紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
ビュオォオオッと、少し強い湖風が吹く。
レミリアはナイトキャップを抑えながら、風が吹き終わった後、すっかり静寂を取り戻した湖を眺めた。
かつて、綺麗な空気と美しい自然が魅力だった第3層は、腐臭とゴブリンやオークの臭い、それらを焼き尽くす炎の臭いに包まれ、あちこちに黒いゴブリンやオークの死体が転がり、木は倒れ、花々は踏み荒され、湖には血が混じり……非常に醜い戦場跡となっていた。
「……一度は、ここで泳いでみたかったのだけれど。」
レミリアはグングニルを杖代わりにしつつ、湖を眺めてポツリとつぶやいた。
本来なら、フロアボスであるキャスパリーグをパパっと片付けて終わりのはずだった。
そのあとは、湖のほとりにでも別荘を建て、暑い季節の避暑地にでも使用かとも考えていた場所は、もはやそんな事には適さない悲惨な土地となってしまった。
再生には、一体何年かかるのだろう。もし、再生したとしても、果たして綺麗なままなのか……
そんな事を考えていると、ザザッと通信魔術がつながる音が耳元でする。
《レミィ、第3層に転移させられたメイドたちは全員救出したわ。軽症者はいるけれど、重傷者はなし、警備兵の方は3人ぐらい重症者が出たわ。》
繋がった通信魔術越しに、パチュリーが淡々と報告をし……警備兵に3人の重症者が出たと気化された途端、レミリアは不機嫌そうに片眉をさげた。
「……原因は?」
《目撃した狼女によると、リッチーがいたらしいわ。それも、スカーレット家の紋章付きのね》
「……予想より少ないわね。重症者の様子は?」
《メディーさんが診たのだけれど、全治1カ月程度の骨折が大半だったわ。リッチーが使役しているアンデッドナイトに吹っ飛ばされたのが原因よ。警備兵として復帰可能、とのことよ。》
パチュリーの言葉にレミリアは一安心のため息を零し、すぐさま意識を切り替える。
直後、レミリアの能力が何かしらの光景を脳裏に浮かべだす。浮かんできた光景は、本物のレーヴァテインを振り下ろし、キャスパリーグに勝利するフランの姿……今、一番見たい光景そのものだった。
「キャスパリーグはフランが討ち取った。後は安心してそのリッチーを倒すだけ、か。」
《気を付けてね、レミィ。そのリッチーは道中の黒いゴブリンやオークの死体をアンデット化させて軍団を強化しているわ。》
「……パチェ、まさかとは思うけれど、今の私が負けるって思ってる?」
《油断しないでほしいのよ。》
「大丈夫よ、パチェ。何せ、私のもう一匹のペットは動く死体が大好物だもの――――――ね?
~~~~~~
「ちぃっ、さすがにこの数を相手は、一人だと厳しいか……?」
青いリボンのアンナは、双剣を地面に突き刺し、ぶっ飛ばされた衝撃を消す。
既にメイド服はボロボロ、愛用している双剣も腐血と腐肉がこびりつき、切れ味がかなり悪くなっている。いくら「聖なる力」が、アンデット特効だからと言っても、武器にまとわせる以上、振れば振る程武器は消耗し、切れ味が悪くなるという物。切れ味が悪くなった以上、「聖なる力」があったとしても、アンデットに効率的にダメージを与えることはできず……アンナはジリジリとリッチーに追い詰められていた。
「くっくっく……どうした、その程度なのか?アンデッドキラーのアンナぁ~~~??貴様の名声も所詮は伊達であったという事なのだなぁ~????」
「……そのアタシに、戦力の6割を削られてる雑魚が何を吼えるか。」
「ぐぅっ……だが、もう息も絶え絶えと言う様子なのは違いがないぃッ!行け、アンデッドナイト!!奴の手足を切り落とし、我の前に引きずってこい!!」
