東方天魔録   作:ミユメ

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天魔様がカッコ良すぎて良い……。
天魔様も愛して?
ってな訳で、東方非公式キャラクターである天魔様の物語が、此処で始まります。


―其之1― 天狗の長

 

 

 

 

 異世界。

 そう聞くと、皆はまず何を想像するであろうか?

 龍が住んでいる世界。ユニコーンがいる世界。はたまた、魔法が使える世界や妖怪が居る世界。

 っとまあ、人には人でそれぞれ違う事を思い描くであろう。

 ――では「異世界転生」ではどうなる?

 まあ、そんな事を言ってもすぐに分かると思う。

 そのまま読んで文字の如く、異世界へ転生した。っとなるであろう。

 ……はて、では何故この話題に触れているのか? それは簡単だ。

 今、私は元居た世界とは全く異なる世界に居るからだ。かれこれこの異世界に住んでから千万年は経つか経たないか……。

 人間であれば余裕で死ねる年数だが、私はある種族に転生している。

 それは妖怪。おまけに天狗と来た。更におまけで天狗の長である『天魔様』をしている。

 そしてこの異世界。此処は「東方project」と言われる前世の世界にあるシューティングゲームだ。

 そんなゲームの世界に私は転生した。

 何を言っているのか分からないと思うが、私も分からん。

 気付けば転生していたのだ。何時死んだのかも知らない。

 此処で一つ。転生と言うのは簡単に言うと、自分が死に、魂が別の体に移って生き返るかのようになる事を転生と言う。

 普通は記憶を持ったまま転生するのが当たり前だ。しかし私は前世に居た時の性別が分からない。

 それどころか、どうやって死んだのかも分かりはしない。記憶が曖昧だと言っておこう。

 そんな曖昧な記憶の中に「東方project」の知識があった。

 おかげで誰がどの妖怪やらと色々助かりはしているものの、やはり知らない箇所もあるにはある。

 それでも、全て知らないよりかはマシであろうか。

 して、この世界で私は何をしようか考えていた。

 「紅霧異変」が起きるまで全くもって暇で仕方が無かったのだ。

 時には香林堂へ遊びに行き、時にはスキマ妖怪と喋ったりの毎日である。

 

 天魔の仕事? ……いえ、知りませんね。

 

 まあそんな暇をしながらずっと待っていると、紅い霧が妖怪の山にある私達天狗が住んでいる「天狗の里」まで来た。

 天狗達は大騒ぎをしていたのを鮮明に思い出す。

 私はその騒いでいる天狗達を余所に、めちゃくちゃ喜んだ。

 すぐにその紅い霧の元凶へと私は行き、敵を倒していった。最後のボスも難無く勝利。

 そうしてその後、我が家に戻る。そして考える。

 此処から次はあの異変が起きるから、そろそろ"あの"判断をしなければいけまい。

 まあ、判断なんて無意味で速攻決断するがな!

 会議じゃ会議! 今から同士である天狗達に言う言葉があるぞおおぉぉーっ!

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 幻想郷――そこは、妖怪と人間が居る幻想の郷。

 幻想郷の外、即ち『外の世界』で忘れ去られた者や物が此処『幻想郷』へと流れ込む。

 此処は強力な結界によって外部と遮断(しゃだん)されているため、外部から幻想郷の存在を確認することが出来ず、幻想郷内に入る事も出来ない。

 同様に幻想郷内部からも外部の様子を確認することが出来ず、幻想郷から外へ出ることも出来ない。

 幻想郷は特殊な環境であり、外の世界とは異なる文明が築き上げられている。

 

 その幻想郷にある、とある山。『妖怪の山』と言われている場所の頂上に立てられている「天狗の里」。

 そこは人間が住む『人里』と同じ感じで、家はもちろんのこと、居酒屋や甘味屋などが普通に並んでいる。

 そんな中に、紐が付いたカメラを首に掛けている一人の少女が歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ妖怪、同じ種族である天狗達が天狗の里で歩いている。親子で楽しそうに笑いながら歩いている天狗。子供達が何か遊びをしている天狗の子供。そんなのだ。

 私はその中を少し呆然としながら一人で歩いている。

 

「はぁ……」

 

 そして溜め息を一つ吐き捨て、肩を下ろしながらも歩いていく。

 しかし目的の場所などもなく、ただ無意味に脚を動かして前へと歩いていた。

 その理由は特にはないが、歩かねばネタは見付からない。と言う言葉があり、何もせず呆然とするのは嫌だっただけである。

 だが、かれこれ十分は歩いているものの、めぼしいネタもない。

 

「あぁ、何かネタ無いんでしょうかねぇ……」

 

 前みたいな紅霧異変みたいなのが起きるとか、空から何かが落ちてくるとか、はたまた幻想郷の崩壊の危機が起きたりしないものか。

 そう考えながら、途方も無い道を歩いていた時だ。

 

「文様ー!」

 

 後ろの遠くの方で、いつも通りな私の呼び名をする天狗が近付いてくるのが分かる。

 誰なのか分かりきっているため、私は営業スマイルとかそんなのはなしで素顔で振り返る。

 私を呼んだ白髪の天狗は、本当に遠くの方から私の方へと飛んで来ている。

 しばらく彼女を待っていると、ようやく顔が見えるほどまで来た。

 

「どうしたんですか椛、騒がしい」

 

 彼女は私の部下でもある白狼天狗の犬走椛(いぬばしりもみじ)である。

 椛は目の前で降り、私は用件を聞く事にする。

 願わくば、記事になりそうな事でありますように……。

 

「重大な会議があるそうなので、すぐに来るようにと大天狗達が言っておられましたよ」

「会議ぃー?」

 

 会議、つまりは天狗達の会議である。時たまにで開かれ、特定の天狗達のみが会議に参加する事を許可されている。

 参加出来る天狗は主に一番の上司である大天狗全員。そして鼻高天狗全員に、鴉天狗が数人。白狼天狗は参加条件に満たさないのだが、何故か椛は例外で参加出来る。

 まあ何にせよ、私と椛はその参加の許可を得られている為、会議に参加出来る。

 

「文様行きますよね?」

「んー……」

 

