紅魔館に住み込みで働くことになりました。そして咲夜さんの先輩メイドです!   作:ライドウ

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□ その竜妖精は限界を超える

side:マグノリア

 

対人格闘術に、人外の膂力が加われば、それはあらゆるものを砕く必殺の技術となる。少なくとも、私はその認識だったし……武術の達人である美鈴(メイリン)さんも否定はしなかった。

だけど、実戦で……対人ではなく、対魔物と戦って判ったことがある。

 

(すっごい、戦いづらい!!)

 

とびかかってきたワイバーンもどきに八極拳の肘の一撃で頭蓋を割りながら、流れるように体を回転させ、背後から襲い掛かってきていたロックゴーレムの頭をサバットの蹴りで砕く。

 

(相手が大きいし、人型じゃないから……受け流せないし、掴めないし絞められないっ!!)

 

馬鹿正直に正面から突っ込んできた()()()()の顔面に古式ムエタイの前蹴りをお見舞いして吹き飛ばし、口内で風と炎のブレスを溜め、群がるゴブリンに向けて吹き出す。

 

(ゴブリンの攻撃は受け流せるけど、臭いし汚いしで掴みたくないし絞めたくない!!と言うかそもそも触りたくもないっ!!)

 

内心そうは叫びながら、的確に致命的になるように力を込めてなんとか敵を倒し続ける。

一見、無双しているように見えるけれど、結構ギリギリだ。(主にメンタルの方で)

特にゴブリンが、一番戦いたくない。さっきの通り臭いし汚いので正直近寄る事すら億劫だ。

ようやく、最後のロックゴーレムを倒し……警戒しながら辺りを見渡してみる。

 

(……敵は、いない?)

 

とりあえず、ここの安全は確保できたようだ。塵になって消えてゆく魔物たちの死体を眺めながら、構えを解き、深呼吸をして一息つく。

アンナさんからもらった懐中時計を見ると……10分間ずっと戦っていたらしい、そう実感すると疲れが一気に襲ってくる。

 

(……いや、ダメだ。この程度で疲れてたら、アンナさんに置いて行かれる。)

 

ここ最近、私はアンナさんに守られてばかりな気がするのだ。

愛されているのもよくわかるし、アンナさんの気質的や過去的に守りたいという気持ちが強いのだろう。でも、それじゃあだめだ。

私が目指しているのは、守る・守られるの関係じゃない。私がアンナさんを守り、アンナさんも私を守る。アンナさんの背中を守るんじゃなくて、アンナさんの隣を守りたい。

焦っているのかもしれない、でも私は言うほど焦ってはおらず……高い壁を前に、ただ静かに闘志を燃やしているのであった。

 

「そこっ、ボーっとしない!」

「へ?うわぁっ!?」

 

考え事をしていると、私の身体にチェーンが巻きつけられ勢いよく引っ張られた。直後、私が立っていた位置に巨大な棍棒が振り下ろされ、土ぼこりが大きな音と共に上がる。

空中で、体に巻き付いたチェーンが解けて、私は地面に滑り込みそのまま立ち上がる。

 

「ごめん、助かった!キャロルちゃん!!」

「べっ、別にアナタの為に助けた訳ではありませんわ!ただ……アナタが死んで悲しむアンナ様を見たくないだけです!」

 

私を助けてくれたのは、私の恋敵でもある吸血鬼メイドのキャロルちゃん。アンナさんが分裂した今でも恋敵であることは変わらない、けれど前より仲は良くなっている。……キャロルちゃんのことは置いといて、私は巨大な棍棒を振り下ろした相手を見る。

ズズズと音を立てながら、振り下ろされた棍棒が持ち上がり……土煙が晴れると同時に、ギロリと大きな一つ目がこちらを向いた。

 

「敵は、単眼トロールが一体。弱点は、あの目……キャロルちゃんだとちょっと分が悪い相手だね。」

「トドメはお任せします……私は動きを止めるので。」

 

ジャラりとメイド服の袖口から幾本ものチェーンが伸び、指と指の間に挟みキャロルちゃんが構える。私もそれを見て、拳を構え……キャロルちゃんを信じて、単眼トロールに向かって飛び出す。

