紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ メラルドの決意

 

エメラルドから生まれた妖精メラルドの前世は、幸せな女の子だった。

温かい家族がいて、心から笑いあえる友達がいて、ちょっとだけ退屈だけれど、だけど平和でキラキラ楽しい毎日が続いて。そんな日々がずっと続くと信じていた、普通の少女だった。

 

しかし、そんな少女の願いはかなわず。その少女は命を落とし、エメラルドの妖精メラルドとして、かつての記憶を持ったまま再び歩き出すことになった。

最初は、メラルドは絶望していた。自分が、人間ではなくなったこと、もう二度と家族や友達とは会えない事、魔獣や怪物が当たり前のように存在し、戦わなければ生き残れないという世界の事を。

だが、メラルドはそれでも立ち直って、とにかく平穏に暮らすために、がむしゃらに己を鍛えた。それが、平穏から遠ざかることになる事には気付かず、気付いた時には、もう二度と平穏が訪れないことを知り、二度目の絶望を迎えることになった。

失意のままにフラフラと歩くメラルドだったが、そこで再び幸運が彼女に訪れたのであった。

疲れ果てて、とある森の中で眠りについてしまったメラルド。そこは、紅魔館(こうまかん)を囲む迷いの森であり、偶然警備隊の狼女たちが彼女を発見し、ボロボロで涙の跡も見える妖精を、敵対者として排除するほど警備隊の狼女たちは冷たくなく、彼女を保護し、紅魔館(こうまかん)に連れて行った。

そして、メイド長に出会い、レミリアに出会い、紅魔館(こうまかん)にメイドとして雇われ、前世の経験から家事や料理のスキルを買われて、主力メイド隊と言う居場所を貰ったのである。

 

それから、メラルドはいろいろなことを経験、獲得した。

メイドとしてのアレコレだけでなく、前世と同じように心から笑いあえる同じメイドの友達、家族のように接してくれるマリアメイド長や、姉のように面倒を見てくれるアンナメイド長、そしてこんな自分でも信頼して、お仕事を任せてくれるレミリアの存在は、メラルドの病んだ心を癒すには十分で……そして、心の余裕ができたメラルドは、聖母(マリア)戦争に巻き込まれながらも、かつて、人間として生きていた頃の記憶を、大切な過去の思い出として受け入れることができていた。

 

 

 

 

そんな、メラルドは今……自慢の盾を構えて、とある一匹の化け猫と対峙していた。

―――大人一人を簡単に飲みこめるぐらいの大きな体躯を持ち、黒いゴワゴワした毛並みを持ち、赤色に光る虹彩と細くなった瞳孔の瞳をメラルドに落とし、ゆらゆらと揺らめく長い尻尾は、先端から無数の光球を生み出しては、メラルドに叩き付け……エジプト座りと呼ばれる体勢を崩さず、メラルドに攻撃を続けていた。

庭園迷宮第3層フロアボス『キャスパリーグ』が、そこにいたのである。

 

(くぅっ……撃ってきてる光の玉の一つ一つが、重い~っ!けれど―――)

 

メラルドは心の中で弱音を吐きながらもチラリと背後を見て、背後で怯えている妖精メイドの友達を守るために盾を構えて踏ん張っていた。メラルドの後ろには、おもちゃの様に弄ばれたのかメラルド以上にボロボロで怯えている妖精メイドが身を寄せ合って震えていたのである。

 

(―――ぼくの友達を、傷つけたコイツを許せないッ!)

 

怒りと同時に、メラルドの能力、”護る程度の能力”を発動させ、光球の一部を反射させる。

反射された光球は確かにキャスパリーグに向けて飛翔し、煙と共に着弾するものの、キャスパリーグにダメージが入っているようには見えていない。

けれど、キャスパリーグはめんどくさそうに目を細め、鼻をスンスンとさせている。また、ゆらゆらとキャスパリーグの長い尻尾が揺れ、光球が生成されてはまた嵐のようにメラルドに向けて放たれる。

 

「無駄だよッ!」

 

盾を構えて、光球を迎え撃つメラルド。

着実に防御と、能力による反射を使い分け、自分へのダメージを最小限にしつつも、相手の攻撃を確実に反射していた。

しかし、メラルドは気付いていないが、焼け石に水……キャスパリーグには、ダメージが入っておらず、ただメラルドは自分の体力と、能力による負担を強いられている状態だった。

ちなみに、メラルドの”護る程度の能力”は、精神に影響する系の魔法や術技、呪いを打ち消したり跳ね返す事が出来る能力だが、そのかわりに打ち消すか跳ね返した精神魔法や術技、呪いが強力であればある程負担が増大し、場合によっては対処しきれない事があり、当人の精神状態により、効力や効果が及ぶ最大範囲、発動可能時間が左右されやすく、能力で対処するまでに受けた精神魔法や術技、呪いによって負ったダメージを回復する効果は、雀の涙程度、おまけに通常の魔法や物理攻撃には無力という限定的で使いにくい能力だ。

