六組日記   作:ジト民逆脚屋

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ガバいのは許して


リーダーは前へ行く

「よう、アホ共。私の生徒に要らんちょっかいかけてくれたなぁ」

 

榊原先生、ブチギレてるね。

こんなに怒った先生を見たのは、六組が学園最低点を叩き出した小テスト以来かな?

しかし、そのハンマーはどっから持ち出してきたのかな?

 

「これはこれは、Ms.榊原。アポイントも取らずの来場とは随分と……」

「喧しい。これ以上、こいつの頭が悪くなったらどうしてくれる?」

「おやおや、榊原先生。私は赤点回避くらいは出来るよ?」

「……お前、期末試験赤点だったからな?」

「え?」

 

あれ? 確か、期末試験は全員赤点回避した筈だよ。

そうじゃなかったら、夏休みは補習だらけだよ?

 

「私が手ぇ回さなかったら、お前赤点だったからな」

「いやいや、先生。篠原ちゃんに見てもらって受けたんだよ? これで赤点だったら……」

 

 

『……お前、覚悟しとけよ』

 

 

終わったね。

帰ったらこれ、篠原ちゃんの説教と補習地獄だよ。

まあ、今はいいか。それより、先生。そちらの人達と知り合いなのかな?

 

「国家代表になれなかったからって、こんなくだらん真似するとはな」

「そちらこそ、織斑千冬に負けて教職に堕ちるとは」

「はっ、人拐いよりマシだろう」

 

なんだか知ってる人の知られざる過去を見たね。

榊原先生、なんかちょっとした感動を覚えるよ。

 

「で、お前はいつまで転んだままなんだ?」

「鼻と膝を打って痛いんだよね。先生、おぶってよ」

「千冬じゃねえんだ。こいつら相手に余裕あるか、よ!」

 

背中を掴まれて持ち上げられたと思ったら、一瞬で空だよ。

おや、途中から車の窓が暗くなって、見えなくなったから分からなかったけど、空港の近くの建物だったんだね。

あ、皆だ。

 

「リーダー!!」

「大丈夫? 怪我してない?!」

「あれ? 鼻赤くない?」

 

 

『おい、何があった?』

『いやぁ、銃突き付けられて逃げたら、転んで鼻打っちゃったね』

『お前ホントに鈍くさいよね』

『いやぁ、それほどでもないよ』

『褒めてない』

 

 

うーん、辛辣だね。銃突き付けられて逃げるって事が出来たんだから、褒めてくれてもよくないかな?

ねえ先生、その辺どうかな。

 

「とりあえずお前は篠原行きだ。おら、受け止めろ!」

「え? ちょっと嘘だよ……っ?!」

 

私がお荷物で邪魔なのは解るけど、放り投げるのは辞めてほしかったかな?

ほら、重力と引力に縛られて落ちるだけだよ。

 

「っと、……おい、榊原! 投げるなよ!」

「文句はあいつらに言え! お前らはとっとと離れろ……!」

「やあ、篠原ちゃん。ポンコツ号の乗り心地はどうかな?」

「この私が手を入れて、悪い訳ないだろ。この笠みたいなヘルメットが邪魔なだけだよ」

 

篠原ちゃんにナイスキャッチされて、見上げると篠原ちゃんが如何にも不機嫌に拗ねた顔してて、榊原先生がお付きの人をハンマーでボコボコにしてたよ。

あと、そのヘルメットは邪魔じゃないからね。

 

「わぁ、凄いね先生。ねえ、篠原ちゃん」

「……私の方が凄いし」

「おやおや、どうしたのかな? 篠原ちゃんが凄いのは、私がよく知ってるよ」

「ふん」

 

鼻を鳴らして、やっぱり拗ねた顔の篠原ちゃんだけど、篠原ちゃんが凄いのは私が一番解ってるからね。

さて、これからどうしようか。

このトレーラー、学園のかな? 確か新しく搬入された防弾防爆仕様のIS運搬車だったよね?

