紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ 魔眼使いのアビー

 

湖での戦いも終盤に差し掛かり、フランとキャスパリーグの戦いが激化しているさなか、とある場所では、黒いゴブリンやオークの死体がナイフの刃で刺されたような跡を残し、死体の山として積み重なっていた。

そんな死体の山の空間を、一つの球体がフワフワと飛んでいた。

 

それは、目玉だった。それも、赤く目が血走り黒い目に黄色い瞳が光る、不気味で悍ましい目。

ソレが左右に動き、動いている敵がいないか、何度か捜索した後、飛ぶ速度を上げ、一つの人影に向かう。

複数の大小の大きさの違う似たような目の中心にいたのは、アビー・クリムウェルという妖精メイドだった。

 

アビー・クリムウェルは、地獄妖精の亜種である魔眼妖精という種族だ。

真の姿では、両方の掌や足の甲、みぞおちの上に一つずつ、羽には大小さまざまな眼があり、顔にも普通の二つに合わせ、5つの追加の眼が、普通の二つの上下と額に存在し、羽の根元から多数の赤い触手が生え、その先端には紅魔館(こうまかん)から支給された投げナイフが握られていた。

 

(……敵は……居ない。)

 

飛ばした羽の目をしまいつつ、そう考えたアビーは、目を完全にしまい込むと、再び人化の術で、人に……正確には、普通の妖精に化ける。

暗い雰囲気を漂わせる美少女になったアビーは、クリスナイフとペシュカドと呼ばれる二つのナイフを抜き、移動し始める。

 

(……合流するの……ヤだな。)

 

アビーは、紅魔館(こうまかん)に来るまで、たくさんの人間や怪物に迫害や攻撃をされ、妖精たちから逃げられていた身。そのせいで、他者不信を患っている。

幸い、メイド長であるマリアや母性のある一部の古参妖精メイドには懐いているものの、それ以外の妖精やメンバー……レミリアにさえ、警戒心を隠さずにはいられないのだ。その為、黒いゴブリンやオークの群れを見つけては、襲い掛かり、狼女たちの捜索隊にはみつからないようにしているのだ。

合流しなければならないのは分かっているけれど、正直、今でも懐いていない相手に対して、もしかしたら口汚く罵られたり、殴られたりするんじゃないかと、恐怖を抱いてしまっているのだ。

 

(……そんなことを……しないって……わかってるけれど。)

 

それでも、怯えてしまう。染みついた疑心のせいで、アビーは紅魔館(こうまかん)に馴染めていないのだ。

メイド長の頼みで、メイド長の娘の一人である咲夜(さくや)にナイフの投擲術を教えて、咲夜(さくや)との交流のおかげで、少しずつだけれど、その他者不信が直ってきているのにもかかわらず、アビーはどうしても、疑わざるを得ないのだ。

 

(……せめて……咲夜(さくや)ちゃんが……来てほしい。)

 

彼女なら、アビーも安心してついていくことはできるだろう。けれど、アビーは本当にそれでいいのか、とふと考えてしまった。

自分は、もう400年近く、紅魔館(こうまかん)で働いている。前世と同じように、うまくメイド隊の中で世渡りできていると思う……でも、アビーは言い表せない感情に、悩まされてしまった。

自分が甘えている相手は、マリアと咲夜(さくや)そして古参メイドの中で母性のある妖精たち……その誰もが、忙しいはずだ。それに自分も、もう400年も生きている……もう少しだけ、一歩を踏み出してみてもいいのかもしれない。

 

(……頑張って……合流してみよう。)

 

そう思い、脚を止め……直後、その場から大きく回避した。

アビーが回避すると、脚を止めた地点に粗悪な投げナイフが雨のように降り注いでいた。

アビーがクリスナイフとペシュカドを構えると、森の中の林から仮面をつけた紳士服の大柄の男がジャックナイフをもって現れた。

警戒心を強めると、その大柄の男は一気に駆け出して、アビーに向けてジャックナイフを突き出した。それをクリスナイフで弾き、ペシュカドで反撃しようとするものの、それよりも早くジャックナイフが振るわれ、とっさに回避したものの、アビーの頬に切り傷ができてしまう。

 

(コイツ……人間じゃ……ない?)

