●月×日
今日から、メイド長さんに習って日記をつけてみることにしました。
と、言うのも当機は陶器製の自動人形であり口のような模様はあるものの声帯機能がありませんので、こうして文字を書くことでしか自分の意志を伝えることができません。
正直に申し上げますと、当機はこの機能に関してひどく不満を抱いています。同僚や仲間が優しく声掛けしてくれるのに対して、当機は声を出すことはできず。常に持ち歩いている手帳に書いた言葉を見せる事しかできません。もし、同僚や仲間に目の見えない人がいたのなら、当機は無口で酷い奴と思われてしまわれても不思議ではありません。
しかし、この紅魔館に暮らし働く皆様は、そんな当機に対して優しく接し……そして喋れない当機が言葉を見せる時間も待ってくださいます。当機は感情の起伏は小さい方ではありますが、それでもそれが”うれしい”といういい感情であることは理解しています。
自動人形であるから忘れないとは思うが、ヴワル魔法図書館の禁書庫内に保管されている禁書には触れただけでも記憶が消されるものがあるため、念のため当機のことをこの日記帳に書き記し、いつでも確認できるようにしておこう。
当機は、陶器製の自動人形、名前を『ビビオン』と言い、イタリアの○○地方と呼ばれる場所で、人形魔術師に作られ愛玩されていましたが、愛が重すぎて少し頭を冷やしてもらう目的でちょっと散歩に出かけたところ、当機はどうやら極度の方向音痴だったようで、その人形魔術師の家の周りをぐるっと歩いて帰るはずが、いつの間にか紅魔館を囲む有名な森、『迷いの森』に迷い込んでいました。
どうにかして帰ろうと『迷いの森』を歩いていると、方向音痴のせいでさらに迷い、結果紅魔館の中庭に侵入、『庭園迷宮』からの帰りだった、レミリア・スカーレット様、当時はまだ名前がなかった十六夜マリア様、紅美鈴様と、狼女のレノアさんとリッシュさんを発見し、そのまま同行……そのままマリア様に気付かれ、会話を交わしそのまま紅魔館のメイドとして働くことになった。
けれど、当機の方向音痴という悪い才能があったせいでメイドとしては雇われたものの、適性を判断されたうえでヴワル魔法図書館を管理するパチュリー様の補佐……司書隊のメイドとして働くことになった。
最初は大変だったものの、自動人形であったため疲労や埃の酷い場所でも活動でき、なおかつ倒れている本棚を立て直すパワーもあったので大変感謝された。当機はその時の言葉と感じた感情を今でも忘れてはいない。
ちなみに、働いてしばらく経つと製作者からの「イタリアマフィアに殺される!たすけて!!」という救助要請が飛んできたのだけれど、紅魔館で……ヴワル魔法図書館で働き始めている時の方が、当機が当機らしいと思い、救助要請を無視した。できる事なら、天国で安らかに。
こんなところだろうか、日記の先輩であるメイド長いわく日記はその日起こった事を適当に描くだけでいいとおっしゃっていたので、たぶん大丈夫だろう。
今日はそろそろ、夜の仕事の時間……パチュリー様が疲れでお眠りになられる時間なので、今日の日記はここまでにしておこう。
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○月▽日
今日も、ヴワル魔法図書館でのお仕事を頑張った。
当機に任されている仕事は、主に4つだ。基本業務であるヴワル魔法図書館にある本の整理と補修で二つ、当機個人に任されている仕事は、時々倒れた本棚を立て直したり、紅魔館の皆さんがヴワル魔法図書館から借りていった本の回収だ。あと、時々パチュリー様からお使いを頼まれることもある。あれ、これでは5つだ……まあいいか。
まず上記二つの基本業務は、司書隊のメイドとして当たり前の仕事だ。当機《わたし》と、同僚のマルガハーリーさん、そして小悪魔さんとその分身であるデフォルト小悪魔さんたちでその仕事を行う、パチュリー様も時々気分転換として参加しますが、パチュリー様の本来のお仕事は『黒無地の魔導書の解読』というお仕事です。ですが、パチュリー様いわく「黒無地の魔導書は、時々解読のさせる気がないページが出てくる」とのことで解読が難航しているみたいです。そのため、時々気分転換としてマルガさんと魔法・魔術談義をしたり、小悪魔さんと一緒に軽いストレッチをしたり、当機のメンテナンスなども行ってくれています。
