紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
side:咲夜
……お母さまが、パチュリー様の解熱剤のおかげで苦しい熱から解放されたものの、大事を取って1週間ほど休養を取ることになった。その間、私は風邪をお母さまからもらわないようにアンナ姉さまと一緒に眠ることになったのだ。
アンナ姉さまとは、仲がいいと私は思っている。お休みの日に一緒にティータイムをしたり、一緒にお昼寝したり、時々遊んだり……夜のアンナ姉さまの絵本の読み聞かせが、最近ではひそかな楽しみになっている。
でも、その分アンナ姉さまはお仕事中だと私に厳しく接する。あくまで、見習いメイドである私と、副メイド長であるアンナ姉さまの立場をしっかりと保ちつつ、先輩メイドとして厳しいご指導を頂いている。
それは別にいいし、私も納得している。むしろアンナ姉さまが家族だからと、お仕事中でも甘やかすならお母さまはもっとひどいだろう。多分、私を部屋に監禁してると思う。うん。
……ともかく、お母さまとアンナ姉さまはプライベートでは家族として接して、仕事中では上司として接してくれている。
そして私が、なんでそんなことを話したのかというと。
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とある日
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私は今、清掃メイド隊の研修として、700号室の客室をたった一人で掃除するように指示された。この部屋は、ブラウ清掃メイド長いわく……めったに人が使わないから簡単な掃除しかしてないし、滅多に人が使わないから700号室からは新人練習用の部屋にしている。とのことだ。
そんなこんなで、私は清掃メイド隊の研修として700号室の客室を掃除しようと張り切り、懐からメイド隊のメイド全員に支給される伝票を取り出した。
ネペタ清掃副メイド長が、清掃メイド隊の掃除のやり方を一通り教えてくれたことを、思い出しながら準備する。
ステップ1:まずは、伝票に必要な道具を必要な数だけ書き込むこと。
「えっと……バケツと、モップに箒、あとはたきと……布拭きと。」
えんぴつを使って、伝票に必要な道具を書き込んでゆく。
お母さまとオリビア先生に字の書き方をしっかりと矯正してもらったため、もう「ミミズが這いずったような文字」なんてレミリアお嬢様とフランお嬢様に言われることはない!*1
ステップ2:書き終わった伝票は、伝票帳から外した後えんぴつで3回たたくこと。(字を書く方で叩かないこと!)
「えっと……こっちだっけね。」
書き終わった伝票を、鉛筆の書く方ではない端で軽く3回たたくと、伝票がふわりと浮かんでドアから廊下に出て行ってしまう。
あの伝票は、つい最近ノワール運搬メイド長が作ったマジックアイテムで、紙の一枚一枚にある条件付き魔法陣を起動すると、自動で運搬メイド隊の待機室にあるボードに張り付く様にしてあるらしい。
私はあまり魔術や魔法に詳しくないけれど、パチュリー様ができるだけ簡単に教えてくれたこともあって、なんとなく理解している。少なくとも、パチュリー様の説明で分かったのはノワール運搬メイド長の魔法センスはとってもすごくて、この魔法がかかった伝票帳と伝票は一般魔法使いが見たら高度過ぎて気絶してしまうほどの魔法道具らしい。
ステップ3:道具が届くまでの間、部屋の換気、ベットシーツやマクラカバーの取り外し、部屋のゴミ箱の確認をする。
「よいしょっ、わぁ……いい風。」
部屋の窓を開けて、しばらく心地のいい風に吹かれた後、ベットシーツやマクラカバーを外したり、部屋のゴミ箱の確認をする。
誰も使っていないからか、シーツやカバーは汚れていないしゴミ箱の中にはゴミなんて入っていないけれど、決められたルールはルールだ。しっかりと守るべきだし、お母さまが練習でも本番のように動きなさいと言っていたから手を抜かないと自分で決めていた。
取り外したシーツとカバーはそのまま入り口付近に置いておき、後するべきことを考え……そして、部屋の備品の確認をすることにした。
「飾り皿は大丈夫……花瓶も割れてない。家具も……うん、全然壊れてない!」
飾り皿と花瓶が割れていないか、家具が老朽化で嫌な音が鳴ったりしないかの確認をしていると。
[こん、こん、こん。]
『咲夜ちゃーん、道具持ってきたよー。』
700号室の部屋のドアがノックされ、運搬メイドの声が聞こえる。トタトタと早足気味でドアに駆け寄りノブを下げて扉を開けると、運搬メイド隊の古参毛玉メイドさんが道具を1式持ってそこに待っていてくれた。
「おまたせ咲夜ちゃん。バケツとモップ、箒にはたきに布拭きね。」
両手に抱えていた箱を床に置き、箱の中から箱の容量を無視した道具が何個か出てくる。
「ありがとう、毛玉メイドさん。」
「んふっ、こっちこそありがとうね咲夜ちゃん……あっそうだ、なんかブラウ清掃メイド長が、咲夜ちゃんに聞きたいことがあるから来て欲しいって伝言があったよ?」
「……ブラウ清掃メイド長が?」
ブラウ清掃メイド長が人を呼ぶことは結構珍しい事だ。そもそもブラウさんは他人に用事を伝える際は、自分から赴いて伝える人だ。それもしっかりと自分の仕事を終わらせてからだ。
そんな人が呼び出すと言うのは、相当な緊急事態や……もしくは粗相を?