単眼トロールが、走り出した私を迎え撃とうと、再び棍棒を振り上げる。普通なら、このまま直進すれば棍棒に潰されて終わりだけれど……けれど、キャロルちゃんが動きを止めると言ったのだ。私はそのまま、単眼トロールに向けて突っ込む。

単眼トロールが棍棒を振り下ろそうとした瞬間、棍棒が後ろに引っ張られ単眼トロールが後ろ向きに倒れこむ。

単眼トロールが何が起きたのか起き上がって確認しようとした途端、地面からチェーンが次々と飛び出し、単眼トロールの肉体に絡まり、地面に縫い付け始める。

……キャロルちゃんが操るチェーンが、宣言通りに単眼トロールを完全に無防備にした。

 

「今です!」

「言われなくとも!」

 

倒れ伏した単眼トロールに向かって飛びあがり、そのまま単眼トロールの目に向かって踵を振り下ろす。ぐにゃりと柔らかい目の感覚と、プチリと何かを潰したような感覚が足を通して伝わってくる。直後、単眼トロールが大絶叫して暴れだし、そのせいで私は空中に吹っ飛ばされる。

 

「目を潰したのに、生きている?!」

「なら、焼き尽くすまで!!」

 

口内に火属性と風属性のブレスを溜め、そのまま単眼トロールに向けて吹き掛ける。

火属性のブレスが、風属性のブレスで強化され……業火が単眼トロールに襲い掛かる。単眼トロールはその業火に焼かれ、逃げ出そうと暴れだすが……

 

「ッ……逃がしまっせんっ!!」

 

キャロルちゃんが踏ん張り、チェーンが再び締まり、単眼トロールの体を地面に縛り付ける。10秒……20秒……30秒……そして、ようやく単眼トロールの暴れだす音が聞こえなくなる。

ブレスを止めて、単眼トロールがいたところを見てみると……少し黒くなったチェーンが巻き付いた巨大な人型の炭が残っているだけで、あとは何も残っていない。

 

「……私のチェーンを少し焦がしましたね。許しませんわ!!」

「あっ、ごめん~ね。ちょっとやりすぎちゃったよ~。」

「きぃ~~~!腹立ちますわぁ!!」

 

再びの危険も去り、キャロルちゃんとわちゃわちゃし始めると……

 

『やはり、トロール程度ではこうなりますか。』

「「ッ!」」

 

あの声が……パメラ・スカーレットの声が聞こえてくる。

声がした方向に振り向き、私は拳を、パメラちゃんはチェーンを構えると……そこにあったのはずいぶんレトロな蓄音機。

レコードはないから決して音が出ないはずのそれには、魔術陣が刻まれてて……パメラ・スカーレットの声が再生されるようにしてある。

 

『竜妖精……その最上種、古代竜妖精……。竜の側面を持つ、幻の妖精。こんな形でお目にかかるとは……本当に本当に最悪ね。できる事なら、生きているうちに捕まえて……どうやって竜としての側面と妖精としての側面が両立しているのか……観察や解剖をしてみてみたかったわ。

けれど、なによりも最悪なのは……そんな存在が、前世持ちと言うこと。』

 

……私が転生者であるという事は、隠さずに聞かれたら答えている。これは、レミリアお嬢様とフランお嬢様もご存じだし、美鈴(メイリン)さんやパチュリーさんも、そして咲夜(さくや)ちゃんも、アンナさんも知っていることだ。

 

『……何より、それを包み隠さず伝えた……それが一番腹立たしい。』

 

蓄音機からパチンと、扇子が閉じたような音が聞こえたと思うと……

 

身 体 中 に 激 痛 が 走 る。

 

視界が赤くなる。呼吸がうまくできない。

身体中から血が噴き出す。体温が抜けてゆく。ひどく寒い。

キャロルちゃんが驚いてる。体が上手く動かせない。地面に倒れる。

腕も、足も、羽も、尻尾も、首もついてる。けれど、動かせない。

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。

 

『……まだ、生きているのか。その無駄な生命力……流石は竜妖精と言ったところか。

まだ、憂さ晴らしはできていないが……まあ、この程度のゴミに怒りをぶつけても、時間と魔力の無駄、か。

ありえたもう一つの可能性をたどった自分に殺されてしまうといい。』

 

