どこかで聞いた事のある怪談話。
例えば鎌鼬、雪女、猫又、化け狐。
それらは全て人々の間で伝達された話が形を帯び、やがて伝承として語り継がれるに至った。

ならば、情報の伝達が昔に比べはるかに早くなった現代では。
どんな怪談話や伝承、都市伝説が形を帯びるのだろうか?

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インターネット都市伝説杯が開催されたことに当日の朝気付き、大慌てで書いたものがこちらになります。


八尺様と言うがお前はどの八尺様だ

 

 古来より人間は理解が及ばぬ現象、説明がつかぬ現象の理由を超常的な存在が関わっていると考えていた。

 そう、それは日常のさなかで起きる摩訶不思議な事から……よく考えればありえないけど、言われてみるとそんな気がしてくる話まで様々な領域で。

 

 突風が吹き抜けた時に転んでしまい、立ち上がった時に着物の裾がパックリと切れているのに肌は無傷なのは鎌鼬と言う妖怪が原因だとまことしやかに囁かれた。

 平均的な寿命をはるかに超えて長生きした猫がまるで人の言葉を解するかのように振る舞うのは、長生きによって妖怪となり猫又と言う存在になったからだと囁かれた。

 先祖代々から長く愛用している職人道具が初めて扱うのに手に馴染み素晴らしい作品を作り上げられるのは、大事に扱われた道具が意思を持ち付喪神となったからだと囁かれた。

 

 

 そして人間が集まりコミュニティが形成されていく中で誰かが嘯いた怪談や作り話が語られる中。

 それらは人々の間を伝達し語り継がれる事で確かな輪郭を帯びていき、やがては本当にあった話のように伝承された。

 

 雪山で遭難した親子が山小屋に避難した時、吹雪と共に現れた美女が父親を凍死させた話が語られ伝承された。

 山の中を歩いていたら小川の流れる音と共に不思議な歌が聞こえてきたから覗いてみると、老人が恐ろしい歌を歌いながら小川で小豆を洗っていたという話が伝承された。

 夜に小学校で肝試しをしていたら人体模型が歩いていて追いかけられ、音楽室に逃げ込んだらベートーベンの肖像画が睨んできたという話が伝承された。

 

 

 それらの話、伝承、怪談は時が下るにつれて現象の理由が解き明かされ伝承や怪談は作り話だと言われる事となるも。

 既に一つの『神話』とも言えるジャンルを確立していた事で、消える事もまた無く。

 人々の間で伝達された話が輪郭を帯び、まことしやかに囁かれると言う事はインターネットやSNSが発展した現代も続いている。

 

 

 そして今日もまた、語られた伝承が一つ輪郭を帯びる。

 

 

 

 

 

 ところどころ道路の舗装が剥げている山道を一台の古臭いオープンカーが走る。

 その車は明らかに現代は販売されていないようなレトロなデザインをしていたが、しかし年季の入ったフォルムの割に走りはしっかりしており……木々から差し込む木漏れ日を艶やかに反射している様子から手入れも行き届いている事がわかる。

 だがそれ以上に、その車にはもっと特徴的な存在が乗っていた。

 

 それは運転席でハンドルを握る野暮ったい風体の男性、ではなく助手席に窮屈そうに収まっている帽子を被った黒く長い髪が映える女性。

 これだけを見るのならばただのドライブデートに思えるが、その女性はまるで縮尺を間違えているのかと錯覚するぐらいに大きかった。

 男性はハンドルを握り車を走らせながら女性へ一言二言語り掛けるも、女性は特に言葉を返す様子はなく帽子が風で飛ばされないよう片手で抑えながら時折相槌をうつかのように頷いたりするのみで。

 ともすれば、男性が内気な女性を山中へ違法に連れ込んでいると見えなくもない光景だ。

 

 しかし実際はそう言う事でもなく、男が運転する車は山中にひっそりと建つ古い日本家屋を改造したかのような喫茶店へと到着する。

 その喫茶店の看板には『あずき』と達筆な筆文字で書かれていた。

 

