紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
沈んだ気持ちを隠しつつ、静かにメイド休憩室の私の事務机の椅子に座る。清々しいほどの青空だったソラは、天気が急変し、今にも雷雨が落ちてきそうな曇天だ。風も、少しばかり強い。
「メイド長、少し良いか。」
「……あら、ブラウ。」
「……。この天気のことから、ノワールから注意があった。なんでも、嵐がやってくるそうだ。」
「なる、ほど……。メイド隊と警備隊に本館に避難するように伝えて? 別館に居る子たちも、避難させるように。」
「了解した、メイド長。」
そう言い、ブラウは近くにいた毛玉メイドに耳打ちし事務机の前においてあるソファーに座った。
「それで、メイド長を悩ませているのはどんな問題なんだ?」
「……何のことかしら?」
「メイド長が悩んでいる時は、少しだけ上の空になる。そして、メイド長のアホ毛が引っ込むんだ。」
ブラウにそう指摘されて、アホ毛に手を伸ばすが……確かにアホ毛が無い。ぺたんと他の髪に同化している。やっぱり、このアホ毛は早く切るべきかしら?どんなにポーカーフェイスを努めても、アホ毛でバレバレなんじゃダメだし……でも、割とこのアホ毛は私が気に入ってるし…………。
「それで、どんな悩み事が?今なら、このメイド休憩室にメイドはメイド長と私しかいない。」
「……そう、ね。ブラウになら、悩みを聞かせても、問題ないわね。」
私は、さっき起きた事をすべてブラウに吐露した。
アンナが、あの子のことで悩んでいたことは知っていた。むしろ、あれだけボロ負けしていてアンナが気にしていない方がおかしかった。
手のかかるじゃじゃ馬娘……でも、愛さずにはいられなかったアンナに、ひどく拒絶されてしまった。私が、ズケズケとアンナの心の傷を触ってしまったのが悪いのだが……。
「なるほど、メイド長は罪な女だな。」
「ぶ、ブラウ?」
「少なくとも、メイド長は少しだけ自分を理解した方がいい。自分がどれほど他者を愛して、それが愛となって帰ってきているのかをな。」
ブラウに優しい微笑みを向けられながら、そう言われる。顔がいいから様になっていて、もし私が普通に乙女だったのなら、キュンと恋に落ちていたところだろう。残念ながら、私はもう乙女というアレでもないので何ともないのだが……。
「だが、そうだな……アンナの心の傷はアンナにしか分からない。そして、その傷を癒せるのはアンナ自身と……そして、あの子だろうな。」
「……どうしてあの子が?」
「ふふっ、知らなくて当然さ……何せあの子は―――」
ブラウが、言葉を続けようとしたときメイド休憩室のドアが強引に開け放たれる。
そこに居たのは、血相を欠いた毛玉メイドの一人。確か、正門近くの掃除をしていたこのはず。
「た、大変です!メイド長、ブラウさん!!」
「ど、どうしたの?なにか、問題が??」
「アンデッドの大軍が、正門に向けて迷いの森から進攻中!!そ、その中心に……
ど、ドラゴンゾンビを確認しました!!」
―――きっと、アンナを悲しませた私に向けた罰なのだろう。
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side:アンナ
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庭園迷宮の……誰も踏み入れたことのない洞窟に迷い込んで、一体どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
冷たい水滴が水面に落ち、心が洗われるような……アタシの悲しみを代弁しているかのような音が、反響していて……荒んでた心がだいぶ落ち着いた。冷静になって、アタシはとんでもないことをしてしまったと、後悔と罪悪感に押しつぶされそうに放っていたけれど……。
「やっちゃったっす……メイド長に、なんて謝ればいいんっすか?」
メイド長に対して、怒鳴ってしまった。そして、逃げ出してしまった。
メイド長が私の身と心を案じてくれているのは嬉しい、きっと今頃はアホ毛をソワソワさせながら……でも、みんなに心配をさせないためにいつも通りにふるまっているだろう。
「心配してくれたメイド長に、あんな言葉……アタシ、なんてこと言っちまったんすか!?」
うがーとうなりながら、髪形が大変になるのもかまわずに頭を掻く。だいぶボサボサになったところで、息を吸い冷静になる。ここで、ウジウジしていてもあまりいい事はないかもしれない。
でも、メイド長に合わせる顔が無くて……どうしても、洞窟から……庭園迷宮から出る勇気が出てこない。きっと、メイド長は怒ったりはしないだろう……むしろ、アタシに謝ってしまうだろう。あの人は、そう言う人だ。
「ごめんなさいって、素直に言えればいいのに……。」
ふと、言葉がこぼれた。今のアタシは……素直に、謝れそうにない。情緒が、自分でもどうなっているのか分からないんだ。今は少しだけ元に戻っているけれど、割と感情的になりやすい。こんな時、どうすればいいのかなんてアタシには分からない。
……普通に生きてたら、その方法も知ってたのかな?