誰かがいる。見下ろしている。

見覚えがある。自分がいる。自分がそこにいる。

酷く冷たい目。慈悲のない目。私らしくない目。

 

「……これが、この妖精もどきが別世界の私だと?クククッ……クッハッハッハッハッ!随分、無様で哀れで、女々しく、弱々しいじゃないか!!」

 

違う。私じゃない。私だけど、私じゃない。

何だろ、この違和感は。確かに、私のようで、私じゃない。

ズレてる。そう、ズレてる。私に似た彼女の中は、私とズレている。

 

「ハッハッハッハッ……ハァ。視界に入れるのも腹立たしい、消えるがいい。」

 

怒りを瞳に露わにした別世界の私は、倒れ伏す私に向かって拳を振り下ろしてくる。

武術の作法もない、ただの拳の振り下ろし。けれど、再生に集中している今の私だと、動けなくて……

 

ジャラリ、その音共に、私の体にチェーンが巻き付き、直後空中に浮かび上がる。

ズドンと地面を殴り、クレーターを創り出した別世界の私は、舌打ちをして地面に転がった私と、私を助けてくれたキャロルちゃんをにらみつけた。

 

「……貴様。竜の王たるこの私の私刑を、邪魔したな?」

「ライバルとはいえ……仲間を目の前で黙って殺させるほど、冷血になった覚えはありませんので……それに、その不遜な態度、ひどく気に入りませんのよ。」

「吼えたな蝙蝠風情が……貴様も、貴様の仲間も、そして貴様の主も!竜の尾を踏んだ報いを受けるが――――――」

 

別世界の私が叫ぼうとした途端、地面からキャロルちゃんの操るチェーンが幾本も飛び出し、角に、口に首に、手首に、足首に、尻尾の根元や先端、翼に至るまで巻き付き、ギリギリと締め上げる。

別世界の私は、不意打ちを受けたことがさぞ気に入らないのだろう……こめかみに青筋を立て、目を細くしている。

 

「あらあら、竜の王様?無駄話が多くってよ?引きちぎれないでしょう?じゃあ、爆砕して外してあげる。」

 

パチンと、キャロルちゃんが指を鳴らすとチェーンの先端に付けられていた小型のとげ付きハンマーに組み込まれていた魔術陣が光りだし……別世界の私を巻き込み爆発した。

 

「この程度か?」

「……まあ、この程度で死んだら”竜の王”何て名乗らないですよね。」

 

しかし、煙が晴れると体が少しだけ煤けているだけの別世界の私がそこに立っていた。

回復中の私を庇うように、キャロルちゃんは袖口から幾本ものチェーンを伸ばし、戦闘態勢を整えた。

キャロルちゃんが視線で、時間を稼ぐから早く治せと伝えてくる。それに私は、とりあえず頷き、体を治すことを優先することにした。

 

キャロルちゃんがチェーンを操り、別世界の私に対して攻撃を開始する。

袖口からチェーンが伸び、背後から4本、左右で8本、正面は10本ものチェーンが別世界の私に襲い掛かる。その先端には、小型のとげ付きハンマーではなく、鋭いニードルがつけられており、時間稼ぎのつもりでも、確実に仕留めるための攻撃だった。

けれど、別世界の私はそれを冷静に見たかと思うと、右手を握り、勢いよく地面に叩き付ける。

衝撃と破壊音が響き、別世界の私を囲っていたチェーンが破壊され、衝撃波でキャロルちゃんも動きを止めてしまう。けれど、キャロルちゃんはそれすら見越してか、新たに袖口から先端に大きな棘付きハンマーが付いたチェーンを取り出し、振り回したかと思うと別世界の私に向けて飛ばす。

別世界の私は、息を吸い込んだかと思うと……青い炎を吹き出し、大型の棘付きハンマーを溶かしてしまった。

そのまま青い炎は、キャロルちゃんに襲い掛かる……キャロルちゃんは咄嗟に、チェーンで壁を作って避ける時間を創り出し、青い炎から何とか逃れる。

 

「どうした?先ほどまでの啖呵は虚勢だったか?」

「……黙りなさい。」

 

キャロルちゃんが再び袖口からチェーンを伸ばそうとする……けれど、左右一本ずつを除いて全てのチェーンが破壊されていたり、熱で溶かされていたり……使い物にはならなそうだ。

キャロルちゃんはそれを見て、舌打ちをした……けれどキャロルちゃんは不敵な笑みを浮かべて別世界の私を睨んだ。不利な状況になったというのに、別世界の私に対して、まったく……怯えても、ひるんでもいない。

 

「貴様……なんだその笑みは。貴様がどんな立場にいるか、それは貴様が一番よくわかっているだろう?

