紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ かつてのブラウから、ネペタと咲夜への

 

キャーキャー、わぁーわぁーとしばらく姦しい話が終わったあと、レミリアの執務室には清掃メイド隊の副メイド長、ネペタが呼ばれ、そしてレミリアの執務机の前に立っていた。

 

先程までのゆるーい雰囲気はどこへやら。

自分と今呼ばれたネペタ以外全員スイッチが入ったように真面目な表情を作り、何も無かったみたいに立っているのを見て、この切り替えの良さは良い点と言っていいのかしら?と、パチュリーは呆れ目になりながらそう思っていた。

 

そんなパチュリーとは違い、ネペタはガチガチに緊張しており、キュッと結ばれた一文字の口と、ピンと伸びた指先を見ればそれは一目瞭然だ。

ネペタも、なぜ自分が呼ばれたのか、それは理解しているものの……呼ばれた上で、美鈴(メイリン)咲夜(さくや)の圧(なお、本人たちは無自覚)を受ければよほどマイペースな妖精や毛玉メイドでなければ緊張するものである。

 

「……さて、なぜ呼ばれたのか、それは分かっているかしら?」

「は、はいなのです……ブラウ様がちっちゃくなっちゃったから、ネペタが繰り上げで清掃メイド長になるって話、なのですよね?」

 

ネペタがそう聞き返せば、レミリアは頷いた。

この繰り上げ、ネペタが清掃メイド隊の副メイド長となる時、マリアが教えてくれたことだ。

もし有事の際に、総括メイド長および各メイド長が何らかの理由でその業務に当たれない時……副メイド長から繰り上げすることで、これまで通り……とは言わずとも、それに近しい業務ができるようにするもの、とネペタは自分のメモ帳に書いた覚えがあった。

これを聞いた時は、「そんなことはあり得ない」と口にした覚えもあったものの……今現在、その”そんなこと”が起きてしまったのである。

 

「そこまで覚えてくれているのなら、話が早いわ。ブラウ……アナタも、それでいいかしら?」

「……!」(コクコク)

 

と、レミリアが視線を向けた先にネペタも視線を向けると、小悪魔の隣で目を輝かせている見慣れた髪色の小さな妖精が首を縦に振っていた。

ネペタがその妖精……今のブラウを見て、ノワールの言っていたことを心で理解する。

純粋無垢な生まれたばかりの妖精……かつてのネペタもそうだった、この世界のことが知りたくてたまらない子供。けれど、その容姿は、これまでネペタが慕っていたブラウそのままで……これまで、護ってくれていた頼りがいのある存在が、護るべき小さな存在になったと、ストンと胸に嵌った。

 

「ブラウ、あなたの腕章を一度私に渡してくれる?」

「!」

 

レミリアがそう声掛けすると、ブラウは大きく頷き、四苦八苦しながらメイド服の左腕に留まっていた、清掃メイド長の証……ショートソードと箒の装飾が施された金の腕章を外し、そしてそれをレミリアに手渡していた。

紅魔館(こうまかん)のメイドたちには、その所属が分かるように、それぞれのメイド隊を象徴するような装飾が施された銀色の腕輪が配られている。

その腕章は、レミリアがとある日の散歩で5個ぐらいの箱にギュウギュウ詰めにされていたそれを見つけ、持ち帰ったのが始まりで、倉庫で腐らせるのももったいないと、考えたマリアがメイド隊を識別する腕章として使い始めたのである。

そんな腕章にも、特別な腕章が存在する。当然、各々のメイド隊のメイド長と、副メイド長の腕章が特別な腕章だ。総メイド長の腕章は一般メイドの銀色のものとは違い、金色の腕章が渡され、各々好きな装飾を施せる。

統括メイド隊ならマリア直属の部隊の証として二つのハルバードがクロスしたメイドプリムの装飾が、アンナの装飾なら二つの赤と青のロングソードがダイヤの形を作る装飾が、ブラウであれば一本のショートソードと箒の装飾が施された物、ルージュであれば包丁と大剣が、ノワールであれば天秤と木箱、プリムであれば弓と羽ペンの装飾が施されている。(警備隊と司書隊にも配られているが扱いが特殊なので一般メイドの腕章をつけている。)