 そこで私は少し考え込む。会議では確かに何かネタになりそうな話がある。だがその逆で、全くネタになりそうにもない話だってあるのだ。

 しかし今はやる事も、ネタになりそうな事もないため、行っても損はないであろと思う。

 それに今日は何時もとは違うらしく、重大と言う。

 これは行ってみるのも一興か。

 

「そうですね。まあ行きましょうか」

「はい!」

 

 そうして私と椛は会議場である天魔様が暮らす屋敷へと飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 目的の場所へ辿り着き、大きな門の前で足を地に着ける。

 

「何用だ」

 

 するとその門の隣で一人立っている男の大天狗様が私達を鋭い目で見て問い掛けて来る。

 おぉ、上司様に見られるのは本当に怖いですねぇ……。

 

「会議の参加に参りました。私、白狼天狗の犬走椛と、隣に居られる鴉天狗である射命丸文(しゃめいまるあや)様です」

 

 椛は綺麗とも言えよう敬語でその大天狗様に言う。

 流石は椛であった。長年一番下っ端である天狗に居るからであろうか、敬語が染み付いている事が今の説明で分かる。

 

「分かった。通る事を許可しよう」

「ありがとうございます」

 

 椛が頭を下げる所を尻に、大天狗様は片方の門を片手で開け、充分に開いてから私達を見る。

 私はそれを見てから遅れて頭を少し下げ、先に中へ入る。椛は私の後ろに付いて来た。

 中に入ると、硬い石で出来た道が屋敷の正面入り口へと長く続いていた。屋敷は私達が住んでいる家とは全く異なって広くて大きく、部屋の数も尋常じゃないと分かる程である。

 左側を見れば、広大とも言えるであろう庭が広がっていた。こんな屋敷を豪華と言わず何と言うか。

 

「相変わらず豪華な雰囲気ですよね」

 

 椛もそう思ったらしく、いつの間にか隣で私と並んで歩いていた。

 

「そうですね。まあ、此処は私達天狗の頂点に居られる『天魔様』が住んでいます。お偉いさんの家が豪華じゃなきゃ嘘ですよ」

「確かにそうですよね」

 

 そうこう話ているうちに、私達は屋敷の正面入口へと辿り着いていた。

 私は扉を開けると、そこは玄関ではなく、床は綺麗な木で出来た大きな広間であった。

 中ではザワザワと周りに居る天狗同士が話し合いをしていたが、扉が開かれた事に気付いて半分以上の天狗が此方を見てくる。

 そして姿を確認した後、顔を元に戻してまた話をしあう。

 私は全体を見てから中に入り、天狗があまり居ない所へと行って座る。椛はと言うと、緊張しているかのように少しぎこちなくゆっくりと中に入っていた。

 会議に参加するのはかれこれ十回目なのだが、椛は未だに回りが上司だらけで慣れていないらしい。

 ようやく椛は私の方へと近付き、隣に座る。顔には少し冷や汗らしきモノをかいていたのが伺えた。

 

「椛、緊張し過ぎですよぉ?」

「あ、文様は緊張しないんですか……? 周りには私達の上司が居るんですよ?」

 

 椛がおどおどとし、回りを少し見ながら言う。

 私だって上司は怖いが、鬼よりはマシな方なのでどうともない。だがしかし怒られれば少しは怖い。

 

「そんなの何時までも気にしていたら生きていけませんよ」

「そう、ですか」

「……ところで椛、会議は何時なんです?」

「え、えっとぉ……たぶんもうじき――」

 

 私の問いに答えようとしていた椛の声に被る様に声がする。

 

「静かにしろ! 天魔様がお越しだ!!」

 

 奥の左側廊下から出てきた女性の大きな声が響き渡り、広間に居た全天狗が一斉にして口を閉ざしてそちらの方へ顔を向ける。

 そこに立っていたのは白髪のショートヘアーをした天狗であった。普通天狗と言うのは、白狼天狗にだけ白髪でそれ以外は白髪以外なのだが、彼女は白狼天狗ではない鴉天狗であった。

 世にも珍しい白狼天狗と鴉天狗のハーフである天狗で、名前は確か、高音 白亜(たかね はくあ)だったような。

 まあその高音は、天魔様の次期候補と言う形であり、並みの天狗では敵わない程の実力者でもある。

 それもそうだ。高音は天狗内で軍を抜く実力であり、その実力は五本指に入るほど。

 そんな彼女に牙を向ける命知らずなど居らず、一瞬にして場は静まり返った。それと同時に、再び廊下から天狗が現れる。

 天狗の服を上から緑色の羽織のようなコートを着ているその天狗こそが私達天狗の頂点、及び天狗内で一番最強でどの天狗よりも最古から生きている者。

 噂では千万年程前から生きているとの話もあるが、彼女の体、顔立ち、茶髪はそれを覆す程に美しく、綺麗であった。

 言葉で表すのなら「美女」と言っておこう。とてもそんなに年を取っていない雰囲気である。

 見る者はその姿に圧倒され、まじまじと見てしまう天狗も居る。

 私もその内の一人でもあった。

 普通天狗と言うのは百万年も生きれば少し老けてしまうのだが、彼女はそうでもなかったのだ。だから美しいと言う言葉に魅力を覚え、思わず二度見だってしてしまう。

 指で数えるくらいしか会った事がないが、足から顔まで舐める様に見てしまう。

 私も長生きしてもあれだけ綺麗に居れたらなぁ……。

 そう言う思いだって出てしまう。

 隣に居る椛だってそう思っているに違いない。今も尚、目を見開いて彼女を見ているのだから。

 そんな美しくて最強の彼女が『天魔様』なのだ。

 

「何度見ても、綺麗ですよね」

「そうですねぇ……」

 

 私と椛はお互い顔を見ず、天魔様を見ながら言った。

 目が離せないと言っておこう。そこまでして美女であるのだ。

 天魔様は畳の方へと上がり、私達に体を向けて座った。高音の方はそれを見た後に同じように上がって天魔様の隣に正座して座る。

 ――さて、何が話されるのか楽しみですね。

 

「じゃ、今からゆる~く会議を始めよっか」

「…………」

 

 一番偉い天魔様が言う言葉とは思えない程陽気で、本当に緩い感じに始めさせようとする天魔様の声に、私達は無言で居る。

 昔ならば私は唖然としていたが、もう慣れてしまった。これが天魔様なんだと。

 

「天魔様、お願いしますからもう少し威厳を持って言って下さい」

「えー、めんどいよ」

「しかし――」

「大丈夫大丈夫、もう皆慣れているから」

 