 男は相変わらず遠い上に辺鄙なところにあるなこの店、などと愚痴りながら駐車場に車を停めるとハンドルをポンポンと叩いて車にお疲れさんなどと声をかけると……年季の入った風体のレトロカーは最後にぶるるん、と返事をするかのようなアイドリング音を立ててエンジンを停止する。

 そして男が車から降りると助手席の扉を開け、所在なさげに周囲をきょろきょろと見回している女性に降りるよう促せば女性はおずおずと車から降りる。

 

 女性は車の助手席に座っていた時点でもわかるほどに大きな体をしていたが、車から降り男と並び立つ事でその異様とも言える大きさが露わになった。

 男の体躯よりもはるかに大きなその体は、男と並ぶとまるで大人と子供と錯覚するぐらいに大きく。

 ならば男と先ほどまで彼女が乗っていた車が特別小さいかと問われれば、駐車場に他にも停まっている軽トラや大型バイクの大きさからそれもなさそうであり。

 男に促され、不安そうに周囲を見回しながらも男について喫茶店の入り口へと向かう女性は駐車場の脇に立っている電信柱の大きさから察するに、身長240cmはあるように感じるほどの大きさであった。

 

 

「さぁお嬢さんここが目的の喫茶店だ。コーヒーはまずいけどおはぎが旨いとSNSでも話題だぞ」

 

 

 そう言いながら男が喫茶店の扉を開けば、カランコロンとドアベルが音を立てその音に反応した店のカウンター内でカップを洗っていた少女が顔を上げて来客の存在に気付く。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

「お、小豆ちゃんじゃないか。今年も夏休みのバイトか?」

 

「はい!……うわおっきい女の人」

 

 

 来客が馴染みの男性と気付いた少女がにこやかにあいさつし、男の後をついて身を屈めながら入ってきた女性の大きさに客商売の人間にあるまじき言葉を少女は呟く。

 しかし身体的特徴を無遠慮に口にされた女性は、不思議そうに少女の視線に対して首を傾げるのみでおずおずと言った様子で男に手招きされて男の隣のカウンター席に腰を下ろす。

 

 

「あまりそう言う事言うのはよくないぞ小豆ちゃん、まぁその素直さが君の美徳だが……店長は?」

 

 

 少女に対して苦笑いしながら男は忠告し、広くないが特別狭くもない店内を見回して目的の人物である喫茶店の店長を探すが見当たらない。

 どうしたものかと顎に手をやりつつ男は少女に店長の居場所を尋ねる。

 

 

「お爺ちゃん最近いかに味を落とさずコーヒー豆を洗うかとか言ってて、奥に引っ込んでまた変な事やってる」

 

「あの人またそんな事言ってんのか……洗うのは小豆だけにしとけってあれほど言ってんのに。 とりあえずアイスコーヒー2個とおはぎ2個よろしく」

 

「はーい、アイスコーヒーはいつも通り私が作り置きして置いてるやつですね?」

 

 

 たはは、と苦笑しながら告げてきた少女の言葉に男はうへぇと呻いて肩を竦め。

 しかしとりあえず店長よりもコーヒーを淹れる事に関しては安心して任せられる店長の孫娘である少女に、男は自分と連れてきた女性用に飲み物と甘味を注文した。

 

 

「あの、ところでそちらの女性ってもしかして……」

 

「ああ、新しい御同輩だよ。名は」

 

 

 地味に男が連れてきた女性が来店したからずっと気になっていた少女は、作り置きしているアイスコーヒーをグラスに注いで二人へ出しつつ……。

 物珍しそうに店内をきょろきょろと見ている女性へ視線を向けながら男へと問いかければ。

 問いかけられた男は、ひんやりとしたグラスを受け取りながら頷き一口コーヒーを喉へ流し込んでから口を開いて説明を始め。

 

 

「いやー!今度こそ風味が落ちないコーヒー豆の洗い方を発見できたわい!」

 

「もーお爺ちゃんったら、そもそも洗わない方が美味しいコーヒー淹れられるっていつも言ってるじゃない!」

 

「馬鹿いうな小豆ぃ! 儂に豆を洗うなと言うのは儂と言う存在の全否定じゃぞ!?」

 

 