リッチーの号令でアンデッドナイトの2体が、雄たけびを上げて青いリボンのアンナに斬りかかる。
青いリボンのアンナは、一回だけ深呼吸を行うと、双剣を構え直し、聖なる光を刃に宿らせ|アンデッドナイトに歯向かった。
手足を狙われているのは大声で命令してくれたおかげで丸わかり……アンナ程の熟練の戦士ならば、見え見えの攻撃はたやすくかわしやすく、アンデッドナイトが大振りの攻撃で、しかも2体で襲い掛かってきたからか、どちらも満足に立ち回ることができず、細かい動きと的確な防御と反撃を繰り返す青いリボンのアンナを前に、玉砕し、そのまま浄化されてしまう。
「つ、使えね~……それでもスカーレットに仕えた騎士かよぉ~?まあ、元人間だしこんなもんかぁ~。」
リッチーが文句を言った瞬間、リッチーの側にいたアンデッドナイトの胴体にスティレット型のナイフが突き刺さる。リッチーが突き刺さった音を聞いて、そのスティレットに目を向けた途端、スティレットの持ち手が光り、大爆発を起こした。
もくもくと煙が舞い上がり、アンデッドナイトの爆発でバラバラになった体がそこら中に広がる中、青いリボンのアンナは双剣を構え直し、警戒を怠らずにいた。
「……やれてない、か。」
青いリボンのアンナは顔をしかめながらそう言った。
煙が晴れてゆくと、黒い障壁で身を守ったリッチーがおり、アンデッドナイトの数は大きく減ったものの、率いているアンデッド軍団を見れば些細でしかないだろう。それに、もう投げナイフの残りは無く、双剣も後二、三回打ち合っただけでも折れてしまうだろう……青いリボンのアンナは正真正銘のピンチに陥っていた。
「赤いリボンのアタシに任せろって言ったのに、こんな体たらく……
青いリボンのアンナは歯ぎしりしながら、ニヤニヤと下劣な笑みを浮かべるリッチーを睨み続けていた。
「……どぉやらぁ~?お前の手札もついに切れたみたいだなぁ~~~っ??それじゃぁ、逃げないように手足を切り落として、じっくりお前で遊んでやるよぉッ!!」
「くっ!?」
リッチーが手を差し向け、それに呼応しアンデッドナイトが青いリボンのアンナに向けて突進する。
流石の青いリボンのアンナも万事休す……最後の抵抗を覚悟し、歯を食いしばったその瞬間。
突進してきたアンデッドナイトが、緑色の何かに飲み込まれた。
「…………は?」
「っ、これは!」
リッチーと青いリボンのアンナが、唐突に現れたそれに驚いている間に……破壊音を響かせながら、地面が砕け、日々の間から長く、太い植物のつたが次々にアンデッドを掴みだす。アンデッドたちは咄嗟の抵抗でそのつたに攻撃をくわえるが……しかし、ダメージが入っている様子はない。切り込みを入れたそばから再生し、抵抗されていないかのようにゆらゆらと動いている。
「こんばんわ、と言えばよろしいかしら?」
「っ……お、おま……お前は!?」
「レミリアお嬢様っ!」
混乱の場に現れたのは、レミリアだった。
謎の植物がアンデッド襲っているという混乱の中、空中にいつの間にか現れたレミリアは、紅い瞳を光らせ……冷酷にリッチーを見ていた。
リッチーは、レミリアに冷酷に見降ろされ、その気配に気圧され後ずさりするものの……第5層で、パメラ・スカーレットと交わした契約上、逃げることはできないのを思い出し、何とか自分を奮い立たせて、逆にレミリアをにらんだ。
「お、お前か!この現象を引き起こしているのは!!」
リッチーがそう吼えると、レミリアは心底つまらなそうにため息をつき、指を鳴らした。
直後、レミリアが浮遊している場所の下から植物のつたが伸び、見ようによればレミリアに襲い掛かろうとも見えた。
しかし、次の瞬間、つたの先端が丸まったと思うと、葉が一枚生え、レミリアはその葉に優雅に座り込んだ。
