紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです! 作:ライドウ
今宵は満月、レミリアお嬢様とフランお嬢様の魔力が満ち、また配下の私たちにもその恩恵が与えられる日。
……相変わらず、レミリアお嬢様はいつも通りだけれど、フランお嬢様がレミリアお嬢様がパメラ・スカーレットに対し何かしら怯えていると教えてくれたこともあり、表面上いつも通りを装っているだけで、内心焦っている様子が見受けられる……。
しかし、そんなレミリアお嬢様とは違い、着々と庭園迷宮の攻略部隊の準備は整ってゆく。
「
「司書隊からも、私とビビオンちゃん、マルガさんの3人で出るわ。」
「うん、ありがとう、あとでお菓子をあげるわ。……こっちも準備が終わったわ、メイド長。」
どの隊もテキパキと準備と確認を終わらせて、レミリアお嬢様の作戦開始の号令を聞くために整列している。
その光景を見て私は、思わずホロリと涙が出かかる。いつしか思っていた、総メイド長の座を退くのも悪くはないと思ってしまっているからだ。
けれど、まだこの座を(
「レミリアお嬢様、庭園迷宮完全攻略作戦の準備、ここに整いました。」
メイド服のスカートを軽く持ち上げながら頭を下げ、レミリアお嬢様にそう伝える。
レミリアお嬢様は、私の言葉を聞いた後……ゆっくりと視点を動かし、ずらりと並んだ狼女たちやメイドたちを見渡す。やる気に満ち溢れ、レミリアお嬢様の号令を今か今かとソワソワする彼女たち……。中には、耐え切れずに尻尾をブンブンと振ってしまう狼女の子もいた。
「……よろしい、ではこれより庭園迷宮の完全攻略を――――――」
『あぁ、レミリア……あなたは、私の言うことが聞けない悪い子になってしまったのね。』
レミリアお嬢様の声が遮られ、私は反射でその声の主に当たるように、黄金のうねりを広げ、内部にため込んでいた石礫を剛速球で複数個、飛ばす。
……しかし、飛ばした石礫は、庭園の芝に沈み、芝を傷つけるだけとなっていた。私の行動が一番早かったものの、次々と私以外のメイドや狼女たち、そして
……そして、声の主の姿が鮮明になってゆく。
「……パメラ・スカーレット!?」
『えぇそうよ、私のかわいいレミリア。でもごめんなさい、これはあくまで記録再生魔術なの。だから、私は死んでいるし、一方的な会話になるわ。』
……そう言う、半透明な記録再生魔術の中のパメラ・スカーレット。
しかしまるで、レミリアとの会話を楽しむような仕草をしている……実際、パメラ・スカーレットは先ほどから、
『あら……レミリア、随分背が伸びたのね。やっぱり、あなたが成長する姿を能力で見るだけじゃなくて、実際にこの目で見たかったわ。
今のアナタは、若い頃のラウルに似てるわね……雰囲気や目元、手元の仕草までそっくり!その驚いた顔も、ラウルによく似て可愛いわぁ~。
それにフランも、かわいいわね~。お人形さんみたいなかわいさだけど、ちゃんと美しさも兼ね備えてる……私に似たのかしら?きっと、そうにちがいないわね!特に髪色や口元なんて、そのまま私に似てるわっ……でも、その勇ましい表情と魔力操作はラウル譲りね!かっこいいも兼ね備えているなんて、私の娘はなんてすばらしいのかしら!!』
「きゃ~!」と言いながら、嬉しそうな表情を浮かべ、腕をブンブンと上下に振り回し、羽をバサバサさせている映像の中のパメラ・スカーレット。その喜んでいる様子は、レミリアお嬢様とフランお嬢様とよく似ていらして……特に羽をバサバサさせているところが、本当に瓜二つだ。
しかし、その様子に……レミリアお嬢様は動かず、フランお嬢様は不思議がっていた。
『あぁ、でもダメね……
「ッ!」「!?」
唐突に、パメラ・スカーレットが喜びの動作を辞め……実の娘に向けるべきではない、鋭く冷たい視線を送りつけた。失望、怒り……そして、憐みの視線のそれは、レミリアお嬢様とフランお嬢様を委縮させてしまった。咄嗟に、お二方の前に出て、黄金のハルバードを構える。
『……あなたのせいね、
「ッ……レミリアお嬢様方の容姿だけでなく、私の名前も?」