この能力で、キャスパリーグが放つ光球を跳ね返せている理由は、実はキャスパリーグが放っている光球は、相手にダメージ与えるように見せかける幻惑魔術であり、キャスパリーグが”遊んでいる”からこそ今の状況はできていた。

 

残念なことに、メラルドはキャスパリーグが”遊んでいる”と言うことには気付けずにいた。

メラルドは、戦えるし鍛えたとはいえ、それは元々平穏に暮らすためのという前提が存在する。その為、彼女は戦うことは苦手で紅魔館(こうまかん)には十分な戦闘員が存在してたこともあり、非戦闘員となることを選び、訓練や戦闘経験を積んでいなかったこともあり―――

 

「ニャル……」

「……え?」

 

キャスパリーグの”相手を殺すための一撃”を、相手がこれまで”遊んでいた”ことを―――体に走る激痛と共に、知ることになったのだ。

 

キャスパリーグが放った、”相手を殺すための一撃”は、これまでの光球と同じ色と形ではあったものの、使われた術が別物であった。これまでの光球は、相手にダメージを与えるように見せる幻惑魔術だったのに対して、今放たれたのは、光を物体として固めて相手にぶつける”魔法”であった。

幸い、メラルドはその攻撃を防ぐことには成功したものの、あまりに重たい一撃に、メラルドの盾はひび割れ、一部は砕け、さらには反射しようとしたせいで、その代償が吹っ飛ばされたメラルドに襲い掛かっていた。

結果―――酷い頭痛と、身体に走る激痛は、メラルドの繊細な心を傷つけるには十分だった。

 

「ぐすっ……痛い、いたいよぉ~っ!!」

 

護っていた妖精メイドたちの元まで転がされた後、メラルドはあまりの痛みに泣き出してしまう。

いくら少し成長し、多少の心の余裕ができたとはいえ、元は戦いなど知らない幼気な少女……妖精という種族の特性上、その魂までは幼いままの彼女にとって、その痛みは、メラルドの心を折るには十分だったのである。

 

キャスパリーグは、たった一撃で折れた相手を見て、フッと鼻で笑った。勇ましい姿からのその泣き姿に失笑を禁じえなかったのだ。

とどめを刺そうと、キャスパリーグが再び光弾を生成する。そして、光弾を尻尾の先で転がして遊んだ後、非常にゆっくりメラルドたちに向けて光弾を放った。

フワフワとゆっくりメラルドたちに近づいていく光弾。メラルドは、再びあの激痛が来ると思ってしまい恐怖ですくみ、妖精メイドたちもメラルドを守るようにメラルドに抱き着き始めた。

それに気づいたメラルドが、妖精メイドたちでも守ろうと立ち上がろうとして―――

 

光弾が、メラルドたちのすぐ近くで―――爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎が立ち込める箇所を見つめながら、キャスパリーグはつまらなそうに鼻息を荒く吐き出した。

防御一辺倒とはいえ、自分の光球をあそこまで耐えきった妖精が、立った一発の光弾で泣き出し、そして恐怖に支配されそのまま死んでいった。

 

キャスパリーグはエジプト座りを解き、次の相手を探しに一歩を踏み出そうとしたとき。

爆炎が晴れ、一筋の光がキャスパリーグの頬を焼いた。

キャスパリーグが驚いた様子でゆっくりと振り返ると、そこには確かにボロボロの盾を構えたメラルドが立っていた、痛みのあまり泣き出し、脚を震わせ、それでもキャスパリーグに、一矢報いたのである。

そして、それが最後の力だったのだろう……メラルドはゆっくりと身体を前に崩れさせる。

 

しかし、倒れかけたメラルドを一人の少女が受け止めた。

金髪のサイドテール、赤い瞳の目は優しい目つきで、赤いナイトドレスに、七色の宝石をさげた、枝のような翼、片手に握られている炎の魔剣は、ゆらゆらと温かい炎を出していた。

 

「ふらん……お嬢様?」

「ごめん、遅れて……こんなにボロボロになって……」

「ぼく……がんばりましたぁ。」

「うん、よく頑張ったね。だから、今はゆっくり休んで、メラルドちゃん。」

 

メラルドを優しく地面に横たえ、レーヴァテイン・レプリカを構えた。

フランは、冷静に、しかし確かな怒りをキャスパリーグに向けた。

 

「選手交代……来なよクソ猫。うちのメイドを傷つけた罰を与えてあげるッ!!」

「フシュー……ッ!!」

 

 

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