 隣に居た高音の注意を少し笑いながら軽々しく答える天魔様。

 もしあれが天魔様ではなく、他の者であれば即あの世行きであろう会話。

 流石は天魔様と言った所なのであろうか。

 

「さて、まあ会議をした理由は全天狗に言っておきたい事があるからよ」

 

 顔は無表情でもなく、ましてや怖い顔もしていない。何時もの様に、何かを楽しんでいる様な感じだ。

 そんな表情を取りながら、口を開いた。

 

「内容は一つだからすぐに終わると思う。けど、重大な事だと思うからすぐに終わるか終わらないかは貴方達による」

 

 広間に居る私達天狗を見ながら言う。

 見られた天狗は、唾を飲む者や、少しビクッと体を動かした者も居た。

 そんな中で、天魔様はある事を言った。

 それは私達が想像も出来ないほどで、予想なども出来ない内容であった。

 

「私、天魔様辞める」

 

 ……はい?

 

「「「えええええぇぇぇーっ!!?」」」

 

 満面な笑みで告発したその内容に、まさかの高音も含めて皆が驚きの声を上げる。

 だが私だけは驚きの声を上げず、心の中で疑問を抱き、表情を少し複雑な顔にさせる。

 

「ちょ、ちょっと天魔様!? それ嘘ですよね!!?」

 

 一番に聞いたのは高音であった。

 

「冗談じゃなく、本当の話」

「じゃあ誰が天魔様をするんですか!」

「白亜」

 

 高音に指を差しながら天魔様はサラリと答える。

 

「待って下さい天魔様! どうして辞められるのですか!!」

 

 そこに、他の天狗が反対の声を上げる。

 

「そうですぞ天魔様! 貴女様無しではこの天狗の里は成り立ちません!!」

「辞めるなんて俺は反対だ!」

「俺も反対だ!」

「俺も!!」

「辞める前に天魔様俺と結婚してください!」

「俺も、ってお前はこんな時に何を言ってるんだ!」

「あ、それ俺も思った事だぞ!!」

「ふざけるな! 俺だって天魔様が好きなんだよ!」

「そんなもん俺だってそうだ!!」

「天魔様結婚してくれー!」

 

 最初こそは反対の声を上げていた上司の男天狗達だが、何故か後々から好きだの結婚してくれだのと声を上げて言う。

 傍から見れば、その光景は愚かであると言えよう。

 

「あぁはいはい。結婚はしないから却下ね」

 

 天魔様は完全に否定をして却下する。すると僅かながら肩を降ろして諦めた。

 

「じゃ、そう言う事だから。あとは何とかして行きなさいよ」

 

 立ち上がり、畳から降りて左側の廊下へと引き返そうとする。

 が……。

 その道を行かせぬ様に複数の天狗がそこを塞ぐ。

 

「考えを改めて下さい天魔様! どうか辞めないで下され!!」

 

 前に居た天狗が必死に天魔様を説得する。しかしそれは叶わず、天魔様は隣に空間を切り裂く。

 その空間の中は此処では普通見えない景色の青空が広がっていた。

 あれは天魔様の能力で作り上げた空間だ。それは此処と何処かの上空を繋げた移動空間。言わば妖怪の賢者である八雲紫(やもくゆかり)のスキマである。

 

「残念ながらそんな考えは無いから、じゃあねー」

 

 天魔様は片手を軽く振ってその空間へと体を倒して入る。

 それを見た天狗達は追いかけようとその空間に飛び込もうとしたが、空間はすぐに閉ざされた。

 追跡不可能な状況へと陥り、半数の天狗は溜め息を吐く。

 新たに天魔様となる高音は、その元天魔様が消えるまでずっと呆然としていた。

 

「……何だか、物凄く複雑な感じになりましたね」

 

 椛が今までの流れを見て、私に顔を向けて言う。

 

「そうですねぇ……まさか、天魔を辞められるとは思いもしませんでした」

 

 私は椛の顔を見て答える。

 周りは天魔様を探すべく広間から出て追いかけようとする。

 何処へ行ったのかも分からないと言うのに、どうやって探すのか。

 

 はて、それよりもこれは記事になるのか、ならないのやら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるんだよおおおぉぉーっ!!

 

 私はあの時、逃げる状況を心の中で叫びながら上空から落ちて行く。

 青空で雲が少し回りにあるくらいの空から、私は落ちて行く。

 

「さて、この後どうやって身を隠そうかなぁ……」

 

 落ちているのにも関わらず、私は深く考える。

 スカイダイビングしながら考えているもんだ。大丈夫、問題ないよ。

 まあそれよりもだ。私の事を追おうと他の天狗が駆けつけてくるであろう。

 ならば何処かに隠れなければいけないが、その場所が思いつかん。

 守矢神社は天狗の里近くである妖怪の山にあるし、博麗神社だったら博麗の巫女が「めんどくさそうだから却下」とか普通に言われそうだし……。

 では何処に逃げ込む?

 うむむ、そこが思い当たらん。

 私は上空を見上げながら落ちていた体をひっくり返し、幻想郷の全体を見る。

 

「……あ、あそこ良いんじゃないかな。楽しそうだし、泊めて貰いそう」

 

 ある所に目が行った私は早速その場所まで繋がっている空間を前に作り上げてそこに落ちる。

 すると目に前には石で出来た大きな橋の地面が見え、すぐに着地する体勢を取る。

 大きな音が鳴ると共に、私の足が地に着く。同時に、足に痛みが響き渡る。

 

「いったあああぁぁーっ!」

 

 私はその痛みに少し耐えられず、膝を付く。

 いやもうマジ痛いんですけど。何で痛さまで想定しなかった私よ!

 クソッ、あぁ痛ぇ……あ、でも案外これまだ立てそう。

 試しに立ち上がってみる。するとどうであろう。痛みが消えている。

 いやはや、流石妖怪だよね。普通人間ならば死ぬであろう速度での落下を、足で真に受けても立てるもん。

 まあ腕が千切られたりとか脚が千切られたりとかしても再生出来るから「まだ俺は殺れる」的な感じにでもなれるんだがな。

 妖怪まじぱねぇ……。

 

 それは置いておき、今私は大きな紅い館がある鉄格子で出来ている門前に居る。

 その門の隣に居る腰まで伸ばした赤髪のストレートヘアー、その上に星型の飾り星が付いている緑色の帽子を被った門番さんは絶賛お眠り中である。

 出来れば起きてくれると私自身嬉しいのだが、彼女は起きてくれない。

 どうやったら起きるであろうか?