ところでなぜ、ヴワル魔法図書館の本を毎日整理しているのか……というと、先日も書いた通り禁書が関係してきているのです。
ヴワル魔法図書館の設立前、パチュリー様が任された書庫には普通の本や魔法・魔術本の他、禁書に指定されている本がごちゃまぜに、そして適当に置かれ、積まれていたそうです。それを、最初は小悪魔さんとデフォルト小悪魔さんたちで何とか整理整頓し、当機とマルガさんが加わったことでようやくヴワル魔法図書館の本棚にすべての本が収まりました。その際に、禁書指定されている本はどうなったのか……というと、ヴワル魔法図書館内には隠された扉から長い階段を下った先に頑丈な鉄の大扉の部屋と何に使うかわからないとても広い空間だけ存在しているのですが、その鉄製の大扉の部屋を禁書庫として禁書指定されている本を保管しています。もちろん、禁書を簡単に持ち出させないためにも、禁書庫の鉄製大扉にはパチュリー様謹製の魔法・魔術防壁が何重にもかけられており、その禁書庫に向かうための扉も当機でも持ち上げるのに苦労する本棚で隠してあります。
しかし、そこは腐っても禁書……いつの間にか、その禁書庫から抜け出してシレッと本棚に紛れ込む厄介な禁書が存在するのです。そのラインナップもまたまた癖のあるもので『魔物・魔獣の調理法』や『幼子でも分かる黙示録の起こし方』、『悪用厳禁!魔力の流れの観測・活用方法』と言った世に出てはいけないものが、まるで自分を普通の料理本や童話本、研究書籍と言い張るようにそれぞれのコーナーに紛れ込むのだ。パチュリー様とマルガさんは、この禁書が紛れ込んでいることは知っているのだけれど、本棚にきちんとしまって、きれいに並べたはずの本がめちゃくちゃになる理由を知らない……でも、当機は知っている。先ほど挙げた禁書の他、自らを禁書ではないと主張する禁書たちがそれぞれのコーナーに移動する際、その際の副作用として収めた本がバラバラになるのである。これは、最近当機が出した結論だが、どうやら禁書の認識において私は生物ではなく無機物として認識されているため、マルガさんと一緒に本棚の監視を行った際、マルガさんが寝ぼけて一瞬眠ってしまった際に禁書がそのコーナーに紛れ込む決定的犯行現場を当機は目撃したのだ。
それを、パチュリー様やマルガさん、小悪魔さんにこの日記を書く直前に思い出して伝えたのだけれど……最初から万全の状態で禁書庫に保管していたので、これ以上施す手はないとのこと。幸いなことに、紅魔館の住人に貸し出す前に整理整頓する時間を作っていたため、魔法図書館の本を整理するついでに禁書を発見して再保管するようにしたのである。
ちなみにその為に、隠し扉の前においてあるとても重い本棚に細工をして、魔法で浮かせないと入れないように細工し、とあるアクセサリーを身に着けていないと入れないように大扉に細工をパチュリー様とマルガさんが協力して施していた。あと、補修について書くことはあまりない。こればっかりは大切なことだけれど地味な仕事としか言いようがないのである。
次に当機個人の仕事について、最初は倒れた本棚についてだ。
このヴワル魔法図書館には、パチュリー様が制作した2匹のキメラが住み着いている。名前をエメナスとローウィルと呼び、二匹ともに賢くも強い生き物だ。もちろん、とても賢いので普段は本棚を倒さないように気を付けてヴワル魔法図書館内を移動しているのだけれど……時々、それでも本棚を倒してしまうことがある。倒す回数が多いのは、オスのローウィルの方だ。でもわざとというわけでもなく、私が倒れた本棚を直している際には、申し訳なさそうにその場に座り込んでいる姿をよく見ている。本棚を立て直し、本を戻した後ローウィルはこちらに頭を下げ、かなり慎重にどこかに行くのだけれど、その後ろ姿に哀愁が漂っているのは内緒だ。