「……いや、そもそも普通だったらメイド長にも会うことはないっすね。」
もし、普通に生きてたのなら……今頃アタシはとっくの昔に墓場の中だろう。
普通に生きたからこそ、今のアタシみたいに不老不死じゃなくて普通の人間として生きて、果たしてどんな人生を歩んだのやら。
父さんみたいな立派なアンデッドハンターになってたのかな、母さんみたいに父さんみたいな素敵な人を見つけられたのかな、きっと……かわいい子供や孫にかこまれていたのかな。
でも、アタシはもう普通じゃない。アタシは不老不死の人間、紅魔館副メイド長のアンナ。普通が羨ましいわけじゃない。でも、アタシには紅魔館の幸せがあるんだ。
「……よし、謝る勇気が出たっす!」
何て独り言を言ってみて、少し恥ずかしくなる。
はやく庭園迷宮を出て、メイド長に謝ろう。謝って、一杯彼女に甘えてみよう。もう、子供っていう歳でもないけれど、でも復讐だけだった子供時代を取り返すように甘えたっていいはずだ。
そう思い、出口に向けて足を踏み出した。
庭園迷宮を出て、唖然とする。
「メイド……長?」
メイド長が紅魔館の外壁にもたれかかって動かない。そんなメイド長を守るように、あの子が折れているナイフを震える腕で持っている。
ブラウさんも、ルージュさんもアンデッドの群れに阻まれて、彼女たちを助けに行けない。他のメイドたちや美鈴……警備隊のみんなも、みんな劣勢だ。
『旨そウな妖精ト、旨ソうナ子供……イっぺんニ食えルとハ幸運だ!!』
同じドラゴンであるはずのユーリを足蹴にしているドラゴンゾンビが、毒をよだれ代わりに肉のついていない口から零す。
ドラゴンゾンビが、大口を開けてメイド長たちを食べようと知るのを見て……アタシは…………。
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side:少女
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ドラゴンゾンビは、私とメイド長さんを食べようと大口を開けてゆっくりと迫ってきている。
どうして、ドラゴンゾンビが……アンデッドの大軍がここに襲い掛かってきたのかは、分からない。でも私は、ドラゴンゾンビによって気絶させられたメイド長さんを守りたい一心で、メイド長さんとの約束を破って、ナイフを持って飛び出した。
時止めの力を持つ私は、何にだって勝てる。その自信は、ドラゴンゾンビの体によって砕かれた。
私がナイフを投げてもドラゴンゾンビの体には刺さらずに、私が大きなナイフを振るっても傷を付けることはできずに、むしろ大きなナイフが折れてしまった。
助けに来たはずが、むしろ自分から危険な場所に飛び込んでしまった。その焦りが原因で、時止め能力もうまく使えなくなってしまう。
今まで、上手く抑えれていたはずの恐怖が、顔を出してしまう。メイド長さんに人としての普通を……そして、幸せを与えられて、生きてもいいと思ってしまったからだろうか……一度感じた死の恐怖は、私に何もさせてくれなかった。
メイド長さんに抱き着いて、痛みに備えて目を瞑る。
……いつまでも食われる感覚が、おそってこない。でも、ドラゴンゾンビの存在は感じ……怯えて、る?
恐る恐る瞑った目を開く、
「厳格な天上の主よ。どうか一度だけ、裏切り者の言葉をお許しください。」
あの人の、声がした。
「我が名は、墓守。動く屍を討ち、死者を安らかな眠りに導く者。我が名は、葬儀屋。死者を弔い、あなたのもとへと導く者。」
『な、何故だ……貴様は、貴様がなぜここに居る!?』
ドラゴンゾンビが、その人の姿を見て慌てている。当然だ……この人は、アンデッドの天敵。
「生命の掟を破り、主を裏切った私に、私の剣に。どうか今一度、死者を弔い眠らせる光をお授けください。どうか私に、家族を守る力をください。」
『お、お前たち……殺せ、こいつを殺せぇえええっ!!
