてきた黒いゴブリンは一撃をいなしてから、矢をナイフのように頭に突き立てそのまま突進してきた黒いゴブリンに向けて蹴飛ばす。

 

(メイド長は、みんなは無事なの?!)

 

パメラ・スカーレットによる、庭園迷宮内の転移。

クエスは、その日はブラウから任された仕事を頼りに、掃除に向かおうとしていた最中だった。

足元が急に光ったと思えば、いつの間にか庭園迷宮の湖に居て、こうして黒いゴブリンと戦い続けている。

()()()()1()()()()()()だろうか、戦い続けていたクエスは、少しだけ疲れが見えてきていた。

 

(いやそれよりも、フォリアちゃんが心配ね……)

 

クエスは、こういう時のフォリアは敵が一番集まっているところに一人で突撃することをよく理解していた。

けれど、こう黒いゴブリンやオークによって包囲されてしまっては、クエスもフォリアを探すことなどできない。

それに、矢の数にも限りがある。なのに、相手の数はほぼ無尽蔵。言語が違うから、クエスの能力である”質問をする程度の能力”を使用して、その無尽蔵のからくりを聞き出しても意味がないだろう。

 

(……でも、この程度の地獄はフォリアちゃんの過去と比べれば!)

 

クエスは自分に言い聞かせ、再び弓に矢を番える。

しかし、弦を引いて放とうとした瞬間、その弦が切れてしまう。

クエスはその出来事に驚き、思わずしりもちをついてしまう。

 

(しまった……使いすぎて、壊れちゃった!?)

 

弓を見つめるクエスに対して、包囲していた黒いゴブリンやオークはニタリと気色の悪い笑みを浮かべ、ゆっくりと武器を掲げて近づいてくる。

クエスはそれに気づき、矢を構えるが……矢はナイフと違って、用途が違うため近接格闘では脆すぎる。

 

(……死地ってわけね。)

 

クエスは半ばあきらめてしまっていた。

これまで幸せだった、代償とでも言いたいのだろうか。転移直前に聞いた、パメラ・スカーレットの嫌な笑い声が頭の中で響いていた。

……もう、ゴブリンたちとクエスの距離は、かなり縮められていた。

ゴブリンやオークの嫌な臭いが、クエスの鼻を刺激し……そして、ゴブリンやオークの下心丸出しの視線が、クエスの胸や尻に向けられる。

 

(……自決を)

 

―――するしかない、そう考えた時。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(っ、これって……咲夜(さくや)ちゃんや、アンナ様がよく使ってるナイフ?)

 

それも、起爆の魔術式が彫り込まれた、爆破ナイフ―――。

これを使えるのは、紅魔館(こうまかん)では、ただ二人―――。

 

ドガン!

 

黒いゴブリンに刺さった爆破ナイフが爆発し、クエスの周りの黒いゴブリンたちがそれに巻き込まれる。クエスは直前で、伏せたおかげで怪我らしい怪我はなかった。

彼女が体を起こし、影を目撃し、空を見上げると

 

 

 

「ゴブリン退治なんて、久しぶりっすね~」

 

 

 

 

伸身を翻す、青いリボンを付けた十六夜アンナがそこにいた。

「よっと」と軽い口調で、クエスの前に立つと、自前の双剣を構えてゴブリンやオークをにらみつける青いリボンのアンナ。

 

「アンナ、様?どうして、ここに?」

「第5層”墓地”に赤いリボンのアタシと一緒に飛ばされたんっすけれど、そこの一部のアンデットがこっちに転移したんで追ってきたっす!ちなみに、赤いリボンのアタシは墓地に残ってまだ戦ってるっすよ!って、クエスさん、能力!」

「ご、ごめんなさい!」

 

クエスの能力で質問に答えた青いリボンのアンナだが、その表情はずいぶん余裕そうだ。

……それもそのはず、青いリボンのアンナは聖母(マリア)戦争の時に増えたコピーの存在とはいえ、アンナのコピー……教会の墓守人の戦闘能力は、そのままコピーされているのである。

まあつまり……雑魚の寄せ集めでしかない黒いゴブリンやオークは、アンナにとっては相手にもならない相手だったである。

 

「さてさて、ちょちょいと掃除を済ませちゃうのでちょっと待つっすよ!」

「こ、こんな数を相手にですか!?」

「大丈夫大丈夫だって―――

 

 

もう、仕込みは終わってるっすから。」

 

アンナが人懐っこい笑みから、ギラリと鋭い表情に帰ると、ゴブリンたちの様子がおかしくなる。

アンナの力の源は、今はもう使えない祝福の力と魔力だ。後の技は全て、自分の体一つで行っているもので、アンナにとってこれまでそれで十分のはずだった。

しかし、それでは足りないと感じたのが、青いリボンのアンナ(自分)が生まれる結果となった聖母(マリア)戦争だ。圧倒的な数を相手に、自分の自慢の格闘術とナイフ投げでは勝てないことを理解した。

その為、赤いリボンのアンナも青いリボンのアンナも、魔術や魔法を習得することにしたのである。

パチュリーとノワールの指導のもと、赤いリボンのアンナと青いリボンのアンナの得意魔術は別れてしまったものの、それでも似たような性質なのは間違いがないだろう。

閑話休題

ゴブリンたちの様子がおかしい、とクエスが感じ取った瞬間、一部のゴブリンやオークたちが狂ったように叫んだと思うと、仲間であるはずの別の黒いゴブリンやオークに向かって攻撃しだした。

 

「これが、アタシの得意魔術、混乱魔術っすよ!さーて、この混乱に乗じて、ウォーミングアップさせてもらうっすよ!!」

 

青いリボンのアンナはそう言った後、愛用の双剣を手に大混乱の包囲網に飛び込むのであった。

クエスはその様子に、苦笑いを浮かべたものの直後に気を失うことになる。

1時間も戦い続けていたクエス……当然、疲れはかなりたまっており、これまではアドレナリンがそれをごまかしていたものの、アンナと言う絶対的な強者が現れたことで安心して切れてしまったのである。

ゴブリンの悲鳴とオークの悲鳴、そしてアンナの声を聴きながら、クエスは穏やかな寝息を立てはじめるのであった。

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