 

「リーダー、怪我ない?」

「お疲れ様だね。怪我は無いよ。で、こっからどうするのかな?」

「んー、なんか先生としのっちがなんかやるみたいだよ」

「へぇ、何かやるのかな篠原ちゃん」

「秘密だよ」

 

おやおや、一体何なんだろうね。気になるね。

おお、先生がお付きの人を撃墜したよ。

すごいね。

おや、あの人は。

 

「榊原」

「次はお前か?」

 

あのスーツの人も、ISに乗れるのかと思ってたけど違うみたいだね。先生と何か話しているけど、何を話しているのかな? ここからじゃ、聞こえないね。

え、ISの集音機能? そんなのあるんだね。

冗談だよ。ちゃんと知ってるよ。

 

「篠ノ之束を渡しなさい」

「ああ? そんな奴は知らないな」

「しらばっくれないでほしいわね。貴女達が篠原と呼ぶ人物よ」

「あいつは篠原で私の生徒だ。はい、そうですかと言う訳ないだろ」

 

うーん、まだ解ってもらえてないみたいだね。

篠原ちゃんは篠原ちゃんで、篠ノ之束とかいう人とは違うんだけどね。

だけど、窓際に立つのは危ないね。

 

「戯れ言を……! 彼女をIS学園が保有する意味と、それによる世界の不利益を理解出来ないの?!」

「喚くな。あいつは篠原で私の生徒だ。ただの学生に躍起になるなよ」

「なら、私が世界に公表するわ。IS学園は篠ノ之束を秘密裏に確保し、覇権を狙っていると!」

 

おぉぅ、先生の顔がものすごく怖くなったね。

……ほら、篠原ちゃんもそんな顔しないでよ。

大丈夫だよ。私達は頭が悪いけど、君が篠原ちゃんだって解ってるし、君と一緒に居るよ。

それに、何か作戦があるんだよね?

じゃあ、私の出番だね。

はーい、篠原ちゃん。機体のマイク機能をこっち向けてね。

 

「……随分と好き勝手言ってくれるね?」

「何も知らない子供が入ってこないでくれるかしら」

 

おや、先生も集音機能でこっちに聞こえる様にしてくれてるね。

しかし、何も知らない子供とは舐められたものだね。

 

「おぉ、リーダーの怒れるコアリクイモードだ!」

「こいつは大惨事になるぜ!」

「しのぴーに抱えられてるから迫力無いけど!」

 

ははは、皆の応援が頼もしいね。

じゃあ、ちょっとトバしていくよ。

 

「何も知らない、何も知らないね? それはそっちじゃないかな?」

「何を……」

「彼女、この子は篠原ちゃんだ。意地っ張りでいばりんぼで、頭も良くて運動だって凄い。IS学園一年六組のただの篠原ちゃんだよ? それを君は知ってるのかな?」

「その様な欺瞞を?!」

「欺瞞? 難しい言葉を使わないでくれるかな? なら、どうして君は篠原ちゃんを篠ノ之束だと思うのかな?」

 

篠原ちゃんは確かに篠ノ之束だよ?

でもね? 彼女は篠原ちゃんなんだ。難しい言葉や堅苦しい言い訳で、この子の夢を邪魔しないでくれるかな。

 

「明らかに篠ノ之束でしょう! 今まで機能していなかった社会人入学枠、そして衛星軌道上での事件! 全てのタイミングが語っている!」

「でもそれはタイミングだけだよね? 篠原ちゃんが自分で篠ノ之束だと名乗った事はないよ」

「詭弁よそれは!」

「詭弁かな? じゃあ君はこの子が篠ノ之束だと証明出来るのかな?」

「……っ!」

 

おや、言葉が続かないね。

そうだよね。篠原ちゃんが篠ノ之束だと、はっきり名乗ったのは私達と織斑先生、あとは理事長先生以外には居ないからね。

状況証拠だけで、君を篠ノ之束には出来ないんだよ。

 

「なら、彼女があまりにも似ているのはどう説明するの!?」

「そんなもの、ただのそっくりさんで終わる話だよ。ほら、よく言うよね? この世には三人くらい、自分のそっくりさんが居るって」

「それこそただの詭弁でしょう!」

「なら、君の言葉も詭弁だね? だって、君はタイミングと見た目以外でしか判断してないよ」

「それは貴様もだろう!」

 

いや、違うね。

私達は篠原ちゃんを受け入れた上で一緒に居るんだよ。

君達みたいに篠ノ之束が生み出す価値しか見てない連中と一緒にしないでほしいね。

 

「同じにしないでよ。君の話を私は聞いたよ。短い話だったけど、君は誰も見ていない。君が見ているのは篠ノ之束という人が生み出す価値だけだ!」

「なら、貴様は違うのか?!」

「違うね。ああ、違うよ。私は、私達は違う! まず第一に私は篠ノ之束の話をしていないよ。私がしているのは、私の大事な篠原ちゃんの話だ!」

「え? ちょっとお前……」

「いいかい? 私達は見たし聞いたんだ! 彼女の夢を、この子の夢を! 広い宇宙が見たい! 私達はその夢を見て聞いて、だから一緒に居たいと、一緒に見たいと、一緒に叶えたいと思った! では、君はどうなのかな?!」

