紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ 庭園迷宮第4層 ~青ざめた騎士(ペイルライダー)

 

かつて、庭園迷宮の第4層は冷たい空気の漂う静かな洞窟だった。

だが、その一角……ブラウが送られた、その場所では”死”が広がっていた。

 

首のない死体が、縦に真っ二つの死体が、下半身と切り分けられた死体が、首を折られた死体が、頭を蹴り砕かれた死体が、泡を吹いている死体が、喉を掻きむしった死体が、吐しゃ物を詰まらせた死体が、頭を抑えた死体が……その多くの死体の山の中でも目立つ、全身に異常な色とりどりのふくらみを作り死んでいるヒュドラの前―――

 

―――”死”が、そこにいた。

 

白く綺麗な羽が、黒くドロリとした泥のようなものになり、その目に光はなく、表情もなく、メイド服でさえ、返り血と病死で屠ったであろうゴブリンやオークたちの吐しゃ物で汚れ、ブラウに渡されていたショートソードは、ヒビだらけで今でも壊れそうになっていた。

 

……力なく膝立ちのまま俯き、ブツブツと本当に小さな声で何かを呟く青ざめた騎士(ペイルライダー)

何をするでもなく、ただその”死”の中で、無気力に座り込んでいた。

 

 

 

 

 

……そこへ、銀色の雨が降り注いだ。

 

降り注ぐと同時、青ざめた騎士(ペイルライダー)は先ほどの様子から一転、信じられない速度でショートソードを振り回し、自らに飛翔するナイフを全て斬り砕いた。

ナイフの持ち手と、砕かれた刃の破片がまるで雪のようにキラキラと、壁から生える光を放つ結晶の光を反射しながら地面に落ちる。

青ざめた騎士(ペイルライダー)がゆらりと、ナイフが飛んできた方向に視線を向け――――――直後に、紫のレーザーと炎と氷の一撃が迫る。

 

ドガァアアアアアンッ!!

 

大爆発が、周辺に転がる死体の山を吹き飛ばし、振動で天上の岩盤から埃と小石がパラパラと落ちてくる。

すると、いくつかの地点で、爆炎と埃が不自然な動きを見せる。煙が人型に除け、埃が何もない所に積もっている。

 

《透明化魔術、切れるわ。》

 

パチュリーの通信魔術の声と共にスゥーッと現れたのは、緊張した面持ちの美鈴(メイリン)と青いリボンのアンナと、合気道の受け身の姿勢なマグノリア、美鈴(メイリン)から教えられた防御の構えをとるアストレアに、いつになく真剣な表情のメリー、トマホークを両手でしっかりと持つビビオン、『サムハイン(リボルバーライフル)』を構えて爆炎を睨むマキシーネ、ダガーとククリナイフを構えて冷や汗を流すベナミ……紅魔館(こうまかん)でも上から数えた方が早い実力者たちと、死んでもすぐに補充できる幽霊騎士の軍団と、リビングアーマーの軍団が現れたのである。

 

「これで、やられてくれたら…………よかったんですけれどね。」

「……殺気って、こんなに冷たく感じるものなの?」

 

美鈴(メイリン)とアンナの言葉が、言い終わると同時に煙が斬り払われ完璧な不意打ち、確実な直撃だったはずなのに、()()青ざめた騎士(ペイルライダー)が現れる。

己が敵を確認するためか空虚な光の無い目がギョロギョロと動き、そして視線を定める。視線が向けられた先にいるのは、アストレア。美鈴(メイリン)に鍛えられてもまだまだ粗削りなところのある彼女の隙を、青ざめた騎士(ペイルライダー)は見逃すわけがないのである。

 

グッと姿勢を思いっきり低くした、次の瞬間には―――跳躍。

地を這う蛇のように地面すれすれを移動し、アストレアの前で踏み込んだと思うと、身体のばねを利用した剣先の突き上げ……

 

「ぐっ!?」

 