「これを見れば、分かるでしょう?」
「なるほどなぁ……じゃあ、お前を殺せばいいわけだ!好都合だぜ!!」
魔術を放とうと、レミリアに右手を向けたその瞬間。
破壊音と共に地面が爆ぜ、レミリアに向けた右手が腕ごと、巨大な捕食葉に食われてしまう。
アンデッド故に痛覚は存在せず、痛みがリッチーを襲うことはなかったが……しかし、右腕が食われるという恐怖は存在し、リッチーは泣き叫びながらしりもちをついた。
「な、なななっ、なんなんだよぉこれ!?俺の、俺の腕がぁああっ!!?」
ひと際大きな捕食葉がそのまま、地中から轟音を立てて空へと延びる。
大木と見間違うようなつたがその捕食葉から延びており、無数にも思える大男の腕ほどのつたがリッチー以外のアンデッドに襲い掛かっており、無数に生える葉や、酔うような甘い香りを放つ花、よだれを誘うほどいい匂いのする赤い実を生す、見上げるほど巨大な体が現れた。
「聞いてねぇ……聞いてねぇよッ。なんなんだよ、この化け物ぉッ!?」
「キシュルルルゥーーーーーーっ……」
リッチーが化け物と呼んだ存在。
それは、かつてパチュリーが誤ってレミリアのハエトリグサに怪しい薬品をぶっかけて誕生した
リッチーが恐怖で後ずさりを続けるが、直後、つたに絡み取られてしまう。
「ヒッ、や、やめっ、やめてくれぇええッ!?」
リッチーが悲鳴を上げると、ユグ君はニヤリと一番大きな捕食葉を歪ませる。
それを見たリッチーは絶望に飲まれ、心がポッキリと折れてしまう。
「いやっ、いやだぁあああっ!た、たすけ、たすけてくださいぃいいいいっ!!」
リッチーは情けなくレミリアに助けを求める。
しかし、レミリアの目は冷たく……助ける気は毛頭ないようだ。
「なんでも、なんでもしますっ!くつをなめます!!雑用でも何でもやりますからぁッ!!奴隷のようにこき使ってくれていいですからぁあああッ!!!」
「……かつて、スカーレット家に仕えた魔術師の姿がそれか?」
「そっ、そんなっ……いやだぁああっ!!食われて消えるのは嫌だぁああああっ!!」
徐々にユグ君の一番大きな捕食葉に近づくリッチー。必死に暴れるもののつたの拘束が強まるばかりで……。
やがて、ガパァと見せつけるように、捕食葉が開かれる。途中でつまみ食いでもしたのだろうか、黒いトロールのかみ砕かれたような悲惨な死体が存在していた。
「や、やめっ……やめろぉおおおおっ!!!―――ぎゃっ」
ゴキン!バリン!!
短い悲鳴の跡、閉じられた捕食葉の中から骨の折れる音が響いてくる。
よく味わうかのように、その音を響かせた後、ゴクリと飲みこんだようで……そして、まだ足りないと言わんばかりに、つたで締め上げているアンデッドたちを次々と捕食葉に放り込んでいった。
「食べ過ぎないようにね、ユグ君。」
「キシュルゥ。」
アンデッドを貪りだしたユグ君に、レミリアは軽く注意をした後、座っていた葉っぱから立ち上がり、疲労困憊の青いリボンのアンナの側に降りた。
青いリボンのアンナは、レミリアを見て安心したのかフラリと地面に座り込んでしまう。
「あら、大丈夫?」
「ちょっと……いや、かなり疲れたっすよ~。」
青いリボンのアンナは、疲れを隠せていない笑顔を浮かべ、差し伸べられたレミリアの手を取り何とか立ち上がる。
レミリアが腕の下にもぐり、青いリボンのアンナに肩を貸し、ゆっくりとユグ君のもとに移動してった。
「ユグくーん!満足したらでいいから、この階層の出口まで運んでちょうだい!」
「キシュルゥ♪」
久々の大量のご飯に上機嫌のユグ君は、嬉しそうに声を鳴らした。
青いリボンのアンナは、ユグ君を見上げながら、まだまだ大きくなりそうだなぁ。なんてことを考えていたのであった。