「ど、どうしましょう……。」
「急ぎみたいだし、私が運ぼうか?」
「お願いしても大丈夫です?」
「もちろん、任せて!」
古参の毛玉メイドさんにおぶってもらい、廊下を爆走した……。
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咲夜が、古参の毛玉メイドに背負われブラウの元へ向かった直後、咲夜が作業するはずだった700号室に何人かの人影が飛び込み、なにか作業を始め出す。
時々小さい悲鳴と怒鳴り声が、聞こえてくるが……人通りのない700号室前の廊下に小さく響くだけであり、やがて700号室に飛び込んだ複数の人影は、何事も無かったかのようにバラバラの方向に素早く逃げていった……。
それからおおよそ10分後……古参の毛玉メイドに背負わせた咲夜が戻ってくる。その表情は疑問を浮かべたものであり、毛玉メイドもまた不思議そうな表情を浮かべていた。
「うーん、確かにブラウ清掃メイド長が咲夜ちゃんを探してたって言われたんだけどなぁ……。」
「もしや、人間たちによる策謀でも始まってるんでしょうか?」
「こわいねぇ〜……一応、後でメイド長に報告しとこうか。」
会話をしながら咲夜が700号室のドアを開けると…………。
ドアの向こうには既に綺麗に清掃と整頓のなされた部屋が広がっていた。その光景に、咲夜だけでなく古参の毛玉メイドでさえも驚いてしまう。
「……最近の人間って親切だね〜。わざわざ部屋を掃除して逃げてくれるだなんて〜……。」
「…………むぅ。」
古参の毛玉メイドが額に手を当てながら呆れ、咲夜はむすぅー。と頬を膨らませて不機嫌であることをアピールする。
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次の日
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今日の咲夜のお仕事は客室棟7階倉庫の備品確認……だが……。
「咲夜ちゃーん、プリム雑務メイド長が話があるから至急メイド休憩室に来て欲しいって。」
「……はーい!」
プリムに呼ばれたはずの咲夜だが、プリムはそんな指示を出していないと答えて、咲夜は何かを察してトボトボと作業場に戻る……。
「あれっ、もうお仕事終わ……あー、そういう訳じゃなさそうだね。」
「…………むぅ!」
案の定、既に咲夜に割り振られていたはずの倉庫は綺麗に整頓されていた……。
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また次の日……。
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今日の咲夜のお仕事は、客室棟7階のトイレ掃除。いくら700号室からは使わないとはいえ、掃除はしておいて損は無いはずだ。
「咲夜さん、アンナ副メイド長が緊急招集をなされました。急いでメイド休憩室に、ワタクシも同行します。」
「は、はいっ! すぐに行きます!!」
古参毛玉メイドの中でも、真面目で口調の硬い人が呼びに来たのだ。さすがにこの人を騙す人がいないと思うので、その古参毛玉メイドと一緒にメイド休憩室に急ぐ……。
しかし到達して、メイド休憩室でのんびりしていたアンナの話を聞くことになったのだがアンナはそんな招集をかけた覚えは無いと言われ、呆れた表情を浮かべながら古参毛玉メイドと一緒にもとのトイレの前に行く。
「……どうやら、咲夜さんの仕事が横取りされたようですね……。」
「…………むぅっ!!」
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「もー!私をあまり仕事中に甘やかさないでください!!」
我慢の限界が来た咲夜はメイド休憩室で叫んだ。
その大声に、メイド休憩室に居たメイドたちはびっくりして硬直し、怒りながら目に涙を浮かべている咲夜をじっと見つめていた。
「そうだ〜!咲夜ちゃんから仕事を奪うな〜っ!!」
「一生懸命働いてる咲夜ちゃんに申し訳ないと思わないのかー!」
「小さいのに健気で頑張り屋さんな咲夜たそ……ぬふっ。コホン、いくらやることがないからと咲夜さんの仕事を奪うのは感心しませんね。」
咲夜の叫びに同調するように古参の毛玉メイドや妖精メイドが騒ぎ出す。
やがて……
「咲夜ちゃんはまだ子供だからトイレ掃除とかは私たちがやるべきだー!」
「倉庫整理の仕事は落下物多いから危険すぎる……咲夜ちゃんにもしものことがあると……。」
「でも700号室の部屋勝手に掃除したのは私達もわる―――もがっ。」
反対にベテランの毛玉メイドや妖精メイドが、それぞれの主張を繰り出した。
700号室の掃除はホコリっぽいから咲夜ちゃんが
客室棟7階の備品倉庫の整理をやったのは、その倉庫の棚はたてつけが悪く、よく落下物が発生しているため万が一にでも咲夜の頭に当たることを考慮し奪った。
トイレ掃除は単純に不潔だから、いつまでも綺麗にいて欲しい咲夜にはやらせられないと断固としてやらせないという意志を表明した。
今ここに、
「なるほど、みんないないと思ったらここにいたのね。」
―――していたが
「なるほどね、咲夜を仕事中でも甘やかしたいって子達と、仕事中は応援したいって子と別れてるわけね。
ひとつ言っておくわ、咲夜の教育方針についてはメイド長と私が決めるし
でも、そんなことより、あなた達?
午後の始業時間、もうとっくに過ぎているのだけれど?」
……後に、1人の古参毛玉メイドはいった。
多分、あの後すぐに仕事に行ったおかげで助かったが……行ってなければ斬られていたと。
それぐらい、アンナの目がガチだったと。
結局、『咲夜ちゃん甘やかし隊』と『咲夜ちゃん応援し隊』の派閥は残るどころかレミリアやフラン、(アンナを除く)各メイド長や警備隊と司書隊を巻き込んで、水面下の言い争いを続けるのであった。
体調不良で1ヶ月ほどお休みをいただきました