 ま、答えはたぶん単純であった。

 グサッっと、彼女の帽子の上に銀色に輝くナイフが刺さる。

 

「いたぁっ!?」

 

 するとすぐに飛び起きて何事かと周りを見始めた。

 そしてその目はやがて私を捕らえ、まじまじと目を少し擦って見る。

 

「あれ、あ、貴女は!?」

「おはよー美鈴」

 

 彼女は紅美鈴(ほんめいりん)、紅い館の此処「紅魔館」の門番である。

 私はようやく覚醒した美鈴に何気ない気持ちでおはようと言う。

 

「あ、おはようございます。寝てはいませんから大丈夫です」

 

 ……とは言っても、美鈴の帽子の上にあるナイフが寝ていたと言う証明を明かしている。

 言うなれば嘘乙。

 

「あぁ、そう……ところで中に入りたいんだけども良いかな?」

「はい、もちろん良いですよ」

 

 ヤッター許可貰ったよー、これで入れるね!

 じゃなくてだな、何で入れる!?

 紅魔館は「紅霧異変」の時に一度だけ行った事がある。

 しかし一度だけだ。

 今回で此処に訪問するのは二度目である。そんなまだ二回目だと言うのに、アッサリと入る許可を得た。

 

 絶 対 何 か あ る !

 

 だが私はそんな不思議な事は何時でも来いのウェルカム状態だ。

 ふっ、面白い。その挑戦、受けて立とう!!

 

「そう」

 

 まあ取り敢えず適当に相槌を挟み、溢れかえっている興味を隠す。

 美鈴は私の声を聞くと共に門を掴み、重々しい音を立てながら開かせる。

 全て開けきったあと、美鈴は私を見て「どうぞ」と言う。

 

「ありがとう」

 

 私はただ一言お礼を言い、微笑む。

 すると何故か美鈴はほんの少し頬を赤くさせ、先程から見つめあっていた視線を外す。

 な、なんだどうした美鈴よ。恥ずかしいのか? だが何か恥ずかしい事したっけ?

 うむむ、何だ……何なのだ!?

 理由が分からないと前に歩きづらいんだが。

 あ、別に意外にも美鈴の可愛らしい所を見たいって訳じゃないかんね? 断じて違うからね??

 ……っと言いつつ、私は美鈴の姿をまじまじと見る。

 矛盾しているとか知りませんな。

 

「あ、あの……入らないんですか?」

 

 未だに美鈴が視線を合わせる事なく私に言う。

 うん、入るけど。って言うか入りたいけど。美鈴が気になって仕方が無さすぎて死にそう。

 これを私は「気にし過ぎて死ぬ病」と名付けよう。

 此処に新たな意味深い言葉を作ってしまった。

 だが後悔は無い。無いが、何故か名前が気に食わなくて不愉快な気持ちになってきた。

 そんなんだったらまだ「黒死病」とか「厨二病」の方がマシじゃない?

 ……と言うか今私は何の話をしていたんだ。

 何がどうなったら美鈴の姿を観察から何々病の話まで辿り着いた。

 あぁ、まあこれが何時もの事でもあるんだけどね。

 さてはて、どうでも良い病は切り捨てて理由を聞きますか。

 

「美鈴、何で頬を赤くさせてるの?」

 

 超ストレートに理由を聞く。

 

「え、いや、別に惚れたとかそんなんじゃくてこれは、えぇと……あ、そう! 武術です!! 敵の表情に惑わされないようにこうして顔を見ずにしているだけです!」

 

 お、おぅ。

 

 それしか言えない。

 別に何で視線を合わせないのかだなんて聞いてもいないのに、そちらの理由を言う。

 にしても武術ねぇ……。そんな武術あったっけ? 少なくとも私の知識にはない。もしかしたら美鈴特製の武術やも知れん。

 もしそうだったらミッチリキッチリ教えてもらいたいものですな。けど厳しい修行はちょっと勘弁。体にくるからね。もうそろそろ私も年なんです。

 っとか言いつつまだまだ現役の私。

 年とかは能力で固定させているからね。絶対に老けないし、寿命で死ぬ事もないのである。言わば不老だ。

 決して不老不死ではない、不老だけ。不死にはなれないのである。

 まあそこらへん、能力とかは後回しだ。

 何故なら、此処でずっと立ち止まる訳にはいかない。

 私は分かりきった感じで後ろへと振り返って見る。

 

「天魔様ー!!」

 

 遠い上空で複数の群れを作って追いかけてくる我同士の天狗達。私を見付けたらしく、此方まで徐々にと近付いてくる。

 

「はぁ……美鈴、あと宜しく」

「え?」

 

 私は溜め息を吐き、隣に能力で空間を人一人分入れるくらいに切り、その切り裂かれた空間の中には此処とは紅い部屋の場所へと繋がっていた。

 これは一種の移動方法だ。簡単に言ってしまえばあの妖怪のあのスキマである。

 ……っと、そろそろマジで入らなければ捕まってしまう。天狗って速いから怖い。

 染々とそう思いながら私は空間の中に入る。そして最初の様に追跡不可能な状態にさせるために、開けた空間を切って消す。

 ふぅ、何とか逃げ切れたぜ。まあそんな必死こいて逃げてないんだけどね。逆に余裕たっぷりでした。はい。

 

「あらあら、やっと来たのね」

「んにゃ?」

 

 不意に、背後から少女"らしき"声が聞こえた。気になって後ろを見ると、少女"らしき"ではなく。まんま、少女が豪華な玉座に座って私を見ていた。

 結構、様になっていて良い感じですな。

 だがそれよりもだ。やっと来た。と言う事は、最初から私が此処に来る事を予想出来ていたのであろう。

 

「歓迎するわよ。天狗の長である天魔」

「あぁ、はいはいそれはどうも。レミリア」

 

 水色のショートヘアーの髪である少女……名はレミリア・スカーレットだ。この紅魔館の当主である。小学生の身長くらいしかないこんな少女が当主とは驚くべきなのだが、レミリアは吸血鬼である。