『あたりまえよ……私の能力、”未来をすべて知る程度の能力”は、未来を見ることができ、そして詳しく知ることができる。アナタが知らないことも、アナタがこれから何をもたらすのかを、アナタがどんな存在なのかもね。』
……パメラ・スカーレットは私の言葉にそう返す。
私が知らない事、そして未来で私がする事、私がどういう存在なのか知っているという彼女……だからなのだろう、パメラ・スカーレットが私に向ける視線は、先ほどのレミリアお嬢様方のモノより、ひどく冷たく、恐ろしいものだ。怒り、不快感……そして強い殺意。
『だから、貴様を殺すことにしたわ……
ギロリと、緋色に輝く猫のように細い瞳が私に向けられる。
直後……ブチリ、体内から何かが裂ける音が聞こえた。
激しい吐き気、喉の奥底からこみあげる液体、尋常ではない痛み。
たまらず膝をつき、顔を伏せ、それを吐き出した。
ベシャッ。そんな音共に、芝生の一部が赤く染まる。
果たして、
けれど、芝生を赤く染める液体は……私の口から、溢れていたのであった。
ふと、自分の足元に既に起動した魔法陣が見える……きっと、特定部位を傷つけることに特化した魔術だろう。
なんて冷静になっているが、メイドや狼女たちの悲鳴を耳にし、周りを見渡す。
「お母さまッ!」
「「母さんッ!!」」
「「マリアッ!!」」
来てはダメ。そう言うよりも前に、能力を使い黄金の鎖を使って、レミリアお嬢様とフランお嬢様を
多少、荒くなり……お二方に痛い思いをさせてしまっただろうけれど……咄嗟にお二方を吹き飛ばしたのは正解だったのだろう。
芝生にこぼれた血が光りだし、魔法陣が浮かび上がる。
「血で起動する魔法陣……あれは、転移魔術ッ!?」
「マズイ、メイド長!!」
パチュリーとノワールの声が聞こえて、安堵する。
やっぱり、とっさにレミリアお嬢様とフランお嬢様を弾いて正解だった。
『さようなら、
その声だけが聞こえてきて……私は、暗闇の中に転移した。
……酷く、体の中が痛い。口からあふれる血が止まる気配がない。
(…………ここまで、か。)
私は、ゆっくりと目を閉じた。
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side:レミリア
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メイド長が、マリアが転移する。
転移するほんの一瞬、マリアが私に向けて笑顔を浮かべていた。
私には、それが「さようなら」と言っているような気がして、体中から血の気が引いていく。
『あぁ、レミリア……絶望した表情もまた可愛いわね。でも、ごめんねレミリア……私の言いつけを守らない悪い子には、もっとお仕置きが必要よね?』
「やめ……やめて!」
「っ、アンナ姉さんたち!足元にっ!!」
「やっばっ、これってさっきの―――」
「申し訳ないっす、フランお嬢様!!」
青アンナがフランを突き飛ばし、フランは
「ッ……これは―――」
「いつの間に―――」
「時限式の起動魔術だと――――――」
「冗談じゃな――――――」
ブラウが、ルージュが、ノワールが、プリムが……
ワタシ、フラン、
「だが……アンナっ!」
私は、もう一つの能力を使い、アンナを呼び出そうとするが……二人のアンナは出現することなく、ただ静寂が広がった。
「ッ……ブラウ、ルージュ、ノワール、プリムっ!!」
アンナがダメなら、せめて他のメイドを……しかし、誰も現れない。
一人一人、名前を試していく。オリビアちゃん、アイーダちゃん、ライちゃん、マグちゃん、ネペタちゃんに、アストレアちゃん、メリーに、マルガにカートちゃん、ビビオンちゃん、ブライニィちゃん、クルムちゃん、テレスちゃんやマキシーネ、トレスちゃんにセキュアちゃん、メディーにヘスティーナにセリアちゃん、ベンジャミンやダーティちゃん、フォリアちゃんにクエスちゃん、ベナミとメラルドちゃんウルティマちゃんにアビーちゃん、イミナとメアも……妖精メイドたちも、毛玉メイドたちも、狼女たちも……
誰一人とて、私の呼びかけに……答えなかった。
