紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
最近、平和な日々が続いている。それ自体は、いい事なのだけれど
理由は分かり切っているけれども、念のために再確認しておこう。
私たちの主、レミリアお嬢様とフランお嬢様は吸血鬼……そして、その種族の中でも最上位クラスの存在だ。
純正の人間以外を忌み嫌う人間たちにとっては、いくら可憐で幼さを残す少女の姿をしていたとしても吸血鬼は吸血鬼。親の仇のように睨み付け、あまつさえ唾を吐きかける不敬を働くことだろう。
そうならないためにも、いや……そうさせないためにも、緩みかけている気を持ち直して常在戦場の心を持たなければならない。
あとは、まあ……最近は書類作業ばっかで体重が気になってきたから、少し運動をしたいとかそう言う理由もあったりする。
「というわけで、アンナ。私と模擬戦どうかしら?」
「いいっすよー…………えっ。」
~~~~~
……メイド休憩室で言ったことが間違いだったのか、私とアンナを囲うように大勢のメイドが、私とアンナの模擬戦を観戦しようと集まっている。
私たちが居る場所がよく見えるテラス席ではレミリアお嬢様とフランお嬢様、
「いや~、大人気っすね~。ただの模擬戦なのに。」
「多分、私が戦うってことが相当珍しいんじゃないかしら。」
「まあ、メイド長は基本ディスクワークとメイド隊の戦闘指揮がメインっすからね~。」
アンナと軽口を言い合いながら、黄金のハルバードを何回か片手でブンブンと振り回してみる。うん、予想よりはなまっていないけれど、少しだけ重たいな。
「勝ったら何かくれるんっすか?」
「うーん……考えてはいなかったけれど、何か欲しい?」
「あー……聞いたはいいものの、あんまり考えてなかったっす。やっぱ、無しにするっすよ。」
まるでチェスやオセロでもするかのような雰囲気で会話を続けているが、これからすることは手加減無しの実戦形式の戦いだ。私もアンナも相手を死なせるつもりはない。そもそもアンナは死なないが……まあ、死なせる気はなくても殺す気でやるので激しい戦いになる事は間違いないだろう。
「じゃあ、そろそろ始めるっすよ?」
「ええ……オリビアちゃん。審判、お願いね。」
「えぇ~……本当にやるんですか~?」
オリビアちゃんの嫌そうな声が返ってきて、思わず私もアンナも苦笑いを浮かべてしまう。まあ、責任者の両方がこれから殺し合うのだから当然と言えば当然の反応だろう。けれど、オリビアちゃんも不承不承ながらも渋々手を掲げる。
「えーっとこ、これより、メイド長
「オリビアちゃん、私はないわよ。」
「アタシもねーっす。」
オリビアちゃんの本音がこぼれたところで、オリビアちゃんも折れたのだろう。ため息を一つついた後、真剣な表情を浮かべて私たちを見た。
「それでは、始めてください!!」
号令と共に、オリビアちゃんの手が降ろされ……それと同時に先制攻撃とお言わんばかりにナイフの雨が私に降り注いだ。でたらめに投げられたナイフの群れをよく観察すると、随分と隙が多いことに気付ける。それこそ、人一人が通り抜けられるような……。
[ガキィン!!]
危険を察知し、ハルバードの柄で振るわれたナイフを受け止める。
受け止めたナイフは、アンナがよく手に持って振るうナイフでありナイフの雨の中なのにも関わらず、アンナは鋭い目線で私を見ていた。
(なるほど、空中に浮かんだナイフの群れに不自然な隙間があったのは、ナイフの刃を足場にして空中を移動しながら私に斬りかかるためか。)
意識を集中させ、スロー化させた世界の中でそう分析し、冷静に反撃に移ろうとするが初撃が失敗に終わったアンナは再び、ナイフを足場にして安全地帯へと戻る。
いつの間にアンナは、ナイフの刃を足場にして跳躍するという曲芸を手に入れたのだろう。いくら何でも、それは達人芸が過ぎる。
反撃しようとした体勢を整え、2歩ほど先ほどの位置より右前に前進し、一度極限状態まで高めた集中力を戻す。
[ドドドドドッ]
私を襲うはずだったナイフは、そのまま豪快な音を立てて地面へと突き刺さり芝生をめちゃくちゃにする。まあ後で
―――上半身をバレエのように後ろにそらす。
[シュッ]
体のすれすれをアンナのナイフが通り過ぎた。
(2段目の上半身への攻撃はフェイント寄りの一撃、本命は足払いか。)
再び、集中力を極限まで高めてアンナの動きを逃さないようにする。
すると、私の予想が当たっていたのかナイフを逆手から持ち替え突き刺す体制になるが、私が足元への注意をおろそかにしたフリをすると、狙いすましたかのように私のくるぶしに向けて蹴りが放たれた。流石に来れは避けられないので能力を使うしかない。
私が倒れこもうとする位置に黄金のうねりを出現させ、自分の体をそのままそのうねりの内部へと放り込む。
入ったうねりは開いたままで、次はアンナの真上にうねりを出現させそのうねりからハルバードを突き出しながら出る。
[ドスン!]