「どう、だと?」

「答えられないね? 答えられないだろうね。そうだろうね。君は篠ノ之束の技術を売るとしか言ってない! そう、君は私も、私達も、君が語る篠ノ之束すら見ていない!」

 

一言、たった一言でも、そして宇宙に行きたい。こう言ってくれれば、もしかしたら私は頷いたかもしれないよ。

いや、無いね。彼女は篠原ちゃんを見ていないし、篠ノ之束すら見ていない。

そんな人が騙る夢なんか、凡人の私が見た夢よりもくだらない。

おや、どうしたのかな? 篠原ちゃん、顔が真っ赤だよ?

ははは、良いじゃないか。語ろうよ、知らしめてやろうよ。私達の夢を、一緒に見て叶えてくれる凡人と天才の夢をさ。

 

「私達は宇宙に行く! 落ちこぼれと凡人の群れで、篠原ちゃんと一緒に夢を見て、一緒に叶える! そうだよ。私達はこのキラキラ輝く星空の夢を叶えるんだ!」

「……そんなものが証明になるか! 宇宙だと?! 貴様らの様なガキが語る夢のどこに価値がある!」

「夢の価値を他人が決めるな……!! 挫折や苦難、夢を見るには現実という壁はあまりにも大きいし高いよ!」

 

でもね

 

「その人の夢はその人だけの価値がある! 挫折した、諦めた、夢を見られなくなった! それだけの理由で他人の夢の価値を決めるな!!」

「そーだそーだ!」

「あーしらはしのっちと宇宙行くんだ!」

「夢はでっかく宇宙旅行だぞー!」

 

皆の援護も頼もしいね、篠原ちゃん。

ほら、君も語りなよ。

私と一緒に、私達と一緒に、夢を叶えてくれるんだよね。

 

「……私は宇宙に行く。バカで底無しのお人好しのこいつらと宇宙に行く! ただの篠原が見た夢を一緒に叶えてくれる宇宙に行く!! 私は〝天災〟篠ノ之束じゃない! IS学園一年六組のただの篠原だ! 私にそっくりなだけの篠ノ之束より先に宇宙に行くんだ!!」

 

そうだよね。篠原ちゃん、それが私達の夢なんだ。

あの日、聞かせてくれた夢は本当に綺麗で、私にはキラキラ輝く星空みたいに見えたんだ。

知ってる? 聞こえてた? やだ、照れるね。

 

「だが、それが……」

『証明にならない? はっ! 凡人が考えそうな事だな』

 

おや? あれは篠原ちゃんのそっくりさんだね。

ほら、初めて会った時みたいに不思議の国のアリスだよ。

あれ? じゃあ篠原ちゃんはあれ?

……ああ、事前に撮った映像にプライベートチャンネルで声を当ててるだけ? 

私と理事長先生が考えた策を今やるんだね。

 

『よう、凡人。お望みの〝天災〟だよ。よくもまあ、好き勝手言ってくれたね。呆れてものが言えなかったよ』

「篠ノ之束……? では、奴は?!」

『ああ、そこの凡人を大事そうに抱えてる奴? 私の劣化コピー、クローンってやつだよ。全部潰したと思ってたのに、まだ生き残ってたんだ。まあ、束さんのクローンなんだから、生き残って当然か』

 

わあ、凄いね篠原ちゃん。初見のデレ未搭載のツンしかない篠原ちゃんだよ。

事前に撮った映像に、今声を充ててるとしても凄いね。

え? あんまり言わないで? 恥ずかしい?

ははは、あれも大事な思い出だよ篠原ちゃん。

さあ、続きをどうぞだよ。

 

『で、そこのお前。私より先に宇宙に行くって? バカなのかな? 劣化品がオリジナルに勝てる訳ないだろ』

「だとしても、私はお前を超える!」

『……だったらやってみろよ。凡人が造った劣化品の性能テストも、オリジナルの役目だからね。あと、そこの凡人』

「ん? 私かな? 私だね」

『なんで嬉しそうなんだよ?』

「凡人だからね、有名人に話し掛けられたら浮き足立っちゃうのさ」

『凡人は分からないな。で、お前は本気でその劣化品が宇宙に行けるって思ってるの?』

「天才は分からないね。君は本当で私達より先に宇宙に行けるって思ってるのかな?」

『お前こそ、凡人と劣化品だって理解してる?』

 