 吸血鬼は妖怪上、最強とも言われる種族に分類する。主に破壊力、再生力が上位に立つ。正直言って鬼畜な感じである。

 ついでに言ってしまうと、レミリアは『運命を操る程度の能力』を持っており、運命が見えると言う。

 こうして私がこの紅魔館に来るのを運命を見て分かったと推測出来る。

 

「ふふっ、貴女のその堂々とした態度……本当に見上げたものね。ねえ咲夜?」

「そうでございますね」

 

 レミリアは隣に行儀正しく立っているメイド長に話を振る。

 一切の乱れがないメイド服を着た白髪のショートヘアーの彼女は、紅魔館のメイド長をしている十六夜咲夜(いざよいさくや)である。

 咲夜は何の表情も取らずに素顔で私を見詰める。

 そんな表情で見られたらちょっと恥ずかしいじゃん!! 照れちゃうからやめてちょ。

 

「それで、今日は何をしに来たのかしら?」

「ん、来るのは分かっていても何で来たのかまでは分からないのね」

「そりゃそうよ。貴女の運命が見えないもの」

「……あぁ」

 

 そう言えば、能力でそう言うの遮断させてたっけ。確か「相手からの能力を遮断」だったかな。

 自分でしといて忘れるとは、我ながら流石だな。本当に。

 だが、そうなると矛盾が起きるのではないであろうか。

 私の運命が見えないのにも関わらず、何故私が此処に来ると分かったのであろうか。

 

「ふふっ、どうして来ると分かったのか。疑問を抱いていそうね」

 

 なん、だと……!

 コイツ、私の考えを読み当てただと?

 流石レミィまじぱねぇです。こんな少女に色々と先を読まれたり少し上から目線されたりで私は色々な意味で死にそうだ。

 所謂(いわゆる)『萌え』だな。

 いや、萌えは確か可愛いとかそんなんだっけ。

 まあ良いか。取り敢えず私にとってはレミィが可愛くて堪りません。

 男の天狗よりも、私は女と付き合いたいんだよ! 異性じゃないから付き合えないとか知るか!!

 この世界……あぁいや、前世には『百合』と言う素晴らしい言葉があってだな、女と女が付き合う絵とかあるんだよ!

 絵でなくとも現実でもあるだろ。手を繋いだり、抱き締めたりハグしたり。ね?

 だから何も問題ないって。

 

 よし、後で"あれ"をしてみるか……。

 

 ……と言う訳で、話が逸れましたがレミィ様、理由をお聞きしましょうか。

 

「まあ、正直驚いては居るわね。……で、何で分かったの?」

「簡単よ。美鈴の運命を見ただけよ」

 

 美鈴の運命を見た……。

 あぁ、はいはいなるほど。

 

「つまり、美鈴の運命で私と会う運命を見たのね」

「その通りよ」

 

 ふむ、まあ確かにそうなるか。私が遮断しているのは、あくまでも自分に対してだからね。

 

「咲夜、紅茶を二杯。時は止めずにゆっくりで良いから持ってきて頂戴」

「畏まりましたお嬢様。それでは失礼させて頂きます」

 

 咲夜は静かにレミリアの隣から離れ、私の隣を通っていく。後ろでは扉が開く音がし、やがて閉じられて足音が数秒間鳴り続く。

 そして足音が泣くなって部屋は沈黙した。しかしそうはさせないとレミリアが口を開ける。

 

「二度目の質問となるけど、今日は何をしにきたのかしら?」

「えぇと……」

 

 泊めさせてください。

 だなんて気安く言えない……。

 あ、どうしよう。来たのは良いけど本当に泊めてくれるのか不安になってきた。

 どうしよう、どう言おう。土下座して言うとか?

 いやそうしたら「奴隷として使う代わりに泊めさせてあげるわ」とか普通に行ってきそうだ。大抵の悪役姫ってそんなのだよね。嫌になっちゃうよね。

 

 だが私は構わんぞ。

 

 寧ろやらせて下さいお願いします。っと言ってしまいそうだ。て言うか言いたい。

 しかし奴隷となると、いつ解放されるもかが分かっもんじゃない。ずっと此処には居たくはないんでね。

 じゃあどうするか?

 そりゃまあ……うん。先程言った"あれ"をして、どさくさ紛れで泊めさせてと言うか。

 私は意を決し、玉座に座っているレミリアの方へと歩む。

 

「な、何でこっちに来るのよ」

 

 すると、近付いている事に気付いたレミリアはそう言う。

 まあ構わんせん。近付くな言われてもこのまま行きまする。

 そうして、レミリアの前で止まる。

 右手をレミリアの肩に起き、私は顔を近付けてお互い息が分かる程にまでにする。見えるのは殆どレミリアの赤い瞳だけだ。

 

「ちょっと……!」

 

 レミリアが距離を取ろうとするが、そうはさせまいと肩を強く持つ。

 

「レミリア」

 

 そして名前を呼ぶ。するとどうであろう。何故か抵抗する力が緩まった。

 よし、ちょっと大胆に行ってみますか。

 

「可愛いよ」

「は、か、かわ……!?」

 

 テンパる前に、私は余っている手でレミリアの頬を撫でるようにする。触れた瞬間、体がビクリと動いたのが持っていた肩から伝わった。

 あ、やばい。幾度となくこんな事してきたけど、東方キャラクターにこんな事して反応が可愛かったら私がテンパりそうだ。

 如何せんこれはマジでヤバイ。

 まあ何とかポーカーフェイスに力を入れて表情を隠しているから問題はないんだけどね。

 それよりもこの後はどうしよう? 自分であれをすると言ったものの、正直いつも無意識感覚でしているから何をしたら良いのやら。

 

「…………」

 

 レミリアは顔を赤くさせて固まっている。触っている頬がほのかに暖かい。

 うん。どうしよう。何したら良いんだ!?

 此処でキスと言うのが結構代表的なのだが、私はちょっとばかししたくはない。

 別にレミリアが嫌いだからしないではなく、何か嫌だ。

 ……取り敢えずだ。この状況を打開出来るものないんですかね。

 自分でしといて何だが、私じゃ手に終えないッス。真面目に誰か助けておくれ。

 っと、そうこう考えているとレミリアの顔が微かに動いた。主に動いているのは、顎。

 自分からキスをしようとする。

 はっ、や、やめろレミリア! それだけは駄目だ!!