 

今の一撃、反動を真正面から潰してナイフを振るうなんて荒業はよほど強靭な肉体を持っていなければ無理だ。しかし、目の前の男にそれほど強靭かと聞かれると、そうじゃないと言えるほど細い体つきだ。

それに、やけに不気味だ。人間ならできるはずの隙を、一切作らない。

 

(……ためして……みよう。)

 

アビーは再びクリスナイフで男のジャックナイフを弾くと同時に、バックステップで距離を開け、袖の中に隠していたペンデュラムを放つ。サイス、チャクラム、分銅……様々な種類のペンデュラムが、大柄な男に襲い掛かる。

紳士服は裂け、血が飛び散り、肉も切り刻まれ、そして分銅による打撃で内臓もめちゃくちゃになったはず……だが、ペンデュラムが当たった感触で、アビーは目の前の相手が人間ではないことがよくわかった。

 

(こいつは……自動人形っ!!)

 

それも、人間に極めて似せて作った、趣味の悪い肉人形。

分銅のペンデュラムが当たった瞬間、めちゃくちゃにしたはずの内臓の感触が無かったのである。最悪なことに、自動人形に魔眼は効きづらい、何せ相手は物体判定の相手だ。魔眼は相手が生物でなければ使い物にならない。

そして、アビーの攻撃を受け、全身が傷だらけになった人形は、ぎこちないながらも人間らしい動きで空振りに終わっていたジャックナイフを構え直した。アビーもすべてのペンデュラムを袖の中に戻し、クリスナイフとペシュカドを構え直す。

 

(……狙うなら……弱点の……首。)

 

人型の自動人形の弱点は首だ。人型の特性上、どうしても頭にコアを置き、首から胴体にかけて命令を流す必要がある以上、それは絶対だ。しかし、自動人形の首は非常に脆い。よほど高価な素材を使わない限りは簡単に壊せてしまう。

ともかく、アビーは首への一撃を狙いだし、身を低くかがめた。

荒れる息を整えつつ、集中力を高め、必殺の一撃を狙うアビー。

対して自動人形はジャックナイフを構えずにアビーに向けて走り出した。単調な動きの突進は、アビーに簡単にとらえられ……

 

「……やぁっ!」

 

すれ違いざまに、首を落とされた。

 

(……あっけ……無かったな。)

 

アビーはそう考えつつ、今度こそ狼女たちと合流しようと、倒れた自動人形に背を向け、一歩踏み出すと。

唐突に、動かなくなったはずの首のない自動人形がガバリと起き上がり、アビーを蹴飛ばした。

 

「ぐぅっ……」

 

唐突な、意識外からの一撃にアビーは防ぐことができずに、地面に転がされることになる。

脇腹を蹴られたのが影響してか、体がしびれてしまうような感覚に、アビーは苦しめられる。

動けないアビーに首のない自動人形が近づき、ジャックナイフを振り上げる。

アビーが振り上げられるナイフを目線で追い、自らの死を予感した、その瞬間

 

「アビーちゃんに何してんだおまえぇっ!!」

 

一人の狼女がとびかかり、槍を自動人形の首に突き刺した。

直後、茂みから別の狼女が現れ、左右から挟み込み、そのまま槍を自動人形に突き刺す。

首のない自動人形は、狼女たちを振り払おうと暴れだすが、やがてカクリと膝をつき、そのまま倒れた。

狼女たちはしばらく自動人形に警戒した後、相手が完全に動かないと判断したのちにアビーに駆け寄ってくる。

 

「アビーちゃん、大丈夫!!?ケガはしてない!?」

「こんなにボロボロになって……大変だったねぇ~。」

「一人で無茶しすぎ~っ!」

 

わちゃわちゃと狼女たちに囲まれ、けがの様子を探られたり、心配されるアビーは、どこか安心する気持ちがわいていた。やっぱり、みんな、自分のことを仲間だと思ってくれているんだ。その安心感が、アビーに心に再び他人を信じてみようという気持ちを与えるのであった。

 

「……うん……大丈夫、だよ?」

 

「っ、アビーちゃんが笑いかけてくれた!」

「おバカ!そんなことより早くアビーちゃんを医療班のところに連れて行くのが先決でしょ!?」

「はっ、そうだった!!」

「アビーちゃん、ちょっとごめんね!」

「えっ?……わっ」

 

一人の狼女に抱え上げられ、そのまま走り出されるアビー。

確かに手痛い一撃を食らい、ボロボロだけれど、そんなでもないけれどな~なんて考えつつ、他の狼女たちに守られながら、大人しく運ばれるのであった。

 

なお、割とダメージがひどい状態で肋骨の一本が折れていたのは別の話だった。

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