ドラゴンゾンビが叫び、ゾンビの群れの一部がアンナさんに向かう。
剣が纏っている光が、一層強くなる。
その人が……アンナさんが両手に握る剣を十字状に構える。
「感謝します……我は教会の墓守人、葬送の執行者。」
アンナさんに襲い掛かろうとしたゾンビは、アンナさんの振るう双剣により切り伏せられ……そのまま灰になって消え去る。
「我の使命は、死の運命から逸れた者に安らかなる眠りを与えること・・・。」
真っ白に輝いて太陽の様だった光が、少しだけ優しい光になり青い光を発するようになる。
アンナさんに襲い掛かった、最後のゾンビがアンナさん自身の手で斬られ、浄化すると……アンナさんはあの時のように、双剣で十字架を作る。けれど、今回はその十字架は逆じゃなかった。
「
怒りが混じった祈りの言葉が叫ばれ、アンナさんの姿が消えた。
双剣が振るわれ、ナイフが踊るように飛び舞い、アンデッドたちが次々と灰になる。
アンデッドたちは他のメイドさんや狼女の人たちを襲うのをやめて、一斉にアンナさんに襲い掛かる。しかし、アンナさんはそんなアンデッドの軍勢を相手に一歩も引かず……むしろ、一歩前に出て戦う。
アンナさんが無双し始め、戦いの行方はだいぶ変わってゆく。
「もう少し抵抗らしい抵抗をしたらどうだ、アンデッド。」
アンデッドたちを蹴散らしながら、アンナさんの言葉だけが聞こえてくる。
「お前たちはいつもそうだな、軽々しく生者の幸せを踏みにじり、弄び、死を礼讃し、死を超越したと大口をたたく割りに、いざ自分たちが
無数のように思えたアンデッドの大軍、命を枯らす死の河はたった一人によってせき止められ、それどころか次々と消されてゆく。
「私が、そんなに怖いか?アンデッド。」
アンデッドの大軍は、たった一人……アンナさんの手によって一人残らず灰になった。
『バ、ばかナッ!?わ、我ノ無敵ノ屍兵たチガ、こ、コんナ簡単にッ!?』
ドラゴンゾンビが慌てふためき、ぶるぶるとその腐った体を震わせている。
「あぁ、思い出した。お前、不死王とか名乗ってた小物か。」
『ヒィッ!?な、なゼ……我の正体ヲッ?!』
「やり口が一緒なんだよ、雑魚が。」
アンナさんが、ツカツカとドラゴンゾンビに歩みを進めると、ドラゴンゾンビは面白いように怯えて後ずさる。足蹴にされていたドラゴンはぐったりとしてしまっているけれど、生きている。
……ふと、地面から静かにスケルトンが立ち上がり、ナイフを構えた。
アンナさんに気が付かれないように、そのスケルトンは静かにアンナさんの背後に忍び寄る。
「さあ、選べ。自ら命を絶つか、アタシの手で殺されるか」
『ククッ……甘いなぁ、勝てると思って油断したな?やれッ!!』
「っ……しまっ!?」
スケルトンがアンナさんを拘束し、そのまま殺そうとしたその瞬間に、私が時止め能力を使い割り込む。
全てが止まった灰色の冷たい世界。焦っている今だと、止められる時間には限りがある。
だから、ちょっと重いけれど、ブラウさんのショートソードを借りて、スケルトンの首に向けて横振りする。その途端に、時止め能力の限界が来て世界に色が戻り……スケルトンの首が吹き飛んだ。
「!?」
『なニ?』
私は、ショートソードをそのままドラゴンゾンビに向けて突き刺そうとするけれど、慣れない武器もあってか転びそうになる。
けど、すぐにアンナさんが支えてくれたので、膝をすりむくことはなかったのだけれど……けど、そんな隙を見逃すほど、ドラゴンゾンビも甘くはなかった。
『そノガキと一緒ニ潰レろぉオオおオオオおおッ!!』
ドラゴンゾンビが前足を振り上げ、すごい勢いで振り下ろそうとする。
咄嗟に能力を使おうとするけれど、上手く発動できず……アンナさんがギュッと
けど、それも失敗に終わる。
『グゥッ!?な、ナんダ……この、
ギシリギリシと音をたてながら、ドラゴンゾンビの体を縛っている金でできてる鎖。
ふと、アンナさんがメイド長さんの方向を見て……私もつられて、メイド長さんの方を見る。そこには、ブランさんと白色の大人な妖精さんに支えられながら、右腕を突き出しているメイド長さんの姿があった。
「……もう、終わりだ。」
最後は、アンナさんの一撃で……ドラゴンゾンビはこの世の物とは思えない金切り声をあげながら、ゆっくりと浄化されていった。
あの後、私はメイド長さんとアンナさんと無事に家族になる事が出来た。
メイド長さんはお母さんになって、アンナさんはお姉ちゃんになって……ようやく、私にとっての人生を歩みだすことができたのかもしれない。
まあでも……
「いーや、ブラウさんたちの名前よりアタシのハンナの方があの子には似合ってるっす!」
「なんだとアンナ!?そんなに私のエレカが気に入らないのか!?」
「二人ともセンス悪すぎ、私のミカの方がセンスある。」
「ルージュ、キミのセンスもいまいちだ。ここは私のエアをだな……」
「ノワールさんだって変わらないっす!ここはやっぱり、アタシのハンナの方をっす!!」
私の名前を決めるために、メイド隊がすっごい口論を起こしてるのは、ちょっとどうすればいいか分からない……かな?
「うふふ、みんな元気ね。」
「言ってる場合ですか、メイド長。」
ニコニコと楽しそうに微笑みを浮かべている
でも、私もみんなが一生懸命名前を考えてくれているのを見て……なんだかすっごくうれしい。
メイド隊のみんなが口論している中、バーンと扉が開け放たれ……格好つけて扉にもたれかかってる一人の吸血鬼が現れた。
「フッ、運命を見て感じ取ったわ。
「「「「それだっ(っす)!!」」」」
「レミリアお嬢様?その手に持ってる本はなんでしょうか?」
「えっ、あっ……これはーショノ。ひ、拾ったものじゃないわ!」
「私に内緒で拾ったものなんですね?」
「……ゴメンナサイ。」
レミリアお嬢様、かわいいな……。