アストレアはそれを何とか視線で追い、ほぼしりもちをつくような形で避けることに成功する。

しかし、次の瞬間にはショートソードを逆手に持ち、そのまま振り下ろしたのである。

 

「っ!?」

 

横に転がり、振り下ろされたショートソードを避けるアストレア。

それですら青ざめた騎士(ペイルライダー)は追撃をしようと、ショートソードを横に振ろうとし―――背後から襲い掛かったリビングアーマー3体を上半身と下半身に切り分ける。

ガシャガシャガシャ!と音を立てながら、リビングアーマーだった甲冑が地面に転がり、またナイフの嵐が襲い掛かる。

メリーの『ナイフを操る程度の能力』で、自由自在に動き回るナイフは3次元的な動きで青ざめた騎士(ペイルライダー)に襲い掛かるものの、羽の泥のようなものが青ざめた騎士(ペイルライダー)を覆い、その泥に突き刺さったナイフは、変色し、ドロドロと腐臭をあげて腐り始める。

 

《―――金属を、銀を、腐らせた……ですって……?》

《っ、みんな気をつけろ!いま、奴の羽根は、人外すら殺す劇毒になっている!!アレの触れるなッ!!》

 

おそらく様子をみていたであろうノワールの警告の直後、ウジュルウジュルと嫌な音を立て青ざめた騎士(ペイルライダー)の羽根が足元に広がる。ジュワァァァァ……と嫌な音を立てながら、リビングアーマーだった甲冑、転がっている黒いゴブリンやオークの死体を溶かし始め、その後、とかしたものは最初からなかったかのように、黒い泥は戻りはじめ青ざめた騎士(ペイルライダー)の羽根の部分で、羽根のような形に戻る。

黒い泥が羽根に戻るその間に、アストレアは体制を戻し、再び構える。しかし、その表情はあまり芳しくなく……少し恐怖に怯えているように見える。

その隙に、指揮権を与えられている美鈴(メイリン)が幽霊騎士とリビングアーマーの軍団を操り、前に立たせて盾を構えさせ、青ざめた騎士(ペイルライダー)をぐるりと包囲する。

せめてもの壁代わりだが……相手が青ざめた騎士(ペイルライダー)であるのなら、心元が無い。

 

「……どうします、アンナさん。白旗振って逃げましょうか?」

「……ぶっちゃけ、放置して第5層を攻略した方がいいとはおもう。」

 

そのあまりの不気味さに、美鈴(メイリン)は撤退を視野に……青いリボンのアンナは退却後放置を考える。

しかし、この戦闘の前、レミリアに召集され行われた作戦会議では、成功のカギは美鈴(メイリン)たちの奮戦が必須。レミリアの考えが上手くいくのなら、誰も死なず、殺されずに、ブラウを取り戻すことができる。

それを胸に、恐怖を振り払い美鈴(メイリン)たちは無謀な戦いを仕掛けるのであった。

 

「幽霊騎士とリビングアーマーを前進させろ!青ざめた騎士(ペイルライダー)がそれに構っている間に、私たちが一撃を入れ、意識を失わせる!」

 

美鈴(メイリン)の勇ましい指示と共に、幽霊騎士とリビングアーマーたちが青ざめた騎士(ペイルライダー)に向かって盾を構え、その隙間から槍を突き出しつつ前進しだす。

その隙に、美鈴(メイリン)が正面から、アストレアとメリーとマキシーネが青ざめた騎士(ペイルライダー)から見て右から、青いリボンのアンナとベナミとビビオンが青ざめた騎士(ペイルライダー)から見て左から、最後に唯一、首を絞めて意識を失わせられる可能性が最も高いマグノリアが背後から襲い掛かる準備をする。

一歩、また一歩と、ガチャガチャと音を立てながら幽霊騎士とリビングアーマーたちが青ざめた騎士(ペイルライダー)に近づき、ゆらりと青ざめた騎士(ペイルライダー)が動いたと思うと、最前列にいたリビングアーマーたちが空中に巻き上げられ、それに合わせて幽霊騎士がスピアを突き出す。