 私は押さえる為に頬に触れている左手の親指でレミリアのやわらかい唇に当てる。

 

「これ以上は駄目ね」

 

 私は軽く微笑んで両手を離し、顔を上げて離す。

 するとレミリアは「あ……」っと小さく言ったのが聞こえた。惜しみがあったのであろう。

 にしても、まさかレミリアがこうも軽く堕ちるとは思いもしなかった件について。

 お嬢様って大抵は押しに弱いとは噂で聞いていたが、本当にそうだとは思わなかった。次からは気を付ける必要がありそうだ。

 そしてレミリアが固まっているんだが。

 

「おーいレミリアー」

 

 私を上目遣いで見詰めているレミリアに呼び掛ける。

 レミリアはその声が聞こえたのか、我に帰って顔を少し振る。

 

「な、なによ」

「いやさ、唐突だけど泊めさせて?」

「……何時までよ」

「二日間か一日間かな」

「良いわよ」

 

 え、マジでっ!?

 

「けど、一つ条件があるわ」

 

 あ、やっぱしそうなる……?

 まあそうだよねぇ……そうなるよね。タダで泊めてくれるとか無理か。こんな豪華な館だから。

 ――して。

 

「条件って……?」

 

 私は敢えて興味深く聞くと、レミリアは少し深刻な顔をして、こう言う。

 その言った条件は、私の人生を終了させるかのような内容であった。

 

「地下に居る私の妹を、慰めてほしいの」

 

 ……死ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――孤独。

 

 それは、私の唯一無二のお友達である言葉。人でもなく、妖怪でもなく、ましてや生物でもない無の言葉。

 私は産まれてからずっとお友達が居ない。遊んでくれる人も居ない。話してくれる人も、居ない。

 ずっとずっと一人。

 だけど、お父様は私の事を毎日の様に遊んでくれた。殴られたり蹴られたりばかりで痛かったけれど、我慢出来た。

 何で我慢したのか、昔は分からなかった。でもお父様が居なくなった今なら分かる。

 失うのが嫌だった。家族を失うのが怖くて恐くてこわかった。だから抵抗もしなかったんだと思う。

 お父様は昔、私に言った。

 

「お前が俺の女を殺した。許さんぞ悪魔の娘が」

 

 私が、お父様の女……たぶん、お母様を殺したと言う。

 産まれてからの記憶は無いけど、何故だかそんな事をしたような、しなかったような……。と、曖昧な記憶の中で混乱する。

 意識があった時から、私はずっと薄暗い此処にいる。言葉や他の知識は、部屋にある本から得たモノだ。

 独自で勉強をし、覚え、お父様が遊んで、いつの間にか寝る。

 そんな事が毎日と続いていた。

 しかしある日、上から微かに男の悲鳴が聞こえた。

 それからは急にお父様が来なくなった。

 いつもいつも部屋にある扉の鍵を開けては入ってくるのに、何故か来ない。

 だが代わりに、アイツが来た。

 私の姉である――吸血鬼。

 

「お父様は殺した。もう大丈夫。出てきて良いのよ」

 

 アイツが第一に言った言葉だ。

 

 ――お父様を、殺した?

 

 アイツがお父様を……?

 何で? どうして??

 お父様が居なくなったら、私と遊んでくれる人は誰?

 お姉様、私は許さない。何で私のお父様を殺したの……!!

 私は初めて怒りを覚えた。頭に血が登っているかのようになり、殺したくて殺したくて仕方がなかった。

 アイツに手を向けて開き、握った。同時に、アイツは無惨に肉片が飛び散って潰れる。だがアイツは生き返ってきた。

 生き返ったアイツは、次に私を少し悲しい目で見てくる。そうして背を向けた。

 無言で部屋から出て、扉を閉めて鍵を閉める。

 それ以来、本当に誰も入ってこなかった。本当の孤独を感じさせられる。

 アイツのせいで、私はいつも一人になった。誰の顔も見れない。

 

 ――嫌だ。

 

 一人は嫌だ。

 誰か、私と遊んでよ……。

 部屋の隅に寄って膝を曲げて座り、両膝の上に両腕を置いてそこに顔をうもらせる。

 

「…………?」

 

 静寂とした部屋の扉奥から、足音が聞こえる。

 その足音は徐々にと此方に近付いてくるのが分かる。

 私は顔を少し上げて、目だけを腕から出して扉を見る。

 足音は扉前で止まり、扉の鍵が開けられる音が鳴った。

 扉は古びたしい音を鳴らして開かれ、誰かが入ってくる。身長からして、アイツではなかった。

 

「……誰」

 

 私は相手に聞こえないくらい小さな声で言う。なのにその者は聞こえたらしく、私の方へと顔を向けた。

 一瞬、私は目を疑ってしまった。

 綺麗な顔をしていて、しばらくその者の顔を見ていた。

 

「やほい。初めまして」

 

 片手を軽く上げて微笑んで明るく言う。

 私は返す言葉も無く、ただ彼女を見ていた。無言で、興味もない目で。

 すると、急に彼女が私の方へと近付いてくる。

 

「来ないで!」

 

 咄嗟の事に少し体を動かして少し大きな声で叫ぶと、彼女は止まってくれた。

 

「あらあら、ずいぶんと人見知りで」

「貴女、誰……」

「私はただの天狗よ」

「……嘘」

 

 天狗……確か、黒い翼がある妖怪。

 それぐらいしか分からない。けど、一つ分かるのは彼女の背には翼が無い事。

 だから嘘なんじゃないかと思い、問う。

 

「嘘じゃないわよ。本当」

「…………」

 

 そんな事を言われても、証拠もないのに判断のしようがない。

 私は彼女をジッと見詰める。

 

「ね、貴女。名前は?」

「……フランドール・スカーレット」

「そう、じゃあフランね。私の友達にならない?」

「友、だち……?」

「そ、友達」

 

 友達……今までは言葉の友達なら居たけど、者の友達なんて居なかった。

 だから、なろう。と言う言葉に私は微かに嬉しかった。

 普通なら、私は喜んで頷く。

 ……けど、出来なかった。

 どうしても頷けなかった。

 それは何故かは、知っている。わかっている。

 

 ――失うのが怖い。

 

 ただそれだけだった。

 私の回りに居る人は皆、居なくなる。

 それが怖かった。失った後のよくも分からない気持ちが嫌だった。

 私は恐れている。

 目の前の者と友達になって、失ったらと考えると、とても嫌になる。

 失いたくない。けど、出来ない。

 失うのが怖いから、友達にはなれない。

 

「……嫌だ」

「…………」

 

 一言、私の口から言葉が出る。

 すると彼女は固まり、沈黙とした。

 しかし、彼女はすぐに口を開き、あることを言う。

 

「失うのが怖い?」

「!?」

「当たり、か」

 

 彼女の言葉に、私は目を見開いた。

 理由なんて言ってないのに、彼女は言い当てた。

 その事に私は驚き、少しの恐怖を覚える。

 何で、どうして分かるの……?