 店の奥から豪快に笑いながら出てきた老人の大声に、男の説明は中断させられた。

 老人の言葉に少女は口を尖らせながら文句を言うも、老人は馬鹿な事を言うなとばかりに反論している。

 

 

「店長いい加減諦めろよ……」

 

「いいや儂はコーヒー豆の可能性を信じている、こいつらのポテンシャルはこんなものではない……!」

 

「もっと違う方向でそのポテンシャル信じてやれよ、少なくとも焙煎されたそいつらのポテンシャルを発揮するのそこじゃねえよ」

 

 

 うんざりとした様子で呟く男に、老人は拳を握りしめながら熱く語り始める。

 なお老人の孫娘である少女も、男に連れられて来店し今も隣でちびちびとアイスコーヒーを飲んでいる女性も置いてけぼりなのは言うまでもない。

 

 ともあれ、今日もまたコーヒー豆を洗う事でコーヒー豆の新たな可能性を切り開こうとする店長の心意気を伝える事は叶わず店長は肩を下ろして嘆き。

 そこまでして漸く、いつもの面々とは違う新顔が男の隣に座っている事に気付くと一目で女性の種族を見抜く。

 

 

「んぉ? お前さん……アレか、八尺様かの?」

 

「店長、俺が説明するところだったのに……」

 

「そりゃ悪いのう、しかしなんか変わった八尺様じゃのう」

 

 

 店長の言葉に男は少女が出してきたおはぎを手でつかみ、げんなりとた様子でぼやきながらコーヒーとは天と地の差があるおはぎの美味さに舌鼓を打つ。

 一方で男にぼやかれた店長は悪びれた様子もなく、自身の知識にある八尺様とは幾分か異なる風体をしている目の前でおはぎをちびちびと食べ始める八尺様をじっくりと上から下へ視線を動かして見定める。

 

 女性の恰好は目深に被った帽子に白いワンピースと言う恰好なのだが……。

 どこか人の恐怖を誘うと言われる雰囲気は微塵もなく、そしてその体はメリハリが強すぎると言っても過言ではないぐらいに強かった。

 具体的に言うと、身体から『ムチッ♡ムチッ♡』と聞こえてきそうな体付きをしていた。

 

 

「……お爺ちゃんの不潔、変態」

 

「……ハッ!? ち、違うぞ小豆! これは正体を見定めるために必要であってだな!」

 

「……鼻の下伸ばしながら言っても説得力ねえよ店長」

 

 

 鼻の下を伸ばしてだらしない顔をしている店長こと、祖父の様子に孫である少女はそっと距離をあけながら氷点下レベルで冷めた視線を向け、そんな視線を向けられた老人は大慌てで弁明を始める。

 しかし語るに落ちてると言わんばかりの様子に男は溜息を吐きながらバッサリと老人の弁明を両断した。

 

 が、男は小さくそれもしょうがないかもしれんけど。と呟いた。

 

 

「だけど店長がそうなるのもやむを得ないんだよ、この娘」

 

「え? まさか……」

 

「いやいや真面目な話でな、この娘は正確に言うと八尺様であって八尺様じゃないんよ」

 

「??? とんちか何かですか?」

 

「……そう言う事か」

 

 

 祖父へ向けていた氷点下の視線を少女は男へ向け、体感温度が2度ぐらい下がった男は大慌てで弁明するが男の要領を得ない発現無いように少女は頭にはてなを浮かべて首を傾げる。

 だが店長は男の言葉にどこか合点が言った様子で、そりゃしょうがねえわなぁ。と乾いた笑いを上げて天井を見上げた。

 

 

「お爺ちゃんまで、どういう事よ? この人……八尺様だっけ? この人も困惑してるじゃない!」

 

「いや、だって、なぁ……」

 

「……この娘な、最近SNSで流行ってる改変された八尺様の逸話が輪郭を帯びて生まれた存在なんだよ」

 

 

 内容が内容だけに孫娘に言うのも憚れ、言葉を濁す老人。

 ねえねえどういう事なの?と詰め寄られ困っている店長へ助け船を出すべく、嘆息しながら男は少女へ真実を教えた。

 

 未だによくわかっていない少女、ちょっと話の輪から離れ愛用しているスマートフォンにて検索をし始めた。

 

 