だが、次の瞬間、その幽霊騎士たちもまた、首を刎ね飛ばされ、上半身と下半身を切り分けられ、縦に真っ二つにされ……次々と幽霊騎士たちも倒されてゆく。

数では圧倒的有利であり、背後からも攻撃をくわえ、隙の無いように同時に攻撃をされているのに、青ざめた騎士(ペイルライダー)は、それを一つ一つ、返してくる。

 

正面からの槍の一撃を、ショートソードで弾いたと思うと、そのまま、回転切りを放ち、数多くのリビングアーマーと幽霊騎士を斬り捨てる。

回転切りの硬直を狙い、斧を振り上げて来たリビングアーマーの懐に飛び込むとそのまま左手でサレットを掴み、そのまま握りつぶし、無力化し、その亡骸を強い力で蹴りつけ、何十体ものリビングアーマーと幽霊騎士を巻き込ませて体勢を崩させ、包囲網に穴をあけるも、美鈴(メイリン)の素早い指揮でその穴はすぐにふさがる。

そして、また死角から幽霊騎士がブロードソードで斬りかかるも、今度は羽根の泥がブワリと動き、斬りかかろうとした幽霊騎士を飲み込んでしまう。しばらく人の形が蠢いていたものの、すぐにグジュルと地面にすべて落ち、その後青ざめた騎士(ペイルライダー)の羽根に戻る。

次は、複数の幽霊騎士とリビングアーマーが、見事なタイミングで同時にスピアを突き出すも、しゃがみ込んで回避され、そのまま足払いで転ばされてしまい、次の瞬間には、羽根の泥がまた動き出し、転んだ幽霊騎士とリビングアーマーを溶かしてしまう。

ゆらりと立ち上がる青ざめた騎士(ペイルライダー)……だがついに、青ざめた騎士(ペイルライダー)がダメージを受け、よろめいた。

……ダメージを与えたのは、立ち上がるほんの一瞬の隙をついて青ざめた騎士(ペイルライダー)の顎を蹴りぬいた美鈴(メイリン)だった。気の力を、そして自分の妖怪としての力を込めた全力に近い一撃は、人間が喰らえば頭がはじけ飛ぶほどの威力だ。

……けれど、青ざめた騎士(ペイルライダー)は、顎先を蹴りぬかれたというのに、一歩よろめいただけで、大したダメージにはなっていないようだ。ショートソードを構え、空虚な瞳で美鈴(メイリン)に狙いを定めていた。それを見た美鈴(メイリン)は、見事なバク転を披露し幽霊騎士とリビングアーマーを壁代わりに幽霊騎士とリビングアーマーの群れの中に姿を消すが、美鈴(メイリン)の壁代わりとなった幽霊騎士とリビングアーマーは斬り捨てられてしまう。

青ざめた騎士(ペイルライダー)美鈴(メイリン)を追撃しようと、美鈴(メイリン)の消えた方向にショートソードを振ろうとした途端―――

 

「さっきの……お返しだぁあッ!!」

 

青ざめた騎士(ペイルライダー)の一瞬の意識のほころび。それを完璧なタイミングで飛び出したアストレアは、腰を深く落とし、まっすぐに青ざめた騎士(ペイルライダー)の脇腹に拳を叩きつけた。

怖がらせられた怨みのこもった一撃は、青ざめた騎士(ペイルライダー)の体からボキリと嫌な音を響かせ―――ゆらりと青ざめた騎士(ペイルライダー)の体が揺れる。

アストレアもまた、攻撃後はすぐに幽霊騎士とリビングアーマーの群れの中に隠れ、そして、アストレアの作った隙を彼女の同僚二人が突く

 

「喰らいなさいっ!」

「外しはしないわっ。」

 