 

「大丈夫、私は壊れないから」

 

 彼女が一歩、前に歩き出す。

 

「来ないで!」

 

 同じように叫ぶ。

 だが彼女は最初のように素直に止まってはくれず、お構い無しに私の方へと歩む。

 

 ――嫌だ、来ないでよ!

 

 私は右手を広げて前に出す。

 そして。

 

「キュッとしてドカーン!!」

 

 右手を握り、叫ぶように言う。

 いつもならどんな奴でも潰れて死ぬ。

 けど、今でも私の方へと平然と歩いて来ている彼女は潰れなかった。

 

「あ、あぁ……!」

 

 初めての出来事に、私は思わず恐怖の声を上げ、立ち上がって後退りしようとする。

 だけど居るのは部屋の隅。後ろは壁でしかない。

 逃げ場が無いことに、私は困惑した。

 どうにかする方法。それは、やはり彼女に手を向けて潰すとしかない。

 私は再度手を前に出す。

 

「キュッとして――」

 

 手を握る。

 

「ドカァン!」

 

 二度目、これも駄目だった。

 ちゃんと標的を定めているのに、全く潰れはしなかった。

 彼女は無言で私の方へと近付いてくる。

 どうして潰れないのかが分からない。

 分からないから恐怖を抱く。

 恐怖をするが、彼女を止めなければ私の方へと近付いてくる。

 

 ――あれ。

 

 そこで、私はある事に気付いた。

 

 ――何で、私、止めようとしてるんだっけ。

 

 止めようとしている理由が分からなくなった。

 でも、それでも私は手をまた前に出していた。

 自身の手をよく見ると、震えている事が分かった。

 震えてる指先を少しずつと動かして広げ、何とかしてちゃんと開かせて握ろうとしたその時だ。

 もう彼女は私の前に居た。

 握ろうとした私の手を握ってくる。

 そして腰を降ろし、私とほとんど同じ目線にして私を見る。

 

「その手を握るから失うのよ。握らなければ壊れはしない」

「――」

「一人は嫌でしょう?」

「……うん」

「じゃあ、此処から出よ? 外にはきっと、此処より楽しい事がたくさんあるわよ」

「本当?」

「本当よ」

 

 彼女がオウム返しの様に返し、余っている綺麗な手で私の汚い頬を擦る。

 その手の感触と温もりは、私にとっては初めての感覚であった。

 何時までもこうしてほしいと言う欲求までも出てしまう。

 だが、それは叶わぬ事。

 彼女が頬から手を離した。

 

「さ、出ましょ」

 

 その言葉と共に、握っていた手までも離し、立ち上がって背を向けた。

 彼女の離れていく背中を見ていると、もう二度と帰って来ないんじゃないのか。もう振り返ってはくれないんじゃないのか。

 私の脳内で想像を膨らませていく。

 しかし彼女はピタリと止まり、振り返って顔を見せてくれた。

 

「ほら、速く」

 

 笑顔を見せて私にそう言う。

 私はその笑顔に釣られたのか、同じように笑った。

 

「うん!」

 

 元気に頷き、小走りで彼女の方へと向かう。

 

 

 ――外の世界は、光景は、どんな感じなのかな。

 

 幾度となく思った事である。

 でも、彼女が言うからには此処より楽しいとの事だ。

 その事に私は期待をしていた。

 同時に、私を外へと招き入れる彼女が気に入ってきた。

 何で彼女が壊れないのかが分からないけれど、壊れない者は初めてだ。

 だから気に入った。と言うよりも、なんと言えば良いんだろ。

 そこら辺は分からない。けど、お気に入り以上の存在となっていた。

 いや、もしかしたら。

 

 ――友達。

 

 なのかも知れないし、ひょっとするとその友達以上なのかも、知れないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はて、事前にレミリアから経緯を聞き、フランは昔に父から虐待を受けていたそうだ。

 それはそれは酷かったらしく、一日で何度も何度も蹴ったり殴ったりであったようだ。

 しかしフランはそれらを耐えていた。何があっても、抵抗はしなかったんだとか……。

 レミリアはそんなフランをどうにか助けれないのか考え、答えが出た。

 

「父を殺せば、フランを楽にさせて上げられる」

 

 結果は、苦戦を強いられていたそうだが、何とか勝てたそうだ。

 そしてフランの元へと行ったが……嫌われた。逆にフランを苦しめた。

 それからレミリアはフランが居る地下室へと行かなくなり、約95年もの月日が流れた。

 正直そんな月日が流れていたら、心が孤独に支配されている筈である。

 それはつまり、とても危険な状態である。心も、精神も、欲望さえも……。

 だがこうして会ってみて、友達になろうと試みればどうだったであろう。案外行けた。

 

 つまり、フランちゃん攻略成功!!

 

 まさかEX(エクストラ)キャラクターをものの数分で攻略とか流石だな私。

 フランとかもはや隠しキャラクターと言っても過言でもないと言うのに、こうも普通に攻略しちゃうとは。

 あぁいや、普通じゃないか。

 普通だったらフランちゃんの「ドカーン!」で瞬殺されますわな。

 これも全部能力のおかげか。

 遮断させていなければ、私でさえも一瞬で人世終わり。

 攻略ゲーで死ぬバッドエンドとかまじ怖いっすな。

 とは言っても、この世界では常に『死』と隣り合わせなんだが。

 私は不意に、隣で私と手を繋いで歩いているフランを見る。

 枝の様な形をしている両翼にある宝石の様な七色のクリスタルが、歩くたびにゆらゆらと動いている。

 フランは私の視線に気付いたのか、上目遣いでにんまりと笑顔を私に見せる。

 きゃわわわわわわわ!?