そしてただ装飾が施された金の腕輪と言うわけではなく、各メイド長の腕章はに、一般メイドの腕章とは違い、特定の部屋のドアやメイド休憩室の特定の棚を開ける鍵の役割も持っている。

本館では、禁書庫や地下倉庫の奥にある厳重保管室、本館の目印となっている時計塔の他、別館の500番台の部屋

(防音室)や別館地下の特別牢獄とメイド隊の重要資料室……一部はバレても構わないが、本当にバレると困る場所まで入ることができる。

 

「……渡す前に最後の確認をするわ。これを、ネペタちゃんに渡すということは、この紅魔館(こうまかん)のマスターキーを渡すと同意儀……その責任感を、しっかりと背負えるかしら?」

 

レミリアは清掃メイド長の証を執務机に置きながら、目を細めて猫のような真紅の瞳で、ネペタを見る。

これまで見て来た、レミリアのカリスマあふれる姿に……ネペタは怖気づきもしなかった。

じっと、ただじっとレミリアの視線に、己の視線を合わせ……冷や汗すら流さずに、見事なカーテシーを披露する。

 

「ネペタは、その責任と役割……しっかりと背負わせていただくのです。」

 

頭を下げたネペタを見たレミリアは、威圧感すら感じるカリスマをおさめ、フッと笑みをこぼす。

そして咲夜(さくや)に目配せをすると、統括メイド長代行である咲夜(さくや)がネペタに清掃メイド長の証をネペタのこれまで付けていた腕章と付け替えた。

付け替えられた腕章は、ネペタにとっては少し重く……けれど、これまで付けていた腕章とそんなに変わりはなかった。しかし、ネペタにとっては、その重さは、感じているものより数倍重く感じてしまう。

これまで、清掃メイド隊の副メイド長として働いてきたからこそ、その”重さ”の意味はよく理解していた。

 

「……やっぱり、ネペタにはちょっと似合わないかもです。」

「あら、そうかしら?私は似合っていると思うけれど……」

「少なくとも、ネペタはそう思うのです。」

 

ネペタは自分の腕に光る腕章を見て、少し困ったように笑みを浮かべる。

ずっとずっと、かつてのブラウがつけていると思った。清掃メイド長の腕章。

高身長で、スタイルがよく、クールなブラウによく似合っていた、ネペタの憧れ。

妖精は殺されたり事故死しない限り、死は訪れない。寿命はほぼ永遠で、ブラウが簡単に殺されたり、事故死するわけが無い……だから、これをネペタがつける時は来ないと思っていたのに、来てしまった。

 

「……ぐすっ……な、涙が……ご、ごめんなさいなのです!」

 

ポロポロとネペタが泣き出してしまう。

ペタりとその場に座り込み、グスグスと声を押し殺して涙を拭い続ける。

そこに、ひとつの小さな人影が駆け寄り、ネペタを抱きしめた。

その小さな影の正体は……小さくなったブラウ。

小さくなったブラウは、その小さな体で、懸命にネペタを抱きしめて、頭を優しく撫で始める。

 

「あっ……あぁっ、変わらない……変わってないのですぅっ!」

「……!」

 