『ふふふっ、ゴミは一つにまとめて消さないと。庭園迷宮は、こういう時便利ね。』
「……どうして?」
自分でも驚くぐらい、蚊の鳴くようなか細い声がぼそりと出る。
『……私が書いたお手紙に書いたでしょ、レミリア。アナタにとって、その3人以外は無用の長物。アナタの正しい成長を邪魔する、悪い物なの……でもレミリアはその悪いものに愛着がわいていたのでしょう?だから、代わりに私が処分するだけ……ただそれだけの事なのよ?』
ピキリと……何かに亀裂が入る音がする。
「かえ、して……かえして、よぉ……。わたしの、わたしのかぞく……とりあげないでぇ……。」
ぽろぽろと大粒の涙があふれ出してくる、
あぁ、ダメだ……私は、みんながいないとこんなに弱いんだ。
「いいこに、するからぁ……みんなを、かえしてぇ……おかあさまの、いうとおりにす―――」
「ダメだよお姉さま。」
お母さまに従おうとすると、フランが私の言葉を遮る。
フランは……ひどく怒っている。今まで見たことないぐらいに怒って、そして……それ以上に冷静だった。
フランが、レーヴァテイン・
『……フラン、私のかわいい永遠に狂った
「見てわからないのかしらアバズレ……アタシはアンタに武器を向けてるの。」
『酷いわフラン……どうして、実の母親にそんな言葉を使って、武器を向けているの?』
「かつて、アタシはアンタの為に胸を痛め、後悔に苛まれ、そして今でも悪夢としてアンタが死んだときのことを思い出している……けれど、アンタの為に流した涙も、アンタの為に口にした謝罪も、そしてアンタの為に前を向いたこと……その全部を無駄にしてくれてキレてんのよ、キチガイ女。」
『……つまり、私に怒っているわけね。フラン、あなたは勘違いしているわ、これはレミリアのためなのよ?』
「お姉さまを泣かせることが、お姉さまの為?寝言言ってんじゃねぇよ、寝言は寝て言え……あぁ、アンタこれから永遠の眠りにつくんだったっけね。何でもない、この私を産んだばっかりに。」
フランの粗暴な言葉に、記録のお母様の顔が歪む。
『……そんなに、あのゴミのことが大切なの?』
「アンタよりはとっても大切よ。死んで、居ない、記憶だけのアンタと……492年ずっと一緒に過ごした子たち、考えなくても分かるでしょ?」
『……なら、精々歯向かいなさい。でも、あなたたちが全員を救い出すことはできない。
一体、アナタたちはどれだけ救えるのか、楽しみだわ。』
それだけ言い残し、記録のお母様が消えてゆく。
……私たち以外、誰もいなくなった庭園。
「……さーて、予定とは大幅に狂っちゃったけど、庭園迷宮の完全攻略……するんでしょ?お姉さま。」
「……フラン?」
「なーにしょぼくれてるのお姉さま!元々、庭園迷宮は完全攻略する予定だったじゃん……みんな散り散りになったけど、みんなそこにいるってわかってるんだから大丈夫だよ。」
けれど、フランだけは折れていなかった。
私に、手を指し伸ばして……待っていてくれている。
「大丈夫、みんな強いから……
パチェ、マルガさんとビビオンちゃん、クルムちゃんなら大丈夫だよ。むしろ、マルガさんは新しい魔法薬の材料でも見つけるんじゃないかな?ビビオンちゃんも、方向音痴だけれどでもパチェが自信をもって強化してあげたじゃない。クルムちゃんとか、庭園迷宮の生まれなんだよ?庭園迷宮なんて知り尽くしてるって。
一人一人、的確な言葉をフランはみんなに投げかける。
……そうだ。
「……ごめんなさい、フラン。すこし動揺しすぎたわ。」
「フランお嬢様の言う通りですね……みんな、私より優秀ですから!」
「ふふっ……そう言えば、そうだったわ。そんなことを忘れるだなんて……私らしくもなかったわ。」
「……フランお嬢様の言う通りです、私の見て来たみんなは、こんなことで慌てないっ!」
フランの手を取り、立ち上がる。
そして私は、残った家族に号令をかける。
「庭園迷宮、完全攻略……はじめるわよ!」
「もちろんだよ、お姉さま!」
「お任せください、レミリアお嬢様!」
「ええ、親友である私にもやらせてちょうだい。」
「行きましょう、レミリアお嬢様!」
今ここに、庭園迷宮の完全攻略戦が、開始されたのであった。