 か、可愛過ぎて死んじゃうよ!!

 この世界は『死』と隣り合わせ?

 私はそれでも構わないぜ! こんなに可愛い顔を見れるんだったらまじ許せる!!

 あぁ、フランちゃんきゃわいい。

 そんなフランに私は微笑んで返す。

 そして視線を前へと戻し、ある扉の前で立ち止まる。

 さてはて、フランは居るから大丈夫ね。髪型も気にすることもないか。ノックも気にせずにっと。

 私は余っている手で扉を開ける。

 

「ちわーす」

「……ノックくらいしなさいよ」

 

 ノック?

 はて、私の知識にそんな言葉は存じませんね。

 私はそのまま強引に話を進ませる。

 

「フラン連れてきたわよ」

「……もう良いわ」

「じゃあ帰るわ」

「そう言う意味じゃないわよ! ノックよノック!!」

 

 はぁ……ノックノックばっか言って何なんですかね本当に。

 まあノックの件ってのは本当は知っていた。

 だがそこはそこ、気分で無視した。

 

「まあまあそう怒らなさんな。撫でてあげるから」

「うぐっ……」

「……?」

 

 撫でてあげる。と言う言葉に反応したのか、レミリアはそれ以上言わずにおとなしくなる。

 いやそこは「要らないわよ!」とかそんなの言うと思ったんだが、はて。何があった?

 

「どうしたのよ、急におとなしくしちゃって」

「うっさいわね! もう良いからさっさと本題に入るわよ!!」

「あ、はい」

 

 微かに頬を赤くさせて怒鳴っているレミリアを見て、私は思わずただ呆然としてしまう。

 あぁいや、今はそんな所ではないか。

 私は手を繋いでいるフランと共に前へ進み、一定の距離まで近付いて止まる。

 私が止まる所を見たレミリアは、次にフランを見、立ち上がって前へと進む。

 止まったのは、フランの前。

 フランはレミリアと目が合った時、ずっと握っていた手の力が増した。

 それは何か、怒りを訴えているかにように強かった。

 

「フラン」

 

 レミリアは名を呼ぶ。

 しかしフランはそれには答えず、その紅い瞳で目と目を見ていた。

 

「……ごめんなさい。私、フランの気持ち何て考えずに父を殺した。

 けどね。もう今なら分かるでしょう? フランが、父に今まで何をされていたのか」

 

 真剣に話すレミリアに、フランは何か興味がない様にして聞いていた。

 話で一息ついた所で、フランは手を離した。

 

「私は、それが許せなかったのよ。何時ものようにフランをおもちゃにして遊ぶ父が。

 だから――」

「殺した……?」

 

 レミリアよりも速く、フランは言った。

 

「えぇ、そうよ」

「……だから…………」

「?」

 

 そこで、フランは小さく言葉をした。

 次の瞬間。その声は大きくなる。

 

「だから何!

 遊ばれてる? おもちゃにされてる??

 私にとってはそれで良かった! お父様の母を殺したのは私だよ!? それの罪滅ぼしと思えばどうとも思わなかった!!

 それに、家族は……大事だって……!」

「…………」

 

 フランのその大きな声で言った訴えは、空気を震わせ、部屋に響く。

 その言葉を聞いたレミリアは何も言えなくなったのか、そこで口を少し開けたり閉じたりしていた。

 

「…………」

 

 その流れが数秒続き、沈黙が訪れ、部屋は静寂を取り戻す。

 はてさて、此処で会話が止まると本当にヤバイぞこれ。

 あまり此処で横槍は入れたくは無いのだが、入れなければフランは永遠とレミリアを嫌うであろう。

 私はそう言うのは願わない為、閉ざしていた口を開く。

 

「家族にはね……」

 

 声を発すると、二人は私の顔を見始めた。

 

「優しい親と、最低な親が居るのよ。子に対して暴力を振ったり、子を何処かに捨てたり、中には、殺す親だったりいる。それらは全て最低な親よ。

 フランの父は暴力を振っていた。だから最低な父親ね」

「でも、母を殺した私は暴力を振られても別に――」

「495年前の話でしょ?」

「……うん」

「古い古い。そんなのもう許されるくらいに経っているわ。それに、フランはその時自覚なんてなかった。つまり赤ん坊。

 その時に誤って能力で殺しちゃったんでしょうね。それじゃあ仕方ないわよ。全然フランは悪くない」

「で、でも……」

 

 そこでフランは言葉を詰まらせ、目が下に泳ぐ。

 私はそんなフランを見て、小さく息を吐く、

 

「でも、じゃない。ズルズルとそんな昔の事引きずってないで、今は今を実感して楽しみなさい。ね?」

 

 最後に私は微笑んで見せる。

 するとフランは私の顔を見て、過去を全て切り捨てたのか、先程までの少し暗い表情を無くして今までに見たことも無いほどの満面な笑みを見せてくれた。

 

「分かった!!」

「よし、じゃあ私は寝る!」

「「……えっ!?」」

 

 えっ?

 え、寝ちゃいけないんですか? もう私色々あって疲れたんですが……。

 

「疲れたから寝るのよ。悪い?」

「いや、悪くは、ないけど……」

「うん、じゃあ部屋貸してくれるかなレミリア」

「……えぇ、分かったわ。ついて来てちょうだい」

 

 私はレミリアに言われるがまま、その背後を追うように歩む。

 しかし途中で止まり、振り返ってきた。

 

「ところで、貴女名前は何? 天魔ではないでしょう?」

「あ、言ってなかった?」

「言ってないわよ」

「お姉ちゃんの名前フランも知りたい!」

 

 っと、ここぞとばかりにフランが後ろから私の袖を引っ張る。

 はぐっ、そ、そんなハーレム間近なry

 いやいやいやいやいや、そんな事はないか。

 

「……うん」

 

 取り合えず意味も分からず私は相槌を挟む。

 

「私は――」

 

 意味も分からず合間を置く。

 そして次に、私の名前を解き放ったのである。

 

「紅夜 茜(こうや あかね)。天魔を辞めた、ただの天狗よ」




さて、此処で一つ……。
色々詰め込み過ぎた。
反省はしている。けど後悔はない。
大丈夫。きっと色々上手く行くよ……。
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