「だからか、本来八尺様が持っているどす黒い雰囲気や漂う悪臭も持っていないのは」

 

「そう言う事だよ店長、この娘を見つけた時アレだぞ? 田舎の悪ガキに囲まれて悪戯されそうになってたんだぞ、最近の悪ガキすげえわ」

 

「マジか、おねショタじゃなくてショタおねとか下手すると戦争起きるぞ」

 

 

 大真面目に最低な事を語り合う老人と男。

 そして二人に同時に視線を向けられた女性、八尺様は両手で持ったおはぎを食べていたのを止めて向けられた視線にきょとんとした反応を返す。

 

 

「で、なんでまたそんな娘を連れてたきだんじゃ?」

 

「いやさぁ、俺が手元で人間社会のこと教育するにしてもちょっと大変そうでな……」

 

「たわけこっちも一緒じゃ、見てみい店内にたむろしてる常連ボンクラ男共の視線をその娘が独占しておるぞ」

 

 

 男が八尺様を連れてきた原因を店長が問い詰めれば、返ってきた言葉にばかたれと言わんばかりに突っ返す。

 なんせいつも喫茶店に屯してはしょうもない雑談に興じているボンクラ達が、一声も発することなく食い入るように八尺様の身体を見詰めているのだ。

 こんな娘をこっちで預かっても、地獄のような大騒動待ったなしじゃわいと老人は手をひらひら振ってのたまう始末である。

 

 

「そんな薄情な事言うなよ店長、この店だって店長が新たに出来た同輩をサポートするために作ったんだろ?」

 

「それは否定せんがこっちにだって」

 

 

 何とかならないかと男が頼み込めば、何ともならんわいと首を横に振る店長。

 そしてどこか所在無さげにしている八尺様、そんな可哀そうな肉感的ドスケベ女体美女を保護せんと色めきだって挙手しようとする常連共。

 ある意味において一触即発と言える中、大声で喝を入れる存在がいた。

 

 

「何言ってるのよお爺ちゃん! そんな事言ったらかわいそうでしょ!?」

 

「小豆、しかしじゃな……」

 

「しかしもかかしもない! 小豆かコーヒー豆洗うしかできない小豆洗いのお爺ちゃんでも出来る事あるんだから!」

 

 

 腰に手を当てて厳しい事をのたまう孫娘の言葉に、いやその小豆洗いの孫がお前なんじゃがとぼやきながらうちのめされる老人。

 小豆を洗うのがライフワークであるとはいえ、それしか出来ないと言われれば辛いのは人間も妖怪も大差ないのだ。

 

 

「さっきからこの子一言もしゃべってないじゃない! そんな娘の目の前でそんな事言って貴方も恥ずかしくないの!?」

 

「う゛っ、それは……いや小豆ちゃんの言うとおりだ、配慮が足りなかった」

 

 

 少女に言われて自分のデリカシーに欠けていた態度を八尺様に詫びる男、しかし八尺様は笑みを浮かべて男の言葉を許す。

 八尺様にとってみれば、生まれたてな上に自身の定義があやふやな状態で危ないところを助けてくれた恩人である男であり……卵から孵ったばかりの雛鳥が初めて見た存在に懐いてるような状態であったりする。

 

 ちなみに少女がここまで八尺様を助けてあげないと、などと息巻いている理由は。

 SNSで検索して見つけた物が……八尺様が悪い男に囲まれてにゃんにゃん的なサムシングをされる話を見つけたからなのは内緒である。

 

 

「と言うわけでお爺ちゃん! この子の住むところの準備お願い!私も教育手伝うから!」

 

「……しょうがないのう」

 

 

 こうと決まれば梃でも動かない孫娘の様子に、店長こと老人は溜息を吐きながらその方向で動くことを決めた。

 何のかんの言って妖怪も孫には甘いのだ。

 

 

 

 まことしやかに囁かれた伝承や噂話が輪郭を帯びる世界。

 そんな世界で輪郭を帯びて生きている人外の者達は、割と緩くたくましく生きているのであった。

 

 

 




基本原則として、昔から語られる怪談話や神話に妖怪話と……。
現代の都市伝説怪談話は、方向性は一緒だと思っている民です。

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