追い詰められているのは貴様、負けそうになっているのは貴様、殺されそうになっているのは貴様だ。

だというのに……なぜ笑える?なぜ勝つことをまだ望む?この竜の王たる私が、そのチンケな鉄鎖2本でどうにかなる相手だと思っているのかッ!?」

 

そんなキャロルちゃんを見た、別世界の私は……どういうわけか、焦りながら怒りを露わにしている。

 

「……一つ、私……昔から怖かったり、負けそうになると笑っちゃう癖があるんですよ?紅魔館(こうまかん)戦争の時も、吸血鬼にされた時も、聖母(マリア)戦争の時も……そしてあの、そしてあの喧嘩の時も……ずっと私は、怖い思いをしたり、負けそうになったりしたら、こうして笑顔を浮かべてしまうんですよ。

二つ、ええ……私は確かに今、アナタに追い詰められ、敗北寸前となり、殺されてしまうかもしれません……でも、不思議ですねぇ。そんな状況なのに、私はアナタに殺されることをイメージできない。なんだかんだ言って、アナタは私を殺せない。

三つ、そしてその態度……自らを竜の王と名乗って偉そうに見せてはいますけれど……全然、それっぽくないんですもの。」

 

「なっ……貴様ッ!!」

 

「―――そして最後の一つ、私の勝利はアナタを倒すことじゃない。」

 

―――体の回復は、十分……いや、追い詰められて、死にかけたからこそ……十分以上の回復ができた。

 

……過去、庭園迷宮からワイバーンもどきが追い詰められ、進化したドラゴンが紅魔館(こうまかん)を襲撃したことがあった……あレから何年もの時間が立って、パチュリーさんにあの時の事を聞いたのだが……竜の力を持つモノが、死にかけから回復すると、一つ上の種族になる事があるらしい。

 

「……まったく、進化(お化粧)が相変わらず遅いじゃありませんの。」

「ごめん、キャロルちゃん。後は任せて。」

 

力が体の奥底からあふれてくる。今まで以上にないパワーが……世界すらひっくり返せそうな力が。

 

「バカな……バカナ!バカナ!!バカナァッ!!そ、その力は……その力は、ファフニールのッ!?」

「……気分がいい、今なら。」

 

すぅーっと息を吸い、口内に私が操れる全属性のエネルギーを集める。それを見た、別世界線の私も、負けじと口内にエネルギーを集め始める。

チャージは、別世界の私の方が早く……キャロルちゃんのチェーンを溶かしつくした青い炎が、噴き出され、それが迫ってくる……。

けれど、私のブレスはそれより上を行く。

 

チャージが終わり、体に力を入れて、口を開き、解き放つ。

そのブレスは、あの聖母(マリア)戦争の時、怒りに身を任せた時に放てた紫色のビームとなり、青い炎を一点突破で突き抜け……別世界の私は、遺言や断末魔を遺すことなく、焼失した。

 

「……はぁ~、私が1歩強くなるたびに。アナタは10歩強くなる……世の中不公平ですわ。」

「ううん~、キャロルちゃんも10歩強くなってるよ~……助けてくれてありがと~う!お礼のぎゅー、だーよ!」

「きゃっ!?ちょっと、マグっ!急に抱き着かないでください!!もう、本当にマグのそう言うところ、大嫌いですわー!!」

「きゃー♪」

 

私とキャロルちゃんの戦いは終わり、しばらくわちゃわちゃしているのであった。

 

お話の進め方

  • 長くなってもいいからこのまま
  • ただでさえ長くなりそうだから短くしてくれ
  • レミリアお嬢様が合流する方で
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