紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
ベナミ・ディフェクタムは、
警備隊に所属し、その圧倒的な実力は、ブラウ、ルージュと並ぶ
そんなベナミだが、
彼女とて、鍛錬を怠ったわけはない。しっかりと、ブラウやルージュ、
では、どうして彼女が腕を鈍らせたのかと言うと……
「……何年ぶりの、戦争だ?」
実戦経験のブランクが理由であった。
ベナミが相手では、約400年近い月日で弱体化した教会勢力では相手にならず、たまに襲ってくる野盗団やチンピラ紛いの怪物の集団、傭兵崩れの略奪隊では役不足だ。
そもそも、そう言う手合いは、警備隊の三隊長で十分だし、相手によっては警備兵の一小隊で片付いてしまう。そんな相手に、ベナミを動かすはずもなく、待機命令が出されていた。
切り札を出すほどではない事態が続いて続いて、続き続けて……ついにベナミは、実戦経験のブランクができてしまったのだ。
(常在戦場の心得はしていたはず、メイド長にも頼んで庭園迷宮で腕を鈍らせないようにしていた……だというのに!!)
「なんて体たらくだ……クソッ!」
そう言いながら、ベナミは足元の黒いゴブリンやオークの死体の山々をにらみつけた。
かつて、ブランクの無かったベナミならば、この程度の連中は10分もかからずに殲滅できただろう。
だが、今のベナミにとって、この程度の連中が20分もかかったことが、信じられなかったのである。
そして、それ以上に……
(……どうして、あの時のように簡単に代償を払うことができないっ!?)
……ベナミの能力、”等価交換する程度の能力”は、ベナミの恐怖心や記憶、恐怖以外の感情、身体や五感と言ったものを代償として、能力を使用している間は、払ったものは一時的に失われる。そう、あくまで一時的に失うだけで、永遠に失うわけではない。だからこそ、かつてのベナミは恐怖心に心を潰されそうになる覚悟をもって、かつての戦争、
しかし、今のベナミは、それが出来なくなってしまっていた。
(オレは……オレは、こんなに弱くなったのか?)
グッとククリナイフを握りしめる。刃に移る自分の顔は、少しだけ悔しさがにじんでいて……それ以上に、自分の顔とは思えないほど、穏やかな目つきになっていた。
(……これは、本当に弱さなのか?)
ベナミはふと、そんなことを想った。確かに、ベナミ自身は自分が弱くなったと感じた。けれど、果たしてそれは、本当に弱さなのか?と、自問をした。なにせ、ベナミは自分以上に狂っていたやつを知っている。
ソイツは……ベナミのライバルだった、アンナ・ゲールマン。今は、十六夜アンナと名乗っている親友。
手合わせの休憩中に、ベナミはブラウとルージュから、アンナの戦い方について聞いたことがあった。かつてのアンナは、死なないことをいいことに、不利な状況をリセットするため、自分の首を何度も何度も落としては、相手に挑みかかったという。
相手によってその命を落とされても、何度も蘇り、捨て身の攻撃を仕掛けていたアンナ……しかし、
その結果は、どうだ?アンナは果たして、弱くなったか?いいや、むしろ……前より強くなった。命に執着し、丁寧に自らの隙を潰し、技の一つ一つに磨きをかけ、そして新しい手札もそろえて、生きることを選んでいる。
(ならば、オレも……出来るはず。)
ベナミは目を閉じ、呼吸を整える。
不思議と、身体が、心が軽い。自分の胸につっかえていたものが、とれたような、そんな晴れやかな気分。
やがて、目をつぶったベナミは、かつて自分にいた相棒を思い出した。
(……あぁ、アイツがオレを庇った理由は、俺に、生きていてほしかったのか)
かつて、自分を庇って死んだ人間の相棒。
その顔を思い出したと同時に、死体の山に足音が複数近づいてきた。
ズズン、ズズンと大きな音を立てながら、木々を押し倒して現れたのは、シカ、イノシシ、クマやウマ、イヌやトリと言った、魔獣化し大型化した動物たち。
その目は赤く血走っており、ベナミを獲物と定め、その牙と口からよだれをダラダラとこぼしていた。
「……悪いな。食べられるより、食べる方が好きなんだ。」
ベナミは、ポータルを呼び出したかと思うと、レミリアから送られた宝剣を取り出す。
マリアメイド長いわく、これは鍛冶師が腕自慢のために鍛えた一振りだと言っていた、実際それは正しいだろう。これほど、実用的ではない剣はまさに腕自慢のためと思われても仕方がない。
しかし、ベナミは知っていた。
「……等価交換、恐怖の一部を……宝剣に!」
ベナミの恐怖心のほんの一部が、等価交換で失われる。
かつてなら、僅かな強化しか得られなかったそれが、今ではかつての全賭けよりも大規模な強化をもたらしていた。恐怖に対して真の理解を得た今、等価交換をする程度の能力において、恐怖のほんの一欠けらは、大きなリターンを与えるにふさわしいものとなっていた。
(少しだけ怖くなった……けれど、あぁ、脚が震えやがる!)
自分を餌として食おうと囲む魔獣たち、それから向けられる殺気が、ベナミの体を震わせていた。
けれど、今のベナミはそれが心地よく感じてしまった。
「これが、生きるってことなんだなッ!!」
ベナミはそう叫びながら、宝剣を握る力を強める。
すると、宝剣の刀身に掘られた彫刻が光り、真の力を解放し、刀身に鈍い光をともらせた。
深呼吸と共に宝剣を構え、ベナミは死体の山からとびかかる。
「うおらぁああっ!!」
とある狼女の一小隊。
彼女たちは、レミリアの指示のもと、切り札の一人であるベナミとの合流を急いでいた。
彼女たちにとってベナミは、頼りになるが危なっかしい存在だった。何より、簡単に命を懸けるその姿が……どうしても心配だったのだ。
そんな一小隊を率いる狼女……ヘラは、眼前に飛び込んできた光景に、思わず息をのんでいた。
「……よう、遅かったな。」
「……べ、ベナミさん。あ、アナタ一体……?」
ヘラたちに対してベナミは穏やかな笑みで声を掛けて来た。
その手には、血に塗れた宝剣と、その血をぬぐう布が握られており、ベナミは巨大な鹿の角に腰掛けながら、血を拭きとっていたのである。
「すっ、すごいブラックゴブリンとブラックオークの数っ!」
「こ、この魔獣たちって、
「これを、ベナミさんがたった一人で?」
「……襲ってきたから倒しただけだ。」
と、ベナミが少し恥ずかしがりながら宝剣にべったりついた血を拭いていた。
……他の狼女は気付いていないが、ヘラだけはベナミの宝剣を握る手が少し震えていることに気付いた。
ヘラはそっと微笑むと、部下の一人に合流したことをパチュリーに伝えるように頼んだ。
(……危なっかしさが消えて、大英雄みたいな活躍しちゃったよ。)
ヘラはそう思いながら、新しい布をベナミに渡すのであった。
ベナミさんは元から強いのでどうしようか考えましたが、アンナと同じく命に執着するようにしてもらいました。
ちなみに、石を投げられる覚悟です。