紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
イミナ・グラスは隠密や隠匿の達人だ。本気で隠れれば、
ともかく、そんなイミナは湖に飛ばされた後、木の上で気配を隠して寝転がっていた。
(イヒッ、みんなには悪いけれど~……アタシ、荒事とか苦手なのさ~♪)
そう考えながら、イミナは懐からクッキー入りの袋を取り出し食べ始める。
このクッキーは、マリアが配ったクッキー……ではなく、マリアが午後のおやつにと作り置きしておいたものを調理場からすこしだけくすねたものだ。しかし、いまイミナを咎める人はおらず、イミナはクッキーを一つかじりついた。
(うん、美味しい~!バターの優しい味わいが良いね~♪………………はぁ。)
しかし、イミナはクッキーを一枚食べただけで再び懐に戻してしまう。
(……一人で食べるの、何かやだなぁ。)
不満げな顔を浮かべつつ、木の上で器用にストレッチするイミナ。
イミナは猫だ。猫妖精である以上に、自由気ままな自由人で自分のやりたいことをやるのが、イミナが自分らしいと感じる性格だ。
……こういうのは、柄じゃないんだけどなぁ。なんて思いつつ、イミナは猫の爪を模した鉤爪を手の甲に取り付けた。
「きゃーーーっ!」
「こ、こないでー!!」
イミナがしっかり鉤爪を付け終わると、イミナが寝転がっていた木の根元から悲鳴が聞こえてくる。
そこにいたのは、妖精メイド二人……しかも、非戦闘員の子たちであった。その子たちを取り囲み、ゲスじみた舌なめずりや、興奮を隠しきれずいきり立たせているのが数体……
(……反吐が出る。)
イミナはその光景に、怒りを抱いた。
そして、木の上から飛び降り、妖精メイドへ手伸ばしていた二体の黒いゴブリンの脳天に鉤爪の刃を突き立て、イミナ自体は優雅に着地をした。
「2体ご退場~♪ さぁ~て次にこの鉤爪の餌食になりたいのはだぁ~れ?」
ゴブリンの脳天から鉤爪の刃を抜き、血払いを済ませて再び構える。
黒いゴブリンとオークたちは、突然現れた敵に混乱しつつも武器を構えて囲みだす。
「い、イミナさん!」
「わ、私たちはいいから逃げてー!」
「ん~?大丈夫だよ~……この程度の奴らなんてブラウ様に比べればぜぇ~んぜん怖くない。」
煽るように、尻尾をユラユラと揺らすイミナ。
その行為に腹が立ったのか、数匹の黒いゴブリンがしびれをいらして突っ込んでくる。妖精メイド二人が悲鳴を上げるなか、イミナはニヤリと笑うと鉤爪と構えて迎え撃つ。
怒りのままに数匹の黒いゴブリンがイミナに向けて棍棒や剣を振り下ろすと、イミナの体をその武器たちはすり抜け、地面に叩き付けられる。
何が起きた、とゴブリンたちが顔をあげると、鉤爪が眼前にまで迫っている光景を最後に貫かれる。
「はい、ざんねぇ~ん♪」
イミナの能力、曖昧さを操る程度の能力は、某不思議の国の少女の物語に出てくるニヤニヤ笑う不気味な猫のように姿や効果、境界を自分・相手問わずに使用でき、あいまいにする能力だ。
曖昧にすること自体、自我の喪失や他者に忘れられるという危険性があるものの、その効果自体は
そんな能力を、かつてのイミナはあまり使いこなせていなかった。自分の存在をあやふやにしたり、やらかした事件をあやふやにしたりと、そんな使い方しかできなかったのだが……使いこなせるようになったきっかけは、彼女の上司であるブラウとの
その特訓のおかげで、イミナは自分の能力はなんにでも応用が利くことが分かったのである。
先ほどの一撃も、自らの存在ではなく体を曖昧にすることで、当たり判定を消していたのである。そうして、ゴブリンたちの攻撃を空振りさせた後、がら空きの顔面に鉤爪を突き立てたのである。
「じゃあ、次は誰かな~?」
小バカにしたような声色に、黒いゴブリンとオークたちは怒りをあらわにする。
オークが指示を出し、ゴブリンが隊列を整えようとした次の瞬間、イミナが駆けて指示を出したオークの首を斬り裂く。
「イヒヒヒッ、素早い敵を前に悠長に指揮をするだなんて、殺してくださいって言っているようなものじゃんね~♪」
指揮をしたオークの死により、黒いゴブリンとオークの群れに混乱が訪れる。
そうなれば、おのずと、イミナが付け入る隙が、大量に出来上がるわけで……一匹、また一匹と様子がおかしくなってゆき、ついには黒いゴブリンとオークたちが仲間割れを起こしてしまう。
「敵と味方の区別を曖昧にすれば、この通り~!じっくり、しっかり、殺し合ってね~!」
そう宣言した直後、ヨシと言いながら変なポーズ(現場ネコ)をした後、二人の妖精メイドのもとに駆け寄りその二人を抱えてその場から逃げ出す。
「イ、イミナさん!?」
「ほいほい~?」
「な、なんで逃げるんです!?」
「そりゃ、あんな乱戦に巻き込まれたら大変でしょ?」
そんな事をやりとりしながら、イミナは何とか狼女の捜索隊に合流したのであった。