今のブラウと、かつてのブラウ、そこに違いはほとんどなく。

ネペタは、ブラウを抱き返し、わんわんと大きな声で泣き始めるのであった。

 

~~~~~

 

泣き疲れたネペタが、ネペタの体温で眠たくなったブラウを抱き枕にソファーですぅすぅと仲良く寝付いてしばらくだったあと、ガチャリとレミリアの執務室のドアを開けて、肩に包帯を巻いたままのヘスティーナが入室してきた。

 

「あら、休んでなくてよかったの?」

「へっ、この程度、怪我のうちに入んねぇよ。

それよりもお嬢、やっぱりだったぜ?ブラウ様が使ってたこのショートソード……"魔剣"になってやがる。」

「……ノワールはなんて?」

「ノワール様曰く、ブラウ様が無意識に微量の魔力を纏わせて振るっていたから予兆はあったが、青ざめた騎士(ペイルライダー)になった時、そのバカでかい魔力を流し込まれた結果、一気に魔剣と化したとかなんとか……。」

「そう。」

 

ゴトリと、ヘスティーナがレミリアの執務机に、ブラウが使っていたショートソードを置き、レミリアは、その剣を鋭い目で睨んでいた。

 

「この魔剣、どんな力を持っているの?」

「ブラウ様とルージュ様がよくやってる飛ぶ斬撃ってあんだろ?

あれが、この魔剣に魔力を込めて振ると誰でも撃てるようになる。」

「とんでもなく危険な魔剣じゃないッ!?」

 

レミリアは思わずガタッと立ち上がりながらそうツッコんだ。

あの一撃の恐ろしさは、レミリアは愚か、その被害を受けたヘスティーナ自体がよく理解している。

防御すら切り裂く絶剣の一撃が、だれでも簡単に撃てる?仮に敵にでも渡ったりしたら、さあ大変。

 

「……まぁ、誰でもって言ったが、込める魔力が大きくてな、紅魔館(うち)の一般メイドも、人間にも撃てないだろうよ。」

「それ早く言いなさいっ、逆に撃てたら困るわよ……ともかく、この魔剣は呪いや呪術などは持っていないのね?」

「少なくとも、試し振りしたべナミが何ともなかったからな。」

「既に実証済みかよ……。」

 

レミリアの口調が思わず崩れるほどの検証のスピードに頭を抱える。

絶対、べナミは目を輝かせながら振ったはず……その結果を聞かなくてはならないのに、レミリアは聞きたくなかった。

しかし、聞かねばこの魔剣の処遇も決められないため、レミリアはひとつ深呼吸をしたあと、結果を尋ねることにした。

 

「一応聞くわ、結果は?」

「ユーリがどっからか持ってきた花崗岩の大岩を鏡面斬り」

「OK!とんでもない危険物ってことね!!」

 

やっぱり聞くんじゃなかった!と、後悔するレミリア。

こんなもの、できることなら地下倉庫の封印室に放り込みたいが……これほどの魔剣を、ただ倉庫で埃をかぶらせるのももったいない。

レミリアがウンウンとうなっていると、ふと咲夜(さくや)がチラチラと魔剣を見ていのに気づく。

なぜ、咲夜(さくや)がこの剣をチラチラと見ているのか、レミリアには心当たりがあった。

この魔剣は、魔剣になる前はブラウが振るっていたものだ。咲夜(さくや)にとって、ブラウとはかっこよさの憧れそのものであり、同時にその強さに魅入られていたのである。

 

(……別に咲夜(さくや)になら渡していっか。)

 

本当なら、青いリボンのアンナに管理を任せようと思ったものの、可愛い妹分の咲夜(さくや)が、物欲しそうにチラ見しているのだ。

 

「……咲夜(さくや)、さっきまでの―――」

「―――よろしいのですか!?」

「早い早い早いっ、まだ最後まで言ってないわよ!」

 

コホンと、咳払いで咲夜(さくや)を落ち着かせ、もう一度話し始める。

 

咲夜(さくや)、さっきまでの話を聞いていたと思うけれど、この剣はとんでもなく危険なものよ。」

「はい、お嬢様。もちろん聞いておりました。

ルージュ調理メイド長とブラウ元清掃メイド長が行っていた、飛ぶ斬撃、それを大きな魔力のみで再現してしまう魔剣……私も、聞いた時は恐ろしさのあまり顔をひきつらせてしまいました。」

「そこまでわかっているのなら、いいわよ。

この魔剣、咲夜(さくや)にあげるわ。」

「やったぁ!」

 

ほんとにわかってるのかな、この天然美少女時止めメイド……。

レミリアは不安になりながらも、窓の外を眺めつつ、次の階層の事を考え出し、

 

(……なんだか、決着がつきそうな予感がする。)

 

レミリアは何となく、そう思ったのであった。

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