しかし、ハルバードは先ほどのナイフの群れと同じように地面に突き刺さっただけで、地面の硬い感触が手に伝わった。
「あっぶね~っす。あとちょっとで串刺しとか勘弁してほしいっすよ~?」
「ふふっ、まさか避けられるだなんて思っても居なかったわ。さすがアンナ。」
「えへへ~、メイド長に褒められたっす。」
「「「「「おぉおおおおおお~~~っ!!」」」」」
一連の高速で行われた戦いは、30秒もしないというのに大激戦と思われたのだろう。観戦していたメイドたちや狼女たちから歓声の声が上がった。多分、ほとんど見えていないだろうけれどいきなりナイフが突き刺さったり、私が地面にハルバードを突き立てた様子を見て適当にあげたのかもしれない。
けれど、レミリアお嬢様や
「うっひ~……レミリアお嬢様の冷たい視線が刺さるっす~。」
「まあ、模擬戦だと言っているのに初手から初見殺しだもの。仲良く怒られましょう、アンナ。」
「メイド長がそう言うならいいっすよ~。」
地面からハルバードの槍先を抜き、軽く構えて左手を突き出し黄金のうねりを何個も出現させる。アンナもそれを予測していたのか、ナイフを放り投げて双剣を引き抜き構えた。
「さて、アンナ。私の物量に、いつまでたえられるかしら?」
「へへっ、いくら物を投げてもあたらなきゃ意味がないっすよメイド長!」
売り言葉に買い言葉、けれどまあそこまで敵意のないモノを投げつけあい、左手で指パッチンを鳴らし、黄金のうねりからこれまでため込んだ石礫を目に見えないほど拘束で投射する。何個か、観客に当たってしまうかも?と思ったのだが、狙いが大きく外れた石礫は空中で何かにぶつかったように砕けてしまった。
テラス席を見ると、パチュリーが魔法陣を展開して維持に集中している様子が見れた。なるほど、パチュリーが呼ばれたのはそう言うことね。これで、
[バババババババババシュッ!!]
今までため込んだ石礫を、嵐のように剛速球でアンナに向けて発射する。
しかし、アンナはそれを避けるどころか切り払い、あまつさえ私に向けて突っ込んできた。まあ、それが正しい判断だろう。実際、石礫を飛ばすために相手との距離がそれなりに離れている必要がある。自爆対策ということもあるが、近くに来られると投射が上手くできないという私個人の弱点もある。けれど、私もただ黙ってやられるわけにはいかないし、近づかれた際の対応策はきちんとある。
[ジャララララッ!!]
「なッ!?」
アンナの焦る声が聞こえたが、構わず黄金のうねりから出現させた
「イッタァアアアアアッ!?!?め、メイド長!?その鎖、操れるようになったんっすか!?」
「完璧に、とは言わないまでもね。休憩時間に時々練習してたのよ?それよりも、大丈夫なの?両腕、折れてるけれども……。」
「大丈夫じゃないっす!降参っす降参!!模擬戦って話はどこ行ったんすか!?」
……とまあ、少しだけやり過ぎたのか、アンナの腕が随分とグロい折れ方をしてしあっていた。表現するには少しばかりアレな怪我の仕方なのでやめておこう。
ちなみに黄金の鎖については、私の【空間を操る程度の能力】の収納空間に最初の頃からあった鎖で、あの死にかけた時に空間内にあるのを知ったのだ。
この鎖は、どうやら私の思考通りに操ることのできる魔法の鎖らしくて、パチュリーとノワールに調べてもらっても、分からないほどの高等な魔術・魔法で作られたものらしい。でも、私に害はないし、練習すれば自由に操れるということで、休み時間に少しづつ練習していたというわけである。
「そこまで!アンナ副メイド長の戦闘不能により、マリアメイド長の勝利となります!」
「本当に降参でよかったの?アンナには、アレがあったのに。」
「模擬戦で自分の首を斬り落とすバカがどこにいるんすか?」
「…………それも、そうね。」
「……メイド長が、アタシのことをどう思ってるのかよくわかったっす。けど、もう命を簡単に捨てる真似はしないっすよ。」
何て会話をしながら、観戦していたメイドたちや狼女たちの拍手や歓声を聞き流しつつ、テラス席から発せられる怒気交じりのカリスマから、どうやって逃げようか考えていた。
「……どうするっすか、めちゃくちゃキレてるっすよ?」
「うーん、さすがに私たちが悪いとはいえ逃げたくなるわね。」
「幸いにも、フランお嬢様、
「でも、【運命を操る程度の能力】で未来を見れるレミリアお嬢様から逃げられると思う?」
「…………あー、大人しく二人でお説教受けましょうっす。」
私とアンナはその場に大人しく座り込み、テラス席から飛び降り降臨なされた
とりあえず、今回はここまで!
メイド長の成長をお見せしたかったというのもありますが、レミリアお嬢様が怒ると怖いということを見せたかったというのもあります。
ちなみに『スカーレットデビル』は、原作では血を吸いきれないレミリアお嬢様の様子を見た誰かが付けた異名ですが、このお話ではぶちギレしたレミリアお嬢様を指す言葉になっています。
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