だってさ、篠原ちゃん。

そうだね。

私は凡人で、君は天才だよ。

そこは変えられないし、変わる事はないね。

さあ、篠原ちゃん。行こうか。

何処へ? まずはもう一回凡人と天才の境界線と平行線にだよ。

さて、じゃあ降ろしてね。あ、手は繋ごうか。

 

「私は凡人だよ」

「私は劣化品だ」

『お前達はそうでも、私は天才だ』

「なら君は一人でなんでも出来るね?」

『当たり前だろ。私は天才だから一人なんだ』

「でも、私は劣化品だから一人では無理だ」

「そうだね。私も一人だと何も出来ないよ」

『それはお前達が凡人と劣化品だからだ』

 

ならさ

 

「私達は二人なら出来るし、頼れる皆も居るよ」

『有象無象がなんだって言うんだよ』

「その有象無象が今を作ったんだ」

「だから、君は一人でなんでも出来る。けど、私達は皆が揃って初めて出来る」

『だから?』

「私達は宇宙に行くよ」

「皆で手を引いて、皆で宇宙に行く」

 

天才と凡人は交わらない。

そうは言うけど、そんな事はないよ。

だって、こうして手を繋いで同じ方向を見て、同じ夢を見ていられる。

さあ、天才の彼女に教えてやろう。

人に凡人と天才の違いはあれど、それは違いでしかないってね。

 

「私達は君には足りない」

『当然だろ』

「でも、お前も私達にはなれない」

『当たり前だ』

「じゃあ、天才と凡人の違いは何かな?」

『そんなもの決まってる。完結か未完かだ』

「そうだね。天才は天才だから完結して閉じている。だけど凡人は未完だよ。閉じられない」

『だから群れるんだろ』

「そうだね。私達は一人では何も出来ない。だから、こうやって手を繋いで一緒に行くんだ」

 

天才は一人でなんでも出来るから、天才一人で完結出来る。

だけど、凡人はそうはいかない。凡人は一人では何も出来ないから、誰かと一緒になる。

だけど、天才はそれを理解出来ない。

凡人だって、一人でなんでも出来る天才を理解出来ない。

でもそれは違いでしかない。差じゃないし、優劣でもない。

それが凡人と天才の境界線と平行線だよ。

 

「見てなよ天才。凡人の群れの旅路を、そこに至るまで。その境界線で」

「見てろよ天災。凡人が進む行く末を、そこに並ぶまで。その平行線で」

『決別じゃないと?』

「凡人と天才、繋がれる様で繋がれない。そこに決別も何も無いよ。だけど……」

「いつかは繋がれる。こんな風に」

 

繋いだ手を掲げると、映像の篠原ちゃんがちょっと目を見開いたね。

篠原ちゃん、ここまで読んでたの? 違う? みっちゃんが目の前でコード踏んで転んだから?

ナイスだね、みっちゃん。流石は六組一のドジっ子だよね。

 

『じゃあ、見せてみろよ。いつか、その境界線と平行線とやらの果てで』

「いつか見せに行くよ。君が待つ果てでね」

『あっそ。……期待しないから』

「いやいや、期待してよね」

 

大丈夫。ほら、見てごらんよ。皆、そのつもりだよ。

天才と凡人は交わらないけど、こうして繋がれる。

いつか見せに行こうね。天災の君に境界線と平行線の果て、夢の光景をさ。

 

『じゃ、もう飽きたから帰るね。あ、そうだった。おい、そこの奴』

「な、なにかしら?」

『その劣化品は確かに私の劣化品だ。欲しいなら奪えばいい。けど、ちーちゃん達が許すかどうかは私は知らない』

「織斑千冬……!!」

 

おぉぅ、気付いたら織斑先生がスーツの人の後ろに立ってたよ。

刀持ってるけど、銃刀法とか大丈夫なのかな?

 

「……篠原は学園の生徒だ。手出しは許さん」

 

あ、決着みたいだね。スーツの人が両手を挙げたよ。

さあ、終わったね。疲れたから、帰って寝たいね。

あれ? 榊原先生。どうしたのかな?

え? 帰ったら今日の補習と会見?

なんで? ここまでぶち上げておいて、世界に説明無しは無理?

いやいや、私は会社員Aと主婦Bから産まれたただの一般人Cだよ?

それが世界に対して会見とか、何かの冗談だよね?

あ、なんかサイレンの音……。

 

「お前、ホント締まらないよね」

「うーん、私だけじゃ無理だよね」

「はぁ……、仕方ないから私も一緒に出てやる」

「わーい、篠原ちゃんが一緒なら大丈夫だね」

「お前ホントにそういうところだよ」

 

何がかな? 私は難しい話は判らないよ?

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