次に、紅魔館の住人が借りた本を回収する仕事だけれど……仕事を任されること自体、頼られているという好意的な感情があるのだけれど……正直、なんでパチュリー様はこの仕事を当機に任せたのかいまいちよくわからない。パチュリー様も、当機の極度の方向音痴を知っているはずだけれど、そのお仕事をなぜか小悪魔さんに任せなかったのだ。
一応、理由を聞いてみたのだけれど……パチュリー様いわく「貸し出した本が多いから、小悪魔だとあまり回収できないから」らしい。確かに、ヴワル魔法図書館が貸し出している本は中々多い、10冊、20冊はまだしも、時々90冊や100冊借りられる時がある。当機が記憶している中で、一番多く本を借りているのは実のところを言うとレミリア・スカーレット様の妹君であるフランドール・スカーレット様だ。あの方は、小説だけでなく、様々な分野の本をお読みになる事も多い。お部屋に持ち帰り読むこともあるのだけれど、その際50冊一気にもっていくこともある。ちなみにレミリア・スカーレット様もときおり30冊ほど借りていくこともあります。
その次点で多いのがメイド長である十六夜マリア様の義理の娘である、十六夜咲夜ちゃんだ。時々、十六夜咲夜ちゃんが休みの日にヴワル魔法図書館にやってきては童話本の他に動物図鑑や植物図鑑と言ったものを借りていくこともある。その為、疲れないしそれらの本を一度に回収できる私に任命されたのである。極度の方向音痴であるということを了承済みで。
まあ、もちろん……私がまともに目的地に到着できるはずもなく、よく他のメイドに案内してもらったり時々警備隊の狼女の皆さんに紅魔館の館内で遭難した当機を救助してもらったりしている。でも、最近は少なくなってきた方だ。そう思いたい。
ちなみにパチュリー様のお使いは、レミリア・スカーレット様に伝言代わりの手紙を送り届けることである。
今日は、ペンがかなり滑らかに動き、かなりの文字を書いたような気がする。
そろそろ、朝日が昇るころだろう。そろそろ、またいつもの禁書たちのかくれんぼの時間がやってくるのでここらへんで今日の日記は終わっておこう。
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●月□日
今日は、パチュリー様のお使いでヴワル魔法図書館から出たのだけれど……その帰りに、館内でまた遭難してしまった。紅魔館が、10階建ての客室が1000部屋あるかなりの大きさということもあるのだろうけれど……それ以前に私の極度の方向音痴が原因だろう。
幸いにも私は自動人形、餓死や脱水症と言った遭難時の死因とは無縁なので、待っていればその内救助されるとは思う。けれど、こういう一人で遭難してしまったときの心細さは、あまり記憶しておきたくないよく無い感情だ。
そんなこんなで、警備隊の救助を待つことにして、これ以上迷わないためにもその場で待機していると……偶然、通りかかってであろうメイド長と、疲れて眠ってしまったであろう十六夜咲夜ちゃんがやってきたのである。最初は、当機が待機しているのを見て驚いたメイド長だったのだけれど、当機だとわかったら、ほっと溜息をついていた。この時、メイド長の驚いた表情が珍しかったので、永遠に忘れないように後で日記の一ページを使って写生しておこう。
メイド長に話を聞いてもらい、今回も無事に救助された当機はヴワル魔法図書館につながる地下廊下のあるメインホールにつくまでに、メイド長と話すことにした。
メイド長は言葉、そして私は筆談という形になったものの、メイド長は私が書いた言葉をしっかりと見て答えてくれた。やっぱり、メイド長はやさしい人だ。
長い間話したような気分だったけれど、メインホールにつくとあっという間だったような気がする。ともかく、メイド長のおかげで私はメインホールに戻ってきて、心配で地下廊下まで来てくれたであろう小悪魔さんの迎えもあり、そこでメイド長と別れた。
今日は昨日とは違い短いけれど、今日はパチュリー様が気分転換で当機のメンテナンスをしてくれるのだ。だから今日はここらへんで、日記を終えておこう。明日からも、その日起きたことを書き記してみたいと思う。