メリーの能力で捜査され爆発の魔術式が組み込まれたナイフの嵐と、マキシーネの『サムハイン』から放たれた麻痺の魔術式が組まれた鉄針。

二つの追撃は、アストレアの一撃で怯んでいた青ざめた騎士(ペイルライダー)が防ぐことはできず、身体中のあちこちにナイフが刺さり、鉄針が痛々しく突き刺さる。

ガクリと、青ざめた騎士(ペイルライダー)の体が座り込み、ショートソードがカランと音を立て青ざめた騎士(ペイルライダー)の手から落ちる。

 

「これで力を奪うッ!」

『特注の大型メイスです!』

「とっておき……だぁっ!!」

 

青いリボンのアンナの力を奪う聖なる光を帯びた双剣が舞い、ビビオンが大剣のようなメイスを振り下ろし、仕上げにベナミがウォーハンマーを振り上げ、顎をかち上げた。

その一撃により、頭が跳ね上がり……青ざめた騎士(ペイルライダー)の首ががら空きになる。同時に、力の制御が上手くできなくなったのだろう……青ざめた騎士(ペイルライダー)の羽根に纏わりついていた泥のようなものが力なく地面に落ちて消えてゆく……

だが、まだ意識はあるのか、反撃しようと拳を振り上げようとしたとき―――

 

「いまが、チャンス!!」

 

―――マグノリアが、青ざめた騎士(ペイルライダー)に組み付き、その首を締め上げる。

組み付かれ、首を絞められた青ざめた騎士(ペイルライダー)はジタバタと暴れだす。マグノリアの拘束を解こうと暴れるものの、締め技……特に、寝技のプロであるマグノリアに、そんな抵抗は無駄に終わり、少しづつ、少しづつだが青ざめた騎士(ペイルライダー)の抵抗が弱くなってゆく。

 

もう少しで、勝てる!青ざめた騎士(ペイルライダー)に対峙していたメイドたちが全員そう思った、その時―――

 

《―――青ざめた騎士(ペイルライダー)から離れろッ!》

 

ノワールの焦るような絶叫が聞こえた。

その声が、全員の耳に届き、誰よりも青ざめた騎士(ペイルライダー)を知るノワールの絶叫だったからなのであろう……。

誰も、疑いもせず、マグノリアでさえ、拘束をやめて、距離をとる。

 

直後、光の柱が天井の岩盤に仕掛けれられていた魔術陣から放たれ、力なく倒れる青ざめた騎士(ペイルライダー)に、回復の魔術陣が展開され、青ざめた騎士(ペイルライダー)に与えたダメージが、回復されてゆく。

 

《―――やってくれたな……パメラ・スカーレットォォオッ!!

 

ノワールの怒声が、恐怖を、絶望を予感させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだ、レミリアお嬢!みんな!!」

 

庭園迷宮第4層の別エリア……ヘスティーナ先導の元、レミリアとフラン、フォリアとクエス、数人の狼女兵と共に進んでいた。

目的は、ヘスティーナの旧工房……そこにある道具を使い、レミリアのグングニルとフランのレーヴァテインを強化するのが目的だ。

神器の強化、それは鍛冶師にとっては、神話にしか載っていない偉業。しかし、青ざめた騎士(ペイルライダー)という絶望を越えるためには、それは必須。そして、副目標として第4層にいる妖精たちの保護……青ざめた騎士(ペイルライダー)の力によって、死体の山が築かれた第4層の一角……そのまま死体を放置せざるを得ない状況で、それは次第に広がってゆくだろう……だからこそ、犠牲者を出さないためにも第4層に住む妖精たちの保護を狼女たちに任せているのである。

 

(……お願い、美鈴(メイリン)、アンナ、マグちゃん、アストレア、メリーさん、マキシーネさん、ビビオンちゃん、ベナミ……私のグングニルと、フランのレーヴァテインの強化が終わるまで、死なないで!)

 

ときおり感じる、大きな振動。

それに一抹の不安を感じながらも、レミリアはヘスティーナを追いかけるのであった。

 

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